大嫌いな腹黒騎士から兄の代用品として抱き潰される俺の話

胡蝶乃夢

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五話

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 ――後日。
 国王の命令で王族や重臣が一堂に召集される中、父王から衝撃的な発表がされた。

「第二王子レグルスの降嫁こうか先を決めた。次期辺境伯アルタイルをレグルスの婚約者とし、来年の辺境伯継承後に降嫁させる」

 突然の婚約発表に唖然とし、俺は取り乱しながら声を上げる。

「なっ……ま、待ってください! 俺は隣国の縁談を受け、婿入りするつもりでいたんです!!」
「政治情勢を考慮して決めたことだ。隣国へ婿入りさせるより、辺境伯家へ降嫁させた方が有益だと判断した」
「そんな、以前は婿入りさせる方向で話を進めていたではありませんか! なのに、こんな急に降嫁だなんて……」

 しかも、その相手が顔を合わせるのも辛いアルタイルだなんて、耐えられるはずもない。

「政治情勢が変わった。これは最終決定だ。王族たるもの、国益のために婚姻するのは当然の義務。お前もそれはわかっているはずだ」
「で、ですが――」

 どうにかできないかと食い下がる俺の言葉をさえぎり、兄のりんとした声が響く。

「これは王命で決定事項。国の安寧あんねいのため、大人しく従いなさい、レグルス」
「っ!」

 振り向くと、兄と目配せをしていたアルタイルと視線がぶつかる。

「お前は俺の婚約者になり、来年には辺境伯領に嫁ぐことになる。政略結婚なんだから、甘んじて受け入れろ」

 唐突な婚約発表に動揺する素振りもなく、すでに俺をめとる気でいる様子を見て、察してしまった。

 アルタイルは想い人である兄を手に入れることが許されない。
 だから、俺を娶って兄と親族としての繋がりを持ち、兄の代わりとして容姿の似ている俺に子を産ませるつもりなのだろう。
 俺の意志など関係なく、どんな扱いをしてもいい対象、二人にとって俺はその程度の存在でしかなかったのだ……。

 胸がまたジクジクと痛みだし、ひりつき詰まる喉から声を絞り出す。

「……っ……嫌だ……降嫁させられるなんて嫌だっ!」

 室内に響く俺の悲痛な叫びに、居並ぶ重臣たちがざわめき、視線が交錯する。

 王族でありながら、異性婚ではなく同性婚させられるなんて異例の事態だ。
 ましてや、王子の身分で降嫁させられ、子を産む側にされるなんて酷い辱め。
 侮辱ぶじょくでしかないと父王も兄もわかっているだろうに……どうしてそんな非情な仕打ちができるのか。

 だが、俺の叫びに父王は顔をしかめ、目尻を吊り上げて怒声を放つ。

「身勝手な我儘わがままを言うな! レグルス、お前がこの国を離れることは許さん!!」
「っ!?」

 父王は最初、気乗りしていなかった俺を隣国に婿入りさせるつもりでいたはずだ。
 なのに、国から出さないと言い出すなんて、兄たちの作為的さくいてきな工作があるとしか思えない。
 父王と兄は俺を王国の末端にある辺境伯領へと追いやり、飼い殺しにでもするつもりなのか。
 そこまで、俺は親兄弟から疎まれていたというのか……。

 兄の代わりに子を産まされるあげく、俺は騎士としての未来も絶たれ、生きながらに殺されるのか……そんなの、そんなの耐えられない。

「っ……嫌だ! 俺は降嫁なんてしない!!」
「なっ、レグルス、待ちなさい――」

 これまで親兄弟に大きく反発したことなどなかったが、堪らずにその場から飛び出していった――。

 ◇

 ――どれだけ駆け回り、逃げ回っていたことか。
 日が傾いてきた頃、俺は王都の端に位置する関所前で足を止め、立ち尽くしていた。
 アルタイル率いる精鋭せいえい騎士部隊に包囲され、完全に逃げ場を失っていたのだ。

 荒く息を切らせながらも逃げ道を探す俺に、呆れたような顔をしたアルタイルが歩み寄ってくる。

「お前は見目も行動も人目を引き、目立ちすぎる。どこに逃げても無駄だ。すぐ見つかる。陛下もお前を国外にやる気はないと言っていただろ。いさぎよく諦めろ」

 さっさと諦めて、兄の代わりになれというのか。
 大切に想っていた気持ちは踏みにじられ、信頼していた二人からも裏切られ、俺はこんなに苦しくて、苦しくて堪らないというのに……。
 なのに、平然としているこんなやつから、いいように使われるだけの、兄の代用品になり下がれというのか。

 どこまでも俺を追い詰めてくる、狡猾こうかつな男を憎悪ぞうおのままに睨みつけ、歯噛みして吐き捨てる。

「くっ……貴様のところに降嫁させられるなんて、屈辱くつじょくでしかない! 死んでもごめんだ!!」

 アルタイルは俺の剣幕けんまくに肩を竦めて見せ、少し困ったような顔をし、なだめるようにして言う。

「そんなに俺のところに嫁ぐのは嫌か? ろくに知りもしない相手に嫁がされるより、気心の知れてる俺の方が幾分いくぶんマシだろ?」
「誰が貴様のような腹黒い男のところになんか嫁ぐか! 色狂いで醜悪しゅうあくな豚野郎に嫁いでなぶられた方がよっぽどマシだ!!」

 そう叫ぶと、アルタイルの顔に陰が差し、金眼がゆらりと揺れて妖しく光った。

「ほう、そうか……なら、騎士らしく決闘で決めるというのはどうだ?」
「……決闘で決める?」

 訊き返せば、口角を上げて薄笑いを浮かべた顔が近づいてきて、メラメラと燃えるような執念を宿した金眼が俺を見下ろす。

「そうだ、お前が俺に勝ったら婚約破棄してやる。ただし、負けたら俺がお前の身体を一晩好きにする。お前が納得するまで、何度でも決闘に応じてやろう。それでどうだ?」

 自分が負けるなんて微塵みじんも考えていないのだろう、不敵な笑みを浮かべて俺を見下す態度が神経を逆撫でする。
 何がなんでもこの憎々しい男を負かし、敗北を味わわせ、苦汁を舐めさせてやらねば気が済まない。

「決闘だ……絶対に婚約破棄させてやる!」

 頭に血が上っていた俺は挑発に乗り、まんまとこいつの策にはまってからられてしまったのだ。

 決闘するたびに敗北したのは俺の方で、散々なぶられ、男に抱かれる快楽を嫌というほど身体に教え込まれた。
 毎回毎回、嫌だと抗っては、足腰が立たなくなって動けなくなるまで執拗に抱き潰された。
 そしてまた、体力が回復して動けるようになれば、婚約破棄をかけて決闘を挑む。
 そんなことを繰り返し、月日ばかりが過ぎていき、気づけば半年余りの時間が経過していたのだった――――……。

 ◆
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