犯人探し

奏穏朔良

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三日目

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また今日も気づけば古里こざとの居る和室にいた。

昨日のことなど何もなかったかのように、和室には血の跡一つ残っていない。

「まだ続くのぉ……?」

と、すっかり弱り切った川獺かわそさんは嫌、もう帰りたい、と迷子になった幼い子供のように繰り返している。
その横で慰めるように背を撫で続ける飛倉とびくらさん。
声をかけるわけではなくただ手を動かしているがその顔色が良くない。

それもそうだろう。相変わらず控えのような部屋にはいつの間にか食事が置いてあるけれど怪しすぎて食べれないし、この環境下でのストレスは計り知れない。

全員、精神的に余裕がない。

(まだ、俺と水蝹みおうさんは食べ物があっただけ余裕があるけれど……)

それだっていつ尽きるかわからない。

このゲームがいつ終わるのかもわからない。

次死ぬのは自分かもしれない。

(死って、隣にあるだけでこんなに恐ろしいんだ……)

「さあ、今日こそはちゃんと投票しましょうね!」

なんて古里の軽々しい声とセリフが恨めしく聞こえる。
俺は、いや、俺以外にも古里を殺していない人は巻き込まれただけの被害者だ。

(……もう残るのは四人だけ。)

本当にこの中に古里を殺した犯人がいるのだろうか?

もしかしたら集められた人たちの中に犯人なんていないかもしれない。

(そもそも何の基準でこの人選なんだ……?)

これは初日にも抱いた疑問だ。
日本の殺人事件は大半が顔見知りの犯行、それも友人や家族が多いと聞く。

それなのに知人程度……しかもここ数年、下手したら十年関わりのない者を集めた理由は何だろう?

「古里の人選が分からないよね。」

と、水蝹さんも同じ疑問を口にした。

「そうなんですよ……犯人を探しているならもっと親しい関係の人間だって集められていいはずなのに……」

そう俺も言葉を零すと「だよね。」と水蝹さんが二度ほど頷く。

「誰かここ最近の古里三の交友関係を知っている人は?」

水蝹さんの問に俺は首を横に振る。ここ最近どころか中学のころの交友関係もあまりわからない。

「私も、卒業後は全然会っていなかったから……」

飛倉さんも困ったように首を振る。

「アタシはバイト先でしか関わりなかったし……雑談するほど仲良くなかったし……」

と、川獺さんは蹲ったままモゴモゴとそう話す。
しかし直後「あ。」と小さく声を上げた。

「人伝に聞いた話だから、詳しくは知らないけど……確か、古里君がふさぎ込んでるらしいって話をどこかで聞いたような……」

解決の糸口になるかもしれない新しい情報に「い、いつ頃の話!?」と身を乗り出す。
川獺さんは記憶を探す様にこめかみを指でぐりぐり押している。

「確か……看護の専門卒業して……えぇーとその後だから、三年前の六月、くらい?だったかな……」

三年前の、六月。

脳裏に彼女・・の姿がよぎって慌てて頭を振ってその残像を追い出そうとする。

偶々だ。偶然だ。きっと、そう。そうのはず。

(……本当に?)

本当に偶然か?もしかして古里は彼女と何か関係があったんじゃ……

「そうなると、少なくとも三年前はまだ、古里は生きていたってことだよね。」

水蝹さんの言葉で思考の沼から意識が現実へと引きずり戻される。
そうだ、今は俺のことなんてどうでもいい。

とにかく、古里の真実を暴かないと―—……

「……確かに、古里っていつ殺されたんだろ?」

初日から人の死や訳の分からないこの状況に思考が回っていなかったけれど、古里を殺した犯人を暴くのなら、まずは古里が殺された時の事を解き明かさなければ話にならないじゃないか。

「死因は撲殺、ですよね……?本人も後ろから殴られたって言ってましたし……」
「そうだね。問題はいつ殺されただけれど……」

水蝹さんが言葉を切って古里の方へと視線を向ける。
古里はその視線に、目を弓なりにしならせて

「覚えてません。それはそちらが調べてください。」

と言い放った。え!?と俺から驚きが飛び出ると同時に「スマホもないのにどうやって調べるのよ!」と川獺さんが喚く。
まさかの殺された日を覚えていないなんて。
これじゃあ真相を突き止めようにも情報がなさすぎる。

(……というか、これ、古里は犯人探す気あるのか?)

提示するのは事件の情報ではなくこのゲームのルールだけ。
正直犯人が三笑さんか犴田さんのどちらかなら俺たちだけで犯人捜しをしても意味がない。

「……もしかしてですけど、古里の目的って何か別の事なんじゃないですか?」

そう、声を潜め、こそりと呟くと、「僕もそう思う。」と同じくひそめた声で水蝹さんが頷いた。

「ど、どういう事?」

飛倉さんも声を潜め、顔を寄せる。
川獺さんが古里にギャンギャン吠えるようにして文句を投げつけている間に、俺たちは古里に聞こえないように注意しながら更に声を潜めた。
何か話していることは古里にバレているだろうが、とりあえず内容は聞こえないほうがいい気がする。

「正直言えば、何か確信があってこのメンバーを集めたのならさ、まとめて一気に殺せばいいじゃん?」

そう告げた水蝹さんの疑問は初日にも触れていたものだ。
飛倉さんはそれに「確かに……」と目を丸くする。

「仮に条件があるにしても閉じ込めて順番に殺せばいい。なのにわざわざ話し合いと投票にこだわるってことはさ、他に何か目的があるんじゃない?」

「それに、本当に犯人を見つけたいなら三笑さんや犴田さんを殺した時点でおかしいです。二人のどちらかが犯人なら俺たちだけで話し合っても意味がないですし。」

水蝹さんの言葉に続いて俺も先ほどの考察を述べれば、「そうなると一体何が目的なのかしら……」と飛倉さんは自身の頬に手を添えた。

するとそんな飛倉さんの隣に「何こそこそ話してんのよ!」と川獺さんがドカリと荒々しく座った。

「ん-っと、他にも目的あるかもねって話。」

と、水蝹さんが川獺さんに耳打ちすると、川獺さんは怪訝そうに眉を寄せ「他にぃ?」と訝しげな声を上げる。

「そ。例えば、」

水蝹さんは口元に人差し指をたて、その口角を上げた。

「それぞれの隠し事を暴露させたい、とか?」

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