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十三話
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――――いくら幸福な夢に溺れていたいと願っても、無情に時は過ぎていき、朝日は昇る。
窓辺から差し込む明るい陽の光を感じ、俺の意識は浮上していった。
眩しさに目元を擦りながら、寝台でもぞもぞと上体を起こす。
昨日、浴びるように酒を飲んで酔い潰れていたはずなのに、飲み過ぎた後の頭痛や倦怠感のようなものはなくて、むしろ頭も身体もすっきりしているのが不思議だった。
妙な気がして、自分の身体に視線を落とせば、寝衣をしっかり着込んでいた――が、胸元の肌が露出した部分に真新しい赤い痕がついている。
まさかと思い、胸元の服を引っ張り覗き込んだ俺は、目を見開いて絶句した。
「っ!?」
あまりの赤い痕の多さに一瞬、病的なものかと思ってギョッとしてしまった。
そこには、これまでの比ではないほど、おびただしい数の鬱血痕が残されていたのだ。
愕然としてわなないていると、俺の隣でもぞりと何かが動き、人の気配に気づく。
ぎこちない動作で首を動かし、目を向けると、アルタイルが心地良さそうな寝顔で眠っているではないか。
祝賀宴が終わった後、アルタイルは婚前最後の逢瀬をしていたはずだ。兄と愛を深め合っていたはずなのに……。
それがなぜ、俺の隣で寝息を立てているのか――頭を抱えて考え、察してしまった。
アルタイルは一晩中、俺を抱き続けるくらいの〝性豪〟なのだ。
だが、いくら腹黒くて鬼畜なことをするアルタイルでも、大切な想い人にまで無体を強いることはないだろう。
抱くとしても俺を抱く時とは違い、愛のある優しい抱き方をするはずで、無理やり抱き潰すなんて無情なことはしないはずだから。
しかし、それでは当然のことながら、性豪なアルタイルが満足できるはずもない。
そこで、持て余した性欲のはけ口に使われたのが、酔い潰れて前後不覚になっていた俺だったということなのだろう。
皮肉にも、愛される夢を見ていた俺はろくな抵抗もせず、ただただいいように弄ばれ、こいつの慰みものにされていたのだ……。
都合のいい道具として使われた屈辱と惨めさに、悔しくて奥歯を噛みしめる。
「っ……!」
夢の中の優しいアルタイルとの情事まで汚された気がして、無性に腹が立って仕方がない。頭に血が上って煮え立つ。
俺はゆらりと寝台の上で立ち上がり、憎々しい下衆野郎に近づいていく。
寝台が軋む音と振動に気づき、アルタイルがうっすらと目を開ける――が、遅すぎる。
俺は思いっきり脚を振りかぶって、アルタイルを蹴り飛ばす。
ドゴッ!
蹴り技が直撃したアルタイルの身体は打撃音を響かせ、部屋の壁に衝突した。
「ぐはっ!!?」
呻き声を上げ、アルタイルは崩れ落ちた身体で腹を抱え、震えながら呻いた。
「う゛ぐっ、うぅ……っ……なっ、何を……?」
端正な顔を痛みに歪め、アルタイルは困惑を滲ませた表情で俺を見上げて喚く。
「起き抜けになんてことするんだ?! 寝込みを襲うなんて騎士のすることじゃない、さすがに卑劣だろ?!!」
「卑劣なのは貴様だ! 酔い潰れて寝てる俺に、こんな痕つけて抱き潰すとか、鬼畜の所業だろうがっ!!」
服をむんずと掴んで鬱血痕の無数に散らばる胸元を見せて怒鳴りつければ、アルタイルはさらに困惑した表情で狼狽えた。
「な、何を言って……お前がたくさん痕つけてって言ったんだろ……あんなに俺に甘えて、可愛かったのに……」
「はぁっ、俺がっ?! 貴様なんかに甘えるわけないだろうがっ!!」
俺の剣幕に怯んだ様子で身を竦め、アルタイルは逡巡する。
「レグ……お前、まさか……」
アルタイルは片手で顔を覆って首を振り、俯いて深呼吸するように一つ大きなため息を吐いた。
「はぁ……もしかして、昨晩のこと覚えていないのか? 酔い潰れて目を覚ました後のことは……何も覚えていないのか?」
「昨晩のこと……?」
酔い潰れた後、目を覚ましたら、優しいアルタイルに抱きかかえられていた。
夢うつつで兄とアルタイルの話を聞いていて、兄が俺を自分の騎士だと思っていると言ってくれた。アルタイルも俺の騎士になりたいと言いだし、最愛の誓いを立ててくれた……だけど、そんなこと現実にはありえない。
だから、酔い潰れてからずっと、俺は幸せな夢を見続けていただけなんだ。
……でも、優しいアルタイルに抱かれている幸せなひと時、所有印を残されないのが寂しくて、たくさんつけてとねだった気もする。
ちらりと視線を向けて窺うと、アルタイルが縋るような目で見つめてくるので、少しだけ考えてみることにした。
夢の中の優しいアルタイルと、今、目の前にいるアルタイルが、同一人物なんてことがありえるのか?
どこまでも優しくて甘くて、じれったいくらい丁寧で、繋がって抱きしめただけで達してしまう、初々しいアルタイルが?
超絶遅漏な上に精力絶倫で、逃げる俺を押さえつけて快楽を教え込み、あの手この手で快楽堕ちさせようとしていた鬼畜野郎が?
同じアルタイル………………ないな。どう考えても別人だろう。
改めて考えてみても、ありえないなと思う。
俺がじとりとした白い目で見下すと、アルタイルは嘆息して呟く。
「わかった……今後、俺の見ていないところでは絶対に酒は飲ませない」
「は?」
「絶対に駄目だ。記憶をなくすなんてろくなことにならん。俺の側でなら、いくら飲んでもいいから」
「なんで貴様の指図なんか――」
今までだって普通に酒は飲んできたし、記憶をなくしたことなんて一度もなかったのだ。
抗議しようと寝台から降り、距離を詰めてキッと睨んでみるが、目線が合わない。
アルタイルはよろよろと立ち上がり、ひどく落ち込んだ様子で俯き、ぶつぶつと呟いている。
「まさか、昨晩のことをすべて忘れているとはな……はぁ……」
重いため息をこぼし、項垂れていたアルタイルは、急に顔を上げて背筋を伸ばすと、俺に視線を向けて呟く。
「まあ、いい。覚えていないなら、何度でも言ってやる」
「?」
決心したような真剣な表情で、アルタイルは俺を熱の宿る眼差しで見据えた。
「俺にとっての一番はお前だ」
「!」
ずっと欲しかった言葉。
望んでいた言葉に俺は動揺した。
けど、そんなはずはないと首を横に振る。
「そ……そんな、そんなの嘘だ! 俺を騙そうたって、そう簡単にはいかないからな……」
「嘘偽りない本心だ。たとえ嘘だと思われても、嫌われて罵られても、俺の長年の想いは何一つ変わらない」
真摯な表情も、必死な声音も、激しい熱情を宿した瞳も、既視感がある。
「俺が執念深いのは知っているだろ? 酒の力がなくても、必ず落としてみせる。俺はお前のもので、お前は俺のものだ」
その言動が、俺を真っ直ぐに見据える熱い金眼が、夢の中のアルタイルを彷彿とさせた。
だが、目の前にいる負けることなど微塵も考えていない、不敵な笑みを見せるアルタイルは現実だ。
だけど、だからこそ、その言葉を信じたくても信じることはできない。
夢と現実ではあまりにも乖離が激しすぎて――現実の俺は疎まれ、兄の代用品として降嫁され、子を産む道具として使われ、辺境伯領で飼い殺しにされるのだから……。
「っ……兄の代わりに嫁がされるなんて、絶対にごめんだ! 貴様のいいようにされてたまるか!!」
「兄の代わり? なぜそこでシリウス殿下の話になるんだ?」
俺が気づいているとは思わなかったのか、『兄の代わり』と言ったことでアルタイルは困惑し、口元に手を当てて考え込んだ。
しばし間を置き、眉を顰めて険しい顔をしたアルタイルが、怒気を孕んだ低い声で問う。
「……まさかとは思うが、兄と離れたくないから、俺との結婚を嫌がっていたなんてことはないよな?」
「……は?」
アルタイルが鬼気迫る表情で、わけのわからないことを言い出した。
「お前がいくら兄弟依存で兄離れしたくなくても、兄弟で結婚はできないぞ! お前の伴侶になるのは、この俺だ!!」
「はぁっ?!」
意味不明な発言すぎて、間の抜けた声が出てしまった。
「俺の一番はお前で、お前の一番も俺だ!!!」
「?!?!?!」
何がどう飛躍してそんな結論に至ったのか、まるで理解ができない……。
唖然としている俺に近づき、アルタイルは俺の顔を両手で包んで、真剣な表情で告げる。
「レグ、俺はお前だけを愛している」
「!!」
揺らぐことのない強い眼差しで見つめられ、焼かれてしまいそうな熱い視線に胸が燻り、焦がれる想いが募っていく。
だけど――
「……嘘つき、っ……」
――その手を振り払い、後ずさって距離を取る。
「俺は兄の代わりでしかないくせに……代用品として慰みものにしてるくせに……」
「兄の代わりって、なんのことだ? いつ俺がお前を代用品として扱ったんだ?!」
いつまで白を切れると思っているのか、苛立たしさに声を荒げる。
「兄の騎士になると誓いを立てただろ! 本当は想い人の兄を愛しているくせに、いい加減な嘘をつくな!!」
「それは違う! 俺の想い人は今も昔もずっとお前だ! 愛しているのはレグだけだ!!」
偽りの愛なんていらない。そんな取り繕った言葉なんて聞きたくない。惨めになって苦しくなるだけだ。
心の底では、愛されたいと切望しているのに。なのに、本当は愛されていないなんて、もう堪えられない。
アルタイルを必死に睨みつけ、込み上げそうな涙を堪え、否定する。
「嘘だっ!」
「嘘じゃないっ!」
どんなに否定してもアルタイルは一向に引かず、その金眼に宿る熱は増していくばかりに見え、俺の方が揺らぎそうになる。
「それに……それに、親友だと思ったことはないと言っていたじゃないか! 俺のことを疎ましいと二人が話しているのも聞いたぞ!! 薔薇園で、この耳で確かに聞いたんだ!!!」
「っ! そ、それは……」
アルタイルが初めて言い淀んだ。
「そうか、聞いていたのか……」
僅かに狼狽え、呟くようにしてこぼしたアルタイルの様子に、胸がズキンと痛んだ。
震えそうになる声を抑え、小さく吐き捨てる。
「ほら、やっぱり。もう言い訳なんてできないだろ……適当なこと言って騙そうったって、そうはいかない……」
「この際だから、はっきりと言わせてもらうが、いいな?」
顔に陰を落としたように見える、険しい表情のアルタイルが何を告げようとしているのか、俺には想像もできない。
「っ……」
不安と恐怖が膨れ上がり、息が詰まって胸が潰れてしまいそうだ。
窓辺から差し込む明るい陽の光を感じ、俺の意識は浮上していった。
眩しさに目元を擦りながら、寝台でもぞもぞと上体を起こす。
昨日、浴びるように酒を飲んで酔い潰れていたはずなのに、飲み過ぎた後の頭痛や倦怠感のようなものはなくて、むしろ頭も身体もすっきりしているのが不思議だった。
妙な気がして、自分の身体に視線を落とせば、寝衣をしっかり着込んでいた――が、胸元の肌が露出した部分に真新しい赤い痕がついている。
まさかと思い、胸元の服を引っ張り覗き込んだ俺は、目を見開いて絶句した。
「っ!?」
あまりの赤い痕の多さに一瞬、病的なものかと思ってギョッとしてしまった。
そこには、これまでの比ではないほど、おびただしい数の鬱血痕が残されていたのだ。
愕然としてわなないていると、俺の隣でもぞりと何かが動き、人の気配に気づく。
ぎこちない動作で首を動かし、目を向けると、アルタイルが心地良さそうな寝顔で眠っているではないか。
祝賀宴が終わった後、アルタイルは婚前最後の逢瀬をしていたはずだ。兄と愛を深め合っていたはずなのに……。
それがなぜ、俺の隣で寝息を立てているのか――頭を抱えて考え、察してしまった。
アルタイルは一晩中、俺を抱き続けるくらいの〝性豪〟なのだ。
だが、いくら腹黒くて鬼畜なことをするアルタイルでも、大切な想い人にまで無体を強いることはないだろう。
抱くとしても俺を抱く時とは違い、愛のある優しい抱き方をするはずで、無理やり抱き潰すなんて無情なことはしないはずだから。
しかし、それでは当然のことながら、性豪なアルタイルが満足できるはずもない。
そこで、持て余した性欲のはけ口に使われたのが、酔い潰れて前後不覚になっていた俺だったということなのだろう。
皮肉にも、愛される夢を見ていた俺はろくな抵抗もせず、ただただいいように弄ばれ、こいつの慰みものにされていたのだ……。
都合のいい道具として使われた屈辱と惨めさに、悔しくて奥歯を噛みしめる。
「っ……!」
夢の中の優しいアルタイルとの情事まで汚された気がして、無性に腹が立って仕方がない。頭に血が上って煮え立つ。
俺はゆらりと寝台の上で立ち上がり、憎々しい下衆野郎に近づいていく。
寝台が軋む音と振動に気づき、アルタイルがうっすらと目を開ける――が、遅すぎる。
俺は思いっきり脚を振りかぶって、アルタイルを蹴り飛ばす。
ドゴッ!
蹴り技が直撃したアルタイルの身体は打撃音を響かせ、部屋の壁に衝突した。
「ぐはっ!!?」
呻き声を上げ、アルタイルは崩れ落ちた身体で腹を抱え、震えながら呻いた。
「う゛ぐっ、うぅ……っ……なっ、何を……?」
端正な顔を痛みに歪め、アルタイルは困惑を滲ませた表情で俺を見上げて喚く。
「起き抜けになんてことするんだ?! 寝込みを襲うなんて騎士のすることじゃない、さすがに卑劣だろ?!!」
「卑劣なのは貴様だ! 酔い潰れて寝てる俺に、こんな痕つけて抱き潰すとか、鬼畜の所業だろうがっ!!」
服をむんずと掴んで鬱血痕の無数に散らばる胸元を見せて怒鳴りつければ、アルタイルはさらに困惑した表情で狼狽えた。
「な、何を言って……お前がたくさん痕つけてって言ったんだろ……あんなに俺に甘えて、可愛かったのに……」
「はぁっ、俺がっ?! 貴様なんかに甘えるわけないだろうがっ!!」
俺の剣幕に怯んだ様子で身を竦め、アルタイルは逡巡する。
「レグ……お前、まさか……」
アルタイルは片手で顔を覆って首を振り、俯いて深呼吸するように一つ大きなため息を吐いた。
「はぁ……もしかして、昨晩のこと覚えていないのか? 酔い潰れて目を覚ました後のことは……何も覚えていないのか?」
「昨晩のこと……?」
酔い潰れた後、目を覚ましたら、優しいアルタイルに抱きかかえられていた。
夢うつつで兄とアルタイルの話を聞いていて、兄が俺を自分の騎士だと思っていると言ってくれた。アルタイルも俺の騎士になりたいと言いだし、最愛の誓いを立ててくれた……だけど、そんなこと現実にはありえない。
だから、酔い潰れてからずっと、俺は幸せな夢を見続けていただけなんだ。
……でも、優しいアルタイルに抱かれている幸せなひと時、所有印を残されないのが寂しくて、たくさんつけてとねだった気もする。
ちらりと視線を向けて窺うと、アルタイルが縋るような目で見つめてくるので、少しだけ考えてみることにした。
夢の中の優しいアルタイルと、今、目の前にいるアルタイルが、同一人物なんてことがありえるのか?
どこまでも優しくて甘くて、じれったいくらい丁寧で、繋がって抱きしめただけで達してしまう、初々しいアルタイルが?
超絶遅漏な上に精力絶倫で、逃げる俺を押さえつけて快楽を教え込み、あの手この手で快楽堕ちさせようとしていた鬼畜野郎が?
同じアルタイル………………ないな。どう考えても別人だろう。
改めて考えてみても、ありえないなと思う。
俺がじとりとした白い目で見下すと、アルタイルは嘆息して呟く。
「わかった……今後、俺の見ていないところでは絶対に酒は飲ませない」
「は?」
「絶対に駄目だ。記憶をなくすなんてろくなことにならん。俺の側でなら、いくら飲んでもいいから」
「なんで貴様の指図なんか――」
今までだって普通に酒は飲んできたし、記憶をなくしたことなんて一度もなかったのだ。
抗議しようと寝台から降り、距離を詰めてキッと睨んでみるが、目線が合わない。
アルタイルはよろよろと立ち上がり、ひどく落ち込んだ様子で俯き、ぶつぶつと呟いている。
「まさか、昨晩のことをすべて忘れているとはな……はぁ……」
重いため息をこぼし、項垂れていたアルタイルは、急に顔を上げて背筋を伸ばすと、俺に視線を向けて呟く。
「まあ、いい。覚えていないなら、何度でも言ってやる」
「?」
決心したような真剣な表情で、アルタイルは俺を熱の宿る眼差しで見据えた。
「俺にとっての一番はお前だ」
「!」
ずっと欲しかった言葉。
望んでいた言葉に俺は動揺した。
けど、そんなはずはないと首を横に振る。
「そ……そんな、そんなの嘘だ! 俺を騙そうたって、そう簡単にはいかないからな……」
「嘘偽りない本心だ。たとえ嘘だと思われても、嫌われて罵られても、俺の長年の想いは何一つ変わらない」
真摯な表情も、必死な声音も、激しい熱情を宿した瞳も、既視感がある。
「俺が執念深いのは知っているだろ? 酒の力がなくても、必ず落としてみせる。俺はお前のもので、お前は俺のものだ」
その言動が、俺を真っ直ぐに見据える熱い金眼が、夢の中のアルタイルを彷彿とさせた。
だが、目の前にいる負けることなど微塵も考えていない、不敵な笑みを見せるアルタイルは現実だ。
だけど、だからこそ、その言葉を信じたくても信じることはできない。
夢と現実ではあまりにも乖離が激しすぎて――現実の俺は疎まれ、兄の代用品として降嫁され、子を産む道具として使われ、辺境伯領で飼い殺しにされるのだから……。
「っ……兄の代わりに嫁がされるなんて、絶対にごめんだ! 貴様のいいようにされてたまるか!!」
「兄の代わり? なぜそこでシリウス殿下の話になるんだ?」
俺が気づいているとは思わなかったのか、『兄の代わり』と言ったことでアルタイルは困惑し、口元に手を当てて考え込んだ。
しばし間を置き、眉を顰めて険しい顔をしたアルタイルが、怒気を孕んだ低い声で問う。
「……まさかとは思うが、兄と離れたくないから、俺との結婚を嫌がっていたなんてことはないよな?」
「……は?」
アルタイルが鬼気迫る表情で、わけのわからないことを言い出した。
「お前がいくら兄弟依存で兄離れしたくなくても、兄弟で結婚はできないぞ! お前の伴侶になるのは、この俺だ!!」
「はぁっ?!」
意味不明な発言すぎて、間の抜けた声が出てしまった。
「俺の一番はお前で、お前の一番も俺だ!!!」
「?!?!?!」
何がどう飛躍してそんな結論に至ったのか、まるで理解ができない……。
唖然としている俺に近づき、アルタイルは俺の顔を両手で包んで、真剣な表情で告げる。
「レグ、俺はお前だけを愛している」
「!!」
揺らぐことのない強い眼差しで見つめられ、焼かれてしまいそうな熱い視線に胸が燻り、焦がれる想いが募っていく。
だけど――
「……嘘つき、っ……」
――その手を振り払い、後ずさって距離を取る。
「俺は兄の代わりでしかないくせに……代用品として慰みものにしてるくせに……」
「兄の代わりって、なんのことだ? いつ俺がお前を代用品として扱ったんだ?!」
いつまで白を切れると思っているのか、苛立たしさに声を荒げる。
「兄の騎士になると誓いを立てただろ! 本当は想い人の兄を愛しているくせに、いい加減な嘘をつくな!!」
「それは違う! 俺の想い人は今も昔もずっとお前だ! 愛しているのはレグだけだ!!」
偽りの愛なんていらない。そんな取り繕った言葉なんて聞きたくない。惨めになって苦しくなるだけだ。
心の底では、愛されたいと切望しているのに。なのに、本当は愛されていないなんて、もう堪えられない。
アルタイルを必死に睨みつけ、込み上げそうな涙を堪え、否定する。
「嘘だっ!」
「嘘じゃないっ!」
どんなに否定してもアルタイルは一向に引かず、その金眼に宿る熱は増していくばかりに見え、俺の方が揺らぎそうになる。
「それに……それに、親友だと思ったことはないと言っていたじゃないか! 俺のことを疎ましいと二人が話しているのも聞いたぞ!! 薔薇園で、この耳で確かに聞いたんだ!!!」
「っ! そ、それは……」
アルタイルが初めて言い淀んだ。
「そうか、聞いていたのか……」
僅かに狼狽え、呟くようにしてこぼしたアルタイルの様子に、胸がズキンと痛んだ。
震えそうになる声を抑え、小さく吐き捨てる。
「ほら、やっぱり。もう言い訳なんてできないだろ……適当なこと言って騙そうったって、そうはいかない……」
「この際だから、はっきりと言わせてもらうが、いいな?」
顔に陰を落としたように見える、険しい表情のアルタイルが何を告げようとしているのか、俺には想像もできない。
「っ……」
不安と恐怖が膨れ上がり、息が詰まって胸が潰れてしまいそうだ。
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