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第一章 一念発起

1話 食堂へ連行

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今週最後の授業は、数学だった。魔法学を取り入れたこの学校で、必修科目ほどつまらない授業は無い。待ちに待った金曜の放課後に安心して伸びをしたり、のんびりと談笑したりする生徒たちの中、オリビアはただ1人、焦ったように席を立った。今習った公式をノートにまとめる余裕すら無い。

「ねぇオリビア、そんなに限定メニューが食べたいの?心配しなくてもまだ席は空いてるわよ、きっと」

あまりの慌てぶりに、近くの席の友人・サラが彼女に声をかけた。学生食堂で週の終わりに提供される数量限定ミネストローネのセットは、早く席を取らなければ食べる事が出来ない。

しかしオリビアは、首を振った。

「いえ、そうじゃなくて、早く行かないと……来ちゃうから」

「え?誰が」

サラが疑問に思っていると、窓を外側からコンコンと叩く音が聞こえてきた。見ると、背の高い坊主頭の男が、ホウキに乗ってふわふわ浮きながら、にんまり笑ってオリビアを見つめている。

「オリビア、開けて」

オリビアは彼を見るなり、大きくため息をついた。間に合わなかった。観念した様子で窓を開ける。

「ハヤト!何で飛んで来るのよ!隣の校舎なんだから歩きなさいよっ」

「だって早く来ないと君、逃げるだろう」

ハヤトはホウキに乗ったまま窓からすいっと教室へ入り、オリビアの前で降りた。

「なんだ、あんたの彼氏じゃん。どんな悪党から逃げてるのかと思えば」

サラは呆れている所に、別の友達から呼ばれて、すたすたと教室から出ていってしまった。

「ほら、僕たちも行こうよ、食堂」

ハヤトはオリビアの右手を狙って手を伸ばした。オリビアは避けようとしたが、腕を掴まれて手繰り寄せられる。しっかりと指を絡ませて握られて、眉間にシワが寄った。おそるおそる教室内を見渡すと、やはりクラスメイトはニヤニヤと自分たちを見ていた。

「ねぇ、恥ずかしいからこの繋ぎ方は…」

「食べたらまた図書館行くんだろ?今日は何を勉強するの?」

──もう、だから1人で行きたいのに。

周囲の目など、ハヤトは全く気にしない。自分のしたいようにする彼と一緒に歩くのが毎回恥ずかしすぎて、出来るだけ1人で向かおうとするが、いつもこうして捕まってしまう。

ハヤトに手を引かれ、顔を真っ赤にしながら食堂へ続く廊下を歩く。この前のように腰に手を回されて連れられるよりはマシだ。オリビアはそう心の中でつぶやいた。



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