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2.『悪夢』
しおりを挟む「オラァ!はよ乗れごらぁ!」
男の怒声を浴びながらワタシは黒いワゴン車に乗せられる。
冷たい革のシートに乗せられたワタシの身体がガタガタと震え始める。
「ジタバタせんほうがええで。」
ワタシの後ろの席から羽曇組若頭 渋川ジンの声が聞こえた。
「なぁ、姉ちゃん。ここからは正直に答えたほうがええで。俺の言うてる意味わかるなぁ?」
表情は見えていないが圧倒的な威圧感がワタシの心身を萎縮させる。
「まずはコレやな。こんなモン、何処で手に入れた?」
ジンはカチャカチャと重厚な音をたてる。
それはワタシが持っていた銃だった。
何処で入手したかとジンは質問を始めた。
いや、もはや質問では無く尋問と言ったほうが正しい。
「そ・・・それは・・・」
恐怖で声が出ない。裏社会の人間特有の威圧感・・・いやそれ以上の威圧感。今まで感じた事の無い重い雰囲気で今にも吐きそうになる。
今やワタシはライオンの檻に入れられたウサギだ。
「なんや?答えられへん所から手に入れたんか?・・・まぁ安心せぇや。時間ならた~っぷりある。」
ゴトッと音が聞こえた。多分銃を置いた音だ。
その瞬間、ワタシの後ろからジンの手がのびてきてワタシの鼻と口を覆った。
「むぐっ!?」
突如酸素の供給を絶たれて苦しくなり悶える。
なんとか空気を吸おうともがこうとするがジンの手は決して離れなかった。
次第と意識が遠くなっていく。
「心配せんでええ。お前は殺さんようにと『お嬢』からキツ~く言われとるんや。『お嬢』に感謝しぃや。」
意識が切れる中、微かに聞こえたジンの言葉。
そうしてワタシの意識は深く沈んでいった。
「ッ!!?」
ワタシはバッと目を見開いて起き上がった。
ワタシは慌てて周りを見渡した。
視界にはご主人様がワタシのために用意した質素で静かな部屋。
唯一聴こえるのは、時計の音とワタシの乱れた息遣いだけだった。
「・・・またあの夢か。」
一年前の出来事が未だに夢に出る。
夢なのに鮮明に、まるでビデオを永遠に再生しているかのように現れる。
額の汗が頬を伝って流れる。
「・・・起きなきゃ。」
ワタシは額の汗を雑に拭い、悪夢から逃げるようにベッドを飛び出して部屋を出た。
ワタシはご主人様と都会から少し逸れた静かな場所に住んでいる。
決して広くはないけど、住むには一切の不自由が無い。家具も家電も最新が揃っている。
なんで最新家具や家電が揃っているかというとご主人様は所謂『家電オタク』等では無く、羽曇組の組長さんのご好意で頂くらしい。
そういえばこの間は最新の全自動布団乾燥機を貰ってたっけ。
ご主人様は「こんなの要らないのに。」ってお仕事から帰って来て早々ボヤいてたのを覚えている。
しかし組長さんのご好意を無下にしたくないというご主人様のお優しい心?もあり、断れずに頂いちゃうみたい。
そんな最新全自動布団乾燥機はまだ封を切られぬまま押し入れの中で静かに出番を待っている。
ワタシは自室を出てリビングへ向かった。
リビングのドアを開けたらご主人様がイスに座っていた。
「おはよう、よつば。」
キャミソール姿のままコーヒーを嗜むご主人様がワタシを待っていた。
「お、おはようございます!すみません!寝過ごしてしまってッ!!」
ワタシは慌ててご主人様に挨拶をする。
普段はご主人様より早く起床して、ご主人様の身の回りを整えているのに今日はご主人様より遅く起きてしまった。
やってしまったと落ち込むワタシの様子をご主人様は静かに見ていた。
「ずいぶん汗をかいてますね。また例の夢ですか?」
ご主人様にはワタシがよく見る悪夢を話している。
あの悪夢を見る度に、ワタシはご主人様に報告をしている。
「はい。そうです。」
「今回は前回と何か変化は?」
ご主人様は外科医であり精神科医でもあった。
そういう側面もあって、研究対象なのかそれともただの興味本位なのかは分からないけど、悪夢を見た朝は毎度カウンセリングが始まる。
ワタシはこのカウンセリングの時間が結構好き。
何故ならご主人様がワタシしか見ていない幸せな時間だから。
いくつかの質問を繰り返して、ご主人様のカウンセリングは終了した。
正直ワタシには専門的なコトは分からないけど、ご主人様のお力になれるならこんなに嬉しいことは無い。
「・・・なるほど。ふっ、面白いですね。」
微笑を浮かべながらカルテのようなモノに書き綴っていく。
ワタシはそれをひょこっと覗き込んだけど英数字みたいな文字がズラっと書き込まれていて全く読めなかった。
「英語・・・ですか?」
「これはドイツ語です。今は日本語と英語で書くのがほとんどですが・・・。」
ご主人様いわく、どうやら昔の医者はカルテを書く時はドイツ語だったらしい。
今は日本語と英語が主流なのだとか。
そもそも電子化も進んでるから手書きカルテ自体減ってきているらしい。
「さて、朝ごはんにしましょうか。その前にシャワーを浴びてきなさい。」
ご主人様はそう言いながらワタシの着ているパジャマのボタンをぱちぱちと外していく。
するすると手際よくワタシのパジャマを脱がすご主人様。
「ほら、こんなに汗をかいている。早くシャワーを浴びてきなさい。」
ご主人様の細く綺麗な人差し指がワタシの首元から胸、そしておヘソへと指をゆっくりと撫で下ろした。
「は・・・はぃ・・・」
力の抜けたマヌケな声が出てしまった。
ワタシはご主人様の言う通りにシャワーを浴びに急いだ。
シャワーを終えてリビングに戻るとご主人様が白衣を着ていた。
「お仕事ですか?」
「ええ。よつばは留守番していなさい。」
そう言ってご主人様は仕事道具が入ったバッグを持ち、颯爽と家を出ていった。
「い・・・いってらっしゃいませ。」
パタンと玄関のドアが閉じた音がした。
ワタシは裸のまま、ご主人様が座っていたソファーに飛び込んだ。
ワタシはご主人様のペットだけど首輪をつけられている訳じゃない。
外出も出来るし、ある程度自由に過ごせている。
ご主人様は何故半グレだったワタシをペットにしてくれたのだろう。
ご主人様のペットになってからの一年間、ワタシはご主人様の事をあまり知らないままでいる。
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