錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

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「せ、選別って……」

ソールの言葉を震えた声で繰り返したのはネプトだ。
神罰の話の後に選別だなんて嫌な予感しかしない。

とくにネプトの国、エスト国の神殿は王家と並んで腐りきっている。
下手したらノルド国東ノッテ支部の再来だ。

震えるネプトを横目に

「女神、ルーナ・ディアーナ様は1000年前神官になる者としてとある条件を課していたそうです。」

そうソールは言葉を続けた。

「条件?」

心当たりがないのか、わずかに眉を下げた西のファウナが首を傾げれば「はい。」とソールが首肯する。

「それは神官になれるのは『鑑定魔法』を使える者のみ、という条件です。」

鑑定魔法。
今やギルドの買取などを担当する、いわば商人向きと言われるスキル。

しかしそのスキルが聖職者と結びつかず、全員が曖昧な表情を向けあった。

「嘘や偽りに騙されぬ者が神官になれる。」

ソールのその言葉に、鑑定魔法を使い手によっては人すら鑑定できる事を思い出し、「なるほど……」と西のファウナにつられるようにして全員がうんうん小さく頷く。

「女神・ルーナ・ディアーナ様はそのように神託を下したのも関わらず、神託にそぐわぬ者が神殿内にいることに大変お怒りのご様子で……」

と、小さくため息をついたソールに、「少なくとも、スッドじゃそんな条件来たことねぇぞ。」と、ウェスタが顔を顰めて答えた。

ウェスタ自身はそこまで熱心な信者ではないが、それは神殿連中が嫌いなだけで女神聖教自体を嫌っているわけではない。南のスッド国でも魔獣被害が多い分、民の心の拠り所は間違いなく女神聖教なのだ。

仮に東ノッテ支部のような神罰による選別ならば、民衆の激しい混乱は避けられない。
それが暴徒化してしまえばそれこそ収拾がつかなくなってしまう。

最悪の事態の想像に、ウェスタは奥歯をギリギリ鳴らす。

「オーヴェストでも聞いたことがありません……時代の波に消えてしまったのか、もしくは神殿が意図的に隠し消したのか……」

ファウナもスッド国ほどではないが混乱は避けられないと思ったのだろう。
ウェスタと同じく苦い顔でそう述べたファウナ。

ネプトもそれに恐る恐る「エストも聞いたこと無いです……」と同意を示した。

「どこの国にも残っておらぬか……いや、神殿の内部ではどうかわからんがな。」

そう鼻で笑ったノルド国女王に、全員が気まずそうに顔を渋くする。否定したいが否定しきれないのが神殿の現状なのだ。

「しかし、女神による選別が行われるなら、混乱は必須。ソール、お前はどうするつもりだ?」

ノルド国女王の問に、ソールはスッと背筋を正し、真っ直ぐ女王を見やる。
そして

「管理者の名の元、神託の内容を公開します。」

そう、宣言した。ソールが更に

「皆さまには同時に神託が下りた、と発表してほしいのです。」

と言葉を続けると、ノルド国女王以外の者は僅かに顔色を曇らせる。正直に言えば女王以外の者たちは決定権がないからだ。
しかしノルド国女王の前でこう宣言されたのに自分のところだけやりませんでした、なんて言ったらノルド国女王を敵に回すことになる。
それは国の事を考えれば誰でも避けたい話であった。

それを分かっているからこそ、ソールはなおも話を続けていく。

「そしてナタ・ディアーナという御子様の存在を神殿に周知させてください。無礼を働いた東ノッテ支部の末路と共に。」

「まあ、仕方あるまいな。あの惨状をもう一度生み出すよりはマシであろう。皆もいいな?」

更にはそう女王に念押しされてしまえば、もう頷かないわけにはいかなかった。



会議が終わり、ソールとノルド国女王、ノックス・テネーブル以外は自国に急いで帰ったため、管理者の会議室はすっかり静かになってしまった。

そんな中、ノルド国女王の小さな笑い声が響き始める。

「ふふふ、これでよかったのかな?ソールの小僧よ。」

先ほどまでの凍てつくような笑みではなく、どこか悪戯が成功した子供のように笑う女王に

「ええ、お疲れさまでしたノックス・テネーブル女王陛下。」

と、同じく悪戯っ子のように口角を持ち上げたソールが恭しく頭を下げて見せる。

そう、実は他の3ヶ国の代表が来るよりも先に、ノルド国とソールの間で会談を行っていたのだ。

ちなみにその会談時は事情説明のため、レトゥムと参加していたので、レトゥムによってもたらされるナタ様新情報(年齢。容姿の変更。女神と話すときは鈴のような声、等。)によってソールが度々悶えるので、すました顔しか知らなかったノルド国女王は「おもしれー皇子。」と認識を改めた。

ちなみにナタの年齢がもう少しで2か月になる、と聞いた時には「はわ……赤ちゃん……!もしかして僕のこれは父性ではなく母性……!?」と更にトチ狂ったことをほざいていたので「非常におもしれー皇子。」に格上げされた。格上げでいいのか?

「まさかこの私を各国のケツ叩きに使おうとはな。」

と、その時の事を思い出して再びくつくつ笑い声を零す女王に、

「話を通してくださったレトゥム様には感謝しきれませんね。」

そうソールも頷いて見せる。

そう、先に会談したのはソールの権力の弱さを女王の権威でカバーするためだ。
女神の森の管理者の権力は今や無いに等しい。そんな中、女神の神託を受けた、などと言っても信じてもらえない。

そのため今回の会議では少し策を講じたのだ。

魔族の国、ノルド国の女王であるノックス・テネーブルが出席するほどの事態に他の最高権力者が出席しなかった事。
それにノックス・テネーブルが怒りを示したこと。

そしてノックス・テネーブルの口から女神の神罰について語られること。

これにより他国は神託を疑うことはできずに対応に追われることになる。
ソール1人の説明ではこうはいかなかっただろう。

勿論この会議に出席していた者たちは各国の中でも現状を正確に理解できている者たちだ。
しかし、こうでもしないと理解できない馬鹿を身内に抱えているのもまた事実。

それはソールの生まれた国、チェントロ国も同じだ。

「全く、次の皇帝がおぬしじゃないことが悔やまれるな。」

だからこそ、女王は本心からそう言葉を零した。

「もったいなきお言葉です。この通り、私は管理者の仕事で手一杯でございますから。」

それにソールはニッコリと笑い、自分はあくまで管理者だ、と念を押す。
皇位を狙うつもりがないと理解し、女王は何も言わず肩を竦めて見せた。

そして視線を窓の外へと向け、

「……さて、我が息子ソムヌスを呪い、ソールを殺そうと刺客を放った馬鹿は、どこの国の者だろうね。」

と各国の紋章の刻まれた馬車が走り去るのを眺め、そう言葉を吐き捨てた。




**あとがき**

宣伝ですみません!
現在「犯人探し」という作品を第9回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリーしております!
私にしては珍しくふざけてないお話です。多分。

ミステリーに興味ある方はよかったら読んでみてください!

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