錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

文字の大きさ
7 / 19

7

しおりを挟む
「出血は派手ですが、傷自体は浅そうですね。そういえば額に近い部分って浅くとも出血しやすいんでしたっけ。そのあたりの人体構造は獣人でも変わらないんですねぇ。内臓に位置も種族差はないんでしょうか?それにしてもあんなに硬そうなもので殴られてこの程度の傷とは……やはり耐久値自体が高いんですねぇ。これなら低級ポーションでも治りますかね?でもなぁ、脳みその状態までは診断できないしなぁ……でも低級ポーションの効き方見てみたいし……」

止まらない止まらない。言葉も好奇心も欲望も止まらない。早口フルスロットルに捲し立てられる言葉たちに頭を掴まれたまま大混乱真っただ中のネプト。

しかも誰しもが必ず持つ体臭がナタから全くしないことで、ネプトは余計に困惑していた。

まあ、こいつの体はアバターだから匂いなんてするわけがない。獣人で鼻がいい故の弊害。深まっちゃうね神疑惑。

「あ、あの、御子様……?」

「とりあえず低級ポーションあげますね。飲んでください。今すぐ。」

犬耳ローブの男の言葉など耳に入らないナタは「ほら早く。」とアイテムボックスから取り出した低級ポーションをネプトの顔に押し付ける。

それに犬耳ローブの男は息を飲んだ。そう、アイテムボックスから出した、と言う事はナタ以外の者たちからすれば突然手のひらに低級ポーションが現れたように見える。下手したらその手のひらでポーションを錬成したように見えるのだ。

まさに神の御業。
ゲームシステム故そういうものだ、と思い込んでいるナタは気づいていないが。

「うぅん……この神、押しが物理的に強いぞぉ……」
「神じゃないです。ほら早く。」

頬にガラス瓶がめり込む勢いで押し付けられているネプトの言葉にナタがそう言ったところで誰も信じるわけがない。
何ならナタは実際にポーションで傷が治る様を観察したくてたまらないだけなので、そんな周りの様子などちっとも気にとめていない。そういう所だぞ。

「……わかりました。御子の温情、ありがたく頂戴します。」
「ネプト様!」

ローブ男が「第十三王子が下賜されていいものじゃないだろ!」と言わんばかりに声を荒げるが、それは効能が早く見たいナタのひと睨みにより、その身を竦めあがらせるに終わった。

そして、ネプトは意を決してポーションを受け取り、グイッと勢いよく中身を口内に流し入れた。

淡い光に包まれたかと思えば、あっという間に痛みも傷も消えたそれに、ネプトは目を丸くする。本来ならば、低級の回復ポーションはもっと治るのに時間がかかるし、治る際にも傷口にかゆみを伴った痛みが走る。
しかし、ナタが渡したポーションは、全く痛みを感じず完治してしまった。

傷口を間近で観察していたナタは驚いているネプト達など目に入らず、

(うん、演出も傷の治る速さもゲームと変わらないな。やっぱりこの程度のケガなら低級で事足りるな……でも、同じ浅い傷でも数が多ければこんなにきれいには治らないか?まだ検証が必要だな。脳の状態が分からないのもあるし……)

と、頭の中であれこれ考えを巡らせていた。

本当にこいつ錬金術のことしか興味がない。少しは周りを見た方がいい。

(やっぱりもっと多くの被検体が欲しいな……)

挙句には王子を被検体呼ばわりし始めた。失礼にもほどがある。

「……あ、あのぁ、ナタ様……?」

「……ああ、もう治ったのでいいですよ。」

パッと手を離したナタに、ネプトは「お、温情の程、ありがとうございました……」と消え入りそうな声で言葉を紡ぐ。しかもその顔は真っ赤に染まり、わずかに目はうるんでいた。

(血流良くなったのか?怪我が治るメカニズムを解析するのも面白そうだな……)

違う、そうじゃない。

ここでひとつ、ナタの容姿に触れておこう。

ナタは自覚がないが、ナタの容姿はとても整っている。それはそうだ。だってゲームのアバターだもん。

顔のパーツは左右均等だし、髪の毛はさらりと流れ、輝いている。瞳は薄い黄色を選択しているし、髪色も白いセンター分けロングヘアをセットしているので、色合いだけでも神秘的なのだ。

ちなみに錬金術にしか興味のないナタがなぜそんな綺麗なアバターパーツを選択しているのか。
単純にレア度が一番高いパーツを選択しているだけである。

ただでさえ錬金術師アルケミストは最弱職。レア度の低いアバターのままゲームのステラート世界を歩いていると、煽られたり、妨害行為をしてくるプレイヤーもいるのだ。
そういう面倒な奴らには、装備やアバターパーツ、プロフィールでの称号、見える全てをSSRにしておくと勝手にビビる。たまにそれも気に入らなくて突っかかってくるやつもいたが、母数はグッと減ったため、ナタはそれ以降ずっとレア度の高いパーツを使っている。

つまり、そんな現実離れした美に見つめられ(※観察され)続け、美を目の前で浴び続けたネプトが無事でいられるなか、と問われれば

「……はぅ……心臓過労死しそぉ……髪の毛さらさらぁ……あ、なんかいい匂いする気がするぅ……」

まぁ、無理な話である。
ネプトの脳みそは焦げ焦げよ。お前さっき何の匂いもしないって言ってただろ。

しかしそんなことに一切気が付いていないナタは、頬を染めるネプトの熱っぽい視線も、自分たちが見下していた王子が御子の恩恵を受けたことに喚くローブ男たちのBGMも、全く、これっぽっちも頭に入らず、頭の中は

(データの比較対象がほしいなぁ……被検体をどうやって大人数確保するかが問題だな。人が多いところがいいけれど、目立つのは嫌だし、チェントロとエスト以外でどこか……)

錬金術……というか錬金術で生み出したものの治験の事しか考えていなかった。

(……あれ、そういえば北の方の国にいい感じのスラム街なかったっけ?)

確か、ノルドと言っただろうか。ゲームのステラート世界で素材集めのために立ち寄ったことがある。
一応メインストーリーでも触れられていたらしいがナタはそこまでストーリーを積極的に進めていたわけではないので詳しくは知らない。

ただ、貧困街らしく治安も悪く、警備隊の目も行き届かない、言わば無法地帯。

そして病気や怪我人がたくさんいる場所。

(……あれ?最高の場所では?)

被検体はいっぱいいる。

最悪、観察のために攫ってもバレなそう。

そして勝手にポーション飲ませても変なものを飲まされた!と司法に訴えることもできない。

つまり治験し放題!

誰か倫理観と常識を持ってきて。馬鹿が治るくらいの。

(そうだ!ノルドへ行こう!)

しかしナタがそんなことを考えているとも知らないネプト達は、急に黙りこんでしまったナタの顔色を窺うように、「御子様……?」と恐る恐る声をかけた。

それにナタは

「帰ろっと。」
「えっっっ!!!???」

全てを放置したまま、迷うことなく『マイルーム』のボタンをタップした。

そういう所だぞナタ・ディアーナ!!




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる

暁刀魚
ファンタジー
 社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。  なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。  食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。  そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」  コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。  かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。  もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。  なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。  カクヨム様にも投稿しています。

迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~

沢野 りお
ファンタジー
なんということもない普通の家族が「勇者召喚」で異世界に召喚されてしまった。 兄、橘葵二十八歳。一流商社のバリバリエリートのちメンタルに負担を受け退職後、一家の主夫として家事に精を出す独身。 姉、橘桜二十五歳。出版社に勤める美女。儚げで庇護欲をそそる美女。芸能人並みの美貌を持つオタク。あと家事が苦手で手料理は食べたら危険なレベル。 私、橘菊華二十一歳。どこにでいもいる普通の女子大生。趣味は手芸。 そして……最近、橘一家に加わった男の子、右近小次郎七歳。両親が事故に亡くなったあと、親戚をたらい回しにされ虐げられていた不憫な子。 我が家の末っ子として引き取った血の繋がらないこの子が、「勇者」らしい。 逃げました。 姉が「これはダメな勇者召喚」と断じたため、俗物丸出しのおっさん(国王)と吊り上がった細目のおばさん(王妃)の手から逃げ……られないよねぇ? お城の中で武器を持った騎士に追い詰められて万事休すの橘一家を助けたのは、この世界の神さまだった! 神さまは自分の落ち度で異世界召喚が行われたことは謝ってくれたけど、チート能力はくれなかった。ケチ。 兄には「生活魔法」が、姉には「治癒魔法」が、小次郎は「勇者」としてのチート能力が備わっているけど子どもだから鍛えないと使えない。 私には……「手芸創作」って、なにこれ? ダ神さまにもわからない能力をもらい、安住の地を求めて異世界を旅することになった橘一家。 兄の料理の腕におばさん軍団から優しくしてもらったり、姉の外見でおっさんたちから優遇してもらったり、小次郎がうっかりワイバーン討伐しちゃったり。 え? 私の「手芸創作」ってそんなことができちゃうの? そんな橘一家のドタバタ異世界道中記です。 ※更新は不定期です ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています ※ゆるい設定でなんちゃって世界観で書いております。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...