悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革

54.ヴィオラとアンドレアス

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ウェスペル公爵家に到着したアンドレアスは、いつも通り公爵の書斎かその隣のヴィオラの書斎に通されると思っていたが、応接室へと案内された。
応接室へ入ると、すでにヴィオラがソファに座っていた。

「やあ、ヴィオラ。」

「ごきげんよう、アンドレアス様。
朝早くから急にお呼び立てしてしまい、申し訳ありません。
さあ、そちらへお座りになって。」

「気にしないで、僕は君に呼ばれれば、いつでも会いに来るのだから。」

ヴィオラは怒るどころかいつもどおりの様子だったので、アンドレアスは拍子抜けする。
いつもならば言えない、歯の浮くようなセリフもすらすらと出てきた。

「今日は、昨日のアイリ嬢とマリー嬢に起こったことについて、お話しを伺おうかと思ったのです。
プリムラの名前も挙がったと聞いて、心配でいてもたってもいられなかったのです。」

アンドレアスがいつもよりも軽薄なセリフを言ったところで、ヴィオラは冷静さを失わないようにしていた。
だが少しいつものアンドレアスと違う様子に不安を感じる。

「アイリ嬢の話では、悲しいことにプリムラ嬢がマリー嬢の髪飾りを奪ったことに間違いはないようだよ。
校舎裏の人気のない場所にマリー嬢を呼び出したプリムラ嬢が、髪飾りが欲しいと言い出して力づくで奪ったそうだ。」

「そうなの……。
アイリ嬢は、その現場を直接見たのですか?」

スミレ色のきらきらとした瞳が、まっすぐにアンドレアスを見つめていた。
アンドレアスは、その美しさに飲まれそうになる。

「いや、アイリ嬢はたまたまその場所を通りかかって、髪飾りを手に走り去るプリムラ嬢を見たそうだ。
その場で座り込んでいるマリー嬢に事情を聞いて、詳細が分かったそうだよ。」

ヴィオラを前に、いつもよりも饒舌になるアンドレアス。

「ふむ……。そういう事情でしたのね。」

ヴィオラが思いのほか冷静だったので、アンドレアスは焦った。
馬車の中にいるときには確かにあった自信が、ぎゅっと胸の奥の方に追いやられていく。

「アンドレアス様は、どうしてプリムラではなく、アイリ嬢の証言を信用なさったの?」

「実は、アイリ嬢がマリー嬢をジョンに託したあと、アイリ嬢から詳細な状況を聞き取り調査したんだよ。」

「その聞き取り調査は、誰か第三者はいまして?
書記係による、記録はありますか?」

「い、いや。
実は急な事だったからアイリ嬢と二人きりだったんだよ。」

アンドレアスはドキドキした。
もしかするとヴィオラの涼やかな顔が嫉妬で歪むかもしれないとほのかに期待していた。

「あら、そうでしたの。
では、その聞き取り調査はあまり参考にはなりませんわね。」

「え?」

「事情聴取は容疑者や証人と、事情を聞く人、記録を取る人の三人が揃わなくては……。
信ぴょう性が落ちてしまうことは、アンドレアス様もご存じでしょう?」

「あ」

あまりに初歩的なミスで、アンドレアスは言葉を失った。
なぜそこに考えがいたらなかったのか、今となっては分からない。

「それにしても、プリムラを疑うなど言語道断ですわ。
プリムラは、誰かを傷つけてまで物を欲しがる子ではありません。
そもそも、わたくしと結婚するのであれば、あなたはウェスペル家の一員になるのですよ?
プリムラの義兄になる将来があるというのに、アイリ嬢の証言だけを聞いてプリムラを疑うなどありえませんわ。」

「プリムラ嬢は少しわがままが過ぎることがある。
僕らのデートの時には、付いていくと駄々をこねたことも一度や二度ではなかった。
君にあげたプレゼントを欲しがったこともあったじゃないか!」

ヴィオラは開いた口がふさがらないとは、このことかと実感していた。

「それはわたくしたちが婚約した当初の話ではありませんの?
その頃プリムラはまだ十歳にもなっていなかったのですよ?
それに、プリムラは将来のお兄様になる方だと言って、あなたと仲良くしようとしていただけですのに。」

「だけど、僕は嫌だった。
君と二人きりになりたかった……。」

「今はいつも二人でお会いしているではありませんか。」

「最近は公爵家の仕事の話ばかりで、婚約者同士というよりは仕事仲間のようだ。
僕は、昨日のアイリ嬢とのようにいっしょにカフェへ行ったり、出かけたりしたかった。」

「あなたは、ウェスペル公爵家を継ぐということを、どういうことだか理解していませんの?」

ヴィオラは悲しそうな眼差しでアンドレアスを見つめる。

「君はいつもそうなんだ。
僕よりも公爵家や妹たちの方が大切なんだよ!」

「そんなもの、比べること自体が間違っていますわ。
アンドレアス様、あなた今日は少しおかしいわ……。」

ヴィオラは生まれたとたんから、公爵家を守っていくという宿命を持っている。
そのため、アンドレアスの言葉のひとつひとつが理解しがたく、ただただ悲しかった。

「そうか……。もう、いいよ。
しばらく頭を冷やしたいから、連絡してこないでくれ。」

アンドレアスはそうつぶやくと、ヴィオラの静止も聞かずに公爵家を後にした。
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