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十五話
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「これまでのわだかまりは少しは解けたか?」
「わだかまり、ですか……?」
訊き返すと、気遣わしげな表情で兄が言う。
「秘密裏に動いていたこともあって、レグルスには黙っていたことも多かった。そのせいで、誤解を生んで苦しませてしまっただろう?」
先ほど、アルタイルが言っていた内容と同じだ。
やはり、俺の知らないところで、二人は尽力してくれていたのだろう。
「間者がどこに潜んでいるかわからず、無闇に情報を明かせなかった事情があったとはいえ、レグルスには申し訳ないことをしたと思っている……すまなかった」
「兄上……」
眉尻を下げて謝罪する兄に、何と返していいものかわからず、言葉に詰まる。
事情があったと理解しても、これまでの憤りや悲しみ、辛い思いをしたことが消えてなくなるわけではない。
「………………」
だけど、俺には抱えきれないものを、兄はすべて背負ってくれているのも事実だ。これからも、それは変わらない。
だから、辛い思いはしたものの、俺には到底計り知れないことを、兄が深慮してくれた結果なのだと思う。
「間者の件も片づいたことだし、私の騎士に秘密にする情報もない。この際、問いたいことがあるなら、すべて答えよう。レグルス、私に訊きたいことはあるか?」
致し方ないことだったとしても、こうして俺を気遣い、誠意を示してくれる。
だからこそ、そんな兄の力になりたくて、俺は兄を守れる強い騎士になろうと思ったのだ。
間違えることなどない。完璧な兄が選んだ選択だ。
ならば、ただ信じて突き進めばいい。
俺は兄の騎士なのだから――。
訊きたいことはないかと問う兄に、首を横に振って答える。
「……いいえ、その言葉だけで十分です。兄上は本当に必要なことなら、すべて教えてくださると知っていますから」
「そうか、わかった。訊きたいことができたら、私のところにいつでも来るといい」
「はい」
明るく笑って返答すると、兄は納得したように頷き、次いでアルタイルへと視線を向ける。
「では、君たちも仲直りして、喧嘩もほどほどにするんだぞ」
そう言い残し、兄は柔和な笑みを湛えながら、部屋から出て行った。
「………………」
二人になった空間に、しばしの沈黙が訪れる。
兄を見送ったまま、俺はアルタイルに視線を向けられずにいた。
昨晩の夢だと思っていた出来事が現実だったとわかったが、気持ちの整理が追いつかず、どういう顔をして接すればいいのか、わからなかったのだ。
「……、……レグ」
先に沈黙を破ったのは、アルタイルの掠れた声だった。
「俺もお前に謝らなければならない」
「!」
そろりと視線を向けて窺ってみると、アルタイルはひどく思い詰めたような、沈痛な面持ちで語りだす。
「悪質な豚貴族から守らねばと焦るばかりで、お前の意思を完全に無視して、独善的なことばかりしてきた……抱き潰して卑怯な手を使ってでも、俺は勝ち続けなければならなかったから……」
いつもは、飄々と涼しい顔で俺を挑発し、不敵に笑っているはずなのに。
そのはずが、悲痛な表情で瞳を揺らめかせ、不安げに俺の顔色を窺っているのだ。
「嫌われて拒絶されても当然なことをしてきた。あまりにも酷い鬼畜の所業だ……本当に惨いことをしたと思っている……すまなかった、レグ……」
「アル……」
誠心誠意、心を込めて謝罪しているように見える。
こんなにも痛々しく嘆き、途方に暮れている様子なんて見たことがない。
まるで、これまでの姿が偽りで、これが本来の姿のように思えてしまうのは、俺の願望が見せている幻覚なのだろうか……。
そんなことを考えていると、アルタイルはおもむろに俺の前に跪いた。
「アッ、アル?!」
「だけど、それでも、どうか、俺を許して欲しい。もう一度やり直す機会を与えて欲しいんだ。……心からお前を愛している。お前を失ったら、俺は生きていけない……頼む」
平身低頭に許しを乞い、俺を見上げて懇願するアルタイルの必死さに胸が引き絞られる。
「お前は昨晩のことを忘れ、何も覚えていないだろうが、俺はレグルスに最愛の誓いを立てたんだ。俺をお前の騎士にしてくれた。だから、どうか、もう一度、誓いを立てさせてくれ……俺をお前の騎士として認めてくれ……」
俺の脚に手を伸ばして縋るアルタイルの姿を見ると、もう黙っていることもできない。
いたたまれない気持ちになり、俺はおずおずと口を開く。
「………………ぉ…………お……覚えて、いる」
「レグ……?」
不安げに俺を見上げるアルタイルに、昨晩のことを振り返ってたどたどしくなりながら言う。
「あ……あまりにも今までと違いすぎて、別人みたいに優しかったから、ずっと夢を見ているんだと思っていたんだ……」
「それは……本当か?」
夢だと思っていたから、とんでもなく恥ずかしいことをたくさんしたと思い出され、俺は真っ赤になりながら頷く。
「忘れてない……全部、覚えている……」
消え入りそうな声で答えると、アルタイルの目が驚きに見開かれ、喜色満面に破顔し、飛びつくように抱きすくめられる。
「レグッ! 愛している、お前が俺の一番で特別な唯一だ!!」
「アル……っ……」
強く強く抱きしめられ、アルタイルの熱を感じて途方もない安堵感に包まれる。
だけど、嬉しいような、切ないような、悔しいような――わけのわからない感情が湧き上がり、心の中で渦巻いて、ただただ胸が苦しくて仕方ない。
「……苦しい、放してくれ」
「っ、すまない!」
アルタイルは慌てて身を放し、俺を心配そうに見つめた。
自分で言ったくせに、実際に手放されれば、熱を失うことが寂しくて、どうしようもない気持ちになってしまう。
「……事情があったのはわかった。だけど、正直、複雑な気持ちだ……」
「それは……そうだな……」
静かに相槌を打つアルタイルに、俺は今の嘘偽りない気持ちを伝える。
「俺の思い違いもあるが、半年も無理やり抱き潰され続けて、辛い思いをしてきたんだ……そう簡単に許すとは言い切れない……」
「当然のことだ……」
アルタイルは俺の言葉を重々しく受け取った表情で頷き、言葉を続けた。
「政略結婚はしてもらわなければならないが、お前が嫌なら抱くことはしない。お前が許してくれるまで待つ。十年でも二十年でも、許してくれるまで待ち続ける」
真摯な姿勢で、何よりも熱く燃えるような金色の眼で俺を見つめ、アルタイルは告げる。
「側にいてくれるだけでいい……心から愛しているんだ、レグ」
そんな熱い眼差しで見つめられたら、焦がれずにはいられなくなるのに。
「ずるい……それじゃ、逃げられないじゃないか……」
猛禽類――鷲を思わせる金眼が逸らされることはなく、逃れられないと確信してしまう。
どんなに苦しめられて恨んでみても、俺の唯一はとっくの昔からこの憎たらしい男で、幼い頃から恋焦がれてしまっているのだ。
仕方ないなと嘆息し、困ったように笑って見せれば、アルタイルも複雑な表情で微笑み、気遣わしげに話しだす。
「……ただ、十日と開けずに半年間も抱き潰し続けてきたから……快楽を求めるように抱いていたし、その習慣が身体に染みついているかもしれない……お前の方が逆に辛くなるかも……」
「なぁっ?!」
アルタイルの突拍子もない発言に驚愕し、目を白黒させて狼狽える。
「なっ、なっ、なんだとっ!?」
考えてみれば、快楽に慣らされた身体で長期間我慢できる気もしなくて、顔面が蒼白になり――。
愛されているのなら素直に甘えて、昨晩みたいなことをしても許されるのかと、想像して赤面し――。
なんでそんなことで俺が気を揉まないといけないのだと、苛立って冷めた気持ちになり――。
そんな身体にされてしまったことにも怒り心頭で顔から火が出そうになり――。
一方、俺の様子を眺めていたアルタイルが唖然として呟く。
「さっき、腹芸できると豪語していなかったか? ……くふっ、百面相しているし、可愛すぎて駄目だ。ふふ……」
「はぁっ!? 馬鹿にしているのか!」
口元を抑え、必死に声を押し殺して笑っているのが、なおさら腹立たしくてギロリと睨む。
なのに、アルタイルは俺に蕩けるような眼差しを向け、甘い声で囁くのだ。
「いいや、そんなところも堪らなく可愛い。もうどうしようもなく愛おしい……」
それから、アルタイルは咳払いをし、急に真面目な顔をして訴える。
「ごほん……もちろん、嫌でなければ俺はいつでも相手するし、勝手に触られるのが嫌なら、騎乗位でも座位でも好きに俺の身体を使ってくれていい。お前が望む通りになんでもする」
いけしゃあしゃあと宣うこいつに絶句し、俺はプルプルとわなないた。
「この……この……この腹黒野郎がぁっ!」
堪らず叫び、回し蹴りを食らわせてやる。
バシンッ!
「ぐはっ!」
とっさに躱そうとしたが、俺の方が早くて避けきれず、アルタイルは軽く吹っ飛び、床に転がって受け身を取った。
「いたたた……少しは手加減してくれ……」
腹を抱えて蹲るアルタイルに、寝台の横に立て掛けてあった剣を放り投げてやる。
放られた剣を反射的に受け取ったアルタイルは、怪訝な顔をして俺を見上げた。
「……レグ?」
「決闘で決めてやろうじゃないか! 貴様が勝てたら、俺の騎士として認めてやる!!」
俺も剣を手にして抜刀し、アルタイルに向けて宣戦布告する。
「散々、卑怯な手で負かされてきたが、今の俺は負ける気がしないぞ。兄の治癒魔法と強化魔法で完全回復して、すこぶる調子がいい。今度こそ貴様に敗北を味わわせてやる!」
「ひっ……ま、待て、待て待て、お前の本気の蹴り技は反則級だ! 俺がお前相手に本気出せないのわかっているだろ!! おい、落ち着け、レグ――」
「問答無用! 王国最強の騎士の冠など奪い取ってくれるわ!!」
慌てて立ち上がり逃走しようとするアルタイルを追い、逃がして堪るかと跳躍する。
「やめっ、うわぁーーーーっ!!?」
バゴッ!!
アルタイルに避けられ、壁に大きな風穴が開いた。
「ちっ、外したか……」
俺はギラリと目を光らせ、逃げるアルタイルを追いかけた――。
――無敗を誇る王国最強の騎士アルタイルの唯一の弱点、それは愛する金獅子王子レグルスである。
猫科の猛獣の如きしなやかさと俊敏さを誇るレグルス。その必殺技は強靭な蹴りだ。
剣術の腕は確かな上に俊敏な身のこなしで足技まで加わっては、手練れでも敵わないのだ。
そんな足技で猛攻されれば、アルタイルですらも本気を出さなければ太刀打ちできなくなる。
しかし、本気で戦えば力加減などできず、レグルスに大怪我をさせかねない。
愛するレグルスを傷つけたくないアルタイルは、必然的に圧倒的不利になるのだ。
だからこそ、アルタイルは足技を封じるため、わざと足腰が立たなくなるまで執拗に抱き潰していた――のだが、シリウスに回復された今、レグルスは血気盛んで絶好調なのである。
なす術もなくアルタイルは逃げ回る羽目になり、レグルスが追って暴れ回ったために部屋の壁は半壊していった。
そして、案の定、二人は揃ってシリウスに叱られることになるのであった――。
◆
◆◆◆
お読みいただき、ありがとうございます。
序盤の鬼畜エッチ、中盤の甘々エッチ、終盤の甘苦エッチの温度差など、楽しんでもらえたら嬉しいです。
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先ほど、アルタイルが言っていた内容と同じだ。
やはり、俺の知らないところで、二人は尽力してくれていたのだろう。
「間者がどこに潜んでいるかわからず、無闇に情報を明かせなかった事情があったとはいえ、レグルスには申し訳ないことをしたと思っている……すまなかった」
「兄上……」
眉尻を下げて謝罪する兄に、何と返していいものかわからず、言葉に詰まる。
事情があったと理解しても、これまでの憤りや悲しみ、辛い思いをしたことが消えてなくなるわけではない。
「………………」
だけど、俺には抱えきれないものを、兄はすべて背負ってくれているのも事実だ。これからも、それは変わらない。
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「間者の件も片づいたことだし、私の騎士に秘密にする情報もない。この際、問いたいことがあるなら、すべて答えよう。レグルス、私に訊きたいことはあるか?」
致し方ないことだったとしても、こうして俺を気遣い、誠意を示してくれる。
だからこそ、そんな兄の力になりたくて、俺は兄を守れる強い騎士になろうと思ったのだ。
間違えることなどない。完璧な兄が選んだ選択だ。
ならば、ただ信じて突き進めばいい。
俺は兄の騎士なのだから――。
訊きたいことはないかと問う兄に、首を横に振って答える。
「……いいえ、その言葉だけで十分です。兄上は本当に必要なことなら、すべて教えてくださると知っていますから」
「そうか、わかった。訊きたいことができたら、私のところにいつでも来るといい」
「はい」
明るく笑って返答すると、兄は納得したように頷き、次いでアルタイルへと視線を向ける。
「では、君たちも仲直りして、喧嘩もほどほどにするんだぞ」
そう言い残し、兄は柔和な笑みを湛えながら、部屋から出て行った。
「………………」
二人になった空間に、しばしの沈黙が訪れる。
兄を見送ったまま、俺はアルタイルに視線を向けられずにいた。
昨晩の夢だと思っていた出来事が現実だったとわかったが、気持ちの整理が追いつかず、どういう顔をして接すればいいのか、わからなかったのだ。
「……、……レグ」
先に沈黙を破ったのは、アルタイルの掠れた声だった。
「俺もお前に謝らなければならない」
「!」
そろりと視線を向けて窺ってみると、アルタイルはひどく思い詰めたような、沈痛な面持ちで語りだす。
「悪質な豚貴族から守らねばと焦るばかりで、お前の意思を完全に無視して、独善的なことばかりしてきた……抱き潰して卑怯な手を使ってでも、俺は勝ち続けなければならなかったから……」
いつもは、飄々と涼しい顔で俺を挑発し、不敵に笑っているはずなのに。
そのはずが、悲痛な表情で瞳を揺らめかせ、不安げに俺の顔色を窺っているのだ。
「嫌われて拒絶されても当然なことをしてきた。あまりにも酷い鬼畜の所業だ……本当に惨いことをしたと思っている……すまなかった、レグ……」
「アル……」
誠心誠意、心を込めて謝罪しているように見える。
こんなにも痛々しく嘆き、途方に暮れている様子なんて見たことがない。
まるで、これまでの姿が偽りで、これが本来の姿のように思えてしまうのは、俺の願望が見せている幻覚なのだろうか……。
そんなことを考えていると、アルタイルはおもむろに俺の前に跪いた。
「アッ、アル?!」
「だけど、それでも、どうか、俺を許して欲しい。もう一度やり直す機会を与えて欲しいんだ。……心からお前を愛している。お前を失ったら、俺は生きていけない……頼む」
平身低頭に許しを乞い、俺を見上げて懇願するアルタイルの必死さに胸が引き絞られる。
「お前は昨晩のことを忘れ、何も覚えていないだろうが、俺はレグルスに最愛の誓いを立てたんだ。俺をお前の騎士にしてくれた。だから、どうか、もう一度、誓いを立てさせてくれ……俺をお前の騎士として認めてくれ……」
俺の脚に手を伸ばして縋るアルタイルの姿を見ると、もう黙っていることもできない。
いたたまれない気持ちになり、俺はおずおずと口を開く。
「………………ぉ…………お……覚えて、いる」
「レグ……?」
不安げに俺を見上げるアルタイルに、昨晩のことを振り返ってたどたどしくなりながら言う。
「あ……あまりにも今までと違いすぎて、別人みたいに優しかったから、ずっと夢を見ているんだと思っていたんだ……」
「それは……本当か?」
夢だと思っていたから、とんでもなく恥ずかしいことをたくさんしたと思い出され、俺は真っ赤になりながら頷く。
「忘れてない……全部、覚えている……」
消え入りそうな声で答えると、アルタイルの目が驚きに見開かれ、喜色満面に破顔し、飛びつくように抱きすくめられる。
「レグッ! 愛している、お前が俺の一番で特別な唯一だ!!」
「アル……っ……」
強く強く抱きしめられ、アルタイルの熱を感じて途方もない安堵感に包まれる。
だけど、嬉しいような、切ないような、悔しいような――わけのわからない感情が湧き上がり、心の中で渦巻いて、ただただ胸が苦しくて仕方ない。
「……苦しい、放してくれ」
「っ、すまない!」
アルタイルは慌てて身を放し、俺を心配そうに見つめた。
自分で言ったくせに、実際に手放されれば、熱を失うことが寂しくて、どうしようもない気持ちになってしまう。
「……事情があったのはわかった。だけど、正直、複雑な気持ちだ……」
「それは……そうだな……」
静かに相槌を打つアルタイルに、俺は今の嘘偽りない気持ちを伝える。
「俺の思い違いもあるが、半年も無理やり抱き潰され続けて、辛い思いをしてきたんだ……そう簡単に許すとは言い切れない……」
「当然のことだ……」
アルタイルは俺の言葉を重々しく受け取った表情で頷き、言葉を続けた。
「政略結婚はしてもらわなければならないが、お前が嫌なら抱くことはしない。お前が許してくれるまで待つ。十年でも二十年でも、許してくれるまで待ち続ける」
真摯な姿勢で、何よりも熱く燃えるような金色の眼で俺を見つめ、アルタイルは告げる。
「側にいてくれるだけでいい……心から愛しているんだ、レグ」
そんな熱い眼差しで見つめられたら、焦がれずにはいられなくなるのに。
「ずるい……それじゃ、逃げられないじゃないか……」
猛禽類――鷲を思わせる金眼が逸らされることはなく、逃れられないと確信してしまう。
どんなに苦しめられて恨んでみても、俺の唯一はとっくの昔からこの憎たらしい男で、幼い頃から恋焦がれてしまっているのだ。
仕方ないなと嘆息し、困ったように笑って見せれば、アルタイルも複雑な表情で微笑み、気遣わしげに話しだす。
「……ただ、十日と開けずに半年間も抱き潰し続けてきたから……快楽を求めるように抱いていたし、その習慣が身体に染みついているかもしれない……お前の方が逆に辛くなるかも……」
「なぁっ?!」
アルタイルの突拍子もない発言に驚愕し、目を白黒させて狼狽える。
「なっ、なっ、なんだとっ!?」
考えてみれば、快楽に慣らされた身体で長期間我慢できる気もしなくて、顔面が蒼白になり――。
愛されているのなら素直に甘えて、昨晩みたいなことをしても許されるのかと、想像して赤面し――。
なんでそんなことで俺が気を揉まないといけないのだと、苛立って冷めた気持ちになり――。
そんな身体にされてしまったことにも怒り心頭で顔から火が出そうになり――。
一方、俺の様子を眺めていたアルタイルが唖然として呟く。
「さっき、腹芸できると豪語していなかったか? ……くふっ、百面相しているし、可愛すぎて駄目だ。ふふ……」
「はぁっ!? 馬鹿にしているのか!」
口元を抑え、必死に声を押し殺して笑っているのが、なおさら腹立たしくてギロリと睨む。
なのに、アルタイルは俺に蕩けるような眼差しを向け、甘い声で囁くのだ。
「いいや、そんなところも堪らなく可愛い。もうどうしようもなく愛おしい……」
それから、アルタイルは咳払いをし、急に真面目な顔をして訴える。
「ごほん……もちろん、嫌でなければ俺はいつでも相手するし、勝手に触られるのが嫌なら、騎乗位でも座位でも好きに俺の身体を使ってくれていい。お前が望む通りになんでもする」
いけしゃあしゃあと宣うこいつに絶句し、俺はプルプルとわなないた。
「この……この……この腹黒野郎がぁっ!」
堪らず叫び、回し蹴りを食らわせてやる。
バシンッ!
「ぐはっ!」
とっさに躱そうとしたが、俺の方が早くて避けきれず、アルタイルは軽く吹っ飛び、床に転がって受け身を取った。
「いたたた……少しは手加減してくれ……」
腹を抱えて蹲るアルタイルに、寝台の横に立て掛けてあった剣を放り投げてやる。
放られた剣を反射的に受け取ったアルタイルは、怪訝な顔をして俺を見上げた。
「……レグ?」
「決闘で決めてやろうじゃないか! 貴様が勝てたら、俺の騎士として認めてやる!!」
俺も剣を手にして抜刀し、アルタイルに向けて宣戦布告する。
「散々、卑怯な手で負かされてきたが、今の俺は負ける気がしないぞ。兄の治癒魔法と強化魔法で完全回復して、すこぶる調子がいい。今度こそ貴様に敗北を味わわせてやる!」
「ひっ……ま、待て、待て待て、お前の本気の蹴り技は反則級だ! 俺がお前相手に本気出せないのわかっているだろ!! おい、落ち着け、レグ――」
「問答無用! 王国最強の騎士の冠など奪い取ってくれるわ!!」
慌てて立ち上がり逃走しようとするアルタイルを追い、逃がして堪るかと跳躍する。
「やめっ、うわぁーーーーっ!!?」
バゴッ!!
アルタイルに避けられ、壁に大きな風穴が開いた。
「ちっ、外したか……」
俺はギラリと目を光らせ、逃げるアルタイルを追いかけた――。
――無敗を誇る王国最強の騎士アルタイルの唯一の弱点、それは愛する金獅子王子レグルスである。
猫科の猛獣の如きしなやかさと俊敏さを誇るレグルス。その必殺技は強靭な蹴りだ。
剣術の腕は確かな上に俊敏な身のこなしで足技まで加わっては、手練れでも敵わないのだ。
そんな足技で猛攻されれば、アルタイルですらも本気を出さなければ太刀打ちできなくなる。
しかし、本気で戦えば力加減などできず、レグルスに大怪我をさせかねない。
愛するレグルスを傷つけたくないアルタイルは、必然的に圧倒的不利になるのだ。
だからこそ、アルタイルは足技を封じるため、わざと足腰が立たなくなるまで執拗に抱き潰していた――のだが、シリウスに回復された今、レグルスは血気盛んで絶好調なのである。
なす術もなくアルタイルは逃げ回る羽目になり、レグルスが追って暴れ回ったために部屋の壁は半壊していった。
そして、案の定、二人は揃ってシリウスに叱られることになるのであった――。
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