犯人探し

奏穏朔良

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一日目

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もし、罪に形があるのなら。
後悔に形があるのなら。

「皆さんには、僕を殺した犯人を見つけてもらいます。」

それは目の前にいるこの男じゃない。

きっと、あの女の形をしている。



****


日々は繰り返しだ。
起きて、身支度して、会社に行って、仕事して、帰って、寝て、また起きる。その繰り返し。
物価に対して少ない給料にため息ついて、日々を繰り返し生きていく。

これからも、そうずっと生きていくと思っていたのに。

「全員、お目覚めのようで。こんにちは皆さん。」

「え……?」

自分はいつの間に寝ていたんだろうか。かすんだ視界の向こうから聞き覚えのない声が聞こえて慌てて上体を起こした。

「ちょっとどこよここ!?」
「……俺は家にいたはずじゃ……!?なんなんだここ!?誘拐!?誘拐なのか!?」
「い、い、一体何が……!?」

他にも声が聞こえ回りを見渡せば、同じように事態が飲み込めず混乱している人たちがいた。
年齢も性別もバラバラ。誰一人見覚えもない。

この訳の分からない状況に、俺は無意識に唾を飲み込んだ。

確か俺は、会社からの帰り道でタクシーに乗ったはず……

(ここは……日本家屋……?)

馴染みのない畳の感触が手のひらに伝わる。障子も襖も締め切られ、薄暗い室内は不気味にも蠟燭で照らされている。とても現代社会でみられる景色じゃない。

それになにより……

「な、なんだよあいつ……!?」

そう、言葉を零し向けた視線の先。恐らく最初の声の主。

一番奥の小上がりなったそこに座りたたずむ青年は、頭からべったりと血を被り、赤黒く染まった顔で微笑んでいた。

ヒィッ!と小柄な女性が喉から引きつったような悲鳴を出す。

「ああ、気にしないでください。これは僕の血です。」

「そ、そういう問題じゃないでしょ!それだけの出血でけろっとしてるのも変だわ!」

と、見当違いな答えに吊り目の女性が声を荒げて青年に人差し指を向ける。

「大体アタシは職場にいたはずよ!?どこなのよここ!?誰なのよあんた!」

そう更に言葉を荒げ連ねる彼女に、隣にいたおばさんが

「ちょ、ちょっと落ち着いて……」

そっと肩に手を添えた。
しかし

「落ち着けるわけないでしょ!?」

と、顔を興奮に赤くした彼女はおばさんの手を振り払った。

「まあまあ、落ち着いて。」

なんて、血まみれの青年が柔い声色で窘めるが、どうみたって元凶のお前が何言ってやがる、と思ったら

「いや、あんたがそれ言う?落ち着けるわけないでしょ。そもそも僕たち、何のために集められたんですか?」

そう俺の気持ちを代弁するかのように一人の青年が立ち上がった。
俺と歳の近そうな彼の後ろから、最初の時に「誘拐か!?」と喚いていたおじさんが

「そうだ!何が目的なんだ!?」

と血まみれの青年へと声を投げつける。
すると血まみれの青年は待っていました、と言わんばかりにその笑みを深めた。

「ボクの名前は古里こざと 怪狸かいり。」

突然の名前の開示に空気が止まった。全員その名前に心当たりがあるのか、口元を手で覆ったり、目を見開いて彼を見たりとその反応は様々だ。

そして、俺もその名前に心当たりがあり、息を詰めた一人だった。

確か、中学の同級生だ。

あまり関わりはなかったけれど、隣のクラスで委員会が一緒だった奴。
正直言われても、顔も血で汚れているし、声も知っている声より少し低くなっているので本人なのかわからない。

ただ何となく、面影はあるような気がした。

(でも友達未満の俺がなんで……)

仮に目的があって集められたとして、何故俺まで?

すれ違えば挨拶したかもしれないし、してなかったかもしれない。
そんな程度の、精々知人程度の関係だったのに。

「皆さんにはある事をしてほしいんです。」

そう言って彼は人差し指を立てた。

「この中に殺人犯が居ます。」

「……え……」

どくりと嫌な音を心臓が立てる。
嫌な予感に、変な汗が頬を流れ落ちる。

はくりと音にならない空気が震えた唇をかすめ出た。

「皆さんには、ボクを殺した犯人を見つけてもらいます。」

「え?」

今、なんて言っただろうか?
言葉を一つも聞き漏らさないつもりで神経を研ぎ澄ませていたのに、耳に入ってきた言葉のいいがわからなかった。

「え、だ、誰が殺されたって……?」

思わず聞き返した言葉は情けないほどに震えていた。

「ボクですよ。後ろからガツンとやられましてね。ほら。」

軽い言葉と裏腹に、古里が見せてきた後頭部はべっこりと凹み、髪は血でテラリと光を反射していた。

あまりの衝撃に、思わず口を覆う。
胃からせり上がりそうになる何かを必死にこらえる最中、古里はまた何てこと無いように

「いやぁ、おかげで誰に殺されたのか分からないんですよ。」

と軽い声色で言うがこっちからすれば堪ったもんじゃない。
それに

「殺されたっていうなら……今目の前にいる古里は一体……?」

今、目の前で喋って動いているこいつは何なのか。

「だから古里 怪狸ですって。」

にこりと笑う古里が小首を傾げれば、ぽたりと赤黒い雫が落ちた。
ぞわりと背筋が粟立ち、指先が酷く冷たく感じる。

本当に彼は古里怪狸なのだろうか。
あんな笑い方をする人間だっただろうか。

「ここはあの世でもこの世でない不思議な場所。ボクが生者のふりができる場所!」

まるで舞台の演目かのように、高らかに、揚々に、手を広げてそう告げる古里。

その内容はあまりにも非現実的で。
でもこの訳の分からない現象は実際に起きている、紛れもない現実で。

「皆さんにある選択肢は二つだけです。罪を告白し、懺悔するか。無惨に死ぬか。そのどちらかです。」

突拍子もない。そしてあまりにも人の心のない選択肢。
先ほどまで喚いていた面々も、あんまりな話に顔を青くし、言葉を飲み込んだ。

(確かに、俺には償いきれない罪がある……でも、)

古里を殺したのは俺じゃない。

もし、もし本当に、古里の言う事が本当だったとしたら。

ここがあの世でもこの世でもない、その辺の漫画みたいな話が本当だとしたら。

「さぁ、始めましょうか。犯人探しを。」

『人殺し』が、この中にいる。
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