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一日目(弐)
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「まずはルールを説明しましょうか。」
空気の重さに対して、古里の声色はどこまでも軽かった。
「る、ルールって何よ。」
「ルールはルールですよ。犯人をあぶり出すのにただ話し合いをしろ、じゃあお互い自分は違うって主張しあって話が進まないじゃないですか。」
吊り目の女性が訝しげに問うた言葉に古里は淡々と答える。
「昼は話し合いをして、夕方に誰が犯人だと思うか投票しましょう!投票数が多い人から死んでもらえば、割と早めに犯人が分かる気がするんですよね!」
「は……?」
それはつまり、本当に人が死ぬ『人狼ゲーム』ってことか?
いいアイディアだ、と言わんばかりに両手を合わせニコニコと口角を上げている古里が、どうにも不気味で。
「お、お前……これゲームのつもりか……?そんな奴じゃなかっただろ……?」
ルール、という言葉もそうだが、恐らく古里は本当にこれをゲームとして提案している。いや、彼の中では決定事項なので、提案ではなく提示なのかもしれない。
でも、それが中学時代の記憶にある穏やかで真面目な古里の姿と結びつかず、俺はつい、そんな言葉を口にしていた。
それに古里の瞳から光が消え、どこまでも黒い瞳がこちらを向いた。
「変わってしまったのは、君も同じじゃないか。」
まるで射貫くような、責めるような視線が、俺を見る。
「そう……だな……」
その目に耐えきれなくて、俺は古里から目を逸らし、視線を畳に落とした。
そうだ。俺だって、俺だって中学生のあの時とはすっかり変わってしまった。
変わってしまったんだ。
「さ、今は話し合いの時間ですよ。空が赤らんだら投票です。」
パンパン、と軽く打たれた古里の手のひら。
それが話し合いの開始合図とわかっても、俺たちはお互いの顔を見やるばかりで、なかなか口を開かない。
だってそうだろう。下手を打てば自分に投票される可能性もある。
それに何を話せばいいのかもわからない。
俺たちのそんな様子に「あれま。」と古里は小首を傾げて、少し考えるように視線を彷徨わせた。
そして「そうだ!」と、その手にポン、と自身の拳を置いた。
「皆さん、ボクは知っていてもお互いは知らないんでしょう?自己紹介とかどうです?名前、年齢、職業。ボクとの関係とか。」
そう言われて、確かに俺はここにいる人たちの事誰一人わからないな、と周りを見る。
「……俺は後野 眼白。25歳会社員……一応、古里とは中学の同級生です。」
気まずさはあった。
でもこのまま黙っていても何も進まない、と勇気を振り絞って口火を切ったのだ。
それに自己紹介からいきなり投票される疑いは発生しないだろう。多分。いやそうであってほしい。
さすがに自己紹介したからって理由で投票されたらもうどうしようもない。
「僕は水蝹 照魔。27歳、アパレル店員。」
俺に続いて口を開いたのは歳が近そうな青年だった。
「古里とは小学生のころスイミングスクールが一緒だったよ。」
と告げた彼は、クールで涼やかな目元と反して声が柔らかく、古里に「目的は?」と問い詰めていた時のような鋭さはなかった。
(でもどこかで見たことあるような……)
似ている芸能人でも見たことがあるのだろうか。
こんなイケメン知り合うきっかけもないしな、と何となく感じる既視感を「気のせい。」と頭の隅に追いやった。
「アタシは川獺 羅矢。今年25。看護師やってる。」
次は吊り目の女性。
気の強さをそのままに、フンッと鼻を鳴らして腕を組む彼女がまさか同い年とは思わず、ついまじまじ見てしまうと「何見てんのよ。」と睨まれた。
(そういえば、さっき古里を見て出血量がどうのって言ってたよな……)
看護師、という職業を考えると彼女の言うことが正しい可能性が高い。
そんな彼女があの出血量で動いているのはおかしい、と言うのなら
(……本当に、殺されたのか……古里は……)
別に特別仲良かったわけじゃない。
それでも、知っている人が死ぬというのは
(……やっぱり、いい気分じゃないな……)
「古里君とは高校生のころバイト先が同じだったくらいしか関わりないわ。」
(そうだ、今は自己紹介の時間だった……)
川獺さんの声に思考の沼から意識が浮上する。
感傷に浸るのも、後悔するのも後だ。
今はとにかく、ここから生きて帰る事を目指さないと。
「わ、わ、わたし犴田 野狐です……その、21歳で、大学生です……」
次に口を開いたのは小柄で控えめな女性だった。
(てっきり十代かと思った……)
黒く長い前髪と分厚い眼鏡でその顔はほとんど見えない。
「こ、古里先輩とは、昔塾が一緒でした……」で、でも、学年違うし全然関わりなくて……」
そう言って引き結んだ口元だけが、唯一表情がわかる場所だった。
「はぁー。俺は三笑 輾。58になる。会社員で古里さん家の近所のもんだよ。」
そう言って眉間の皺を更に深くした三笑さん。胡坐でどっかり座ったまま、その膝は不機嫌さや不安を誤魔化すように小刻みに揺れている。
「私は飛倉 猯。57歳、教員……小学校の時に古里君のクラスの担任だったわ。」
最後に口を開いた飛倉さんは、ちらりと古里の方へ視線を動かし、すぐさま自身の膝へとその視線を落とした。
小さく「どうしてこんなことに……」と呟き落とされた声は、全員の気持ちを吐露するものだった。
(されにしても、関わりが浅い人しかいないな……)
自分も含め、誰も特別古里と仲が良かった人はいない。
「犯人を探すなら、もっと仲のいい人がいてもいいはずなのに……」
無意識に俺の口からこぼれた言葉に「おい、兄ちゃん!まさか本気で信じてるのか!?」と、三笑さんが苛立ちを携えたまま言葉を投げてきた。
「確かに俺は古里さん家の息子の香典だって出したさ!でもな、死んだ奴が口なんか聞けるもんか!投票だゲームだの、とんでもねぇ悪戯だ!」
と唾を飛ばして騒ぐ三笑さんに
「でもさっきは随分及び腰でしたけど?僕の後ろで吠えていたじゃないですか。」
水蝹さんが三笑さんにそういうと「俺は血がダメなんだよ!」と水蝹さんに向かって更に言葉を荒げた。
「そうやって喚き散らすあたり、アンタが犯人だったりして。」
「はぁ!?なんだとこの小娘が!!」
「ちょ、落ち着いてください!!」
畳から立ち上がって川獺さんに掴みかかろうとする三笑さんの前に入り、川獺さんを隠すようにして「悪戯だったとしても、落ち着かなければ古里の思う壺なのだは?」と小声で窘めれば「ケッ。」と音を吐いて荒らしくその場に胡坐をかいた。
「悪戯じゃぁないんですけどねぇ?大丈夫ですか?投票はもうすぐですよ?」
そう古里が口を挟むと、場の空気が固まった。
障子が閉め切られているので外の時間は分からない。しかし先ほどよりも部屋が暗くなっていている気がする。
時計もなく時間が分からないのが痛手だ。
じわりじわりと追い詰められている気がする。
そんな時だった。
「ふざけるな!!」
と、三笑さんが勢い良く立ち上がった。
そしてずんずん歩いていき、障子を勢いよく開けた。
「え、開くの!?」
思わず声を上げてしまった。
てっきり閉じ込められている以上、開かないとばかりに思い込んでいた。
しかし、そんな俺の声を無視して、古里は
「よろしいのですか?この部屋から出た時点で、投票を放棄したとみなしますよ。」
そう、どこか冷たい視線で、三笑さんに問を投げた。
そんな古里の言葉に三笑さんは馬鹿にするように鼻で笑って
「ああ、構わないね!こんなふざけたことに付き合ってられるか!」
と、言葉を吐き捨てた。
「あの世だこの世だその手のオカルトは信じちゃいないんでね!」
そう言い捨てて勢いよく障子を閉めた。
「あーあ。」
なんて古里がどこか嘲笑を含んだ声で声を落とした。
それに何か薄気味悪さを感じた時、
「え、で、出れるならアタシも……!」
と川獺さんがその場から腰を浮かせた。
その時だった。
「ギャアァァァァァァァァァッ!!!!?」
まるで断末魔のような叫び声が聞こえってきたのは。
「な、何だ!?」
「今の三笑さんの声だ!」
慌てて障子を開けて、三笑さんの姿を探そうと廊下を覗き込むと後ろからドスンと何か重い者が落ちて来る音が響いた。
障子の向こう、廊下側へと向いていた全員の視線が、恐る恐る、部屋の中へと戻される。
「キャアアアアア!!」
と、真っ先に叫んだのは川獺さんだった。
そこに、部屋に落ちてきたのは、黒い塊だった。
人の形をした、黒い塊。
「え……?」
意味が分からず、その場にストンと座り込んでしまう。
足に、上手く力が入らない。
だって、今。本当に今まで生きていたのに。
こんな短時間で……いや、短時間なんてもんじゃない。
一瞬だ。
たった一瞬で、
「も、燃やされたのか……?」
人が、ただの炭になるなんて。
水蝹さんが恐る恐る近づいて、固まっている黒い手首のところの煤を指でこすった。
そこから罅の入った腕時計の文字盤が顔を出す。
「こ、これ、さっき三笑さんが着けてたやつだ……」
と、水蝹さんが息を飲んだ。
(ほ、本当に、一瞬にして焼き殺されたのか……!?)
「い、いやよ、そんな、嘘よ……」
犴田さんが頭を抱えるようにして蹲る。
飛倉さんは吐きそうなのか、その口元を手の筋が浮くほどの力で押さえつけていた。
「ふふ、今日の断罪は終了ですね。」
そんな中、不気味なほど軽い古里の声色が部屋に響いた。
「皆さん。明日にお控えください。」
その言葉と、不気味な古里の笑みを最後に、俺の意識は暗転した。
**あとがき**
第9回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリーしております!
もし「面白い」「続きが気になる」と思って頂けましたら投票して下さると嬉しいです!
空気の重さに対して、古里の声色はどこまでも軽かった。
「る、ルールって何よ。」
「ルールはルールですよ。犯人をあぶり出すのにただ話し合いをしろ、じゃあお互い自分は違うって主張しあって話が進まないじゃないですか。」
吊り目の女性が訝しげに問うた言葉に古里は淡々と答える。
「昼は話し合いをして、夕方に誰が犯人だと思うか投票しましょう!投票数が多い人から死んでもらえば、割と早めに犯人が分かる気がするんですよね!」
「は……?」
それはつまり、本当に人が死ぬ『人狼ゲーム』ってことか?
いいアイディアだ、と言わんばかりに両手を合わせニコニコと口角を上げている古里が、どうにも不気味で。
「お、お前……これゲームのつもりか……?そんな奴じゃなかっただろ……?」
ルール、という言葉もそうだが、恐らく古里は本当にこれをゲームとして提案している。いや、彼の中では決定事項なので、提案ではなく提示なのかもしれない。
でも、それが中学時代の記憶にある穏やかで真面目な古里の姿と結びつかず、俺はつい、そんな言葉を口にしていた。
それに古里の瞳から光が消え、どこまでも黒い瞳がこちらを向いた。
「変わってしまったのは、君も同じじゃないか。」
まるで射貫くような、責めるような視線が、俺を見る。
「そう……だな……」
その目に耐えきれなくて、俺は古里から目を逸らし、視線を畳に落とした。
そうだ。俺だって、俺だって中学生のあの時とはすっかり変わってしまった。
変わってしまったんだ。
「さ、今は話し合いの時間ですよ。空が赤らんだら投票です。」
パンパン、と軽く打たれた古里の手のひら。
それが話し合いの開始合図とわかっても、俺たちはお互いの顔を見やるばかりで、なかなか口を開かない。
だってそうだろう。下手を打てば自分に投票される可能性もある。
それに何を話せばいいのかもわからない。
俺たちのそんな様子に「あれま。」と古里は小首を傾げて、少し考えるように視線を彷徨わせた。
そして「そうだ!」と、その手にポン、と自身の拳を置いた。
「皆さん、ボクは知っていてもお互いは知らないんでしょう?自己紹介とかどうです?名前、年齢、職業。ボクとの関係とか。」
そう言われて、確かに俺はここにいる人たちの事誰一人わからないな、と周りを見る。
「……俺は後野 眼白。25歳会社員……一応、古里とは中学の同級生です。」
気まずさはあった。
でもこのまま黙っていても何も進まない、と勇気を振り絞って口火を切ったのだ。
それに自己紹介からいきなり投票される疑いは発生しないだろう。多分。いやそうであってほしい。
さすがに自己紹介したからって理由で投票されたらもうどうしようもない。
「僕は水蝹 照魔。27歳、アパレル店員。」
俺に続いて口を開いたのは歳が近そうな青年だった。
「古里とは小学生のころスイミングスクールが一緒だったよ。」
と告げた彼は、クールで涼やかな目元と反して声が柔らかく、古里に「目的は?」と問い詰めていた時のような鋭さはなかった。
(でもどこかで見たことあるような……)
似ている芸能人でも見たことがあるのだろうか。
こんなイケメン知り合うきっかけもないしな、と何となく感じる既視感を「気のせい。」と頭の隅に追いやった。
「アタシは川獺 羅矢。今年25。看護師やってる。」
次は吊り目の女性。
気の強さをそのままに、フンッと鼻を鳴らして腕を組む彼女がまさか同い年とは思わず、ついまじまじ見てしまうと「何見てんのよ。」と睨まれた。
(そういえば、さっき古里を見て出血量がどうのって言ってたよな……)
看護師、という職業を考えると彼女の言うことが正しい可能性が高い。
そんな彼女があの出血量で動いているのはおかしい、と言うのなら
(……本当に、殺されたのか……古里は……)
別に特別仲良かったわけじゃない。
それでも、知っている人が死ぬというのは
(……やっぱり、いい気分じゃないな……)
「古里君とは高校生のころバイト先が同じだったくらいしか関わりないわ。」
(そうだ、今は自己紹介の時間だった……)
川獺さんの声に思考の沼から意識が浮上する。
感傷に浸るのも、後悔するのも後だ。
今はとにかく、ここから生きて帰る事を目指さないと。
「わ、わ、わたし犴田 野狐です……その、21歳で、大学生です……」
次に口を開いたのは小柄で控えめな女性だった。
(てっきり十代かと思った……)
黒く長い前髪と分厚い眼鏡でその顔はほとんど見えない。
「こ、古里先輩とは、昔塾が一緒でした……」で、でも、学年違うし全然関わりなくて……」
そう言って引き結んだ口元だけが、唯一表情がわかる場所だった。
「はぁー。俺は三笑 輾。58になる。会社員で古里さん家の近所のもんだよ。」
そう言って眉間の皺を更に深くした三笑さん。胡坐でどっかり座ったまま、その膝は不機嫌さや不安を誤魔化すように小刻みに揺れている。
「私は飛倉 猯。57歳、教員……小学校の時に古里君のクラスの担任だったわ。」
最後に口を開いた飛倉さんは、ちらりと古里の方へ視線を動かし、すぐさま自身の膝へとその視線を落とした。
小さく「どうしてこんなことに……」と呟き落とされた声は、全員の気持ちを吐露するものだった。
(されにしても、関わりが浅い人しかいないな……)
自分も含め、誰も特別古里と仲が良かった人はいない。
「犯人を探すなら、もっと仲のいい人がいてもいいはずなのに……」
無意識に俺の口からこぼれた言葉に「おい、兄ちゃん!まさか本気で信じてるのか!?」と、三笑さんが苛立ちを携えたまま言葉を投げてきた。
「確かに俺は古里さん家の息子の香典だって出したさ!でもな、死んだ奴が口なんか聞けるもんか!投票だゲームだの、とんでもねぇ悪戯だ!」
と唾を飛ばして騒ぐ三笑さんに
「でもさっきは随分及び腰でしたけど?僕の後ろで吠えていたじゃないですか。」
水蝹さんが三笑さんにそういうと「俺は血がダメなんだよ!」と水蝹さんに向かって更に言葉を荒げた。
「そうやって喚き散らすあたり、アンタが犯人だったりして。」
「はぁ!?なんだとこの小娘が!!」
「ちょ、落ち着いてください!!」
畳から立ち上がって川獺さんに掴みかかろうとする三笑さんの前に入り、川獺さんを隠すようにして「悪戯だったとしても、落ち着かなければ古里の思う壺なのだは?」と小声で窘めれば「ケッ。」と音を吐いて荒らしくその場に胡坐をかいた。
「悪戯じゃぁないんですけどねぇ?大丈夫ですか?投票はもうすぐですよ?」
そう古里が口を挟むと、場の空気が固まった。
障子が閉め切られているので外の時間は分からない。しかし先ほどよりも部屋が暗くなっていている気がする。
時計もなく時間が分からないのが痛手だ。
じわりじわりと追い詰められている気がする。
そんな時だった。
「ふざけるな!!」
と、三笑さんが勢い良く立ち上がった。
そしてずんずん歩いていき、障子を勢いよく開けた。
「え、開くの!?」
思わず声を上げてしまった。
てっきり閉じ込められている以上、開かないとばかりに思い込んでいた。
しかし、そんな俺の声を無視して、古里は
「よろしいのですか?この部屋から出た時点で、投票を放棄したとみなしますよ。」
そう、どこか冷たい視線で、三笑さんに問を投げた。
そんな古里の言葉に三笑さんは馬鹿にするように鼻で笑って
「ああ、構わないね!こんなふざけたことに付き合ってられるか!」
と、言葉を吐き捨てた。
「あの世だこの世だその手のオカルトは信じちゃいないんでね!」
そう言い捨てて勢いよく障子を閉めた。
「あーあ。」
なんて古里がどこか嘲笑を含んだ声で声を落とした。
それに何か薄気味悪さを感じた時、
「え、で、出れるならアタシも……!」
と川獺さんがその場から腰を浮かせた。
その時だった。
「ギャアァァァァァァァァァッ!!!!?」
まるで断末魔のような叫び声が聞こえってきたのは。
「な、何だ!?」
「今の三笑さんの声だ!」
慌てて障子を開けて、三笑さんの姿を探そうと廊下を覗き込むと後ろからドスンと何か重い者が落ちて来る音が響いた。
障子の向こう、廊下側へと向いていた全員の視線が、恐る恐る、部屋の中へと戻される。
「キャアアアアア!!」
と、真っ先に叫んだのは川獺さんだった。
そこに、部屋に落ちてきたのは、黒い塊だった。
人の形をした、黒い塊。
「え……?」
意味が分からず、その場にストンと座り込んでしまう。
足に、上手く力が入らない。
だって、今。本当に今まで生きていたのに。
こんな短時間で……いや、短時間なんてもんじゃない。
一瞬だ。
たった一瞬で、
「も、燃やされたのか……?」
人が、ただの炭になるなんて。
水蝹さんが恐る恐る近づいて、固まっている黒い手首のところの煤を指でこすった。
そこから罅の入った腕時計の文字盤が顔を出す。
「こ、これ、さっき三笑さんが着けてたやつだ……」
と、水蝹さんが息を飲んだ。
(ほ、本当に、一瞬にして焼き殺されたのか……!?)
「い、いやよ、そんな、嘘よ……」
犴田さんが頭を抱えるようにして蹲る。
飛倉さんは吐きそうなのか、その口元を手の筋が浮くほどの力で押さえつけていた。
「ふふ、今日の断罪は終了ですね。」
そんな中、不気味なほど軽い古里の声色が部屋に響いた。
「皆さん。明日にお控えください。」
その言葉と、不気味な古里の笑みを最後に、俺の意識は暗転した。
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