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二日目(弐)
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「……え、あの、わたしは、別に……」
犴田さんは酷くどもり、組んだ手をせわしなく入れ替える。
その様子は何かある、と言っているようなものだった。
「あ、あんたが殺したのね!?」
そう川獺さんに指を刺され、犴田さんは慌てて「ち、違います!」と今までで一番大きい声を張り上げた。
「た、確かに、わたしは古里先輩を見ていたけれど、本当に見ていただけで、殺してなんかいません!」
「どうだか!あんたが一番怪しいじゃない!」
ハンッと見下すように鼻で笑った川獺さんに、犴田さんが「違うってば!見てただけなの!」と更に声を荒げる。
その様子にふと水蝹さんが
「見ていたって、もしかして好きだったとか?」
と、犴田さんに問うた。すると何故か犴田さんの顔色がさらに悪くなる。
それにあれ?と思っていると水蝹さんも何か感じ取ったのか
「……もしかしてストーカー?」
そう訝しげに犴田さんを見た。
そんな水蝹さんの言葉に「ち、違うもん!」と敬語の無くなったどこか幼い言葉が返される。
「別に好きな人の事知りたかっただけだもん!ストーカーじゃないもん!」
と、更に言葉を重ねる犴田さんに「怪しすぎるじゃない!絶対ストーカーしてたのよ!」と川獺さんが立ち上がり
「それで振り向いてもらえなくて殺したんじゃないの!?」
そう更に言葉を投げつける。それにとうとう犴田さんも眉をつり上げて
「違うってば!それを言うなら高校生の時に関わりあった貴女の方が可能性高いじゃない!」
と噛みつくようにして言い返す。
最早飛倉さんの「落ち着きましょう!?ね!?」という声も届かず、二人で「認めなさいよ!」「あんたこそ!」とつかみ合いの喧嘩にまで発展してしまった。
俺も何とか二人を引き離そうとするも、周り関係なく暴れる二人をうまく抑え込むことが出来ず、頬に引っかき傷が出来てしまった。
「ちょっと、水蝹さんも手伝ってくださいよ~!」
と、何やら考え込んでいる水蝹さんに情けない声を投げると「思ったんだけど、」と不意に水蝹さんが口火を切った。
「そもそも、昨日亡くなった三笑さんが犯人の可能性もあるよね?」
その言葉に掴みあっていた二人の動きが止まる。
「た、確かに、三笑さんは古里が亡くなった日を知っていた!香典出したって言ってましたし!」
昨日、確かに三笑さんは「香典を出したさ!」「死んだやつが口なんかきけるもんか!」と言っていた。
ということはこの中で唯一、確実に古里が死んだ事実を認識していた人物だ。
「それに投票には……」
死んだ人を書いてはいけないと言っていなかった、と続けて言おうとした言葉は
「ではそれぞれ紙に名前を書いて後ろの投票箱に入れてください。」
古里の鳴らした柏手とこの言葉にかき消された。
「紙なんてどこに……」
と、呟いたところで上からひらひらと五枚、白い紙が降ってきた。
どうやらこれが投票用紙らしい。気づけば畳の上には鉛筆が五本置かれていた。
一枚の紙をつかみ取り、部屋の後方へと振り返ってみると、見覚えのない木箱が鎮座している。
あれが投票箱なのだろう。
もはや色々ありすぎてさっきまで無かったものが突然湧いても驚かなくなってきた。
そのまま投票箱から前へと視線を戻す最中、自然を装って水蝹さんの方を見やると目が合った水蝹さんが小さく頷く。
それに俺も頷き返し、紙に『みわら めぐる』と書いた。
全員が書き終わり、それぞれ投票箱に入れていく。
そして最後の犴田さんが入れ終わった所で、
「では、開票しましょうか。いやぁ、今日はちゃんと投票が出来てよかったです。」
と古里が笑った。
てっきり投票箱を取りに来るのかと思えば、古里は後ろからよいしょ、と投票箱を取り出すではないか!
「え!?今、後ろに……」
と後ろを振り返れば先ほどまであった投票箱が消えていた。
(なんか……もう何でもありだな……)
不可解な現象にはもう慣れたかと思っていたのに、そう俺が勝手に思い込んでいただけらしい。
「さてさて、開票結果は……」
と、小箱の蓋を開け、中の紙を一枚ずつ取り出し、古里はその笑みを深めた。
それがやけに不気味に見えて背中がぞわりと粟立つ。俺と水蝹さんの二人で少なくとも三笑さんに二票はいるはず……犴田さんは自分には入れないだろうし、川獺さんと飛倉さんの票が分かれてくれれば、今日誰かが死ぬようなことにはならないはず。
それなのに、どうして嫌な予感が止まらないのだろう。
「結果は、」
古里の声がやけに響いて聞こえた。
「三笑 輾二票、犴田 野狐一票。川獺 羅矢一票。以上。」
「……あれ?」
古里の読み上げた結果に、思わず間抜けた声が口からこぼれた。
「一票、足りない……?」
そう、古里が読み上げた結果では投票数は四枚。紙は五枚確認していたし、全員確かに投票箱に入れていた。
つまり
(誰かは名前を書かなかった……?)
名前を書かなければいけないもの、と思い込んでいたが、そうだ名前を書かないという手段もあったんだ!と思っていると古里の目がスッと細められた。
「犴田さん、白紙で出しましたね?」
「……ぇ……」
なんで、と犴田さんの唇が小さく震える。顔色はすっかり血の気が引き、青を通り越して紙のようだった。
その反応で、本当に犴田さんが白票を投じたのだとわかる。
しかしそれに対する古里の反応で、よくない行為であった、と言う事もわかってしまった。
「いけませんよ、白紙は。あなたはこの投票を放棄した、と言う事ですね?」
「え、いや、ほ、放棄だなんて、そんな……」
(放棄……そういえば三笑さんの時も……!)
古里は三笑さんに「投票を放棄したとみなしますよ?」と問いかけていた。
そして放棄を認めた三笑さんはその後殺された。
ということは
「本日の断罪は貴女です。犴田 野狐さん。」
古里の宣告に、「い、いや……」犴田さんが小さく首を振る。
「と、投票をやり直しませんか!彼女には投票の意思があった!放棄にはならないんじゃ……」
このままでは犴田さんが殺されてしまう、となんとか古里に説得を試みようとするも、古里が何か言う前に
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ま、まって犴田さん!」
犴田さんが、畳に手を突きながら部屋から逃げようと障子に向かって走り出した。
(このまま外に出たら三笑さんみたいに……!)
犴田さんを止めるためにその背に手を伸ばした、その時
「はい、さようなら。」
という軽い古里の声とパチンと指が鳴る音が響いた瞬間。
「……え、」
目の前で、犴田さんの首から血が噴き出した。
むせかえるほどの濃い鉄の匂いと共に、障子が噴き出した血で赤く染まる。
「キャアアアアァァァ!!?」
川獺さんの悲鳴が響く中、力を失った犴田さんの身体が重力に伴って崩れ落ちる。
最後まで伸ばされていた手は、障子にわずかに届かなかった。
「そんな、なんで……」
と、呆然と犴田さんの血だまりに伏す姿に問いかけても、答えなんて返ってこない。
古里はただ、変わらぬ声色で
「では皆さん。また明日。」
と告げ、昨日と同じ様に意識は暗転した。
ああ、嫌だな。
血の匂いは一等嫌いなのに。
鼻の奥にこびり付いて取れそうにない。
犴田さんは酷くどもり、組んだ手をせわしなく入れ替える。
その様子は何かある、と言っているようなものだった。
「あ、あんたが殺したのね!?」
そう川獺さんに指を刺され、犴田さんは慌てて「ち、違います!」と今までで一番大きい声を張り上げた。
「た、確かに、わたしは古里先輩を見ていたけれど、本当に見ていただけで、殺してなんかいません!」
「どうだか!あんたが一番怪しいじゃない!」
ハンッと見下すように鼻で笑った川獺さんに、犴田さんが「違うってば!見てただけなの!」と更に声を荒げる。
その様子にふと水蝹さんが
「見ていたって、もしかして好きだったとか?」
と、犴田さんに問うた。すると何故か犴田さんの顔色がさらに悪くなる。
それにあれ?と思っていると水蝹さんも何か感じ取ったのか
「……もしかしてストーカー?」
そう訝しげに犴田さんを見た。
そんな水蝹さんの言葉に「ち、違うもん!」と敬語の無くなったどこか幼い言葉が返される。
「別に好きな人の事知りたかっただけだもん!ストーカーじゃないもん!」
と、更に言葉を重ねる犴田さんに「怪しすぎるじゃない!絶対ストーカーしてたのよ!」と川獺さんが立ち上がり
「それで振り向いてもらえなくて殺したんじゃないの!?」
そう更に言葉を投げつける。それにとうとう犴田さんも眉をつり上げて
「違うってば!それを言うなら高校生の時に関わりあった貴女の方が可能性高いじゃない!」
と噛みつくようにして言い返す。
最早飛倉さんの「落ち着きましょう!?ね!?」という声も届かず、二人で「認めなさいよ!」「あんたこそ!」とつかみ合いの喧嘩にまで発展してしまった。
俺も何とか二人を引き離そうとするも、周り関係なく暴れる二人をうまく抑え込むことが出来ず、頬に引っかき傷が出来てしまった。
「ちょっと、水蝹さんも手伝ってくださいよ~!」
と、何やら考え込んでいる水蝹さんに情けない声を投げると「思ったんだけど、」と不意に水蝹さんが口火を切った。
「そもそも、昨日亡くなった三笑さんが犯人の可能性もあるよね?」
その言葉に掴みあっていた二人の動きが止まる。
「た、確かに、三笑さんは古里が亡くなった日を知っていた!香典出したって言ってましたし!」
昨日、確かに三笑さんは「香典を出したさ!」「死んだやつが口なんかきけるもんか!」と言っていた。
ということはこの中で唯一、確実に古里が死んだ事実を認識していた人物だ。
「それに投票には……」
死んだ人を書いてはいけないと言っていなかった、と続けて言おうとした言葉は
「ではそれぞれ紙に名前を書いて後ろの投票箱に入れてください。」
古里の鳴らした柏手とこの言葉にかき消された。
「紙なんてどこに……」
と、呟いたところで上からひらひらと五枚、白い紙が降ってきた。
どうやらこれが投票用紙らしい。気づけば畳の上には鉛筆が五本置かれていた。
一枚の紙をつかみ取り、部屋の後方へと振り返ってみると、見覚えのない木箱が鎮座している。
あれが投票箱なのだろう。
もはや色々ありすぎてさっきまで無かったものが突然湧いても驚かなくなってきた。
そのまま投票箱から前へと視線を戻す最中、自然を装って水蝹さんの方を見やると目が合った水蝹さんが小さく頷く。
それに俺も頷き返し、紙に『みわら めぐる』と書いた。
全員が書き終わり、それぞれ投票箱に入れていく。
そして最後の犴田さんが入れ終わった所で、
「では、開票しましょうか。いやぁ、今日はちゃんと投票が出来てよかったです。」
と古里が笑った。
てっきり投票箱を取りに来るのかと思えば、古里は後ろからよいしょ、と投票箱を取り出すではないか!
「え!?今、後ろに……」
と後ろを振り返れば先ほどまであった投票箱が消えていた。
(なんか……もう何でもありだな……)
不可解な現象にはもう慣れたかと思っていたのに、そう俺が勝手に思い込んでいただけらしい。
「さてさて、開票結果は……」
と、小箱の蓋を開け、中の紙を一枚ずつ取り出し、古里はその笑みを深めた。
それがやけに不気味に見えて背中がぞわりと粟立つ。俺と水蝹さんの二人で少なくとも三笑さんに二票はいるはず……犴田さんは自分には入れないだろうし、川獺さんと飛倉さんの票が分かれてくれれば、今日誰かが死ぬようなことにはならないはず。
それなのに、どうして嫌な予感が止まらないのだろう。
「結果は、」
古里の声がやけに響いて聞こえた。
「三笑 輾二票、犴田 野狐一票。川獺 羅矢一票。以上。」
「……あれ?」
古里の読み上げた結果に、思わず間抜けた声が口からこぼれた。
「一票、足りない……?」
そう、古里が読み上げた結果では投票数は四枚。紙は五枚確認していたし、全員確かに投票箱に入れていた。
つまり
(誰かは名前を書かなかった……?)
名前を書かなければいけないもの、と思い込んでいたが、そうだ名前を書かないという手段もあったんだ!と思っていると古里の目がスッと細められた。
「犴田さん、白紙で出しましたね?」
「……ぇ……」
なんで、と犴田さんの唇が小さく震える。顔色はすっかり血の気が引き、青を通り越して紙のようだった。
その反応で、本当に犴田さんが白票を投じたのだとわかる。
しかしそれに対する古里の反応で、よくない行為であった、と言う事もわかってしまった。
「いけませんよ、白紙は。あなたはこの投票を放棄した、と言う事ですね?」
「え、いや、ほ、放棄だなんて、そんな……」
(放棄……そういえば三笑さんの時も……!)
古里は三笑さんに「投票を放棄したとみなしますよ?」と問いかけていた。
そして放棄を認めた三笑さんはその後殺された。
ということは
「本日の断罪は貴女です。犴田 野狐さん。」
古里の宣告に、「い、いや……」犴田さんが小さく首を振る。
「と、投票をやり直しませんか!彼女には投票の意思があった!放棄にはならないんじゃ……」
このままでは犴田さんが殺されてしまう、となんとか古里に説得を試みようとするも、古里が何か言う前に
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ま、まって犴田さん!」
犴田さんが、畳に手を突きながら部屋から逃げようと障子に向かって走り出した。
(このまま外に出たら三笑さんみたいに……!)
犴田さんを止めるためにその背に手を伸ばした、その時
「はい、さようなら。」
という軽い古里の声とパチンと指が鳴る音が響いた瞬間。
「……え、」
目の前で、犴田さんの首から血が噴き出した。
むせかえるほどの濃い鉄の匂いと共に、障子が噴き出した血で赤く染まる。
「キャアアアアァァァ!!?」
川獺さんの悲鳴が響く中、力を失った犴田さんの身体が重力に伴って崩れ落ちる。
最後まで伸ばされていた手は、障子にわずかに届かなかった。
「そんな、なんで……」
と、呆然と犴田さんの血だまりに伏す姿に問いかけても、答えなんて返ってこない。
古里はただ、変わらぬ声色で
「では皆さん。また明日。」
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