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Lesson.2 王子と親密になっておこう
13.庭園での二人
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庭園といっても、王宮には庭園と呼ばれる場所が複数ある。
今日はバラの庭園ではなく、程よい木陰ができるように剪定された木々が立ち並び、野の花々が植えられた広大な野原のような庭園へ向かった。
何代か前の王妃様が、自分の田舎を模して造った庭園だそうだ。
そこには大きな池もあり、天気が良ければ舟遊びも楽しめる。
今日、リーリウムがその庭園へ向かったのはほとんど勘によるものだった。
ヘンリクスがこの時間に散歩をしているのは知っていたが、どの庭園へ行くかはヘンリクスの気分によって変わるからだ。
ドレスの裾をふわふわと翻しながら、あてもなく庭園を歩くリーリウム。
緑の葉っぱが生い茂り、ピンクや黄色、青色の花々が咲き誇る庭園で、スカートがふわりと広がる真っ白なドレスを着て、淡いブルーの花飾りが付いた優美なデザインの帽子をかぶったリーリウムは、まるでキャンバスに描かれた絵画のようだった。
ヘンリクスは庭園で太陽を避けるように木陰で休息をしているとき、そんな美しいリーリウムを見つけた。
すぐに声をかけようかと思ったが、何かを探すように歩みを進めるかわいらしい婚約者をもっと見つめていたい欲求にかられ、そのまま木陰にそっと身をひそめていたのだった。
しかし、リーリウムがヘンリクスのいる木のそばを通り過ぎようとしたので、ヘンリクスはあわてて彼女を呼び止めた。
「リーリウム!」
びっくりしながらも、声のする方へ振り向くリーリウム。
「ヘンリクス様!」
うれしそうな笑顔で近づいてくるリーリウムに、ヘンリクスは「なにを探していたの?」という言葉を飲み込んだ。
リーリウムの笑顔がすべてを物語っていたから。
彼女がなにを探していたか気づいた時、ヘンリクスは今まで生きてきた中で最高の喜びを覚えた。
ヘンリクスの前に立ったリーリウムは、スカートをつまんで優雅に挨拶をする。
しかし、その表情はいつもの淑女としてのものではなかった。
二人はそのまま木陰にハンカチを敷いて座り込むと、しばらく無言で少し先にある池をぼんやりと見つめていた。
「今日は名前で呼んでくれるんだね?」
昔はずっと名前で呼び合っていた。
婚約が濃厚になってきたころから、リーリウムはヘンリクスを殿下と呼ぶようになっていったのだ。
「お嫌でしたか?」
心配そうに尋ねるリーリウムを優しく見つめながら、首を左右に振るヘンリクス。
「全然。とてもうれしいよ。」
ほっとしたリーリウムは、恥ずかしそうにヘンリクスへ小さく笑みを返す。
また心地よい沈黙の時間が流れる。
池を見ていたリーリウムが「あ」と声を出し、池のほとりに生えている木を指さしながら小さな声でヘンリクスに伝える。
「ヘンリクス様、あそこにカワセミがいます。」
「本当だ。珍しい。」
池の水面のすぐ上にある枝に、小さくて艶やかな青い鳥が止まっている。
まっすぐに前を見据える姿が神秘的で、二人は目を離せなかった。
しかし、しばらくするとカワセミはどこかへ飛んで行ってしまった。
「美しくて、かわいらしいね。」
ヘンリクスは、隣にいる愛おしい婚約者の横顔を見つめながら話しかけ、自分の右手をリーリウムの左手にそっと重ねあわせる。
「本当に。図鑑では見たことがありましたが、実物を見るのは初めてです。」
ヘンリクスの感想がカワセミではなく、自分へ向けられたものだということに気づかないリーリウムは、初めて見たカワセミの姿に感動を隠し切れなかった。
「リーリウムは、鳥が好きなの?」
「はい。インコやオウムなども好きなのですが、鳥かごに入っていない、野鳥たちが特に好きです。
なかなか実物を見る機会はないのですが……。」
自分の手にヘンリクスの手が重ねられていることに気づいたリーリウムが、恥ずかしそうに答えた。
「そうか。それなら、今度王都のはずれにあるミラーク湖に行かない?
渡り鳥たちの休憩場所になっているんだ。
ちょうど今の時期には、いろいろな鳥が集まっているよ。」
「素敵ですね。
ぜひ、お供させてください。」
うれしそうに返事をするリーリウムに、ヘンリクスは胸のつかえがとれたような気持ちになる。
「長い付き合いなのに野鳥が好きなことを知らなかった。
もっと、リーリウムのことを知りたい気持ちになったよ。」
「わ、わたくしもヘンリクス様のことをもっと知りたいです。」
顔を赤らめながらリーリウムは、精一杯ヘンリクスに伝えたかったことを口に出した。
痛いくらいの鼓動を感じながらヘンリクスの表情を見ると、
小さな頃と変わらず愛おしげにリーリウムを見つめる彼の瞳があった。
リーリウムとヘンリクスは、お互いの瞳の輝きから昨日よりも「心の距離」が近づいたことを実感していた。
今日はバラの庭園ではなく、程よい木陰ができるように剪定された木々が立ち並び、野の花々が植えられた広大な野原のような庭園へ向かった。
何代か前の王妃様が、自分の田舎を模して造った庭園だそうだ。
そこには大きな池もあり、天気が良ければ舟遊びも楽しめる。
今日、リーリウムがその庭園へ向かったのはほとんど勘によるものだった。
ヘンリクスがこの時間に散歩をしているのは知っていたが、どの庭園へ行くかはヘンリクスの気分によって変わるからだ。
ドレスの裾をふわふわと翻しながら、あてもなく庭園を歩くリーリウム。
緑の葉っぱが生い茂り、ピンクや黄色、青色の花々が咲き誇る庭園で、スカートがふわりと広がる真っ白なドレスを着て、淡いブルーの花飾りが付いた優美なデザインの帽子をかぶったリーリウムは、まるでキャンバスに描かれた絵画のようだった。
ヘンリクスは庭園で太陽を避けるように木陰で休息をしているとき、そんな美しいリーリウムを見つけた。
すぐに声をかけようかと思ったが、何かを探すように歩みを進めるかわいらしい婚約者をもっと見つめていたい欲求にかられ、そのまま木陰にそっと身をひそめていたのだった。
しかし、リーリウムがヘンリクスのいる木のそばを通り過ぎようとしたので、ヘンリクスはあわてて彼女を呼び止めた。
「リーリウム!」
びっくりしながらも、声のする方へ振り向くリーリウム。
「ヘンリクス様!」
うれしそうな笑顔で近づいてくるリーリウムに、ヘンリクスは「なにを探していたの?」という言葉を飲み込んだ。
リーリウムの笑顔がすべてを物語っていたから。
彼女がなにを探していたか気づいた時、ヘンリクスは今まで生きてきた中で最高の喜びを覚えた。
ヘンリクスの前に立ったリーリウムは、スカートをつまんで優雅に挨拶をする。
しかし、その表情はいつもの淑女としてのものではなかった。
二人はそのまま木陰にハンカチを敷いて座り込むと、しばらく無言で少し先にある池をぼんやりと見つめていた。
「今日は名前で呼んでくれるんだね?」
昔はずっと名前で呼び合っていた。
婚約が濃厚になってきたころから、リーリウムはヘンリクスを殿下と呼ぶようになっていったのだ。
「お嫌でしたか?」
心配そうに尋ねるリーリウムを優しく見つめながら、首を左右に振るヘンリクス。
「全然。とてもうれしいよ。」
ほっとしたリーリウムは、恥ずかしそうにヘンリクスへ小さく笑みを返す。
また心地よい沈黙の時間が流れる。
池を見ていたリーリウムが「あ」と声を出し、池のほとりに生えている木を指さしながら小さな声でヘンリクスに伝える。
「ヘンリクス様、あそこにカワセミがいます。」
「本当だ。珍しい。」
池の水面のすぐ上にある枝に、小さくて艶やかな青い鳥が止まっている。
まっすぐに前を見据える姿が神秘的で、二人は目を離せなかった。
しかし、しばらくするとカワセミはどこかへ飛んで行ってしまった。
「美しくて、かわいらしいね。」
ヘンリクスは、隣にいる愛おしい婚約者の横顔を見つめながら話しかけ、自分の右手をリーリウムの左手にそっと重ねあわせる。
「本当に。図鑑では見たことがありましたが、実物を見るのは初めてです。」
ヘンリクスの感想がカワセミではなく、自分へ向けられたものだということに気づかないリーリウムは、初めて見たカワセミの姿に感動を隠し切れなかった。
「リーリウムは、鳥が好きなの?」
「はい。インコやオウムなども好きなのですが、鳥かごに入っていない、野鳥たちが特に好きです。
なかなか実物を見る機会はないのですが……。」
自分の手にヘンリクスの手が重ねられていることに気づいたリーリウムが、恥ずかしそうに答えた。
「そうか。それなら、今度王都のはずれにあるミラーク湖に行かない?
渡り鳥たちの休憩場所になっているんだ。
ちょうど今の時期には、いろいろな鳥が集まっているよ。」
「素敵ですね。
ぜひ、お供させてください。」
うれしそうに返事をするリーリウムに、ヘンリクスは胸のつかえがとれたような気持ちになる。
「長い付き合いなのに野鳥が好きなことを知らなかった。
もっと、リーリウムのことを知りたい気持ちになったよ。」
「わ、わたくしもヘンリクス様のことをもっと知りたいです。」
顔を赤らめながらリーリウムは、精一杯ヘンリクスに伝えたかったことを口に出した。
痛いくらいの鼓動を感じながらヘンリクスの表情を見ると、
小さな頃と変わらず愛おしげにリーリウムを見つめる彼の瞳があった。
リーリウムとヘンリクスは、お互いの瞳の輝きから昨日よりも「心の距離」が近づいたことを実感していた。
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