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5.『胸騒ぎ』
しおりを挟むこの日の夜、ご主人様は遅くに帰ってきた。
なんだかとても疲れてる様子だった。
「おかえりなさいご主人様!」
ワタシはすぐにご主人様の元に駆け寄り、白衣とカバンを受け取った。
「いい子にしてましたか?よつば。」
ご主人様はまるで仔犬を見るかのような目でワタシの頭を撫でた。
「お風呂の準備をしておきました。お入りになられますか?」
「ありがとう。」
ご主人様はその場でスルスルと服を脱いでいく。
しかしどうも今日のご主人様はいつもと様子がおかしい・・・。
普段は仕事の依頼があればワタシも連れて行くのに今回は留守を命じられた。
よほどの緊急の依頼だったのだろうか。
それにご主人様のこの疲れきった感じ・・・。
ワタシはご主人様に恐る恐る今日の仕事のことを聞いた。
「ご主人様、今日はどんなお仕事だったんですか?随分お疲れのようですが・・・。」
「今朝方、羽曇組の組長さんが襲撃にあったそうです。」
ご主人様は話しながら着ていた服を全て脱ぎ捨てていく。
そしてそのまま風呂場へと歩き始めた。
「よつばがシャワーを浴びてる間にジンさんから電話がきましてね。今すぐに来てくれと頼まれたんですよ。」
風呂場に繋がる廊下を話しながらヒタヒタと進んでいく。
よく見るとご主人様の腕には拭ききれずにのびていた血の跡がついていた。
「く、組長さんは大丈夫・・・なんですか?」
「手術をしてなんとか一命は取り留めましたが、まだ意識が戻らない。ジンさんは『なんとかせぇ!なんとかせぇ!』って珍しく乱れてましたよ。」
ご主人様は風呂場のドアを開け、ワタシのほうを振り返って手招きをした。
「今日は少々疲れました。私の身体を洗いなさい。」
優しい口調だが、これはご主人様からの命令。
「は、はい!」
ワタシは急いで服を脱ぎ、浴室に入った。
ワタシにとってはご主人様の身体を洗うのはご褒美でしかない。
ワタシは浴室中に聞こえそうな程の心臓の鼓動を抑えながらご主人様の身体を洗っていく。
「また明日、早朝に事務所へ向かいます。そのつもりでいなさい。」
「はい!かしこまりました!」
ワタシはスポンジで泡をつくり、隅々まで丁寧にご主人様の身体を洗っていく。
背中を洗っている最中にご主人様がいつの間にか寝落ちしてしまっていることに気づいた。
よほど疲れていたのだろう。
それほどの大変な手術をしたのか、普段はこんな風にはならない。
ワタシはご主人様がバスチェアから倒れないように慎重に泡を流す。
そしてバスタオルでご主人様を包み込んで抱きかかえる。
「おやすみなさい、ご主人様。」
ワタシはご主人様を抱きかかえて部屋のベッドにそっと寝かせた。
翌朝、ご主人様とワタシは『羽曇組』の事務所へと向かった。
なんだろう・・・今日はなにか妙な胸騒ぎがする。
すこぶる心の居心地が悪い。
なにか嫌な予感がする。
「・・・どうしましたよつば?」
よほどワタシの顔色が悪かったのか、ご主人様はワタシの顔を覗き込んだ。
「い、いえ・・・なんか今日は妙な胸騒ぎがするなって・・・」
ワタシは正直に今感じていることを伝えた。
ご主人様に嘘はつけない。
「でも大丈夫です!ご主人様と一緒なら大丈夫です!」
そう。この先なにがあっても、ご主人様となら大丈夫。
そうしてワタシは自分自身に言い聞かせた。
するとご主人様は何も言わずワタシの頭をポンっと優しい叩いた。
その時のご主人様の温かみのある目。言葉が無くてもわかる。
ご主人様はワタシを大切に思ってくれている。
ワタシにはそう感じれる。
ワタシはご主人様のあとを追って組事務所に向かう。
妙な胸騒ぎをギュッと抑えながら。
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