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しおりを挟むクーパーは聖主の予定を聞くより先に地図を持ってきてくれたから、印をつけて淀みの核である場所を把握しておいて欲しい。と言ったらまたぱたぱたと飛んでいった。
いや、飛んでないけど…比喩だけど…
それにしても、クーパーは忙しない。
側仕えらしくなくて私個人としては凄く好き。それに、飲み物を常に置いてくれるのも嬉しい。食べなくてもいいから飲み物はずっと飲んでいたいんだよねぇ。
にしても、ぽかぽか陽気だから果実水なのかな?
紅茶を所望したい…
でも、この国になかったら困らせちゃう。
果実水も美味しいんだから我儘言わない。
うん、あったら好きな事伝えておこう。
うんうん。
そういえば本も読みたいんだった。
また、ぱたぱたと戻って来たクーパーは眉をキリッとさせた後、へにゃっ…と崩れるを繰り返してから私に話しかけた。
「聖女様」
よく分からないな、クーパーの感情が。
聖主様とやらは気難しいのか、それとも王からお願いされて仕方なく私を預かってるから嫌がられているのか…
とにかくそういう想像をしてしまう程、苦々しい表情をしている。
「聖主様に予定を伺ったところ“聖女様にお会い出来るのでしたらいつでも構いません”と仰っておりました。しかし、挨拶などわざわざして頂かなくとも我が国に協力して下さるだけで光栄ですとの事です」
凄い早口ですねクーパー。果実水でも飲む?1度落ち着けそう?
うーん…挨拶を断られているのか。
それならいいか?遠回しに会いたくないと言われているのだから無理して会わなくてもいいかな?
でも、会う事すら拒絶される。というのは、それだけで面倒だ。
そのうち浄化について突然現れ、苦言を言われても困る。
神官達も討伐に出ているのなら、神官を鍛える必要性も説いておかなければならない。
うん。
聖主は嫌だろうけど、やっぱり1度会っておくか。
「挨拶する」
「か、かしこまりました………い、いえ、しかし、ですね、その、なんと…お伝えしたらいいか、その、」
「クーパー落ち着いて」
「はっ!」
嫌がられている。とは言いにくいか。
それなら私がわがままを言っていると伝えてもらえば…
なんて、色々と考えていたらクーパーから衝撃…というよりなにを言っているのか分からない事を伝えられた。
「聖主様についてお伝えし忘れていたことがございます。………その………とても醜くいらっしゃるのです………」
「は?」
醜い?心が?肉体が?
ああ…自分に自信がない人なのかも?
「ひっ!いえ、その、聖主様の顔は醜く見れたものではないのですが」
さすがに殴りそうになったから止めた。
「やめなさい」
見れたものではない?酷い言い草だ。
人生には色々な苦難もある。だからこそ、その途中で傷付いたモノが肉体に表れていても、表情が作れなくなってしまったとしても、他者が事実だと、そのような顔で…なんて言ってはいけない。
私は聖女であるからこそ気を遣ってくれたのかもしれないけれど、命に対してそんな言葉を吐くのはあまりにも浅く愚かであるというのが私の持論だ。
「綺麗だとか、汚いだとか思ってしまうのは仕方がない事だと思います。ですが…だからといって口に出していい事にも限度があります。美醜の基準など人それぞれ、私が思う価値を決めつけないで下さい」
価値を押し付け正しい肉体ではないと伝えるクーパーは幼い。
忙しなく動く表情も、忙しなく動く体も可愛らしく側仕えとしても、人としても学びの最中なのだろう。
「………失礼致しました」
私の価値観を受け入れられる心もある。
「許します」
育てば柔軟な考えも出来るだろう。
「お昼後……いえ、お昼前にご案内致します」
え?聖主様とやらの予定は聞かなくていいの?ぱたぱたーっとまた忙しなく出て行って確認しなくても大丈夫?
「クーパー、ありがとう」
「っっ~…!いえ!私は聖女様の側仕えです。何なりとお申し付け下さいませ!」
それならいつ私の髪型は整えられるか聞いてもいいかな?なにもせずに座っているだけだとまた寝てしまう気がするんだ、だから…
あ、そうだった。
「本が読みたい」
私の言葉に側仕え達が出て行き、多分だけど本を取りに行く者と、聖主に伝えに言ったんだろう室内は護衛と私だけ…
うん。
髪の毛はもういいかな。
ソファに座って待っておこう。うん。
*********************************
「聖女様、そろそろ聖主様がお着きになります」
持ってきてもらった本を少し読み進めたところでクーパーから声がかかる。
本が欲しいとは言ったけど恋愛物ばかり、この国の常識やマナーの乗ってる本が欲しいって言えば良かった。
それもそうだよね。
本が欲しいって言われてマナー本を渡すやつがどこにいる?
いや、だからと言って恋愛ばかりもどうなの?ずらっと並べられた本は全て恋愛小説ばかり…いや、なんでも好きだよ?基本的に本はなんでも好きですよ?
小説からも常識が分かる事もたくさんあるから学んでいるとも言える。
昨日の召喚に居た人達、そして護衛達の心音と、側仕え達の態度。
聖女だからと思っていたけれど、この恋愛小説に書かれている美は…
「聖女様、お待たせ致しました」
扉越しから潜もった声が聞こえた。挨拶に行くのではなく、挨拶に向かうと伝言を預かったから来てもらっている。
そして多分、醜いというのは…
扉が開いて見えた人物にやっぱりと、確信をえた。
右手を胸に当て腰を曲げ左手は後ろに、左足に重心を乗せ右足を少し引く、この国の作法なのは周りを見て知ってはいたけれど、今までで一番美しい所作。
流れ落ちる髪まで計算し尽くしている。
そんな美しく滑らかな動作だった。
「ご挨拶申し上げます、ウォーカー国本神殿聖主レドモンド・ウォーカーと申します。挨拶をさせて頂けると伺い参上しました」
やっぱりだ。
醜さと美しさを分けているような、それが当たり前だという認識を持つ恋愛小説の答え合わせのような目の前の人物は…
「………かっこいい」
「「「「「は?」」」」」
聖主は190センチはありそうな身長、筋肉質なのが服の上からでも分かるほどの肉体美。焼けた肌に釣り上がった目、三白眼に見えなくもないオレンジの瞳。襟まである白銀の髪は太陽の元が尤も美しく映えるであろう。
一目で惚れてしまった。
「ヒナノ」
「………は?」
まずは自己紹介をして、お茶をすれば伴侶になれますか?
一目惚れをしたんですが、いつから伴侶となってくれますか?
「ヒナノが名前」
「は………は?………素敵なお名前ですね?」
「ありがとう」
素敵なお名前だって!レドモンド様も素敵ですよ!全てが!
ニヤけるのが止められない!
「「「「「!!!」」」」」
男女共に、“色白”“華奢”“タレ目”そんなとこかな?私が読んでいる恋愛小説に出てくる人物は全てそんな風貌だ。
そして、クーパーは“醜い”と言った。レドモンド様を、そしてレドモンド様自身も多分そう思っているのだろう。だからこその“断り”だ。
色黒筋肉質吊り目はこの国の理想となっている姿形とは正反対。
護衛も側仕えもこんな可愛らしい人達ばかり。
私の気分を害さない為に。
そして、レドモンド様と会えば気分を害し浄化をしてくれない。と、恐れているのかもしれないなぁ。
格好いいのに…むしろ運命なのに…
美醜に徹底している、享楽に耽る、薬物が蔓延る。
こういう国は無能が多い印象だった。
だからこそ弱いんだろう。
「聖主、神殿に住まわせてくれてありがとう。お礼が言いたかったの」
「……はい?」
お礼を言ったら伴侶になれますか?
「………っは!?いえ、いきなり召喚をしたばかりか、こちらからご挨拶を伺わなければいけないところを、このような身なり故に、遠慮させて頂きましたが、召喚された事を嘆く事もなくあまつさえお礼など………!」
かっこいいなおい。
声まで格好良いとかすげぇな芸術品かよ!
お腹に響く低くて艶のある声…
完璧かよ!てか背がでかすぎな!?もう少し縮む事は可能ですか?無理矢理既成事実を作ろうにもキスが出来ません!
「足らない物がございましたら遠慮なく側仕えに伝えて下されば、私に出来ることでしたら尽力致しますので、これからは伝言を受け取るよう手配しておきます」
それは私の願望も含まれますか?
「お願いがあるの」
「なんなりと」
「私の伴侶になってくれませんか?一目惚れしました」
「???」
心底不思議そうな表情をした後、ちょっと考え込んだレドモンド様は焼けた肌でも分かる程に赤くなっていき………
スン…と表情が落ち着いた………?
「叶えたい望みがあれば尽力致しましょう」
あ、あれ?なかった事にしてる?なかった事になったのかな?
フラれるよりも効くよ!?
伴侶になって下さいという私の言葉は何処へ消えたの!?
あ、顔を伏せないで!
なんでまた顔が赤く………
あ、また、スン…てした…
え?
もしかして私の言葉は幻聴かなにかかと思ってます?虫の音じゃなくて私の言葉だよ?鬱陶しそうに耳の辺りをうろちょろとしてる虫ではないよ!?
聞いてますか!?
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