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二十一章 太陽の時限
しおりを挟む建国宣言から早くも二ヶ月が経った。今日もまた、重い微睡みが蹴り飛ばされるように散って行く。
「兄様、散歩に行こう!」
二人の部屋へと突撃して来たエルバントは、会えなかった時間を埋めるかの様にこうして日々フェイの腕の中で眠る兄を迎えにくるのだ。フィリアの民は朝が早くて敵わない。建国間もない今は、まだ夜中まで机に向かっていなければならないほど忙しいと言うのに──。
「うるせえ糞ガキ!」
二人が起き上がるまで続くエルバントの兄様攻撃に耐え兼ねたフェイが思わず怒声を上げると、微睡んでいたアルベルトが弾かれるように飛び起きた。
「フェイ……!ごめん、直ぐに行くよ!」
フェイがベッドに入るまで眠らないアルベルトは、同じく睡眠不足の筈だが、そんな弟の態度が嬉しいのかいつもこんな調子である。今迄フェイの側にいる時は邪魔臭い位自分からは離れなかった癖に。そう胸の内で愚痴りながら、フェイは一人になった部屋でもう一度布団を被る。
アルベルトの好きにさせてやりたい、思うようにさせてやりたい。勿論そう思っていてもやはり、エルバントの側にはいつでもシンがいる。アルベルトの初恋の人であり、そしてまた、彼がずっと想い続けていたシンが──そんな事を考えていれば二度寝など出来る筈もなく、フェイは仕方がなしに起き上がり皆が集まる部屋へと足を運んだ。
「兄貴、何か顔が疲れてるね」
扉を開けて開口一番、ミトは怪訝に眉を顰めそう呟いた。
「弟に取られてご立腹なんだよ」
フェイの鋭い睨みにもラフターは白々しく新聞に視線を落としている。
「兄貴もついに嫉妬ですか。良いですねえ、若い若い」
ルーイに至ってはそう言ってニヤけ面を向けた。その背中に蹴りを入れると、ルーイは慌てて逃げ惑う。
三人の態度はフェイが王になってからも以前と変わる事はなく、それはフェイにとって喜ばしい事であった。長年共にしてきた仲間達は、誰よりもフェイの心を分かってくれていたようだ。そんな事もアルベルトに会わなければ気付かなかったと思うと、本当にアルベルトには感謝してもし切れない思いである。
そして最近では王となって城に入ったアルベルトの代わりに、フィリアの民が奴隷達の面倒を一切見るようになり、差別意識のまるでないフィリアの人々に最初は酷く戸惑っていた奴隷達も、徐々に懐柔して行っている。アルベルト一人にその重荷を背負わせる事がなくなり、大分フェイの心も穏やかになった──筈だ。そして毎日毎日一緒にいるようになり、変に頑固な所も、強がりな所も、フェイにだけは遠慮がちに甘えた姿を見せてくれる所も、全てに益々溺れて行く気がしていた。何故あんなにも愛おしく思えるのだろう。
「おい、フェイ。口元が緩んでいるぞ」
浸りきっていたフェイは、ラフターの突然の言葉に慌てて顔を引き締める。気付けばミトも既に馬に餌をやりに行っていた。
「あの仲良し兄弟は栗拾い行くと言っていたぞ。あの色男を連れて」
相変わらず新聞に視線を落としながら、何処か愉しげにラフターは呟く。
「……嫌な奴」
そう吐き捨てて、フェイも部屋を後にした。
国を真っ直ぐに突っ切り、三人がよく行く山の麓に向かう。二ヶ月前、シンは家臣として城に入る事を断った。シンが側にいる事がフェイにとってもアルベルトにとっても大きな支えとなる。そう思っていたけれど、頭が良く、思考の成熟したシンは、フェイが変に不安になる事危惧したのか、それともエルバントが嫌がるのか──そのどちらかも知れないが。
そんな事を考えているうちに、楽し気な笑い声が耳に届くようになった。栗の大木の下で無邪気に栗を集める二人の傍でシンは穏やかに本の頁を捲っている。
ふとその漆黒の瞳が思わず立ち尽くしていたフェイを捉えた。
「おはようございます、フェイ様」
「楽しそうだな」
小さく微笑み、シンはアルベルトを呼んだ。フェイを見付けて慌てて走り寄る姿はまるで仔犬のようで、その瞳の輝きは不思議といつまで経っても変わらない。
「フェイ、見てくれ!」
アルベルトは満面の笑みでカゴ一杯の栗をフェイに見せてくれた。
「あ……もう、時間か?」
瞳を潤ませてフェイを見詰めるアルベルトに、また少し苛立つ。睡眠を削る程公務が詰まっているのだし、こんな所で遊んでいる場合ではない。だが、どうしてか非情にはなれない。
「もう少しだけなら大丈夫だ」
不本意な言葉を素直に受け取りエルバントの元へと戻る背中を見送って、フェイはシンの横に腰を下ろした。
「本当に仲が良いな」
「ファン様が生きておられたなら、貴方もアル様のようだったと思いますよ」
そうかもしれないとフェイは幼いままの妹を想う。途端に息が詰まるような心地がした。幼いながらに想い合っていたシンとファン。愚かな王の所為で引き裂かれてしまった二人。
「俺の所為で……すまなかった」
それはフェイがずっとシンに言いたくて、それでも言えなかった言葉。ふと空を仰いだシンの横顔に、思わず目頭が熱くなる。儚気な瞳は、ただ未来だけを見詰めていた。
「ファン様は、私の幸せを死の目前に願って下さった。貴方のように、王族としての気高い誇りを胸に。だからこそ私は、エルを精一杯愛してやりたい。心の底から、空に向けて幸福を叫んでいたいのです」
真面目なこの男は未だに、小さい王女の願いを叶えようとしている。だがファンの死を乗り越え、最早王と家臣と言う間柄ではなくなった二人は、いつ見ても幸せそうに微笑み合っていた。
「おまえらは順調なのだな」
フェイの言葉に、シンは小さく笑う。
「いいえ、そうでもありませんよ。エルは相変わらずにわがままで、それでいて嫉妬深いですからね。たまに放り投げたくもなりますけれど、それでもやはり、あの笑顔を見ると愛おしさだけが溢れてしまうものです」
幸せそうに見える二人は見えない所でぶつかっている。そう思うと、フェイ達の関係は平和である。
「喧嘩か」
最近は喧嘩など全くしなくなった。昔は何をするにも売り言葉に買い言葉で、互いに顔を見るだけで腹が立っていたのに、今では大切に思いすぎて何も言えずにいる。
「フェイ様もアル様も、もう少しわがままになったらどうですか?」
穏やかなシンの言葉にフェイの胸は痛む。
アルベルトは今でも首筋に触れるだけできつく瞼を閉じて身体を強張らせる。そのさまがどうしようもなくフェイを苦しくさせていた。アルベルトにとって、人に抱かれるという事は、ある種トラウマとなってしまったのだとフェイは思い込んでいた。そんなアルベルトを自分勝手に抱く事は出来ない。傷付けたものはフェイで、自分さえ我慢すれば良い。そう言い聞かせていつも自分を抑え込む。もう二年、よく耐えているとは自分でも思う程であった。
黙り込んだフェイに、シンは優しく声を掛ける。
「フェイ様。例えどれ程に想い合っていても、言葉にしなければ分からない事もあります。所詮私達は他人なのですから」
小さく微笑んだ顔は、まるで何もかもを知っているようだった。
そんな緩い時間を過ごしているうちに、本当にそろそろ城に戻らなくてはならない時間となった。
「それじゃあ、俺はもう行く。たまには城に寄れよ」
アルベルトを呼び、二人の元を後にする。手に持ったカゴを嬉しそうに眺める横顔に思わずフェイの頬が緩む。
もう二十二歳になるにも関わらず、いつまでたってもアルベルトは子供のように純真だ。だからこそ余計に、穢したくはないのかもしれない。たまにどうしようもなく誘うような瞳を投げ掛けてくるが、フェイはそれも気のせいだと思う事にした。
「私は、今が一番幸せな時なのかもしれない」
突然、アルベルトはポツリと呟いた。しかしその横顔はどこか寂しそうに見える。けれど何故か、フェイはそれに触れられなかった。
本当はフェイもずっと前から気付いていた。アルベルトは何かを隠している。自分に対して言いたい事がある筈だ。直感でしかないけれど、そんな気が何時もしていた。それでも怖かったのだ。傷付けてしまう気がして、また、苦しめてしまう気がして。傷付け合い憎み合ったからこそ、二人は愛し合う事に臆病になっていた。シンの言葉の意味にも気付くのが遅れてしまう。ほんの少しの言葉を交わすだけでこの不安が消える事も、知らなかった。
城に戻ると、ミトが入口で待ち構えていた。
「二人共遅いよ!もう来てるんだからね!」
手を取り走り出すミトに、二人して慌てて着いていくと客間ではレスティアが待っていた。
「久しぶりだな二人共。建国おめでとう」
「ありがとう。貴女には本当に感謝してもし切れません」
そう言って頭を下げたアルベルトにつられ、フェイも深く頭を下げる。ラブールにとっても、アルベルト自身にとっても、レスティアは本当に恩人である。だがその行いを呼んだものはアルベルト自身であるとは、本人は絶対認めないのだろう。
一頻り挨拶を終え、一行は揃って席に着いた。
「しかし二人の王とは驚いたよ。だが二人ならばきっと、素晴らしい国になる」
そう言ってレスティアは楽しそうに笑った。
「和平宣言……したのだな」
「ああ、これからが大変だ。だがフェイ、私はね、その時が来たら剣を持たず、私のやり方で戦うよ。守る事の意味を教えてくれた者はおまえだ。おまえの抱えた思いも、リーハの犠牲も、決して無駄にはしない」
レスティアは強く美しく、そして素晴らしい女王だ。それに比べ自身のした事はあまりにも愚かで許される事のない罪だが、こうして未来へと繋がっていった。そう思えばこそ、フェイは少しだけ、救われた気がした。
皆が泊まって行けと言ってもレスティアは聞かず、足早にラブールを発った。大国テバンの女王だ、忙しいのだろう。
フェイはふと思い出す。苦しめて来た、それだけだと思っていたのに、リーハの民は皆最期の時を笑顔で迎えてくれた。それを思うと悲しくて切なくて、どうしようもない愛しさが溢れ、思わず泣いてしまいそうになる。
「……フェイ?」
優しく頬を撫でる手を取って、細い身体を思い切り抱き締めた。フェイが弱る時は何時だってアルベルトが隣にいてくれる。それが何よりも、心強くて、そして深い安堵を与えてくれる。アルベルトにとって自身は、そんな存在になれているだろうか。シンの側にいるようになって、その心が揺れる事は無いのだろうか。最近フェイを悩ませるその憂いに、フェイは人知れず心を病んで行く。
それから暫く何事もなく日々が過ぎて行った。アルベルトとフェイの関係も相変わらずだし、強いて言えば、フェイが何故か酷くシンを意識するようになった位だ。わざとなのか、最近シンとアルベルトの距離が異様に近い。昔想い合っていて無理矢理に引き離された二人だ。再び互いに想いが芽生えたとして不思議ではないのだけれど。
秋が終わり、冬の寒さがラブールを包む。山の麓にあるこの地には、早くも連日雪が降り注ぎ、世界を全て白銀に染めた。
今日も朝早くから弟と出掛けたアルベルトを迎えに、フェイは一人丘へと向かう。やがてはしゃぐ声が耳に届き三人の姿が視界に入る。雪合戦をしていたのか、アルベルトの髪には白い雪が疎らに張り付いていた。柔らかい金色の髪に手を伸ばすシン。照れたように笑うアルベルトを見て、フェイは一人、城へと戻った。
今日は酷く冷える。歩く度に吐く息が後ろへと消える様子も何と無く寂しい物に思えて小さく震えた。それでもどうしようもなく、胸の奥が熱く痛む。アルベルトが幸せになれるのならば構わない。自分に言い聞かせてはみても、息が詰まり思わず泣きたくなった。
城に帰ると直ぐにルーイと各地から送られた戦の情報に目を通す。各地から寄せられた沢山の書類、近々起こると予想される戦の数に思わず揃って溜息を漏らした。
「やっぱりテバンの影響はでかいですね。まあホワイトタグが集まるんで良いですけど……やっぱ戦は嫌なもんですね」
「そうだな」
フェイ達の仕事はあまり変わらない。逃げ出した奴隷を集め、独り立ち出来るようにここで育てる。アルベルトには国民との繋がりを主に任せている。要望書だったり、奴隷達の様子は一任しているし、アルベルトにはそう言う方が向いている。適材適所ではあるが、フェイ自身アルベルトに戦を触れさせる事を避けていた。
テバンの友好国であるラブールに手を出して来る者もいない。アルベルトが傷付き歩み続けた犠牲の上に、この国の平和がある。それを知る者はあまりいないけれど、フェイだけは知っている。フェイ自身、それで良い気がしていた。
ふとこれ以上余計な事を考えるのはやめようと、フェイは集中して仕事を進めた。
暫くの後慌てて帰って来たアルベルトは、フェイの顔色を伺うように少し不安気な瞳を向けた。
「楽しかったか?」
フェイが優しく笑いかけた事が予想外だったのか、アルベルトはそれでも不安を隠せずにいる。
「フェイ、何で──」
「ミトが随分と待っているぞ」
言葉を遮るように言うと、アルベルトは渋々部屋を後にした。普通に出来た、そう思っていたのに、ルーイはフェイの顔を訝し気に見詰めていた。
「兄貴、何ですかその引き攣った笑顔」
「……手を動かせ」
フェイ自身ショックであった。これ程に心が乱されている自分に。だから嫌だったのだ。心を開く事も、誰かを愛する事も。失う事が酷く、恐ろしくなるから。それに耐え切れるほど、強くはないから。
その日はあまりにも自分が不甲斐なくて、フェイの口からは溜息が止まらず、アルベルトの顔さえも見れなくて、そんな自分に更に嫌気がさしていた。夜、机に向かうフェイをいつものようにアルベルトはベッドでただ見詰めている。先に寝ていれば良いのに習慣なのだろうか。しかも今日はいつにも増して何か言いた気だ。
いつもと変わらない沈黙さえ苦痛で、フェイは諦めて仕事を切り上げその枕元に腰を下ろす。不安気に見上げるアルベルトの髪に緩く指を通し、そして逃げるように覚悟を決めた。
「おまえがシンの事を好きなら別に俺に義理立てする必要はない。何時でもおまえは他人の事ばかりだから、せめてこんな事ぐらい──」
「それは本心か?」
言い終わらないうちにアルベルトはフェイの手を払い鋭く睨み付けた。本心かと聞かれると本心ではある。そう思いフェイが小さく頷いたのと、右の横っ面に鈍い痛みが走ったのは殆ど同時であった。
「痛……え?」
フェイは一瞬何が起こったかまるで分からなかった。驚いてアルベルトに視線を戻し、思わず息を呑む。大きな瞳一杯に涙を溜め、それでも泣くまいと必死に耐える姿は、あまりにも痛々しいものだ。
「どうしたら、信じてくれる?私はどうしたら、フェイに本当の意味で愛されるのだ?」
「何を、言っている」
またアルベルトの事を傷付けたのだろうか。フェイにはよく分からないが、どうにかしたくて伸ばした手は思いっきり振り払われ、その拍子に零れ落ちた涙を慌てて拭うと、アルベルトは真っ直ぐにフェイを見据えた。
「傷付けたくなくて、言わなかった。けれどもう限界だ。どうして、私を抱いてはくれない?」
「……は?待て、何を──」
一体何でこんなによく分からない事になっているのだと、そう混乱するフェイの事などそっちのけで、アルベルトは後から後から溢れる涙で声を震わせた。
「皆に言われた。本当に愛されているのなら、二年も手を出さない事はおかしいって」
一体誰にそんな恥ずかしい事を聞いたのだろう。
「俺は、お前が怖いのかと思って──」
そう言ってフェイはふと気付く。
嗚呼、そう言う事だったのか。二人は互いを大切に想いすぎて、言葉で確認しないで勝手に決め付けて、そしてすれ違っていた。アルベルトはフェイを、フェイはアルベルトを、過去の記憶の所為で苦しめたくなくて、我慢し合っていた。そう思うと思わずフェイは吹き出した。
笑い出したフェイを見て少し驚いていたが、直ぐに気付いたアルベルトもつられて笑った。皆が教えてくれていたのに、その真意にすら気付けないなんて、何と愚かだったか。それでもその時間は、ふたりにとって無駄ではなかった。
「もう、我慢しなくて良いんだな?」
聞くまでもない。それでも今日は不思議と、何でも言葉にしないと気が済まなかった。アルベルトはその問いの意味に気付くや、頬を朱に染めながらも頷いた。
首筋に唇を押し当てるだけでもアルベルトは過敏に腰を浮かす。どれだけ耐えさせたのだろうと申し訳なく思う反面、そんな反応が嬉しくもあった。だが久しぶりだからなるべくゆっくりと進めてやりたい、そんなフェイの思いやりなんか知るはずもなく、アルベルトは服の袖を掴むと潤んだ瞳を投げ掛けた。
「フェイ、もう、早く」
「三年ぐらい使っていないんだから、急にしたら痛いだろう」
フェイは諭すように言ってはみたけれど、予想外にアルベルトは小さく首を振った。
「それでも、いい」
何がそれ程彼を焦らせているのだろう。その不安に、フェイは眉を顰めた。
「何か不安か?」
「違う……早く、フェイを感じたいだけ」
フェイは思わず呆れにも似た虚脱感を覚え、だが同時に、ギリギリで保っていた理性の箍は破壊された。そんな事言われて理性を保てる程、フェイとて人間が出来ている訳ではない。深く口付けて、汗ばむ素肌に触れる。後はもう、本能の赴くままであった。
黒札としての評価は誰に聞いても最低だった筈のアルベルト。それがまるで嘘のように、フェイの腕の中で初めて感じる快感に戸惑いながらも必死に声を抑え、痛みすら貪欲に感じる姿は、美しくも妖艶で、一体どこで覚えて来たのだか、それが本能なのだか、よく分からないけれど、男を煽るものでしかない。
「お前……乱れ過ぎなんだよ」
思わずそう漏らしたフェイの言葉に我に帰ったのか、慌てて口を抑え、耳まで真っ赤に染める様子が先程までの姿とあまりにも落差がありすぎる。真っ白なものを汚して行くような、そんな背徳心すらフェイを追い詰めた。
抗う事さえ出来ない快感に溺れ、それでもフェイの名前を必死に呼び続けるアルベルト。もっと乱したくて、もっと求めて欲しくて、フェイはしつこい程に追い詰める。そんな中でふと昔の記憶が過って行く。
初めてアルベルトを抱いた時、その心には嫌悪感と罪悪感しかなかった。互いが憎み合いながら仕事として肌を重ね続けて傷付けあってきた。唇を噛み締めて耐える姿が幼い日の自分を見ているようで、フェイは必死に心を閉じ、互いに快楽などとは程遠い本当に作業的に繰り返して来た行為。ずっと、何の意味もないと思っていた。
だが二人はきっと、長い長い遠回りの末に、今愛し合う事を知ったのだ。
山の向こう側から昇る朝日が金色の髪を一際眩く輝かせた。フェイは悦びの涙で腫れた瞼にそっと唇を落とし、白い肌に咲かせた華を一つ一つなぞる。アルベルト自らがいくら否定しようが、アルベルトは誰よりも、そして何よりも美しい青年である。
生きとし生けるものにはいつか必ず別れが訪れる。そんな自然の摂理さえ忘れ、まるで永遠を手にしたかのような幸せな夜明けであった──。
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