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しおりを挟むユーリスの部屋で、サンドラは侍女の用意してくれた紅茶にそっと口を付けた。
香りのいい紅茶の温かさに緊張がほぐれるのを感じながら、サンドラは静かに話をはじめる。
「……実は今日、悲しいことと嬉しいことがひとつずつあったのです」
エイデンの陰口を聞いてしまったこと、マチルダに出会ったこと、マチルダにお化粧をしてもらったこと──なるべく淡々と話そうとしたが、マチルダの話に関しては少し興奮気味だったかもしれない。
サンドラはいつになくはしゃぎながら言葉を続ける。
「私、エイデンに『慎ましくするように』って言われてたから、こんなにしっかりお化粧をするのは初めてで……マチルダ様のお化粧は本当に魔法みたいにすごいんです!」
「そうかそうか。それは良かったね。……それで、今サンドラはエイデンのことをどう思ってるんだ?」
ずっと静かに話を聞いていたユーリスが、にこやかにサンドラの言葉を遮った。その顔にはうっすらとした笑みが浮かんではいるが、青い瞳はいつもより冷ややかだ。
(エイデンのことをどう思っているか……)
サンドラは少し考えてから、俯き加減で答える。
「……私、正直エイデンとの結婚が怖くなっています」
「無理もない。そんな酷いことを聞かされたら、誰だって不安になる」
「でも、こんなことを理由に婚約解消なんてできないのは私もわかっています。だから私……明日から変わろうと思います」
「……どう変わるんだ?」
ユーリスの問いに、サンドラは背筋をまっすぐに伸ばして答えた。
「マチルダ様みたいな女性になります」
「……なるほど……エイデンの嫌う第二のマチルダ・ナトルを目指すのか」
「ええ、もうエイデンにとって都合の良い女でいるのはやめようと思います。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女だと見下されるのはもうごめんです」
とはいえ、サンドラは自分から婚約解消を持ちかける気はない。もちろんそうなってくれたらとは思うが、貴族の結婚に私情など二の次なのはわかっている。
それに、下手に揉めてこちらが婚約破棄の慰謝料を請求されたら、両親とユーリスに迷惑をかけてしまう。なるべくそんなことは避けたい。
結局のところ、ふたりの関係がどうなるかはエイデン次第だ。
サンドラの変わった姿を見たエイデンが『そんな女とは結婚したくない』と言い出すならそれでもいいし、逆にサンドラが自分に都合の良い女でなくなっても結婚するというなら、それでもいい。
どちらにせよ、サンドラは今までの自分でいる気はない。もうあんな風に陰で見下されるのは懲り懲りだ。
「……もしかしたら、ユーリスお義兄様たちには迷惑をかけてしまうかもしれません」
「迷惑なんてかかるわけないだろ? 俺はお前を愛してるし、お前の両親もそれは同じだ」
そう言ったユーリスは立ち上がり、サンドラの隣へと腰掛けた。青い目がサンドラを見下ろし、大きな手がサンドラの手を優しく握った。
「ユーリスお義兄様?」
「サンドラ、なにがあっても俺はお前の味方だ。お前を誰よりも愛してる。もちろん、あのエイデンなんかよりも」
「……ありがとう、ユーリスお義兄様」
頼りになる従兄弟の言葉にサンドラは頬を緩める。
そんなサンドラを見てユーリスは一瞬なにか言いたげな顔をしたが、すぐに穏やかに笑ってサンドラの髪を撫でてくれた。
(ユーリスお義兄様もこう言ってくれてるし、明日から頑張らなければ……!)
マチルダに化粧の仕方と髪のアレンジの仕方は教わったし、化粧道具もマチルダの手持ちにあった分をたくさん貸してもらった。あとは持ち前の手先の器用さを活かして自分でマチルダに似た派手な化粧をして、マチルダのような気の強い女として学校に通うだけだ。
サンドラは意気込むように、胸の前で両手の拳を握る。
(絶対に変わってみせるわ! 目指せ、マチルダ様!)
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