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十八章 二人の王
しおりを挟むアルベルトはフィリアから帰還したあの日フェイの腕の中で眠り、一瞬だが闇に沈むフェイの心に触れた。それはあの男にとっては許されざる事で、アルベルトの人生初めての告白にも似た言葉も、聞いてさえもらえなかった。その時にアルベルトは気付いたのだ。互いの心が、同じ熱を持ち始めていることに。同じように互いを求め欲した筈だ。だがフェイは、その気持ちに揺らぐ事はなかった。あまりにも淋しい強さがもどかしくもあり、同時にとても愛おしく思えた。
フェイの抱える深い罪の意識が、アルベルトには痛い程に分かってしまう。王として何を差し置いても守らなくてはならない自国の民を傷付け、そして失った。それは一国の王として何よりも辛く、罪深い事に思えてしまう。民もそんな王を憎んでいる筈で、憎まれた方が楽だと思えてしまう程の、耐え切れぬ罪の意識。だからこそアルベルトは知るべきだと思ったのだ。リーハの民が、最期に何を見たのかを。あの夜、胸に誓った覚悟の実行には、半年もかかってしまった。そして今日、フェイを想う全ての人のこれまでの苦しい努力が身を結ぶ筈なのだ。
フェイ達の住む二階建ての家の一階。アルベルトとレスティア、そしてあの占者の老婆は、それぞれの想いを抱え、誰一人口を開く事はなかった。これは賭けである。あの男を覆う深い闇を払う事が出来るか、それとも更にその深淵へと沈めてしまうのか。選んだこの道が例えフェイを傷付けてしまうとしても、それでもアルベルトはこの手で救いたいと思った。ラフターとアルベルトは違う。愛しているからこそ、自らのこの手で救いたい。会えなかった半年が、半年前に感じたフェイの温もりが、驚く程にアルベルトを強くした。
ミトに連れられ部屋に入って来たフェイは、三人をゆっくりと見回した。久しぶりに見るその顔に胸が締め付けられ、アルベルトは本当にこの男の事を愛してしまったのだと思い知らされる。
一頻り訳の分からないなりに状況を確認すると、フェイは怒りに震える声を抑え小さく呟いた。
「これは何の真似だ」
「この方を、覚えてはいないか」
アルベルトはそっと閉じた瞳から涙を流し続ける老婆の震える肩に手を添える。フェイは言葉では答えてはくれなかったが、その表情をみれば誰にも分かる。何より、この男が自国の民を忘れる筈がないのだ。
「フェイ、聞いてほしいのだ。リーハの民がお前の事を──」
「やめろ!」
アルベルトの言葉を待たず、フェイは耳を塞ぐ。知る事を恐れる気持ちも、アルベルトは分かっている。だがこれは自国の民に憎まれていると思い込んでいるフェイにとって光となる話しだと信じていた。誰も憎んではいないんだ。だからどうか、恐怖に打ち勝って欲しい。その願いを込めて、アルベルトは微笑んで見せた。
「大丈夫、私が側にいる」
少し背の高いフェイを優しく抱き締めると、ミトもつられて腰元に抱き付く。
「俺も!」
信じてくれ、フェイを思う全ての人々を。その願いを込めて、アルベルトは抱き締める腕に力を込めた。
その日、フェイは長年知らずに生きて来た、リーハの民の最期を知った。誰もが愛し、その幼い背中で人々を導いていた小さな太陽。深い闇に沈んで行くその心が再び光を取り戻すように、誰もが最期の時まで優しく微笑んでいたと言う。それはフェイが望む、苦しみさえ最期の時に笑える人生、そのものだったのではないだろうか。フェイは老婆の話しを終始虚ろな表情で聞いていた。その心が何を思うのか、アルベルトには分からなかった。
半年に及ぶ大事を終え、夜明けの街を帰って行くレスティアと老婆を丁重に見送り、アルベルトはミトと共に家の中へと戻る。フェイはあれから微動だにせずにただ一点を見詰めたまま動こうとはしなかった。
心配そうに手を握るミトにも視線を向ける事さえない。誰一人恨んでなんかいないと言う事実をリーハの民であったあの老婆の口から聞いた事は、フェイにとっては何より衝撃的な事だったのだろう。だがその衝撃はアルベルト達の予想を裏切り、完全に悪い方へと転んでしまったようだ。ラフターもルーイもその様子を心配そうに見詰めている。静まり返る部屋の中、ミトの啜り泣く声だけが響く。
暫くの沈黙の後に、ラフターは静かに口を開いた。
「少し、二人にしてやろう」
そう言って出て行く二人を他所に、ミトは必死にフェイの肩を揺する。
「兄貴、兄貴!俺は兄貴の事、例えどんな事があったって裏切ったりしないから、離れたりしないから……お願い、戻って来て──」
流れる涙を拭う事もなく訴える少年の横顔に、アルベルトも情けなく泣く事しか出来なくて、この賭けを提案した事すらもはや後悔に変わりかけていた。それでもミトの髪に指を通すと、涙で潤んだ瞳が救いを求めるかのようにアルベルトを見上げた。
「ミトも、少し休め」
この半年、アルベルトがこの大事を計画して以来、小屋を自由に出入り出来ないアルベルトに代わり、ミトが随分と動いてくれたのだ。フェイの過去も、結果的に知ってしまう事となって、まだ幼いその顔には酷く重い疲れが見えていた。それでもアルベルトに全てを託し部屋を後にする背中を見送って、アルベルトは再びフェイに視線を向けた。
光も、生きている者の揺らめきすらも何も感じない。手を取って何度も呼びかけるもやはりピクリとも反応はしなかった。もうその心には誰の声も届きはしないのだろうか。冷たい手を握ると、ただ虚しさが胸を締め付けた。それほどにこの男の心は、罪に縋るしか術を持たぬ程の孤独を感じていたのだろうか。
生まれて初めて憎しみすら抱く程に嫌いになった、乱暴で短気で子供のようなこの男。男に抱かれる事を教え、この世界の無情を突き付け、何度も罵り合い、何度も傷付けられて、それでもどうして、そんな思い出さえも愛しいのだろう。乗り越えて欲しかった。もうたった一人孤独を生きてほしくはなかった。過去の、先祖の罪に身を沈め、生きる事さえ罰などと思って欲しくなかった。街行く皆のようにあまりにも普通に──愛して欲しかった。
新たな涙が頬を濡らして行く。それすらアルベルトはもう、拭う事さえ忘れた。戻って来い、共に生きよう、何度もその名を呼び、そう繰り返す。だがアルベルトの想いはまるで深い闇に叫ぶような、酷く虚しい物であった。それでも優しく抱き締めて、額に唇を落とす。
「好きだ、フェイ」
聞いていなくともいい。意味がなくともいい。アルベルトはただそれを伝えてやりたかった。
ふと気が付くと、アルベルトは相変わらずベッドに腰を落とすフェイの膝の上に突っ伏していた。アルベルト自身、大分緊張と疲れは感じていたが、こんな状況で眠れるなんて、自分でも驚く程に図太くなったものだ。そんな事をぼんやり考えていた時だった。
「起きたか」
不意に頭上で聞こえた酷く掠れた声に、思わず身体を離す。
「いつから、知っていた」
アルベルトを見詰めるフェイの顔には、不安と怯えが色濃く浮かんでいて、それでも微かに希望の光が揺れて見える。期待してくれているのだろうか、アルベルトはそれが堪らなく嬉しく感じる。
「フィリアからここに、帰って来た時だ」
「……そうか」
フェイは小さくそう言って俯いてしまった。その隣に腰掛け、アルベルトは辛抱強くただフェイの言葉を待った。ここから先は、もう間違える事は出来ない。この男を救えるか、それとも、再び孤独の道へと身を沈めるか。アルベルトは一人、強く拳を握った。
どれ程の時が流れただろうか。フェイは漸く一つ弱々しい息を吐くと、ぽつりと呟いた。
「俺は、弱い──」
その横顔が酷く心細く見えて、アルベルト思わずその手を握る。シンへの恋慕だけでも疲弊していた自身がもしもフェイの立場だったとして、ほんの小さな夢でも持つ事が出来ただろうか。奴隷の解放、そんな前代未聞の事を、願う事が出来ただろうか。きっと自分の事のみを考え嘆き自ら命を絶つだろう。フェイは確かに強い。だがきっと、シンの言う通り、脆いのだとアルベルトは感じていた。
「どうして、憎んではくれない。俺は、どうしたらこの罪を償える」
不安に揺れる瞳が縋るようにアルベルトを見詰める。真っ直ぐに救いを求めてくれた、それが堪らなく嬉しくて、アルベルトは精一杯優しく微笑んで見せた。
「私にも、救えなかった人々がいる。何時でも私を支えていてくれた、何より大切で、愛する人々だ。自分を責めた日もあったよ。けれど今は、前を向いて生きようと思っている。それがせめてもの罪滅ぼしだ」
ジャックにレッド、そしてアンナ。アルベルトはその命を背負い、皆が見る事の出来なかった明日を生きる。それこそが、彼らに出来る精一杯の事である気がしていた。
「おまえは、やはり強いな」
そう言って、フェイは少し淋し気に微笑んだ。
「支えてくれる人がいるからだ。今のおまえには私がいる。ミトも、ラフターもルーイも、この街全ての人も、そして遠くの国で生きる、シンだって。皆おまえを想い、見守ってくれている」
深い闇にも似た瞳が、不安気に揺れる。何か言おうと何度も唇を動かし、それでもフェイは言葉を発する事が出来ずにもがいている。アルベルトはその様子に深く安堵した。それで良いのだ。言葉がなくとも分かる。今はただ、抗う事なく望んで欲しい。その全てに、今の自分ならば応える事が出来る。
困惑を噛みながら薄く開いた唇を優しく塞ぐ。初めて触れた愛する男の唇は、切なくも優しい、涙の味がした。
風に歌う青葉の囁き。眩しい空の下、畑仕事をするフィリアの人々。城ではシンとエルバントが幸せそうに微笑みを交わし、アルベルトもまたその姿を微笑みながら見詰める。愛する者達。愛する場所。夢の中のアルベルトはいつもフィリアにいる。そして、その隣では、フェイが微笑んでいた──。
幸せな夢から覚め、ゆっくり瞼を開くと、子供のように服の袖を握るフェイの寝顔に、アルベルトは自然と顔が綻んだ。夕焼けが染める小さな部屋に、今迄で一番優しい時が緩やかに流れる。隣にいる誰かに心を寄せて生きる事は、時には辛く苦しいものだ。それでもきっと最期には、そんな苦しみさえ愛おしく思えるのだろう。人を愛し、人に愛され生きる事を知らないフェイ。ゆっくりで良い、教えてあげたい。その心が再び孤独を感じる事のないように、アルベルトは静かに願いを込めた。
それからフェイは長い事眠り続けた。まるで長い呪縛から漸く解かれたかのように、穏やかに。
漸くフェイが目覚めてしばらく。皆放っておいてくれてはいたが、随分長い事横たわるフェイの傍で腰を下ろしていて、そろそろ奴隷小屋に帰らなくては皆が心配するのではないか、そう不安に駆られアルベルトは意を決してその横顔に声を掛ける。
「フェイ」
フェイはベッドに横になったまま、視線だけをアルベルトに向けた。
「そろそろ小屋に──」
その先の言葉を遮るように強く腕を引かれ、アルベルトは思わず転がるようにしてフェイの腕の中に収まってしまった。いよいよ困ってしまったが、フェイの腕が少しだけ震えている気がして、アルベルトは宥めるようその背に腕を回した。
「怖いか?」
フェイは小さく首を振る。
「信じられない?」
また首を振る。これでは埒が空かないと思い、アルベルトは無理矢理に腕の中から這い出た。見下ろしたフェイは視線を合わせる事もなく、アルベルトの人差し指を緩く握る。フェイはまるで本当に子供のようだ。自身にもこのような時があったなと、アルベルトは思い返していた。母がまだ生きていた時、ただ側にいて欲しくて駄々をこねて困らせたり、気を引きたくて悪戯をした事。そう思うと可笑しくて小さな笑いが思わず漏れた。途端に睨み付けるその顔もまるで子供のようで、あまりにも愛おしく感じる。
「安心しろ。側にいるよ」
優しく髪を撫でてやると、まるで犬が甘えるようにフェイはアルベルトの手に頬を摺り寄せる。ふと見上げた漆黒の瞳がアルベルトを捉え、一瞬息が止まるかのように胸が高鳴る。上体を起こしたフェイが、そっとアルベルトの頬に手を添える。応えるように、アルベルトは瞳を閉じた。額に、震える睫毛に、鼻の頭に、フェイは唇を落として行く。優しく触れるだけなのに、触れられた箇所が熱を持って胸の奥が疼くように痛み、自然と息が上がる。ゆっくりと離れて行く気配に瞼を開くと、揺れる瞳が微かに輝いて見えた。
「フェイ──」
それ以上はもう言葉は必要もない程に、二人は互いの想いを伝わる熱から感じ取っていた。アルベルトがフェイの首に腕を回し、引き寄せられるように唇を重ねる。角度を変えて、幾度も口付けを交わす度、緩く食むような感触が甘く背筋を追い立てた。フェイが欲しい。何もかも投げ捨ててこの男に身を委ねたい。そんなはした無い欲情さえも、愛しい物に感じた。
しかし、そんな艶やかで幸福な時は突然に終幕を迎えた。扉を徐に開いた、ラフターによって。
「……邪魔したな」
「いやっこれは、ラフター違うのだ!」
「はいはい。元気になったなら飯食えよ」
慌てふためくアルベルトの言葉を遮り、扉は再び閉められた。ノックぐらい普通するものだと、呆然と扉を見詰めるアルベルトの肩に、フェイは小さく笑いそっと頭を預ける。アルベルトもまた微かに笑い、その髪に頬を寄せ静かに瞼を閉じる。そしてこの計画の最後の一つを伝えようと、胸の奥で決意を固めた。
「ここに国を作ろう」
アルベルトのその言葉が余りにも予想外過ぎたのか、フェイは弾かれるように身体を離した。逃れようとする腕をアルベルトは強く引き止める。
「レスティアと話しをしたのだが、間も無くテバンは永世和平国を宣言するらしい。彼女は戦の意味を理解し、それでも敢えてそれを放棄する道を選んだのだ。それは、おまえのお陰でもあるのだよ。だがそれによって領地拡大を目論んでの戦が頻発するだろうとの予想だ。レスティアはこの街に手が伸びる事を恐れている。私だって、皆だってそれは避けたい事態だ。勿論、ラブールがテバンの領地になると言う手もあったのだが、私は敢えて友好国としてラブールを建国しようと思うのだ。王は、フェイ──おまえだ」
アルベルトの強い決意を前に、驚きに見開かれた瞳が揺れる。
「無理だ、何で俺が……!おまえがやれば良いだろう!」
アルベルトはその言葉に、ゆっくりと首を振り、フェイの腕を離した己の手を首元に運ぶ。その細首には、タグの無い皮の首輪が未だに巻き付いている。
「私は、私にしか出来ない事をする」
小屋にいる人々のように、今尚地の底を生きる人々を救う為に、奴隷としてその側で心を寄せる事が出来る者は、今はアルベルトだけである。アルベルトが胸に秘めていたその信念を知り、だがフェイは俯いたまま頷いてはくれなかった。アルベルトにも未だフェイの心に巣食うその闇の正体は分かっている。自国を失う恐怖、リンメイの血筋を持つ自分への絶望感。これはアルベルトにも、そしてフェイにとっても、まるで試練のような道だ。だがその先の光を信じてみたい。似通った人生を歩み、真逆の道を選んで来た二人だからこそ、出来る事がある筈だ。この人生の意味を、流して来た涙の意味を、アルベルトは見付けたいと思った。
フェイが答えを出さないままに二ヶ月が経った。アルベルトは前と変わらず小屋で過ごし、それでもたまにフェイの腕に抱かれ眠った。その温もりを知ってから小屋で眠る事が段々と寂しく思えて、ついさっき会ったにも関わらず無性に会いたくなってしまう。そんな風にして、人間とは欲深いものだと実感したのだった。
そして冬の厳しい寒さで小屋の中の人々の中に、風邪のような症状が多く見受けられるようになった。ラフターが連日小屋に訪れては全員の診察をする日々がもう二週間は続いていて、今年の風邪は厄介だとラフターは隙あらばボヤいていた。そしてアルベルトの順番になると、ラフターは徐ろに声を落として問い掛ける。
「おい、もうヤったか?」
あまりにも直球な問に思わずアルベルトの思考は停止する。そんな様子を見兼ねてか、ラフターは呆れ混じりの溜息を一つ吐いた。
「これは医者として聞いているんだよ」
「あ、ああ……。いや、フェイは相変わらず一切手を出しては来ない」
やはりなと言って小さく舌打ちをするその男に、アルベルトはずっと言えなかった言葉を思い出す。
「ありがとう、ラフター。なんだかんだ、私を信じてくれていたのだろう」
フェイを救えるなら誰でも良い、そう言ってアルベルトをけしかけたラフター。頭が良くて器用なこの男は、フェイが壊れてしまわぬよう手厳しく叱りながら、誰よりもフェイを案じ、ずっと影ながら支えてくれていたのだろう。
「たまたまだよ」
そう言って口元で笑みを作るラフターに、アルベルトはもう一度心からの礼を言った。
フェイがアルベルトに手を出してこない事実は、未だその心の奥底にある過去の傷痕の所為か、ただ単にこんな貧相な男を抱く気になれないのか、それはアルベルトには分からないが、どちらにしてもこればかりは待つしか無い。
そしてその日はフェイの部屋で眠る日であった。寝静まった小屋にミトが顔を出し、人々を起こさぬようにそっと抜け出す。
「わんこも強情だよね。兄貴の部屋に寄せてもらえば良いのに」
フェイの部屋への短い道程の中で、ミトはいつも同じ事をアルベルトに訴える。
「……本当はそうしたいよ」
アルベルトもいつも同じ返答しか出来ない。少し不貞腐れた横顔もいつもの事だ。
「今夜は冷えるな。暖かくして寝ろよ、ミト」
小さく頷いた事を確認して、アルベルトは静かに扉を開く。新聞に目を通していたフェイが、優しく微笑みかけてくれた。それだけで胸の奥底が甘く痛む。机の側に歩み寄るアルベルトの手を取ったフェイは、真っ直ぐにその瞳を見据えた。
「一週間後、テバンに行こうと思う」
「テバンに……?」
強く頷くその瞳に揺れる決意。建国に少しだけ前向きになってくれたのだろうか、そう思案するアルベルトに掛けられた声は、微かな不安が滲んでいた。
「着いて来て、くれるか?」
「当たり前だ」
テバン──どう言う国なのだろう。レスティアの国だ。きっと素晴らしい国に違いない。アルベルトがテバンを想像していると、フェイは握った手に力を込めた。
「憎くはないのか。恩人を、殺した国なのに」
涙を呑んで戦わなくてはいけない時がある。アルベルトはフェイの過去に触れそれを知った。愛する自国を守る為に、この手を血に汚さなくてはならない事も知った。それでも戦を許す事は出来ない。ただ、戦をする人を憎む事は違うのだとアルベルトは知った。
「私が憎いものは戦のみだ」
「……そうだな」
そう言ってフェイは優しくアルベルトの美しい金色の髪を梳いた。
「今日は冷えるな。先に寝ていろ。俺もすぐに行く」
その手元に見えるズラリと文字の並んだ書類と、先程読んでいた新聞。時刻は既に日を跨いでいるのに、まだ仕事をするのかと少し迷ったけれど、アルベルトは一人部屋の隅のベッドに潜った。
暫く机に向かう背中をぼんやりと見詰める。煮詰まっているのだろうか、フェイは指先で煙草を巻いては天井を仰ぎ紫煙を燻らす。吸い終えたら手を進めすぐ止めてはまた煙草を巻く。
「フェイ、最近煙草の量が増えたのではないのか」
その背に声を掛けると、フェイは少し驚いたように振り向いた。
「起きていたのか。……少し、嫌な事が多くてな。昔王族狩りの話しをしただろう。ここ一年でもう三国やられている」
それは確かアルベルトが初めてこの目で戦を見た時に聞いた言葉である。
「王族狩り──」
悲しい世だ。人を憎む事でしか生きる事の出来ない人々。憎まれる事に縋り生きたフェイ。どちらも酷く、悲しい生き方だ。
憂いていたアルベルトは不意に髪をくしゃりと揉む手に視線を向ける。フェイはまるで慰めるよう、硬く結ばれた唇に口付けを落とした。
「そんな顔をするな」
一体どんな顔をしていたのか不安に思いながらフェイの顔を見つめていると、フェイは横たわるアルベルトに跨り、首筋に緩く唇を這わせる。それはいつも寝る前に行う行動であるが、アルベルトにしてみればはっきり言って惨い。触れられた箇所がチリチリと熱を上げて行くのに、フェイはそれ以上進もうとはしないのだ。アルベルトはいつも抗うように瞼を閉じ唇を噛みしめる。そうでもしないと、求めてしまいそうになる。
「……アル?」
その声を合図に瞼を開く。不安気に揺れる瞳が、息を呑む程に美しい。引き寄せるように唇を重ね、顔を見合わせて笑う。
「おやすみ」
アルベルトがそう言うと、フェイはそのまま細い身体を抱いて眠る。
フェイに愛される事はこの上ない幸せで、それでもアルベルトは堪らなく不安になる時がある。苦しめてはいないだろうか、辛くはないだろうか。アルベルトは何時でもフェイを想う。同じように、想ってくれているのだろうか、と。
穏やかなリズムを刻む寝息を聞きながら、あまりの幸せと、不思議なもどかしさにアルベルトの瞳からは涙が零れた。抱いて欲しい──そう言えたのならどれ程楽であろうか。だがそれは自分が楽なだけであって、フェイを苦しめてしまう事も分かっている。それでも身体が、心が、フェイの熱を求めて叫ぶ。まるで生殺しのような状態に、その叫びが大きくなって行く事が怖い。
フェイの胸に顔を埋め背中に回した腕に力を込める。これだけで十分だと、アルベルトは言い聞かせてみた。
そして一週間後、アルベルトはフェイとミトと共にテバンへと旅立った。東の国テバンは馬で二週間程の位置にあるそうだ。帰る頃にはラブールにも春が訪れているだろう。早いもので、アルベルトが国を出てからもう、丸四年が経とうとしていた。二年前旅をした時は、側にいるだけで吐き気がする程だったのに、今ではこれからフェイと一ヶ月共にいられる事が堪らなく嬉しく感じている。隣で流れる景色をぼんやりと眺めるフェイの肩にアルベルトはそっと頭を預けた。フェイは何も言わず、そんなアルベルトの髪を撫でてくれた。
それから三日程馬車は大木が立ち並ぶ森を走り、漸く四日目の朝に森を抜けた。
「もうすぐアバリアの街だよ!わんこは海を見た事がある?アバリアは大きな港があるんだ!」
海と聞いて、アルベルトの心が踊った。アルベルトは海を見た事がないのだ。昔果てなく続く広大なもので、その水は不思議と塩辛いとシンが教えてくれたが、それしか分からない。手綱を握るミトの隣で、アルベルトは海や港の想像を膨らませ、その時を今か今かと待ちわびた。
そして漸く辿り着いたアバリアは、アルベルトの予想を遥に越えて、とても活気溢れる街だった。ここもテバンの領地だと言うのだから、レスティアの父は途轍もなく手の広い男だったのだろう。そしてその手の広さは、平等な和平の為に必要なものと彼は信じていたとレスティアは言っていた。デバンとは、遥か古よりそれを信念に続いてきた国だと言う。そしてその為に、戦をしてきたものだと。レスティアはその鎖を断ち切る為永世和平国を宣言したのだった。彼女もまた、引き返せぬ事を知りながら試練のような道を選んで行くのだ。
賑わう街中をそんな事を考えながら歩くアルベルトの鼻先に、覚えのない香りが過ぎ去って行き、思わず少し立ち止まると手を引くミトが嬉しそうに笑った。
「これが潮の香りだよ。この匂い、落ち着くんだよね」
そう言われ、アルベルトもミトに習い鼻から深く息を吸い込む。鼻腔を刺激するような香りは何処か切なさや優しさに似た感覚を覚える。だが確かに、不思議な安堵も胸には満ちるようである。
「古い言い伝えでは人は海から生まれたとある。だからなのか、不思議なものだ」
フェイはそう言って先を急いだ。
宿を取った後は三人で市場を巡り、川の魚にはない色鮮やかで何より大きな魚介類にアルベルトは終始驚き通しであった。やがて長い市場を抜け、目の前に広がる海を前にした時、三人は同時に言葉を無くした。冬の冷たい風に乗って一段と強く香る潮の匂い。白い砂浜に寄せては還って行く穏やかな波。空の色を映した蒼い水面に、緩かな半円を辿る水平線。
「海とは、これ程に大きいものなのか」
圧倒されるアルベルトを見て、ミトとフェイは楽しそうに笑った。
そのまま暫く浜辺を散歩してから、一行は宿へと戻った。
「わんこは後何を見てないかなあ」
宿の夕飯を食べながらミトは先程から真剣に考えている。ミトは思い付いた物を色々と教えてくれたが、その殆どをアルベルトは見た事がなかった。この世界にはまだまだ知らない物が多い。それが驚きでもあり、嬉しくもあった。
夕飯の後、風呂に入って直ぐに、昼間はしゃぎすぎたミトは眠ってしまった。フェイは仕事を始めてしまい、アルベルトはミトの髪を撫でながらその姿を見詰める。顰めっ面の横顔にすら胸が大きく軋んでしまうなんて、いよいよおかしくなってしまったようだ。
そんな事に一人照れていると、ふと机の端にいつもフェイが飲んでいる酒瓶が置いてある事に気が付く。最近あまり酒に頼っている様子がなかっただけに、何かあったのではないかと勘繰ってしまう。アルベルトがミトを起こさないように起き上がると、フェイがその気配に視線を向けた。
「起こしたか」
小さく首を横に振るアルベルトに、フェイは左手を差し出す。導かれるようにその手を握ると、そのまま足の間に座らされ、包み込むようにフェイの腕が回された。首筋に落とされる暖かい唇の感触に、アルベルトは思わず息を呑み全身に力を入れる。気を抜けば、堕ちてしまいそうだ。
しかし、背中に額を押し付け、フェイは小さく呟いた。
「ごめん──」
その言葉に竦んだ心臓が、まるで握られたかのように痛んだ。何を謝る事があるのだろうかと気になってはいても、アルベルトはそれを聞く事が怖くて、どうしようもなく不安で、零れ落ちそうな涙を必死で耐えた。
アルベルトもフェイもその想いを言葉にはしない。だからこそ痛い程に感じ、そしてこう言う風に、少しずつすれ違って行く。
それからテバンへの一週間程の道程、フェイの態度は特に変わりないように思われた。アルベルトも、あの夜の『ごめん』の意味を意識的にもなるべく考えないようにした。フェイを失いたくない、その為なら何もかもを気付かないフリさえ出来る。アルベルトは何時しか、そう思うようになっていた。
やがて少し開けた山間に出ると、ミトが大きな叫び声をあげた。
「見て、凄いよ!」
その声に視線を向け、アルベルトもまた眼下に拡がった景色に思わず息を呑んだ。
高い山々に囲まれた広大な大地に根を張った、大国デバン。城下街ごと囲む高い城壁が描く六角形の中で犇く家々はどこか古の雰囲気が漂う白い石造りのものが多く、その隙間を走る赤煉瓦色の大通りで丁寧に縁取られている。その中心に堂々と聳え立つ城は、その大きな影を下方に投げかけていた。純白の城壁に施された精緻な細工の数々は、遥か遠くから望む事も計算されているかのように、見る者を圧倒する。その姿は、派手な物が嫌いなアルベルトでさえ、感動に心を奪われる程であった。これがレスティアの国、テバンの姿──。
「美しい」
思わずその言葉を口にするアルベルトの横で、フェイは少し寂し気に瞳を細めテバンを見下ろしていた。まるで、滅びた自国を偲ぶように。
山を下りきり踏み入れたテバンの街は、上から見た物とはまた違った美しさがあった。歴史を感じる古い家屋に混じり新しい建物も数多く見受けられ、だがそれは全て計算の元に建てられており、違和感よりも古に寄り添う事で、街並みこそがこの国の歴史の深さや栄華の象徴とされていた。街行く大勢の人の顔を見ても、誰もがこの国を愛している事が直ぐに分かる程で、だが穏やかに思えるこの国の人々も、きっと戦の意味を知っているのだろう。そう思うと、アルベルトは胸が詰まる思いである。
「良い国だ」
突然そう呟いたフェイに少し驚きはしたが、アルベルトも同じ気持ちであった。二人は顔を見合わせて笑う。どうしてだろう、それだけで、感じていた不安など何もかも吹き飛んでしまった。
城に到着すると、城門までレスティアがわざわざ三人を出迎えに来てくれていた。レスティアは相変わらずに美しく、気高い気品に満ちている。城に招き入れられて直ぐ、フェイとレスティアは何やら二人で話しをするらしく、アルベルトは会わせたい人がいると言われ、別の部屋に通された。先程見た余りにも似合いの二人の姿に、また少し胸の奥が灼けるように痛む。
その思いを隠し部屋で待っていると、一人の少女が扉から顔を覗かせた。レスティアに少し似てはいるが、強い彼女とはまるで違い、思わず守ってあげたくなるような儚気な美しい少女である。
「貴方がアル?」
小さく頷くと、少女は顔いっぱいに華を咲かせた。
「本当にお人形さんみたいだわ」
そう言って嬉しそうに近付く少女の方が、まるで品の良い貴族人形のようだ。
「貴女は?」
「私はファティル・テバン。レスティアの妹よ」
軽い自己紹介を終えるとファティルはアルベルトの髪に興味があるようで、しきりに髪を触っては驚いた顔を見せた。金髪が珍しいようだ。
ふとアルベルトはラブールに着いてから直ぐに髪を切られた事、そして今でも伸びるとミトが切ってくれて、そして売っている事を思い出す。フィリアではエルバントもそうだが、たまに民の中にも金髪の人はいたからそれ程珍しいものとは思っていなかっただけに、不思議である。
ぼんやりそんなファティルの行動を受け入れていると、急に畏まってアルベルトの対面に座った彼女は、何故か深く頭を下げたのだ。
「アル、我らデバンの民は貴方に深く感謝します」
「頭を上げて下さい!私は貴女に、デバンに何かした覚えは──」
慌てふためくアルベルトを制すよう、ファティルは顔を上げ小さく首を横に振る。その瞳には、レスティアと同じ。強く気高いデバンの王族としての誇りが煌めいていた。
「お父様が亡くなり女王になって二年、姉様はずっと永世和平国宣言を渋っていたの。新たな戦を生むのではないかと、毎日毎日その葛藤に苦しんでいる姿を私は見てきたわ。二人きりの姉妹なのにそんな姉様の力になれない事が悔しくて堪らなかった。けれど、姉様は貴方に出逢い変わったと言っていたわ。例え傷付け傷付いてでも愛する人を救いたいと願う貴方を見て、決断したそうよ。恐れずに進む、そんな簡単な事が、背負う物が大きければ大きい程に難しくなって行くのね。あなたは不思議な人。お人形さんみたいなのに誰よりも強くて優しい。誰もがそうありたいと望む王だわ」
アルベルトは自分はそんな立派な人間ではない、そう言いたかったけれど、何故かそれを言葉に出す事が出来なかった。
「皆が、私を支えてくれる。だから私は恐れずに進めたのです」
自分だけの力ではないと精一杯伝えたつもりだったが、ファティルは小さく微笑むだけであった。
それからアルベルトは充てがわれた部屋で、フェイをひたすらに待った。そして間も無く日を跨ごうかと言う頃、漸くレスティアとの話しを終え、フェイは酷く疲れた顔で部屋へと現れた。
「フェイ──」
心配し駆け寄るアルベルトを、フェイは何も言わずに掻き抱く。こう言う時のフェイは何かを覚悟した時だと察したアルベルトは、苦しい程強く抱かれた腕の中で静かに言葉を待つ。胸を伝うフェイの心音が気持ち早く感じ、アルベルトも自然と緊張してしまう。
長い沈黙の後に、フェイははっきりとした声で、アルベルトの耳元深くその胸の内を明かした。
「ラブールを、建国する」
「……本当に?」
それはフェイがまた一歩、過去の闇から抜け出した証であった。この世に生まれてより、これ程の悦びに出逢った事はない。アルベルトは歓喜に打ち震える心のまま、フェイの背に回した腕に力を込める。この心は間違えなかったのだ。フェイを救う事が出来たのだ。そう思うと、アルベルトの瞳からは涙が止め処なく溢れて行った。
こうして人買いの街と呼ばれたラブールは、一つの国として生まれ変わる事となった。豊かではない、広大な領地がある訳ではない、城すらもない、だが少しだけ不器用で、子供みたいな王様がいる。そんな愛すべき国となった。
二人の関係も相変わらずで、アルベルトは人目を忍んでフェイの腕の中で眠り、言葉には出さずともフェイの愛を全身に感じていた。やはり抱いてくれる事はないけれど、アルベルトは自分が我慢すれば済む事だと思っていた。ラフターはそんな二人にガキ臭いと散々悪態をついていたけれど、アルベルトはそんなプラトニックな愛し合い方も、自分達らしく思っていた。
そんな日々が二ヶ月過ぎ、ラブールにも初夏の匂いを感じるようになった頃。珍しく昼間フェイに呼ばれ部屋に行くと、いつも優しくアルベルトを迎えてくれるその顔は、まるでこの世の終わりを見てきたかのように青褪めていて、嫌な予感だけが胸を締め付ける。
そしてフェイの口から語られた現実は、小さな幸せを精一杯感じていたアルベルトにとっては、まさに地獄へと誘うかのような衝撃的なものだった。
「アル、落ち着いて聞いてくれ。遠方の仲間からの情報だが、フィリアで、王族狩りによって内乱が起きるそうだ」
「……え?」
「直ぐに出よう。俺も一緒に行くから、気をしっかり持て」
高い耳鳴りがフェイの声さえ攫って行く。身体中から一瞬で血の気が引き、アルベルトは途端に膝から崩れ落ちた。慌てて駆け寄るフェイの腕を縋るようにきつく掴み、震える唇を開く。
「エル……エルが!どうしよう、何で──」
アルベルトは完全に混乱していた。エルバントが殺されてしまう、それも愛するフィリアの民の手で。こんなにも残酷な事がこの世にあるだろうか。だがフェイは取り乱すアルベルトを強く抱き締めると、耳元で強くその心に言い聞かせた。
「しっかりしろ。お前はあの国の王だったのだろう?大丈夫、シンがいるんだ。お前が信じずしてどうする」
その言葉で漸く我に帰り、アルベルトはその足でフェイと共にラブールを発った。
寝ずに馬を飛ばして二日も過ぎた夜。オーラストを過ぎ去り、国境を渡る山へと踏み入れた頃の事だ。遠くの方から蹄の音が近付いてくる事に気付き、フェイは慌てて馬を止めた。二人の間に一気に緊張が走る。アルベルトを抱き竦めるように手綱を握るフェイの腕にも、微かに力がこもって行く。
だが闇の中二人の前に姿を現したものは、一頭の馬であった。
「あの馬は」
アルベルトはその姿に思わず小さな声を漏らした。
漆黒の鬣、深い色の瞳、背筋に一閃描かれた大きな傷、美しく気高い青毛の馬──それは紛れもなくシンの愛馬であった。
「馬作!」
「馬作だと?」
その名に勘付き驚きに目を丸くするフェイの腕から離れ、アルベルトは馬から飛び降りる。うまく着地出来ず二度三度と大地を転がりながりながらもアルベルトは夢中で馬作の元へと走った。不思議な事に、馬作はまるで二人を迎えに来たかのように足を止めている。
「馬作、おまえの主人はどうした!シンはどうしたのだ!」
喋れぬ馬に聞いても答えなど帰って来る筈はないが、それでも聞かずにはいられない。だが、馬作は一つ大きく鼻を鳴らすと、縋るアルベルトの瞳を真っ直ぐに見据えた。
「……なんだ?」
アルベルトはじっと馬作の瞳を見詰め返し、そして、この賢い馬が何故こうしてここに来たのかを理解した。それでも、信じられない。
「私を、その背に乗せてくれようと言うのか?」
嘗て馬作がアルベルトを拒絶した時、シンは立派な王となった時、その背に乗せてくれるだろうと言った。
「私は、もう王ではないのだ。それでも──」
老いた漆黒の双眸は、崇高な気高さを湛え煌めいている。
そっと、痩せた首に手を伸ばす。馬作はまるで跪くかのように、ゆっくりと両の前足を折った。老いて尚、馬作は自らの信念の元に生きている事を、アルベルトは思い知らされた。
「行こう」
アルベルトは溢れ出る涙を拭い、その背に跨った。嘗て感じた隆々と波打つ筋肉の感触は最早その痩せた背にはない。だが、地を蹴る蹄の力強さは、嘗て大国リーハ最強と謳われた男の息子に与えられし馬のそれであった。
エルバント、シン、フィリアの民よ、どうか無事で──そう強く祈りながら、アルベルトはまるで齢十七を迎えたとは思えぬ程に力強く地を蹴る青毛の馬の背に身を預け、闇夜の山路を駆けた。
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