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本編

20.僕は家畜で見世物の王子様

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(……ああ、嫌だな……聞きたくない……考えたくない……)

「……お可哀想な国王陛下、あれほどの寵愛を妾妃に与えていたというのに……このような仕打ち、裏切りをされて……」
「……本当にお可哀想に……許せませんな! 卑しく汚らわしい妾妃め!! ……」
「……その子供も悍ましい! なんて浅ましくて汚らわしいのか!! ……」

(……何も考えないようにしていた……何も感じないようにしていた……でも、本当は気付いていたんだ……)

 口々に話す周囲の貴族達が、僕へと嫌悪と憎悪の視線を向ける。

「……憎く思う気持ちはよく分かりますが……いくら業腹ごうばらだとしても、我々は国王陛下の意図を汲まねばなりません……苦汁ではありますがね……」
「……国王陛下はご自分の子ではないと分かっていながらも、捨て置かれた赤子を不憫に思い、第一王子として受け入れたのですから……」
「……そうですね、第一王子として城に住まわせ、面倒をみているのですから……なんと慈悲深くも寛大な事なのでしょうか……」
「……国王陛下のなんと偉大な事か……ああ、本当にお姿だけではなく、御心までお美しく尊くていらっしゃる……」
「……なんと感動的な事でしょう……感涙してしまいます……流石は我々の国王であらせられる……」
「……それに連なる王族の方々もまた、素晴らしく高潔な方々ばかり……」

 貴族達がしきりに国王や王族を褒め称える姿を見て、僕は思ってしまう。

(……これじゃあ、僕は……まるで、見世物だ……)

 僕は王族席の方へと目を向ける。
 遠くに見える国王のその表情は、若々しくも国王としての威厳と風格に満ち溢れていた。
 そして、国民・貴族達への慈愛を象徴するかのように、常に微笑みを湛えている。
 僕はそんな国王の微笑みが、その美しすぎる揺らぐ事のない表情が、どこか作り物のように感じた。

 いつもは離宮に押し込められている僕は、式日の時だけこうして着飾らせられて、連れ出される。
 それは、国王の慈悲深さと寛大さを強調するかのように、不義の子と疑わしい王子ですらも庇護下に置いているのだと、周囲に知らしめるように。

(僕は、国王の慈悲深さを、寛大さを、周囲に見せつける為の引き立て役なんだ)

 それでも、母も居ない、後ろ盾も無い、魔力も無い、何もできない、僕はこの城から出る事もできない。
 出来損ないの僕には、魔法使いの国で生きて行くすべなどないのだから。
 精々できるのは、王子だと威張り散らして癇癪を起すか、寂しさに耐え兼ねて人の気を引く為に問題を起こすか、くらいのものなのだ。

(王族の慈悲深さと偉大さを誇示する為だけに、僕はここに在る……飼われている、王子家畜だ……僕は第一王子見世物なんだ……)

 僕は改めて強く認識してしまい、自分は見世物なのだと確信してしまった。

(そうだった……だから僕は、何も考えたくなくて、何も感じたくなくて……今まで、ずっと食べ続けていたんだ……)

 段々と耐えられなくなってきて、甘い物を食べて癒されたいと、僕は辺りを探ってしまう。

(美味しいスイーツを食べている時だけは、幸せな気持ちでいられるから……甘い物、スイーツが食べたい……)

 ふわりと、何処からか鼻腔をくすぐる甘く芳しい香りが漂ってくる。

(あ、甘い匂い……甘い匂いがする……美味しそうなスイーツの匂いだ……)

 その香りに誘われて、僕はふらふらと席を離れていった。


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