破滅的な悪役令嬢達の交換日記

愛と黒猫

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1日目

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《&FLOWER's》

パチパチパチッーーーーーー

大きな拍手に包まれ、アスロス王国、オスメラ王国、雪月花王国、3カ国国立魔法学園の入学式が始まった。

数年前から試験的に実施されていた、同盟国である、3カ国の合併魔法学園。今年から本格的な実施となる。
わたし、キャメル・リュミエールは3カ国でも大きな力を持つアスロス王国の王太子、アーサーの隣で新入生に拍手を送る。

白髪に珍しい金目の瞳を穏やかに細めて、新入生に拍手を送るアーサーは私の婚約者だ。6歳の時に決まり、今年で10年になる。この、ゲームが始まる直前にもかかわらず、優しい彼はわたしをエスコートしてくれる。未だに仲は良好だと思っている。
わたしが見ていたのに気づいたのか、アーサーは小首を傾げて微笑んだ。

(ほら、優しい。)

私はこのゲームを知らない。でも、このゲーム《&FLOWER's》を知っている、同じく幼馴染みのリアこと、カナリア・ラウドネスは向かいの方で拍手をしていた。
彼女によれば、アーサーと婚約者、悪役令嬢の「キャメル・リュミエール」は不仲だったという。
わたしと、アーサーはそこまで不仲ではないと思っている。私だけだったら恥ずかしいけど....。

でもどうやら、『不仲』では無いようだ。もう10年の付き合いにもなる。お互いに隠し事もなくなるだろう。それに、一緒に過ごしてみて、彼はわたしに隠し事はしないし、素直で正直な性格なのは身をもって知っている。
この先について不安がないといえば嘘になるが、それでも心配はしていない。きっと、彼が選ぶのならヒロインもなんかしらの能力があって、国を治めるに貢献できる力を持っている人なんだろう。それに、わたしを、わたしたちを破滅させるとは思えなかった。

(それにしても、ローズ可愛かったな。)

もう1人1歳年下の悪役令嬢の入学式での立ち居振る舞いに感嘆しながら入学式は幕を下ろした。

꙳★*゚

「お疲れ様、メル。」

私を親しい呼び名で呼ぶのは2人だけだ。その1人、このゲーム《&FLOWER's》を攻略したという前世を持つリア。彼女は同シリーズの続編でもある《&OCEAN's》の悪役令嬢だ。
入学式が終わったあと、在学生の控え室の隅で休憩していたところにやってきた。その足取りは少し不安げだった。

「もう、始まってしまうのね....」
「そうね、でも今まで色々なことを頑張ってきたわ、きっと大丈夫だと信じましょう!」
「ふふ、ほんとう苦労したわよ。まず、手始めにって国立魔法学園の合併....ほんとうに大変だったわ」
「あはは....ごめんって~」

リアの家であるラウドネス公爵家は頭が良く博識だと言われているため、この合併魔法学園を一任されている。
そう、この3カ国の国立魔法学園が合併出来たのはリアのおかげである。家族仲が良くないのは知っていたけど、よくも間に合わせてくれたと、感謝してもしきれない。

「ありがとう。」
「なあに、急に」
「ううん、お礼が言いたくなったの。いつもありがとう。リアがいてくれたおかげで今も生きていられる。もちろんローズも一緒に。これからもずっと一緒にいて....むぐっ!」

涙目になりながらも口にしたわたしの感謝の気持ちをリアはわたしの口を塞ぐことで止めた。

「なっ、なに?」
「やめてよ、まだ何も終わってない!死亡フラグをたてないで!」
「ふあい....」

モゴモゴと口を封じられながらも返事をする。リアは穏やかな顔でそっと手を離した。
今日の予定は新入生を歓迎する夜のパーティーだけだ。
リアと少し別れて準備をする。

部屋に戻ると優秀なわたしの召使いのアリスがドレスを出してくれていて、それに合う宝石も選び出した暮れていた。

「ただいま、アリス」
「おかえりなさいませ、キャメル様。本日もアーサー殿下からドレスが届いております。」
「そうみたいだね。」

出してあったドレスは胸元に赤い花が散りばめられた、シャンパンゴールドの流行りに乗ったXライン。宝石は濃い赤で統一されていた。
やっぱりさすがとしか言えない。

直ぐに着替えを始めて、長い髪に小さな花をさしながら編み込んでもらう。この髪型ならきつい顔も目立たない、そう考えるアリスの考えた髪型だ。もちろん直ぐに真似して応用する令嬢が増えた。

「完成しました、キャメル様。」
「いつもありがとう、今回も凄くいいわ」
「そ、そんなことないです....、でも、ありがとうございます....」

アリスは去年、学園に入学と同時に私付きになった侍女なのだ。かなり新入りで初々しいところがまた可愛い。

「き、キャメル様、そろそろお時間です。」
「わかったわ」

ドレスをつまんで、寮から出る。
王族から公爵家までが暮らす第1寮、侯爵家から伯爵家までが暮らす第2寮、その他学生が暮らす第3寮がある。内装はそこまで変わらないが、それでも情勢があるのだからそれなりに違うところはあるらしい。
寮を出るとアーサーがもう待っていて、わたしの姿を見ると微笑んだ。




《&OCEAN's》

私、カナリア・ラウドネスは入学式の後、すぐに幼馴染みであるメルに会いに行った。
彼女は公爵令嬢でありながら、王太子の婚約者でもある。彼女の国にとっても同盟国である我が国にとっても重要な人物だ。だから、見つけるのは容易い。
警備の厳しい高級貴族用の待合室に向かう。

扉を開けると、ほら、やっぱりと彼女は窓際にある椅子に腰掛けていた。

「お疲れ様、メル。」

そう声をかけると悪役令嬢だけにきつい印象のある顔をほころばせた。愛嬌ある笑みがその悪人顔を柔和させているのだろう。

「もう、始まってしまうのね....」
「そうね、でも今まで色々なことを頑張ってきたわ、きっと大丈夫だと信じましょう!」
「ふふ、ほんとう苦労したわよ。まず、手始めにって国立魔法学園の合併....ほんとうに大変だったわ」

メルに言われて思い出す。子供ながらに頭がいい事を自負する程度に大人は私に大人と同じ扱いをしてきた。色々なツテを使って同盟国3つの国立魔法学園を合併させた。
恨みを込めた目線を向けると彼女は両手を顔の前に合わせた。

「あはは....ごめんって~」

彼女のいつも通りの態度に少し安心した。とうとうゲームが始まってしまう。そう思うと不安で仕方がない。

別に、攻略対象たちと恋がしたい訳でもヒロインが羨ましい訳でもない。私の望みはただ、メルと一緒にいること。そして、もう1人。ローズと一緒にいること。3人でいたい。

この“キャラ”に転生して、「カナリア・ラウドネス」、彼女自身の辛さを知った。私自身はこのゲームをしていた訳では無いけれど、それでも同情するところは沢山ある。
聞けば彼女はどのルートを進んでも死んでしまうという。それは家族からも嫌われてるからではないか。そう思える。

「ありがとう。」

突然メルが沈黙を破るようにつぶやいた。

「なあに、急に」
「ううん、お礼が言いたくなったの。いつもありがとう。リアがいてくれたおかげで今も生きていられる。もちろんローズも一緒に。これからもずっと一緒にいて....むぐっ!」

不安が膨張した。それ以上言わせてはいけない。本能的にそう思ってしまう。咄嗟に彼女の口を塞いだ。

「なっ、なに?」
「やめてよ、まだ何も終わってない!死亡フラグをたてないで!」
「ふあい....」

焦ったあまり怒鳴る形になってしまったが、メルは気だるそうに返事を返した。私が不安がってるのに気づいたのか、彼女は私の頭をそっと撫でてパーティーの準備をしに部屋へ戻って行った。

せめて、2人だけでも守りたい。本当は3人でいたいけれど、最悪、私が2人を守らないと....
小さな希望を胸に私も今夜のパーティーの準備を始めた。

꙳★*

「カナリア」

寮の外には幼なじみのヴァルがいた。私の家の事情を知り、婚約者ではないが、お互いにきたパーティーの招待状には必ず2人で参加している。

「ごめんなさい、遅くなったわ。」
「いやいい。ドレスにあってる。」
「あなた、その言葉でしか褒められないの?もし婚約者ができた時どうするつもり?」

毎度のようにパーティーのドレスはヴァルが送ってきたものを着ている。婚約こそしていないが、そこはもう周りも慣れたようでスルーしている。
濃い青に下に行くにつれて薄くなるグラデーションがほどこされているエンパイヤスカートだ。
我がラウドネス公爵家は領地のほとんどが海。陸の領地は狭いが、その分港が大きく商業も盛んなため、豊かな土地だ。
ヴァルは昔からのお父様の友人の息子。歳も近く、海辺でよく遊んだな。今回のドレスもきっと海を連想させているのだろう。

「お姉さま!」

彼のエスコートに合わせてパーティー会場へ向かう途中、後ろから呼び止められた。
振り返ればそこには水色のミディアムショートの髪に貝殻の髪飾りをつけた少女が肩で息をしながら立っていた。

「お姉さま!久しぶりです、ヴァル様も!」
「アクアか?」
「はい!」
「大きくなったな、1年でこんなに違うと見違えるものだな。」
「ありがとうございます!って、わたしったら....申し訳ありません、2人に会えたのが嬉しくてはしゃぎすぎてしまったみたいです....」

ヴァルとも面識があるその少女は私の義妹のアクア。ゲームでは海の女神の生まれ変わりなんだとか。つまりはヒロインだ。

「そうね、もう少し気をつけなさい。ここはもう家でも領地でもないのだから。あなたは公爵令嬢。隙を見せてはダメよ。」
「カナリア....少し硬すぎやしないか?それでは窮屈になってしまうだろう。」
「ヴァルは口を出さないで。これは家の問題よ。」

ついきつい言い方になってしまうのは仕方が無いのだ。このヒロイン、同じ家出過ごしてみて分かった。甘い言葉では通じないと。教育を任されているラウドネス公爵家が次女の教育さえなっていないとなれば、この学園からも全ての貴族からも反感を持たれてしまうだろう。彼女はただでさえ平民上がりで目をつけられているのだから....

「はい、お姉さま....申し訳ありません。」
「分かったのならいいわ。今後気をつけなさい。」
「はい。ヴァル様も庇ってくださってありがとうございます。」
「いやいい。すぐに家族になるだろう俺には敬語を使わなくてもいい。気楽に声をかけてくれ。」
「は、はい!」

この言葉が後でどんな悲劇を招くか知らないくせに....
と、ヴァルをジト目で見た時、ふと、彼の言葉を頭の中で再生してみた。
『すぐに家族になる....』?

「ちょっと、それは一体どういう意味?」
「聞いていないのか?俺たちの婚約の話が上がっていること。」
「はああああ?」

つい大声を上げてしまったが仕方がないと思う。こればっかりは許して欲しい。

(げ、ゲームと違う!)




《&STAR's》

「ふあああ」

誰にも気づかれないように気配を消しながら眠気と戦う今日この頃。
先程入学式が終わり、慌ただしくドレスアップをして会場にいる。開始までもう少し時間があるようだ。

「愛奏音!」

子供らしい愛嬌のある笑みはメルと少し似ている。婚約者の雪希が走りよってきた。

「酷いよ、置いていくなんて!普通は女の子一人で行動しちゃいけないって習わなかった?」
「習いましたよ、もちろん。ですがそれは“普通”のご令嬢でございましょう?わたくしを一緒くたにされては困ります。」
「んにゃ、もう!心配なの!次からは僕が迎えに行くまで寮から出ないでね!?わかったら返事!」

年下のような愛らしい容姿に不似合いな黒のワイシャツの袖をまくり白い上着を手に持っている彼はすぐさまわたくしの隣を陣取った。

「へーんーじっ!」
「はい」

しぶしぶ返事をすると彼はわたくしをジト目で見つめた。

しばらくして、彼が上着を羽織ったと同時に続々と会場に人が入ってきた。

「おう、雪希!」
「花楓!久しぶり!」

私たちに声をかけながらやってたのはいっこ年上で、メルやリアと同じクラスの柊花楓様だった。
雪希が兄のように慕う人物、としか記憶にない。実際こうした近い距離にいること自体初めてなのだ。

「そちらが天王寺嬢?」
「お初にお目にかかります、天王寺ロゼッタ愛奏音と申します。」
「こちらこそ、楪花楓です。雪希から聞いていた通りの方ですね。」
「敬語なんて…わたくしたちは教師からも先輩であるあなたからも学ぶ存在。ですから、どうか学園内では呼び捨てで、敬語もやめてくださいませ。」
「ははっ、しっかりした子じゃないか。これだと雪希が人に見せたくないのも無理はないか。よろしく、愛奏音。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」

わたくし達が、握手を交わすと雪希がばっと割り込んできた。何やら威嚇もしている様子。

「ちょっと!愛奏音は僕の婚約者だよ!気軽に触らないでよね!」
「あはは、悪いな。愛奏音もこんな男ほっといて、俺にすればいいのに。」
「ご冗談を。雪希さんが拗ねてしまいますので。」
「ま、気が変わったら声掛けておいで。」
「分かりました」

雪希と仲がいいと聞いていたはずだけれど、でも、冗談を言い合える仲ってことはそろそろ仲がいいと言うことだろうか。

雪希もわたくしも公爵家ということがあり、沢山の人に挨拶をしていたら、気がつけばもう開始時刻の10分前になっていた。

わたくしは会わなくてはいけない人を探しながら挨拶をしていたつもりだったがなかなか見つからない。身長は結構小さいとわかっているが、それでも背伸びすれば150センチには届くし、ヒールだって履いている。なのにどうしてこんなに見つからないのか。

すると、突然の浮遊感。隣にいた雪希も驚いた顔をしていた。浮いた体で何とか足を飛ばしてみると、あったはずの気配が一瞬にして消えた。

「....!?」
「ダメじゃないか、お前はもう成人直前。ましてやここは学園だ。“月”の人間だということを忘れたのか?」
「あ、兄上....!」

声でわかった。うちの家で唯一騎士を継がなかった人間だということに。
ーーー弥真斗兄上....
騎士を継がなかったと言うだけで、武術剣術馬術が苦手という訳では無いのだ。むしろ誰よりもバランスがよく、頭で考えて行動する人だった。
もう一度高く上げられてからようやく地に足が着いた。

「でも、今のは兄上が悪いと思います。」
「ここではあまり自分で動いちゃいけないよ。雪希くんもいるんだ。自分の身は彼に任せなさい。それから、仕込んである短剣も貸して。」
「そんな....心もとない....」
「“普通”の令嬢は自ら戦闘はしない。誰かに守ってもらうものだ。」
「ですが、兄上。わたくしは兄上たちの、家の最大の弱点です。私自信が強くなくてはいけないと思います。」
「だめだよ。君は程々を知りなさい。だから俺がいる。雪希くんがいる。俺達はお前を守るためにいるんだ。」
「ううう....分かりました。」
「うん、聞き分けのいいよくできた子だ。」

兄上はそう言うとわたくしと雪希の頭を撫でて去っていった。一応学園の先生という立場もあるだろうからこんなところにいてはいけない人だ。


ーーーそんなわたくしたちを、怨念の篭もった目で見ていた少女がいた。
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