錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

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さて、実は前話でナタはやらかした。

いや、今のところやらかしてしかいないのだが、更にやべーやらかしをしてしまったのだ。

ナタはソールから逃げるように転移した際、自分のアバターパーツを変更することなく、直でスラムの診療所に転移した。

診療所に突然現れた神秘の色合いを持つ人物に、目を見開き固まるカルロと見知らぬ青年。
そんな2人の反応に、

「アッッッ。」

ようやくナタは自分の姿を変装用の茶色いパーツに変えるのを忘れていて事に気がついたのだ。

「……キノセイ、ダヨ……!」

慌てて茶色いパーツにアバターを変更し誤魔化しを試みるも

「いや無理あんだろ!!!!」

というカルロの渾身のツッコミに「だよね!!!」とナタもヤケクソに言葉を返す。

「お、お前っ!普通の魔法使いじゃねぇのは気づいてたけど、姿形変わるのは魔法の領域超えてんだろ!!?」

せめて隠す努力しろよぉ!!と思いっきり指をさして叫ぶカルロに

「し、仕方ないじゃん!忘れてたんだよ!あと俺は魔法使いじゃなくて錬金術師アルケミスト!!」

と、ナタも負けじと言い返す。
診療所にいるのがカルロだけだったのなら、まだ何とかなっただろう。しかし、この場には見知らぬ青年もいる。

ナタは「人外扱いされて実験できなくなるのは困る!」と何とか誤魔化し方を考えようとするが、

「……ま、まさか貴方が『ナタ・ディアーナ』かい!?」

あ、こいつ俺のこと知ってやがる。
ナタの目からスンッ……と光が消えた。

しかし思っていることは「やべぇ……せっかくの理想の実験場を確保したのに……!」という倫理観もクソもねぇ心配である。

「お願いします偉大なる御子様!どうか、どうか弟をお助け下さい!!!」

だが、ナタの心配を他所に、恐らく貴族であろう身なりのいい青年が勢いよく頭を下げる。
既に厄介事の予感がするナタは明らさまに嫌そうに顔を歪めた。

「原因不明で、あらゆるポーションも神官の浄化魔法も効かないのです!」

必死さの滲むその声。本来であれば頭など下げぬであろう身分であろうに、迷いなく彼は頭を下げた。カルロはそれに思わず息を飲んだが、

「え、なにそれ詳しく。」

ナタが反応したのは『原因不明』で『あらゆるポーションが効かない』の部分である。

なんて心躍るワード達。既存のものでダメということは症状によっては新しいレシピのポーションを試せるかもしれない。

つまり!治験が合法的に許される!!

「与えたポーションの種類は?等級は?そもそも症状は?意識レベルは?発症からどのくらい経過してる?弟の体重と年齢は?」

ぐいぐい距離を詰めて問も詰めるナタに、青年が思わずたじろぐ。
だが、意を決した様に拳を握りしめ、

「言葉でご説明するよりも診て頂いた方が早いと存じます。口では正確にお伝えできないかもしれません。」

と、ナタを真っ直ぐ見やった。
それにナタは即座に「わかった。連れてって。」と答えた。

あまりの即答ぶりに青年は「良いの……ですか……!?」と魔族特有の大きな黒目を零れんばかりにに見開く。
それに肩を竦めたのはカルロの方で

「ヒナタは患者がいりゃ行かずにいれないのさ。」

と何処か呆れたような、それでいて何処か誇らしげなような、そんな声で言葉を投げた。

言っておくがナタにとっての患者は被検体。カルロの思うような聖人君子な精神は欠片も持ち合わせていない。

だが、それを知らない貴族と思しき青年は「御子様の美しき御心に感謝いたします……!」とその頭を再度下げたのだった。


****


カルロと青年と共に馬車に乗せられ数十分。
急ぎとはいえ荒々しく揺れる馬車にナタは「転移使いてぇ……」と思いながらもその揺れに耐え凌いだ。
そして、何とかたどり着いた先は貴族にしてはこじんまりとした家だった。

とはいえ恐らく療養用の別邸だろうし、平民と比べれば大きい家だが。

ナタは馬車の揺れで痛んだ腰を擦りながら、早足の青年に案内された部屋へと足を踏み込んだ。

「これは……」

息を荒くし、苦痛に耐えるように顔を歪めベッドに眠る10代前半くらいの少年。
兄である青年と同じ黒髪はじっとりと濡れた汗で額に張り付いている。

そして特記すべきはその左半顔に刺青のように刻まれた黒い紋様。

「これ、いつから出てる?」

ナタはその模様を確認するため、少年の顔に触れ、少し右に向けさせた。

「3日前からです。3日前の夕方に、突然。」

青年の言葉にナタは「う~ん……」と唸りながら顎に指を添える。

ナタはゲームでこの症状を見たことがあった。
ただ、ゲームでは5日経ち、この『呪い』が完成したことにより暴走した魔族がラスボス……つまり討伐イベントだったのだ。

(3日前なら今日の夕方で4日目……今日中になんとかしないと……)

問題はどのレシピを試すかだ。
ゲームでは討伐対象でしかなかったため、この少年を助けるための『正解』が存在しない。

「飲ませたポーション、全部教えて。」

「中級、上級の状態異常回復ポーション。上級回復ポーション。上級解毒ポーション、聖水です。」

青年の答えにナタは再び顎に指を添えて考えを巡らせる。

基本的なレシピでは効果がないということだ。

ナタはアイテムボックスから錬金釜を取り出した。
突如現れたそれに青年は息を飲んだが、驚きをグッと飲み込み、平静を装う。

まあ、ナタは既に試したい錬金術レシピしか頭にないため、そんな青年の様子には一切気づかなかったが。

そして、ナタはステータスアップの効果が付与されている装備品を次々自らに装着していく。終いに『輝きの織物』で作ったバフ増し増しの錬金術師アルケミストローブを羽織って、錬金釜に素材をぶち込み始めた。

青年とカルロが固唾を飲んで見守る中、ナタはぶち込んだ素材を精製水と共に魔力でかき混ぜ、溶かしていく。

そしてポンっと軽く弾ける音がして

「よし、1つ目完成。」

ポーションが出来上がった。

既に瓶に入ったポーションが。

「待て待て待てェ!!!」
「え?何?早く試したいんだけど……」

カルロが思わずと言った具合に声を上げればナタは怪訝そうに眉を寄せた。

「なんっっっで既に瓶に入ってんだよ!?今の今まで並々と入った液、煮てたよな!?」

と錬金釜を指差し騒ぐカルロに

「そういう仕様だし。」

ナタはばっさりと切り捨てた。
「そういう仕様だしぃっ!!?!?」と未だに混乱しているカルロを横目に、ナタはたった今出来上がったポーションを眠っている少年の口元に近づけた。

そしてうっすらと開いたその唇の隙間からポーションを流し込む。

次の瞬間、少年の体がカッと光り、黒い紋様が後ずさるようにして引っ込んだ。
それに青年が「なんと……!」と歓喜に身を乗り出したが、すぐさま紋様が再び左半身に蔓延った。

「……これじゃあダメか。」

ナタは再び錬金釜と向かい合い、次の素材を入れ始める。

それを2回繰り返し、一時的な効果は見られても解呪に至れないまま、夕刻をすぎ、発生から4日目に突入してしまった。

(多分呪いの核は心臓……直接呪いが刻まれてるのか……?)

「……あの、怒られるかもなんだけど。」

一旦、レードルから手を離したナタが青年を見やる。
それに「何でしょうか?」と疲弊を滲ませながらも真っ直ぐ見返した青年に、

「試したいことあるんで1回殺してみてもいい?」

と、特大級の爆弾を投下した。
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