悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

文字の大きさ
90 / 141
Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革

90.リナ・ロベルティ

しおりを挟む
ルドヴィクやリーリウムが怪しんでいるとは露ほども思っていないリナ・ロベルティは、意外にも真面目に授業へ出席し、昼休みと放課後には研究棟へ通うという、優等生のような生活を送っていた。
もっとも、授業はヒマつぶしのために、研究棟へは学園長を脅すため、というのが真の理由であった。

「何のために、おじさんを学園長にしたと思ってるの?
あのじいさんの弟子から研究資料を取り上げるのに、どれだけの時間を費やすんだよ?」

リナは、制服の上からいつものフードを目深にかぶり、学園長室にあるの一番座り心地の良い大きな椅子に腰かけ、声を荒げていた。

「それが、マギア教授はずっと留守をしていて……。
研究室に忍び込もうにも、扉がマギア教授本人でないと開かない魔道具でロックされているため、我々では解除できないのです……。」

本当に困っているというそぶりを見せながら、現学園長であるダーシー侯爵は、リナに平身低頭して謝り続ける。

「教授一人従わせることもできないなら、おじさんを学園長にしておく理由がないんだけど?」

「わかってはいるのですが、実は、最近国王から学園長選出について何度も呼び出されていまして……。
どうやらわたくしを罷免して、新たな学園長を立てるつもりのようです。
学園内でも王太子とその婚約者の公爵令嬢が中心となって、前学園長派の教授たちをまとめていて、そちらの対応で手いっぱいなのです。」

「ふん! 本当に使えない!
私が動くからもういいよ。
おじさんはせいぜい、今の地位を守り抜くことだね。」

苛立ちを隠せないリナは、フードを取ってそれを小さなバッグに押し込むと、乱暴に扉を開けて学園長の部屋から退出した。

(あのおじさんを学園長に据えたのは、この国の学びを止めるためだったのに……。
前学園長派が、まだそんなに力を残していたんだ……。)

闇の魔法使いの気配を消し、留学生のリナとして廊下を歩くと、やはりすれ違う人々は彼女の顔に見惚れる。
話しかけられれば笑顔で対応し、礼儀正しく気さくな令嬢を演じていた。
ただ、時々リナのチャームが効かない相手もいる。
王子たちと護衛騎士たち、そして研究棟のマシューとカイルだ。
先ほども、カイルとすれ違ったが、挨拶をするだけですんなりと自分の研究室へ戻っていった。

(不思議なこともあるもんだな……。)

リナはマギア教授の研究室の前に到着すると、扉をコンコンとノックをした。
中から声は聞こえない。
マギア教授が在室なら魅了して操ってしまえば良かったのだが、留守であればやはり忍び込むほかない。
そっとドアノブに手を掛ける。

「マギア教授なら留守だよ。」

背後から突如声をかけられ、リナは口から心臓が飛び出すかと思うくらい吃驚する。
後ろを振り向くと、独特の気配を漂わせた少女が立っていた。
この気配は、リナも知っていた。

「ごきげんよう。ウェスペル家のご令嬢ですね?」

リナはフレエシアの顔を見据え、丁寧にあいさつをした。

「うん。フレエシア・ウェスペルです。
あなたは、リナ・ロベルティ嬢だよね?
最近噂になっている“麗しの君”。
マギア教授に何か用だった?」

いつの間にか恥ずかしい二つ名がつけられていたことを知ったリナは、少し動揺した。
しかし、それを顔には出さず、フレエシアににっこり微笑みかける。

「はい、魔道具のことで少し相談があったのですが……。
教授がいつお戻りになるか、ご存知ですか?」

リナは適当に嘘をついて、マギア教授について尋ねる。
フレエシアがどう対応するのかも、確認したかった。

「う~ん。最近はあんまり学園には来ていないんだ。
私は時々お会いするけど、何か伝えようか?」

「いえ、また出直します。」

「そう。じゃあ、マギア教授に君が会いに来ていたことだけ、伝えておくね。」

「ありがとうございます、フレエシア様。
それでは、失礼いたします。」

「うん。またね。」

フレエシアは笑顔でリナを見送る。

(ウェスペル家の次女にも、チャームが効かない……!)

リナは振り返り、まだ手を振り続けているフレエシアを一瞬見つめ、手を振り返してまた歩き始めた。
チャームが効かない原理は良く分からない。
他のウェスペル家の娘たちにも会ってみなくてはいけないことだけは、明確だった。

(元々、アイリに勝ち目はなかったみたいね……。)

リナは、何も知らないアイリをかわいそうだと思いつつも、これ以上彼女に手を貸すことはないだろうと考えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!

杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。 彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。 さあ、私どうしよう?  とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。 小説家になろう、カクヨムにも投稿中。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

処理中です...