King of the slave

鴻上縞

文字の大きさ
23 / 24

二十二章 永遠

しおりを挟む

 アルベルトはその日、あまりにも幸せな夢を見た。笑われると思うから誰にも言わないけれど、年老いたアルベルトとフェイが手を繋いでこの国を見下ろす夢。きっと五十年後位の夢なのだろう。二人共に王の座を退いて、死んでしまった後の事のようだ。ふわふわの雲の上から幸せが続くこの国を微笑みを浮かべて見詰めるだけ。そんな夢だが、アルベルトにとっては何よりも幸せな夢であった。

 重い瞼がを開くと、目の前に疲れて眠るフェイの顔があった。昨日一体何度愛し合っただろうか。思い出すだけで顔が火照ってしまう。それでも生きてきた中で一番、幸せな時間だった。
 フェイが好きだ。今迄よりももっともっと好きになってしまった。あんなフェイ誰にも見せたくない。もう自分以外を見て欲しくない。こんな事を言ったら、困らせてしまうだろうか。だがそれも良いものかも知れない。アルベルトの胸にはそんな思いさえ湧き上がる程だ。アルベルトは飽きもせずに、ずっとその穏やかな寝顔を見詰めていた。

 廊下が騒がしくなって来た頃、漸くフェイは目を覚ました。
「おはよう」
 アルベルトがそう小さく声を掛けたのに、フェイは再び瞼を閉じてしまった。それと同時に扉が開かれた。顔を覗かせた者は、いつものようにエルバントである。
「あ、成功してる!皆、早く早く!」
 成功とは何の事だろうと、アルベルトが呆然としている隙に我先にと皆が部屋に雪崩れ込んだ。
「な、何事だ?」
 エルバントにシン、ラフターにルーイ、ついでにミトまで勢揃いである。
「本当だ。随分長い事かけやがって。今日は祝いだな」
「兄貴、意外と激しいんですね」
「シンもご苦労様!」
「中々手強かったな、エル」 
 皆口々に好きな事を喋りすぎて、一向に状況が把握出来ないアルベルトの側にミトが満面の笑みで走り寄って来た。
「良かったね、わんこ!とりあえず服着たら?寒くない?」
 服──その言葉に自身を見詰めなおし、アルベルトの頬が燃える。
「あ、ちっ違う!これは違う!」
「兄様、おめでとう」
 慌てふためくアルベルトに、そう言ってエルバントは優しく笑いかけてくれた。何と言うか恥ずかしい。恥ずかしいけれど皆が何故か祝福してくれて、よく分からないけれど喜びだけがアルベルトの胸に満ちる。
 二人はこの国の王であり、男同士なのに愛し合ってしまった。故に子孫を残す事は出来ない。結果血族を王とするのではなくて、この国の民の中から次代の王を選ぶ事となるだろう。それでもこんな小さな悩みが解消されて総出で喜んでくれる人々。それを思うと、何時でも前代未聞の事を繰り返すこの国らしく思えた。
 漸く野次馬が部屋を出て行くと、フェイはバツが悪そうに起き上がって来た。どうやら寝たフリを決め込んでいたようだ。
「……何なんだ」
「皆喜んでくれていたよ。良かったな、フェイ」
 そう言うアルベルトに、フェイは小さくバカと囁いた。

 その日、長い間二人を優しく見守ってきた仲間達がささやかな祝いの席を設けてくれた。フェイは終始不機嫌だったけれど、照れているだけだという事は周知の事実。誰もがそんなフェイにすら、優しい眼差しを向けていた。
 エルバントが教えてくれた、愛し合う事の大切さ。それをエルバントに教えてくれたものは、きっとシンなのだろう。シンに感謝しなければならないのかもしれないと、アルベルトは胸の奥で思う。この手で傷付けて来た二人だからこそ、これからの人生を誰より幸せに生きて欲しい。シンとエルバントを見て、アルベルトはいつもそんな事を願う。そんな小さな事すらフェイに会わなければ分からなかったのだろう。
 皆に祝福されて、幸せを噛み締めて、フェイに抱かれて喜びの涙を流す。国を出なければきっと、一生感じる事の出来ない気持ち。たくさんの涙を呑んで苦しみに、悲しみに溺れ生き抜いた日々。その先でアルベルトとフェイは、確かにその日、永遠を手に入れた。

 だが別れの時は、静かに忍び寄っていた──。

 やがてラブールに初めての春が訪れた。暖かい陽射しが雪解けを呼んで、山の動物達も競い合うように歌う。アルベルトの大好きな始まりの季節だ。そして二人の周りにも、少しだけ変化があった。
「フェイ、何を意地張っているのだ。早くしないと行ってしまう」
 アルベルトは椅子から立ち上がろうとしないフェイを無理矢理に立たせ、強引に手を引く。フェイは俯いたまま、だが力なく歩き出した。
 今日、ルーイが本国を離れ昔ラブールのあった土地へと旅立つのだ。そこに残して来た恋人とこの度結婚する事となり、お腹にいる赤子の為に向こうで暮らすそうだ。これが永遠の別れではないけれど、人買いの街を作った時から苦楽を共に過ごしてきたフェイは、どうしようもなく寂しいようだ。
 何とか椅子からは動かせたものの部屋を出る直前でフェイはまた立ち止まってしまった。
「フェイがそんな顔をしていたら、ルーイだってすっきり旅立てないだろう」
「……分かってる」
 アルベルトが子供をあやすように髪を撫でると漸く、フェイは顔を上げ小さく笑ってみせた。
「泣いたって良いのだからな?」
 アルベルトは本気で言ったのに、フェイは機嫌を損ね睨み付ける。その顔に、初めて会った日の事を想う。
 フィリアを離れ、初めてアルベルトが野蛮人として認識したルーイ。フェイの話しだと元いた国で職にあぶれ、フラリとラブールに流れ込み、そのままフェイの右腕として十年近く働いて来たそうだ。そんなルーイの新たな人生への一歩を、フェイも笑顔で送り出してやりたいのだろう。
 だが城の前で二人を待っていたルーイは、フェイの姿を見付けるとその瞳から涙を溢れさせた。
「お世話になりました!」
 そのあまりの泣っぷりに皆思わず笑ってしまう程であった。
「一週間程度の距離だろ。大袈裟なんだよ」
 そう言うフェイも少しだけ涙に誘われている。

 そして出発の時。さっきの大泣きが嘘のように、ルーイの顔は晴々としていた。
「それじゃあ、皆元気で」
「たまには子供の顔を見せに来てね!」
 ミトも精一杯笑ってはいるが少しだけ寂しそうに見える。アルベルトはそんなミトの髪を撫でて、手を振る。ルーイもまたそれに応えるように大きく手を振り、本国を離れて行った。
 口が悪く乱暴者としか思っていなかったが、共に過ごし、その男を知って行くうちに、アルベルトも少しずつルーイを好きになれた。開けっぴろげで、大雑把で、だがフェイの事を想う、根は優しい男であった。どうかルーイの子が無事に産まれますように──小さくなる背中を見詰め、誰もがそう願った。
 ルーイの代わりはシンが城へと入る事になり、仕事が早く片付くとフェイは喜んでいたが、それでもやはりふと寂しそうな顔をする。出会い、別れ、人はそれを繰り返し生きて行く。その度に喜んだり悲しんだり、いつまで経っても慣れないものだ。

 それから暫くして、アルベルトは少しフェイに相談があって部屋を訪れると、二人は何やら難しい顔をして話しこんでいた。仕事中のフェイは今でも近付きずらい。自分と違い色んな顔を持っていて、それがアルベルトは少し羨ましくもある。
 ぼんやりその横顔を見詰めていると気付いたフェイが驚いたようにアルベルトに視線を向けた。
「どうした」
「いや、後でも良いのだけれど」
 そうか、と言って再び書類に目を落としたフェイをシンが優しく制す。
「丁度煮詰まって来ていたので休憩にしましょう。私は少し外の空気を吸ってきます」
 そう言ってシンが部屋を出て行くと直ぐにフェイは大きく伸びをして、徐に机に足を投げた。
「ああ、窮屈だよ本当。机に足乗せるなとか机に座るなとか……。シンは何時まで経っても俺をガキだと思っているんだ」
 指先で器用に煙草を巻きながらそうぼやく顔は、面倒臭そうだがどこか嬉しそうで、アルベルトはついつい笑ってしまった。
「……で、何かあったのか?」
 少しムッとした顔に、アルベルトは慌てて顔を引き締める。
「最近奴隷達の小屋が手狭になって来ていて風邪も流行っているようだし、これ以上増えるようだと厳しい。今後もこのペースで増えるのか?」
 フェイは少し考えてから、何枚かの書類をアルベルトに見せた。
「こっちが今現在戦が行われている国で、これが今後戦になるであろう国だ」
 ズラリと並ぶ聞いた事のない国名。こんなにも争っている国がある事をアルベルトは知らず、そしてそれは今後も奴隷達は増えて行く、そう意味する物だ。今尚戦によって尊い命が失われていると思うと、胸の奥が酷く痛んだ。
「では急ぎ小屋の増設をしなくてはね……」
「頼むな」
 そう言って軽く頭を撫でられ、アルベルトは思わず泣いてしまいそうになる。それを悟られないように、足早に部屋を後にした。
 私欲の為に、国を守る為に領土を広げ争い続ける時代。テバンの影でなりを潜めていた国々は、我先にと小国から狙って行った。だがテバンの影響は何も悪い事だけではなかった。レスティアは絶えず戦の意味を訴え続け、そして少しずつ世界は変わり始めていた。国を守る為に永世和平国宣言をし、ラブールに続けとテバンの友好国となる国も多いと、そうフェイはアルベルトに教えてくれた。ラブールの建国。それは未来へと道を繋ぐ、とても意味のあるもののように思えた。

 時は流れラブール建国一周年の祝いも終わり、季節はこの辺りでは一番過ごしやすい秋を迎えていた。相変わらずにラブールは平和で、そして皆それぞれ小さな悩みを抱えながらも幸せを噛み締めて生きていた。
 その日は素晴らしい秋晴れで、朝早くから紅葉を見に行こうと言ったエルバントの誘いを断り、アルベルトは城の中にある診察室へと向かっていた。扉を開くとラフターは手元の書類を見詰めながらぼんやりとしていた。この男のこんな姿は珍しい。けれどアルベルトには、その理由が何と無く分かっていた。
「ラフターがぼんやりとするなんて、珍しいな」
 アルベルトの声に、その手元が微かに跳ねる。ラフターはアルベルトが入って来た事にさえ気付かなかったようだ。
「ああ、すまん」
 手元の紙を自然と裏返す、いつもは何でもないその仕草にすら、アルベルトの心臓は大きく鳴った。
「……まあ、茶でも飲むか?」
 アルベルトが小さく頷くとラフターは他国から取り寄せた黄金色の茶を入れてくれた。
「これ、フェイの故郷の近くの物でな。少し苦味は強いが旨い。癖になるぞ」
 そう言って微笑む顔は、とても穏やかだった。その横顔に、アルベルトは死を望んだ時、優しく諭してくれた事を思い出す。あの時抗う事なく死んでいたらと思うと、恐ろしかった。
 暫く黙ったまま二人で茶の味を味わっていると、ラフターは突然ポツリと呟いた。
「……妻を、救えなかったんだ」
 ラフターの懺悔を悟り、アルベルトはただその言葉の先を待つ。
「妻は、幼馴染でな、笑うと笑窪の出来る、良い女だった。だが、胸を病んでいた。俺は医者なのに、最も大切な人を救えなかった。生きている価値も無いと思ったよ。だけどあの日、フェイに会わずに死んでいたら、こんな日々には出会えなかった」
 何度も何度も言葉に詰まり、ラフターはそれでもアルベルトにそう伝えた。
「私も、同じ事を考えていたよ」
 優しく微笑みかけると少しだけ、ラフターは苦し気に顔を歪ませる。その心を汲んで、アルベルトは言葉を投げた。
「私は、もう、治らないのだろう?」
 ラフターが咄嗟に息を呑む。それが、答えだ。
 アルベルト自身、少し前から異変には気付いていた。突然襲う胸の痛み、割れるような頭痛と吐き気。これは父と同じ病。今の医学では手に負えない、死の病。
「……すまない」
 そう言って、ラフターはその瞳から涙を溢れさせた。その時、アルベルトは初めてラフターの涙を見た。何時でも冷静で、そして的確に物事を見据えていて、丸眼鏡の向こうで気怠気に瞳を細め、何事にも無関心を装いながら誰よりもフェイの心を案じていた優しい男。そして、アルベルトの命を想い涙してくれる、暖かい人。それも、生きていなければ分からなかった事だ。
 アルベルトは敬愛を込め、ラフターに微笑んでみせる。
「ラフター、お願いがある。どうかこの事は誰にも秘密にしてはくれないか。フェイにも」
 ラフターは力なく頷いてくれた。

 診察室を後にして、アルベルトは一人国を見渡せる丘へと上る。ラフターの前では気丈に振舞っていたのに、ジャックの墓の前に腰を下ろした途端、涙を耐える事が出来なくなった。
 死にたくない──自分がいなくなったらフェイはどうなるのだ。また暗い道に身を沈めてしまう。アルベルトはそれがどうしようもなく怖かった。どうして別れの時がくる事を知りながら、側にいるなどと無責任な事を言って、幸せの先に待つ絶望を忘れ、あの男を愛してしまったのだろう。そう悔いて、ふと気付く。これが罰なのだろうか。フィリアの民を苦しめ、そして救える筈だった人々の手を、離してしまった罰。あまりにも惨い。だがそれこそが、自身の犯して来た罪の重さなのだろう。
 どれだけ泣いても涙が枯れる事は無くて、心地良い筈の秋の優しい風すら、小さく震える程に嫌な物だった。多分、この身は次の夏を迎える事は出来ないだろう。愛する者を失う悲しみ、幾度となく味わって来たその痛みを、フェイにはもう味わって欲しくない。だからせめて憎まれてから死のう。そうしたらきっと、悲しみも薄れるだろうから。アルベルトはそう胸の奥で決意を固めた。バカな考えだと少し考えたら分かる事だけれど、その時のアルベルトにはそれが最善に思えた。

 その日からアルベルトは何とか嫌われようと躍起になった。けれどどうしたら嫌われるのかいまいちよく分からず、寝る時に背中を向けてみても、後ろから抱き締められて特に意味はなかった。それどころか背中越しに感じるフェイの温もりに、ただただ別れが辛くて、緩やかな寝息を聞きながら声を殺して泣いた。
 命のある限り側にいたい。けれどそれはアルベルトの願いであって、アルベルトのいなくなった世界に残されるフェイにとっては、死んで行くアルベルトを想い続ける事は苦しみでしかない。分かってはいるのに、離れる事が出来ない。求められれば応じてしまうし、残り少ない命だと思うとアルベルトも縋るようにフェイを求めた。そうやって流されてしまう自分が情けなくて後ろめたくて、段々と目を見る事さえ出来なくなって行った。それでもフェイは普段と特に変わった様子は無かった。気付いてない訳はない。そんな事も分かり切っているのに、考えないようにした。
 アルベルトは唯々怖かったのだ。再びフェイが一人になってしまう事も、自分の死を受け入れる事も。そんな考えが愚かであったと、それに気付く時は、やはり最期の時なのだろう。

 それから暫く。徐々にフェイを避けるアルベルトの態度に、皆薄々何かを感じていたらしく、ミトがしきりに喧嘩をしたのか心配してくれた。国を出てからアルベルトの心の支えであった少年。奴隷として生きて来たからなのか、身体の成長は普通の人より少し遅いが、それでも出会った頃より随分と身長も伸び、噂では最近可愛い恋人が出来たらしい。子供だったミトが大人になって行く。アルベルトにはその成長を見届ける事は叶わない。そして本当の兄のように慕ってくれたミトを、酷く悲しませてしまう事だろう。ひっそりとこの国を発つ事が出来たら──それもまた、残酷。
 そうやって一人死を待つ日々はとても心細くて、今迄感じた事のない程に、心が恐怖と悲しみに支配されて行く絶望を感じた。

 そんなある日だった。朝早く迎えに来たエルバントと共に、アルベルトは山に栗拾いに向かった。こうして兄弟揃って出掛ける事もなくなるのだろう。死の直前父は立つ事すらままならなくなっていたから。父と違い若いとはいえ、自分も同じように寝たきりになってしまうのだろう。誰にも迷惑はかけたくないが──。
「兄様、聞いてる?」
 深い思念に潜り込んでいたアルベルトは、不意に肩を叩かれ我に帰る。
「え、あ、ごめん……何だっけ?」
「最近ぼーっとしてるね。何かあるなら言ってね。僕はずっと兄様の味方なんだから」
 エルバントは呆れたようにそう言ってくれた。すれ違った過去があったから、二人は何でも言い合って来た。ラブール建国以来昔のように仲の良い兄弟に戻れたのだ。それでも言えない。父と同じ病で最後の家族を失うなんて、エルバントはどれだけ悲しむだろうか。
 アルベルトがぼんやりとエルバントを見詰めていると、傍らで静かに座っていたシンが徐ろにアルベルトに歩み寄った。
「アル様、少し良いですか。エル、話があるからフェイ様に後で送ると伝えてくれ」
 エルバントは素直に頷き城へ向かい歩いて行った。シンがアルベルトに内密な話しなどとは珍しい事である。エルバントにもフェイにも不安を与えたくなくて、二人は示しを合わせた訳でもなく自然と二人きりになる事を避けていた。取り越し苦労なのかもしれないけれど、特にエルバントは気にするだろう。そう思っていたのに、エルバントは嫌な顔一つしなかった。この二人の間にはしっかりとした信頼関係が生まれたのだろうと、アルベルトは感慨深い思いであった。
 小さくなる背中をぼんやり見詰めていると、シンは真っ直ぐにアルベルトを見据え、思いも寄らない事を口にした。
「貴方らしくもない。何故周りの人を信じないのですか」
 それは突拍子もない言葉だったのに、アルベルトはまるで鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。それでも必死に平静を装うしかなかった。
「何の話しだ」
 シンは全てを見透かしているかのように小さな溜息を吐く。
「フェイ様はああ言うお方だ。アル様が話してくれるまで気付かないフリをしてくれるでしょう。例え、貴方の病を知ったとしても──」 
 アルベルトの愛した黒い真珠が、深い悲しみに揺れる。父に忠誠を誓い、父の側で生きて来たシンは、アルベルトが同じ病に侵されている事を見抜いていた。シンがこんな事を言うぐらいだ。フェイはやはりアルベルトの異変に気付いている。目を逸らして来たが、何も言わず避けてどれだけ傷付けてしまっただろうか。その後悔はあれど、アルベルトはそれでも迷っていた。
「それでも、怖いのだ。幸せが大きければ大きい程に、失った時の絶望は計り知れない。私はフェイを、遺して逝かなければならない」
「だからこそ、一番大切な人と向き合わなくてはならないのではありませんか?」
 フェイと向き合う──それは同時に死と真正面から向き合う事だ。アルベルトには、どちらも堪らなく怖かった。だが俯いたアルベルトの手を、シンは優しく握る。
「フェイ様と過ごした日々を、貴方が苦しみの中で生き抜いた七年を、どうか、無駄にしないで下さい」
 零れ落ちる涙を拭う事もなく、シンは叱るように、諭すように言葉を繋いだ。
 アルベルトが初めて恋をした人。そして、今は大切な弟の愛する人。相変わらずまるで新月のように真っ直ぐで強く美しい瞳。シンは変わらない。いつでも迷うアルベルトを導いてくれて、そしてきっと、これが最後となるのだろう。
「私は、最高の家臣を持った。ありがとうシン」
 泣くまいと必死に涙を耐えて、これまでの感謝の気持ちを込め、アルベルトは精一杯笑って見せる。シンはそんなアルベルトに、少し寂し気な顔で笑いかけてくれた。
「少し、妬けますね。貴方の心に寄り添う事が出来る者はもう、フェイ様しかいない」
 その軽い冗談に、アルベルトは肩の力が抜ける思いがした。
「エルを大切にしてやってくれ。シンも、必ず幸せになってくれ」
 シンはその言葉に強く頷いてくれた。 

 二人で城へと帰る道は、景色はまるで違うけれどフィリアにいた時のようで、酷く懐かしくて、それでも二人の心はあの頃とはまるで違う。不思議な気分であった。
 その日の夜に、アルベルトはフェイと、そして自分の命と、向き合う覚悟を決めた。

 その夜もフェイはいつも通りであった。机に向かい残った仕事を片付ける背中、後どれぐらいその姿を見られるのだろう。そう思うと苦しくて、重ねて緊張からかアルベルトは酷く具合が悪く、咳き込む度にフェイは視線を向ける。
「風邪か?良いから先に寝ていろよ」
 アルベルトが小さく首を振るとフェイは呆れたように立ち上がり、枕元に腰を下ろした。
「今からでもラフターを叩き起こして診てもらおう」
 そう言って抱き起こす腕は、アルベルトが大好きな優しい物だった。
「……アル?」
 向き合うと決めたのに、どんなに歯を食いしばっても、涙が溢れ頬を伝う。
「無理しなくても良いから。言える時になったら言えよ」
 フェイはそう言って何時ものように微笑みかけてくれた。だが、アルベルトは机に戻ろうとする腕を必死の思いで掴む。
 伝えなくては、こんな男を愛してくれたフェイの為にも──その覚悟が、震える心に鞭を打った。
「私は、胸を病んでいる。治らないのだ」
 頭上でフェイが息を呑む気配を感じた。それでも二人の間には、ただただ重い沈黙が流れる。
「……ラフターは?」
 漸く言葉を発したフェイの声は酷く震えていて、それもまた苦しく、アルベルトは小さく首を振る。
「私が、側にいると言ったのに……ごめん、ごめん、フェイ──」
 涙で喉が詰まり上手くは言えなくて、それでもアルベルトは謝り続けた。フェイは握る手に力を込めて、その懺悔の言葉が終わるまで呆然と立ち尽くしていた。
 それも段々と言葉にもならなくなると、フェイは再び枕元に腰を下ろし、そっとアルベルトの頬に手を添えた。
「アル、こっちを見ろ」
 言われるままにアルベルトは顔を上げる。その瞳に映ったものは、困ったような微笑みであった。
「何でおまえはそうやって、こんな時にも人の事ばっかりなんだ。言ってみな。おまえは、どうしたい?」
 どうしたいか、それはこの先フェイを苦しめてしまう事で──。
「また余計な事を考えているだろう。良いから、最期位、本当に自分の為に生きろ」
 フェイは何時も自分の為に何かを成せと言う。だがアルベルトは自分勝手に生きて来た、ずっとそう思っていた。けれどもし、この胸の内を明かすとするなら、たった一つだ。
「フェイの、側にいたい」
「……それだけか?本当に欲のない奴だな」
 そう言って、フェイは笑ってアルベルトを抱き締める。その腕の中で、信じきれなかった自分の愚かさと、フェイの強さにアルベルトは泣き崩れた。

 その後もフェイはいつも通り、アルベルトの前では決して悲しみを見せる事は無かった。だがアルベルトは知っている。眠りに落ちた後に、フェイが一人声を殺し泣いていた事。気付かないフリをする──それがこの世を去るアルベルトが、フェイの為に出来る唯一の事だった。 
 アルベルトは人生の最期の選択として、再び孤独の闇を味合わせるリスクを知っていながらも、それでもフェイの側にいる事を選んだ。この選択が正しいのか。それはアルベルトがこの世を去った時にしか分からない、とても無責任な事だ。だが、シンが言ってくれたこの七年間と、そしてアルベルトとフェイが共に歩んだ日々、最期にそれを信じ、自分のして来た事に賭けてみたいと思った。
 罰ならばこの身が受ける。だからどうか、フェイには幸せな道を。アルベルトはいつもそう願う。

 そしてラブールが白い雪に覆われる頃、アルベルトはあまりの激痛に意識を飛ばす事が増えてきた。その頃にはもう、誰もが命の終わりを感じていたのだろう。それでも皆アルベルトが口にするまで何時もと変わらず微笑みかけてくれていた。そしてアルベルトには一つ、どうしてもやり残した事があった。
 その夜は、昨日までの吹雪が嘘のように、金色の月が大地を優しく照らす、静かな夜だった。
 最近では夜に仕事をする事もなく、フェイはアルベルトの側を片時も離れなくなっていた。背中を優しくさする手が、今日も胸に染みる。
「フェイ……」
「どうした、痛むか」
 身体を離し、心配そうに覗き込むフェイにアルベルトは首を振って見せる。フェイの全てを知った。それでもアルベルトには一つだけ、知らない物がある。
「おまえの、故郷が見たい」
 滅んでしまったとしても、一目この男が守ろうとした国を見てみたかった。
「……二ヶ月はかかるぞ?」
 往復で四ヶ月、そうなるとラブールに帰ってくる頃には、もう春も終わりに近いだろう。それでもアルベルトは強く頷いた。フェイの瞳が少しだけ悲しみに揺らいだ。それも、気付かないフリをする。

 こうしてアルベルトはフェイと共にリーハのあった西へと旅をする事に決めた。それと共に皆に自分の身体の事を、そしてこの旅から生きて帰る事はないだろうと伝えた。誰もが涙を流し、それでも笑って送り出してくれた。
 愛した人々との永遠の別れ。それでもこの旅立ちは、悲しみだけでは無く、少しだけ幸せなもののように感じられた。

 ゆっくりと走る馬車の中で、アルベルトはぼんやりと流れる景色を眺める。冬だし病人だから屋根付きの物を、と言われたけれど、空が狭まる事が勿体無くて断った。そして初めてフェイとミトと共に旅をした屋根のない小さな馬車は、アルベルトの中で思い出深い物でもある。
「やっぱ寒いね」
 そう呟いて手綱を握るミトの背中は、やはりあの頃より一回りも大きくなった。
「ごめんねミト、無理を言って」
「何言ってんだよ。わんこがいなくなったら兄貴、一人じゃ帰って来れないからさ」
 ミトはそう言って笑ってくれた。ミトを連れて来た理由は本当にその通りであった。アルベルトはきっとラブールに帰り着く事は出来ない。そう自覚していただけに、フェイに一人その道を行かせる事は怖かったのだ。それもミトが分かってくれていたとは、アルベルトにとって驚きであった。
「大人になったな」
 照れたように笑う声に、アルベルトもつられて笑う。
「ねえ、わんこ。俺、わんこの分まで生きるから。いっぱい笑って、いっぱい泣いて、いっぱいいっぱい生きるから。天国でさ、兄貴だけじゃなくてさ、ちゃんと俺の事も見ててね」
 そう言ったミトの背中は、小さく震えている。ミトはいつでもこの弱い心を支えてくれたのに、悲しませてばかりだ。そう思い思わず泣き崩れてしまいそうになるアルベルトを、フェイは強く抱き寄せた。

 一行は旅路の途中ルーイの所にも寄ったが、やはり豪快に泣くルーイを見て、三人で大笑いをした。子供も無事に産まれ父となった男の顔は、アルベルトが初めて会った時とはまるで別人のように穏やかであった。
 新しい命と幸せな夫婦に見送られ、アルベルトはまた永遠の別れへと進んで行く。けれどどうしてだろうか。こうして旅をしていると、まるでその命が間も無く終わるなんて到底想像もつかなかった。突然病が治ってしまう、そんな奇跡すらアルベルトは感じていた。
 そして大回りにはなるが、テバンにも寄った。レスティアと妹のファティルに挨拶をして、アルベルトは今迄の感謝の気持ちと、そしてフェイの事を頼むと伝えた。フェイは怒っていたけれど、レスティアに任せるのが一番安心である。大切な人々との別れは名残惜しいものだが、時間も限られている事だし、一行は直ぐに出発する事にした。
 国境まで見送ってくれたレスティアは、いつものように見惚れてしまう程美しい笑顔をアルベルトに向ける。
「アルベルト、君は私が最も尊敬する王のひとりだ。君に出会えた事は私の人生の宝となるだろう。ありがとう」
「勿体無いお言葉です。私も、貴女に出会えて良かった」
 レスティアは悲しみも、涙すらも見せなかった。

 こうして世話になった愛する人々に別れを告げ、一行はただ真っ直ぐにリーハを目指した。

 そして長い長い旅路は進み、季節が移り変わり、大地を覆う雪を春の太陽が溶かして行く。フェイの話しでは後一週間も行けばリーハが見えるそうだ。
 その日の夜は近くの街に泊まり身体を休めた。フェイとミトに挟まれ、両脇で疲れて眠る二人の穏やかな寝息にアルベルトは自然と頬が緩む。これが全て夢だったなら──浅い眠りに落ちる前にアルベルトはいつもそんな夢を見る。
 それでも朝はやってくる。胸の痛みも全身へと広がり、最近ではいよいよ自分でもあと僅かだと感じていた。
 そんな不安に押し潰されないようにフェイの寝顔を見ようと静かに寝返りをうつと、長年見て来た筈なのに、その日は何時もよりも胸が甘く痛んだ。そっと髪に触れ、確かめるように頬に、鼻にと指先を落とすと、流石にフェイは薄っすらと瞳を開いた。
「……どうした」
 フェイの指先が、優しくアルベルトの頬を辿る涙を拭ってくれた。沢山の人が笑顔で見送ってくれた、悲しみを隠して前を向かせてくれた、それでもどうして──。
「フェイ、私は、死にたくない……!」
 アルベルトの叫ぶような願いに、今迄耐えて来た筈のフェイの瞳から涙が溢れた。辛い想いをするものは自分ではない、遺される人々だ。アルベルト自身そう分かってはいるけれど、その心はもう見るも無惨に折れていて、アルベルトはフェイの腕の中で声を上げて泣いた。身体中を走る激痛よりも胸の奥が痛くて、もっと生きていたいと、そんな叶う事のない願いをただただ繰り返し願った。

 やがて朝日が昇り、アルベルトはまた一つ命を繋ぐ。

 そして一週間──。一行は漸くリーハへと辿り着いた。西のリーハと呼ばれた大国、呪われた広大な大地には、大きな草原が広がっていた。
「……ここに来るのも、十七年ぶりだ」
 そう言って辺りをゆっくりと見回すフェイの瞳は、春の柔らかい太陽を受け輝いていた。
「行ってきなよ。馬車見てるからさ」
 ミトはそう言って、二人を送り出してくれた。もう歩く事も容易ではないアルベルトをフェイはおぶって歩く。
「ここには、大きな酒場があった。こっちは本屋だったかな。シンが、よく通っていたんだ」
 草原の中に朽ち果てた骨組みだけは残る街並みを、フェイは懐かしそうに歩き続けた。
 やがて歩みを止めたフェイの視線の先、少し小高い所に佇む立派な城は、十七年の月日と激しい戦の傷痕を残していながらも今でもそこに聳えていた。誰もがこの国の城を壊す事を恐れたのだろう。首に回した腕に少し力を込めると、フェイは小さく息を吐いた。
「おまえがいなかったら、こうして向き合う事も出来なかった」
 そう言って、ゆっくりとフェイは城へと足を進めた。
 城内も当然随分と荒れ果てていて、フェイは床が抜けないか確認しながら進む。屋根が抜け、朽ちてはいるが、アルベルトが今迄見たどの城よりも大きくて立派な城。十三歳の時に自らこの国の王となったフェイは、やはり自分など足元にも及ばない凄い男だったのだとアルベルトは知った。
 やがて一つの部屋の前まで来ると、フェイは漸く足を止めた。
「ここは、ロンの部屋だった」
 シンの父であり、命を賭してフェイを救ってくれた人。壊れた扉から覗く荒れ果てた部屋にゆっくりと足を踏み入れて、フェイは机の前の椅子にアルベルトを下ろした。一人窓辺に立って国を見下ろし、フェイは小さく呟く。
「これが、憎しみを生んだ国の末路だ」
 その言葉を聞きながら、アルベルトは飛び出した引き出しの中にあった一枚の紙に目を通していた。
「フェイ、それでも、おまえの選んだ道は、きっと間違いではない」
 アルベルトの見付けた一枚の紙は、フェイを逃がした後にロンが書いたであろう、最期の手紙だった。
 フェイ様へ──これを読んでいると言う事は、貴方は生き延びてくれたのですね。今でも自分を責めていますか?先祖の罪に身を沈めていますか?私はこの国に生まれ心より幸せを感じています。あなたの元に仕えた事を誇りに思います。これから先の人生は、どうぞ幼い日の、あの太陽のような笑顔を忘れずに生きて下さい。それが私達リーハの民の最期の願いです。
 月日が流れ黄ばんだ紙には綺麗な字でそう書かれていた。死に行く時にただ大切な人の幸せを願う、その気持ちが、今のアルベルトには痛い程に分かる。フェイはその手紙を読んで、静かに涙を流した。

 それから二人は国を見渡せるテラスに出て、ただただリーハの姿を見詰めた。フェイの生まれた国は沢山の悲しみを、憎しみを生んだ。それでも最期の時は、愛に溢れる、素晴らしい国だった。アルベルトは瞼を閉じて、風に揺れる草原に、嘗て栄えた国を想った──。

 気付くとアルベルトはフェイの腕の中に抱かれていた。また意識を飛ばしてしまったようだ。ふと視線を向けると、辺りを夕焼けが包み込んでいる。地平線に沈み行く真っ赤な太陽。まるで燃えるように紅く染まる空。アルベルトはその美しさに思わず息を呑む。
「綺麗」
 吐息だけが微かに漏れるようなアルベルトの声に、フェイは小さく微笑んだ。
「昔から東は日出ずる国テバン。そして西は、落陽の国リーハと呼ばれていた位だ」
 夕焼けに染まる横顔に、アルベルトはそっと痩せた指先を伸ばす。視線を向けたフェイは、少し瞳を潤ませて微笑んでくれた。
「私は、幸せ者だ──」
 沢山の人に愛され生きた。どんな時も、誰かが必ず寄り添っていてくれた。フィリアを旅立ち七年。この道を選んだ事を悔いた事もあった。間違いだったとすら思った。それでも、フェイに会う事が出来た。その心を救う事が出来た。そして何より、アルベルト自身何度も救われた。
「ありがとう、フェイ」
 漆黒の瞳から耐え切れず涙が零れ落ちる。もうその涙を拭ってやれない事を、許してくれ。別れは辛い、けれどどうか悲しみに沈まないで欲しい。この心は今、嘗てフェイがこの胸に落とした言葉の意味を知った。苦しみ生き抜いた先に、フェイはこんなにも幸せな光を見せてくれたのだ。アルベルトは胸の内、そう語り掛ける。
「おやすみ、アル」
 優しく髪を撫でるフェイの腕の中で、アルベルトはゆっくりと瞼を閉じ、そして確かに感じた。自らが選んで来た道は、どれも間違いではなかった事を。

 遠ざかる意識の中、救う事の出来なかった愛する者達が、優しく笑いかけてくれた──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

俺が歩けば蛇に当たる〜蛇神に娶られた平凡青年〜

花房いちご
BL
明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。 巳年をお祝いすべく書いた人外×人BL。下半身蛇の蛇神×無垢で優しい青年。いちゃいちゃラブラブ溺愛ハッピーエンドです。 以下あらすじ。 これは、心優しい青年が蛇神に娶られるまでの物語。 お人好しで少し世間知らずな大学生、天野坂桐矢(あめのさかきりや)は、外に出るたびに蛇に待ち伏せされていた。 桐矢は放置していたが、親友の八田荒政(やたあらまさ)に指摘されてようやく異常さに気づく。それは桐矢に惚れた滅びかけの神が原因だった。 滅びかけの神は、荒政によって祓われた。だが、話はそれだけでは終わらない。 桐矢は己の想いと荒政の想いに向き合い、選択を迫られることになるのだった。 あらすじ終わり。 後ほど、他サイトにも掲載予定です。

強面若頭は、懐っこいナースの献身に抗えない ―極道、はじめての恋を処方される―

たら昆布
BL
ウブで堅物な極道若頭×明るいわんこ系看護師

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

処理中です...