『よつばのクローバー』

うどん

文字の大きさ
1 / 11

1.『終わりの始まり』

しおりを挟む


あの日、ワタシの人生は大きく変わった。


中学の頃からケンカに明け暮れていたワタシは、高校には進学せずに仲間を募って不良グループを結成した。
その頃は楽しかった。
盗んできたバイクを仲間と乗り回し、気にいらない奴は殴って金を奪う。
そうして犯罪を繰り返していくうちに、不良グループはいつしか半グレグループへと変わっていった。

けどある出来事が原因でチームは壊滅、ワタシはヤクザの手に落とされてしまった。


そして今、
ワタシは組専属の闇医者のペット兼助手をしている。






「さて、行きますよ。お仕事です。」
上質な椅子から立ち上がり、艶やかな白髪をなびかせてバサッと白衣を身にまとった女性。
この方がワタシのご主人様。
名前は『月下カオリ』。
身体は完全に女性であるが、戸籍上は男性だそう。
声も成人男性の声というのだから、初めはワタシも驚いて脳が混乱したのを覚えている。

「はい!ご主人様!」
ワタシは返事をして、忙しくピンク色の髪を束ねてヘアゴムでポニーテールにする。
そしてご主人様の医療道具が入ったバッグを持ってご主人様の後を追いかけた。


ワタシの名前は『よつば』。
冒頭でも話したようにワタシは元半グレで、ある出来事がきっかけで色々あって今は闇医者であるご主人様の助手をしている。

『ご主人様』というワードでお察しの通り、
ワタシは闇医者 月下カオリに買われた。

いくらで買ったかなどは一切知らない。
けどご主人様はワタシの命の恩人と言っても差し支えないだろう。

何故ご主人様がワタシを買ったのかは未だに分からない。
喧嘩以外何も出来ないワタシになんの価値がある・・・。
最近はそう思うようになっていた。



ワタシはご主人様の後ろを歩く。
すたすたと歩くご主人様は本当に美しい。
こんな綺麗な人が裏社会の人間だなんて初見の人は絶対思いもしないだろう。


「また組同士の抗争ですか?」
ワタシはご主人様に質問をした。

「そのようですね。どうやら若頭のジンさんが撃たれたそうですよ。弾が貫通してないから摘出してほしいと電話がきました。まったく・・・ジンさんもしぶといですね。ふふふっ。」
ご主人様は悪戯交じりで答えた。

闇医者であるご主人様は、指定暴力団組織『羽曇組』の専属医師。
専属と言っても極道界での専属であって、ヤクザ以外からの依頼も受けている。
裏社会ではわりと有名人らしい。
そんな有名人を贔屓している『羽曇組』だけど・・・
ワタシの半グレグループが壊滅して、ワタシを拉致したのがその『羽曇組』だ。


連れ去られた時は正直殺されると思っていた。
運良くても娼婦として奴隷のように死ぬまで飼い殺されるか・・・
想像だけで恐ろしい。
しかしそんなワタシを組から救ってくれたのがご主人様。

ワタシはご主人様に絶対服従の忠誠を誓った。
ご主人様の命令なら何でもするし、
ご主人様の為なら喜んで弾除けにもなるし喜んで死ぬ。

ワタシはご主人様のペット。
ワタシはご主人様を心の底から愛している。


ご主人様に買われてから一年。
ご主人様のお手伝いもずいぶん慣れてきた。
といっても、ワタシの仕事は手当てを受けているヤクザが痛みで暴れないように力任せに押さえつけてるだけなんだけど。
それでもご主人様は「おかげでスムーズに終わって助かります」ってワタシを褒めてくれる。
ワタシはそれだけで心が満たされるようになっていた。


そうこうしてるうちに羽曇組事務所に到着した。

「先生!待ってましたわ!どうぞこちらです!」
事務所前で待機していた強面の組員がワタシとご主人様を案内する。
中に入ると奥の方の高級そうなソファに座っている男が一人。

「おぉー先生、わざわざすまんなぁ。」
タバコをふかしながらワタシ達を待っていたこの男は『羽曇組』若頭 渋川ジン。
正直ワタシはこの男が怖い。


「いやぁちょっと撃たれてもうてなぁ。弾ぁ、取ってくれへんやろか?」
自ら布で抑えて傷口を止血してるものの、そこからにじみ出て布から血が滴っている。なのにも関わらずこの男は涼しい顔をしていた。

「撃たれたわりにはずいぶん元気そうですね。・・・撃たれたのはそこですか?」
ご主人様は医療道具が入ったバッグを漁りながら質問をした。

「そうや。もぅ痛くてしゃーないわぁ。はよなんとかして~。」
変なクスリでもキメてるのか疑いたいくらい余裕の表情をしている。
関西弁も相まってふざけてるようにすら見える。
痛みを感じてるとは到底思えない。
マジでキメちゃってるんじゃないか?

「では横になって見せてください。」
普段なら痛みで暴れないようにワタシが抑えるが、この男にはその必要はない。
涼しい顔をして弾の摘出を待っている。
この男には痛覚というものが無いのか?

カチャカチャと傷口から医療器具を入れ、体内に残った弾を取り出そうとするご主人様。
麻酔も無しに遠慮なくかき回してるご主人様もご主人様だけど、それに全く動じない渋川ジン。
やはりバケモノなのかもしれない・・・。


「・・・これですね。取れましたよ。」
ご主人様は血まみれの弾をジンに見せた。
「おぉーおおきに!」
ご主人様は手際良く傷口を縫いつけて摘出処置は無事に終わった。

「ご主人様、お疲れ様です。」
ワタシはご主人様が使用した医療器具を綺麗に片付けはじめる。
処置が終わったジンは摘出した弾をジーッと見つめていた。

「・・・どうされましたか?」
ジーッと弾を見つめるジンにご主人様は質問をした。
「ん?あぁ、いや。なんでもあらへん。」
ジンはそう言って弾をテーブルの上に置いた。

「無理に身体を動かしたら傷口が開くのでしばらくは安静にしてください。」
「おう。おおきにな、先生。」
ジンはご主人様に礼を言って再びタバコに火をつけた。
するとジンは「おい。」と見守っていた組員に一言放った。
すると他の組員がご主人様に分厚めの封筒を手渡した。

「またなんかあったら頼むでぇ!先生ぇ!姉ちゃんもな!」
「はい。では失礼します。」
ご主人様とワタシは事務所を出た。


これがご主人様のお仕事。
病院で治療したら後々面倒事になりそうな怪我は病院へ行かず、ご主人様に依頼して治療する。
そしてご主人様は高額な報酬をもらう。
そうして生計を立てている。


ワタシはそんな裏社会に生きるご主人様の助手であり、ペットである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

世界の終わりにキミと

フロイライン
エッセイ・ノンフィクション
毎日を惰性で生きる桐野渚は、高級クラブの黒服を生業としていた。 そんなある日、驚くほどの美女ヒカルが入店してくる。 しかし、ヒカルは影のある女性で、彼女の見た目と内面のギャップに、いつしか桐野は惹かれていくが…

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

処理中です...