一宮君と幽霊ちゃん

へたまろ

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金縛る!

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 母さんが来てから、幽霊ちゃんが少し鬱陶しい。
 こっちの名前はバレてるのに、あっちは教えてくれない。
 都合の悪い会話になると。

「寂しいよ」
「辛いよ」
 
 の恨み言コンボが始まる。
 語彙貧相な。

 何が鬱陶しいって?
 まず、夜9時になるとラップ音が1回。
 10時には10分置きにラップ音。
 11時から、5分置き。
 12時過ぎると、連打。

 ちなみに電気消すと、収まる。
 早く寝ろってことらしいけど。

 大学生だし、春休みくらい夜更かしさせて欲しい。

 シクシク……

 早く寝ろというわりには、お決まりの儀式はかかさずやってくる。
 うーん、その時間が一番の無駄のような。

 一度、今日は疲れたから静かにしててと言った。 
 言ってしまった。

 一晩中、シクシクとズズッという鼻をすする音が。
 何故、こっちが悪いことをしたような気分にされないといけないのだろう。
 理不尽。

 それから疲れた日は、彼女に内緒で耳栓を。
 初日でバレた。
 俺が寝たら、横に来てたらしい。
 うんうん……

 知ってた。

 そして、ある晩金縛りに。
 どうしたどうした?
 今日は、やけにやる気満々だな。

 頑張って目を開けたら、目の前に顔が。
 
 ……どういうこと?

 すっと視線を下にやる。
 両手両足でがっちりホールドされてた。
 金縛りって、そういう物理的なあれなの?

 幽霊相手に物理的ってのも、おかしな話だけど。

「こっち見ないでよ。恥ずかしいじゃん」

 だったら、その恥ずかしいポーズをやめたら良い。
 とは言わない。
 なんか、可愛い子に抱き着かれてちょっと嬉しいし。

「何してるの?」
「幽霊らしく、金縛りに合わせてるの」

 ふーん。
 本当にどうした?
 突然。

「べっ、別にまだ肌寒いのに次郎くん寝相悪くて、布団ポイってするからとかじゃないから! ただの嫌がらせだから!」

 そういうことらしい。
 思わず頭を撫でたくなったけど、両手もがっしりホールドされてるから出来なかった。
 いや、こっちは触れないけど。
 向こうは触れるって、理不尽だよね?

「ちょっと、なにその笑顔。本当に違うから! 勘違いしないでよ!」
「うんうん」
「分かってるみたいな反応やめて!」

 ちなみに気が付いたら身体が動くように。
 見たら、横で彼女が目を閉じてた。
 吐息は聞こえないけど、寝てるのかな?
 幽霊も寝るのか。
 大発見。

 鬱陶しいとか思ってごめんね。

 触れられないけど、頬に口づけしてみた。
 やっぱり無理だった。
 ただ、彼女の頬は直後からひくひくと動いてる。
 そしてにへらとだらしない表情。
 狸寝入り……
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