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『Underground rabbiT』
最初の飼い主
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お互い喋らないままどれだけの時が経っただろうか。ただただ、気まずい。
「……あ、喉乾いてる?」
「いえ、大丈夫です」
唐突な気遣に、咄嗟に遠慮してしまった。嘘でもいると言っておけば良かった。再び息が詰まりそうな程の重い沈黙が、広いマンションの一室に訪れた。
そもそも何でこんな事になっているのかと言うと、それはつい十分前。白井さんに連れられ、このマンションで笹原佑樹さんと顔合わせ以来の再会を果たした。再度軽く紹介されて、白井さんは直ぐに出て行った。俺の中に甘えもあったのだと思う。相手が大人だから。
けれど笹原さんはどうやらとてもシャイらしい。さっきから目も合わせてくれない。そう言えば顔合わせの時も白井さんの顔は見ていたけれど、俺とは一回も目が合わなかった気がしないでもない。そもそもこの人について知っている情報は、表面上の事だけ。しかも探るなとか言われて、会話の糸口さえ見当たらなくてこの有様だ。
「……冬弥君は、こう言う仕事初めて?」
どうしたもんかと思っていたら、やっと笹原さんは口を開いた。
「はい。何かすみません」
咄嗟に謝ってはみたものの、これはもしやまた切られるパターンだろうか。
困ったな。その思いが顔に出ていたのだろうか。笹原さんは手をブンブンと振って慌てた素振りを見せた。
「いや、珍しいなと思って。将生が紹介してくれる子は、大体慣れている子が多いから……」
「……え?」
「あ、違う違う、今は冬弥君一人だよ。その……昔ね」
いや、それは割とどうでもいい。反射的に聞き返してしまっただけで特に意味はないのだけれど。また無言地獄かと思いきや、笹原さんはノッてきたのか、言葉を続けた。相変わらず目は見てくれないが。
「どうしてこんな事をしているか、良かったら聞かせて?」
正直、迷った。ほぼ初対面の人に、父親に売られましたなんて普通は言えない。言った所でだから何だって話しだし、聞かされた方も反応に困るだろう。この平和な国日本でなんてザマだ。
「金が、必要で」
結局嘘を付いた。どうせ、バレないから。
「……そっか。店を持ちたいとか?」
「店?」
「そう。皆夢があるけれどお金が無くて将生の所に行くみたいだから。いつか自分の店を持ちたいとか、大学に行きたいとか。中には単純に生活費とか借金とかもあるみたいだけど。ほら、女の子の中でも風俗は嫌だけどお金が欲しい。それなら素性が知れて、性病検査も定期的にしてくれて、後腐れのない将生の所でパトロン募集しようって子が多いみたいだよ」
俺には違いが分からない。どっちも同じだろう。どんなに偉い社長も、服を脱いだらただの男や女だ。素性が知れているってそんなに大事だろうか。地位のある奴が安心出来るとは限らない。こうして愛人を買っているのだから。しかし女の事も知っていると言う事は、この人は女も買っていたのだろうか。
そしてずっと気になってた。薬指光る、紛れもない結婚指輪。ホモかと思っていたけれど、違うのかな。
「何で俺と契約してくれたんですか。俺、男ですけど」
率直過ぎる質問に笹原さんは少し驚いた顔を見せた後、小さく笑った。
「僕は、ゲイだから」
「だって結婚──」
やばい。言った瞬間気付いてももう遅い。やってしまった。表の人生に深入りするなと言われていたのに。これは完全にアウトだろ。案の定笹原さんの顔はあからさまに曇ってしまった。
「そう……結婚しているんだ。ごめんね、指輪なんか外すのがマナーなんだけどね」
俺はこの人の事を何も知らない。何で自分でゲイだと言っておいて結婚しているのかとか、何で俺を買ったのかとか。それは俺がガキだから、分からなかった。社会を知らなかったから。けれど自嘲気味に笑う笹原さんは、どこかで自分を責めているような、そんな気がした。俺の知ったこっちゃないのだけれど、何と無く胸の奥に引っ掛かった。
「あ、冷めたよね、ごめんね、なんか……。あ、将生に電話するね!」
俺の返答なんか待たずに笹原さんは慌てて電話を掛け始めてしまった。白井さんは帰る時に電話をしろと言っていたから、強制的に今日は終了。まだ会って三十分も経ってない。これはいよいよ本当に切られるな。電話をしている背中を見ていると、変な焦りが生まれた。
最初は警戒していたけれど、笹原さんは多分本当に優しい人だ。この先どんな変な奴が現れるか分かったもんじゃない。この人を逃して良いのだろうか。それに、こんな事じゃいつ迄経っても自由になんかなれない。直ぐに電話を終えて、笹原さんはいそいそと俺の荷物をまとめ始める。何とかしなきゃ。せっかく契約してくれた金蔓を逃がす訳にはいかない。何とか──。
「あの……!」
玄関に向かう背中に焦って声を掛けたものの、続く言葉が見つからなかった。何て言えば良い。取り敢えず謝った方がいいだろうか。
俺の言葉をしばらく待っていたが、何も言わない事が分かったのか、笹原さんはふと小さく微笑んだ。
「冬弥君さえ良ければ、また会ってくれる?」
その笑顔がとても優しくて、何だか不思議な罪悪感に胸が痛かった。何でだ。何でだか分からないけれど、金蔓なんて思った事が酷く恥ずかしくなった。俺は身体を売って金を稼ぐ。笹原さんは、金を払って何を得る?
その時、丁度タイミング良くチャイムの音がなって、笹原さんは慌ててモニターに走って行った。俺はと言うと、未だに動けずにいた。モニター越しに白井さんの声がするし、もう帰るしか道は無い。兎に角、今日は出直そう。また会ってくれると言っているのだし。
二人でエントランスまで行く道のりは、また無言だった。色んな事を考えていたからだろうか。さっきとは逆に、苦痛ではなくありがたかった。
オートロックの扉の向こうでは、白井さんが壁にもたれて俺達を待っていた。
「将生、ごめんね!」
慌てて駆け寄る笹原さんに営業スマイルを向けた後に、チラリと俺を捉えた瞳は、ゾッとする程に冷たかった。確実に怒っている。家に帰るのが憂鬱だ。
「冬弥が何かした?」
「ううん。気に入ったよ。ありがとう。今日は少し二人だけの空気を知りたかっただけだから」
笹原さんにフォローされるなんて、何ともいたたまれない。納得したんだかしてないんだか、白井さんは少し俺を見た後にまたいつもの笑顔を浮かべた。
「なら良いんだけど。送ってく?」
「いや、大丈夫。タクシーを拾うよ。ありがとう」
「そう、分かった。じゃあお疲れ。冬弥おいで」
まるでその一瞬は二人の世界だったのに不意に白井さんが俺の名前を呼ぶものだから、慌てて駆け寄ってしまった。まるで忠犬にでもなった気がして、我ながら酷く不快だ。
白井さんはそんな俺を見て不敵な笑みを浮かべ、慎太郎さんが開けた扉の中へと滑り込む。俺もその後を追って後部座席に乗り込んだ。窓を開け笹原さんに頭を下げると、小さく手を振って笑ってくれた。その優しい笑顔はやはりどこか、拭いきれない違和感がある。それが何か俺には分からなかった。
マンションを離れしばらく、車内は誰一人喋る者はいない。窓に肘を付いて外を見詰める白井さんの横顔は、酷く冷たかった。怒っている、よな。こんなに直ぐに迎えに来させて、しくじった事はバレているだろう。重い空気に耐え切れず、俺は意を決して口を開いた。
「白井さん──」
「正直に言え。佑樹に何を言った」
俺の言葉を遮る様に唐突に問われ、身体が一気に強張るのを感じた。それはいつもの物腰の柔らかい言い方ではない。明らかに高圧的な口調だった。ここは素直に言った方が良いのだろうか。それとも誤魔化すか。俺の頭の中はその二択で揺れる。
だが、隣の男はそんなに気の長い人間ではなかったようだ。突然胸倉を掴まれたかと思うと、物凄い力で引き寄せられ、目の前に端正な顔が迫った。本能的に身体が震える。殴り合いの喧嘩なんか腐る程した。父親とも、連れや絡んできた連中とも。
なのにどうして、一見モデルみたいなこの男に掴みかかられただけで身体の芯から震えるのだろう。本職のヤクザだからとか、そんな物ではない。この男は多分、本当に危険な人間だ。そう脳が警鐘を鳴らす。冷や汗がジワリと滲み、何とも言いようのない不愉快な恐怖を感じた。兎に角、素直に謝らなくては。
「結婚、してるのに、何で俺を買ったのか……聞きました……」
唇が震えて上手く言葉にならない。それでも何とか言い終えた瞬間、視界の隅で拳を振り上げる残像が見えた気がした。あ、殴られる──そう思って反射的に瞼を閉じる。しかし、いつ迄経っても来るべき痛みは訪れなかった。
「何の真似だ」
白井さんの何時もより格段に低い声が耳を触り、恐る恐る目を開く。振り上げられた拳は硬く握られたまま。その腕は助手席から伸びたおおきな手に掴まれ停止していた。
「将生さん、何もそこ迄しなくても。こいつはカタギだし、何よりまだガキだ。言って聞かせれば分かりますよ」
白井さんの暴走を止めていたものは、意外にも人殺しのような風体の山室さんだった。まさか山室さんに助けられるとは。
「将生さんどうしたんです。顔に傷が付いたら何かと面倒でしょうに」
次いで運転席から聞こえた声で、ようやく俺は解放された。
息が上手く付けない。身体の震えも止まらない。頭上で小さく舌打ちが聞こえたけれど、怖くて顔も見れなくて、俺は震えながらじっと自分の膝を見詰めていた。白井さんにとって、笹原さんはそんなにも大切な存在なのだろうか。ふとそんな事も気になったが、もう何も聞くまい。そう自分に言い聞かせた。
車が白井さんのマンションに着く迄車内は重苦しい沈黙が流れた。
ようやく着いた瞬間、慎太郎さんが扉を開けるのも待たず白井さんはさっさと出て行ってしまった。その姿を見送ると、慎太郎さんは悪戯っぽい笑顔を向けた。
「こりゃ帰ったら絞られるぞ」
こいつ何を楽しんでいるんだ。人の気も知らないで。この後密室で二人かと思うとゾッとする。
「さっさと降りろ。こんな所にいたって解決するもんじゃあねえぞ、坊主」
中々降りない俺に痺れを切らしたのか、山室さんにまでそう突き放されてしまった。何でこんなに怖い連中がいっぱいいるんだ。本当にいやだ。
「……お疲れ様でした」
仕方なく頭を下げて車を降りる。ドアを閉めようとする俺に、慎太郎さんは親指を突き出して見せた。
「冬弥さん、頑張って下さいね!」
返事の代わりにドアを思いっきり閉めてやった。
直ぐに走り出す車を何と無く見送り、重い足を引きずりながらオートロックの扉の前まで辿り着いた瞬間。俺はある事に気付いた。高級そうな白い自動ドアを開く術が、俺にはないのだ。
開け方もまるで分からない。マンションにいる時は、白井さんのいない時も慎太郎さんや山室さん、他にも稀に来る舎弟が常に家にいて、家から出る事はないから。外に出ても必ず誰かと一緒。帰りは必然的に誰かがいる。
扉の横にあるガラスからエントランスを覗いてみたが、白井さんの姿はない。置き去りにされた──。
一瞬で俺の頭の中はプチパニックに陥る。どうしよう、どうする。インターホンで呼び出すか。だけど怒っているし……。そもそもあの人はこうなる事が分かっていて絶対にやった。確信犯だ。なら多分、開けてはくれないだろう。
仕方なく、まるで連絡を取っていなかった連れに電話を掛けてみた。浅い付き合いの中でも、一番仲が良かったと思う奴。幸いまだ八時前だ。何処かでブラブラしている頃だろうし、泊めてもらって明日朝一で謝ろう。
しばらくの呼び出し音の後、慣れ親しんだ声が響いた。
「冬弥。お前どうしたんだよ。生きてんのか。何ヶ月も連絡つかねえしさあ、心配してたんだぞ」
電話口で捲し立てる男はリョウと言って、中学が同じだった。俺と違って良く喋る良く笑う良く喧嘩する。絵に書いたようなヤンチャな奴。こいつのお陰で俺が喧嘩に巻き込まれた事なんか腐る程ある。
「で、今どこいんの?」
どこと言われても──。
「……港区」
「え、港区?何言ってんの?」
それしか答えようがなかった。ヤクザの多分幹部クラスであろう白井さんの居城を明かす事は何と無く気が引けたし、それに下手に自分の事が知れたら厄介だ。厄介と言うより、嫌だ。しかしこいつの所に転がり込んだら根掘り葉掘り聞かれるだろう。そう思うとやはり、頼ったのは間違いな気がした。ちょっと遠いし嫌だけど、自分の家に帰ろう。
そんな事を考えながら少し黙っていたものの、痺れを切らしたのかリョウは少し声を落として話し始めた。
「お前まさかヤバい事に巻き込まれてんじゃねえよな。昔っから流され易いからなあ。親父さんもアレだろ、皆そうじゃねえかって噂してたんだよ。あ、そう言えば家行っても誰も住んでなかったけど、港区に引っ越したのかよ。なら言えよな!」
その言葉に一瞬、思考が止まった。受話器の向こうで名前を呼ばれていたけれど、俺はそのまま電話を切った。直ぐにバイブが着信を知らせて震え出す。それすらどうでも良かった。幸いリョウは諦めが早く、直ぐに電話は切れてそれっきりだった。
親父が、飛んだ──。俺を売って、何処かに引っ越した。俺は何も知らないし、父親からも、もちろん白井さんからも何も聞かされてない。本当に捨てられたんだ。
バカだと思うだろうか。売られた実感はあっても、俺は捨てられた事には気付かなかった。この世界に身寄りのない、正に天涯孤独だ。
いつものように手が自然に震え、息が上がる。俺は何故か酷いショックを受けていた。何故だ。あの家に帰りたかったのか、あの親父を信じていたのか。自由になったら、また家族で暮らしたかったとでも言うのか。違う──。
「違う、違う違う違う!」
思わず叫んでしまったけれど、幸い周りに人影はなかった。ほっとしたのも束の間。恐ろしくなって慌てて白井さんに電話を掛けた。耳に押し当てた電話口からは、電源が入っていないと言うアナウンスが流れる。それでも何度も何度も掛けた。結果は同じ。
どの位その動作を繰り返していたのだろう。ふと気付くともう、十時を過ぎていた。履歴を見てみると、全て白井さんの文字で埋め尽くされている。梅雨の終わりの今は、スーツなんか着ていたら夜でもじんわり汗をかく。けれど額に滲んだ汗は、暑さのものではなかった。
白井さんにも見放されたんじゃないか。もう、捨てられたんじゃないか。その焦りに動悸が早まって行く。それは笹原さんの時とはまるで違う、もっと切迫した、恐怖にも似た焦りだった。
俺にはもう本当に帰る場所がない。金もない、家もない、俺を心配してくれる人も、もういない。……いや、今迄もいなかったか。父親、母親、友達や付き合ってた女。誰が俺を必要としてくれた。何もかもがその場限り。言葉では心配したって言ったって、一瞬で忘れる。
込み上げる虚しさに耐え切れず、俺はその場に崩折れた。高級マンションの入口に未成年が蹲っていたら、通報されてもおかしくない。そうしたら白井さんは少しは心配してくれるだろうか。親父は……迎えに来てくれるだろうか。そう思うと、思わず声を上げて泣きたくなった。
昔から、ホームドラマが好きだった。ぶつかり合いながらも互いを愛して生きる、そんなあったかい家庭。いつか俺もあんな風な家庭を築きたい。そう夢見ていた。それすら今はもう恨めしいだけ。母親に捨てられて、父親に売られて、売られた先でも捨てられた。この世界に、俺は必要なのだろうか。必要ないのに何で生きているんだ。捨てるなら何故産んだのだ。何であんな親がいる。何であんな心のない人間がいる。それでも心の底で俺は、そんな連中にさえ愛されたいと願っている。それが堪らなく悔しくて、思わず唇を噛み締めた。口内に広がった鉄の味は、幼い頃、味わい続けた懐かしい物だった。一人膝を抱え、部屋の隅で涙を耐えていた時の味。
寂しい。一人は、嫌だ──。
「冬弥」
うずくまる俺の頭上、突然名前を呼ばれ顔を上げたその先には、少し驚いた顔の白井さんがいた。考えるよりも先に、身体が動いていた。地面に擦り付けた頭が嫌な音を立てる。土下座をする日が来るとは、今の今まで思わなかった。それでもこんな事で許されるなら、プライドなんて糞食らえ。
「ごめんなさい、許して下さい……!」
半ば半狂乱になって力の限り叫ぶ。ここが何処かとか、人の目とか、白井さんの迷惑とか、何も考えられなかった。
唯々怖かった。捨てられる悲しみを、もう味わいたくない。何でも良い。俺の事を、少しで良いから必要として欲しい。見捨てないで欲しい。あんな思いをするのは、人生一度だけで十分だ。
「冬弥、少し落ち着きなさい」
子供を宥める様に優しく背中をさすられ、耐え切れず涙が溢れる。
「もう、しないからっ捨てないで……!」
バカみたいにごめんなさい捨てないでと繰り返す俺を、白井さんは優しく抱き締めてくれた。
「帰ろうか」
何度も何度も頷いて、ようやく俺はマンションに入る事を許された。
広いエントランスを抜ける時も、エレベーターの中でも、白井さんは何も言わなかった。頭が良いこの人は、今俺が言葉を欲してない事も分かっていたのだと思う。誰でも良いから、ただ側にいてくれればいい。そう思っている事もきっと。
この人のお陰で締め出し食らったのに、俺は迎えに来てくれた事に心底安堵していた。俺はやはり、バカなのかもしれない。それでも良い。一人になるよりは。
長い道のりを経て、エレベーターの扉が開けばそこはもう白井さんの家。このワンフロア全てがこの人の家なのだ。本当に無駄な金持ち。そんな事を考えられる程、さっきの取り乱し様からはかけ離れ、頭はもう冷静だった。冷静が故に、後ろめたい気持ちもある。あんな取り乱して泣いて土下座して、捨てないで下さいとか、絶対人生においての黒歴史になるだろう。間違いない。
リビングへの廊下を俯いたまま、先を歩く背中の後に続いて歩いていると、突然振り向いた白井さんは、俺の顎を持ち上げた。思いの外近くにある顔に、男なのに胸が熱く竦む。
濡れたように煌く漆黒の瞳が妙に艶っぽい。漂うものは、見詰められるだけで腰が抜けそうな程の大人の色気。これにやられた女は星の数程いるだろう。そう確信した。しかし本当にこの人は綺麗な顔立ちをしている。男相手に綺麗だと思ったのは初めてだ。
そんな事を考えていたら、不意に白井さんの顔がグッと近付く。次いで唇に温かくて、柔らかい感触が触った。その瞬間、呑気な思考は一気にぶっ飛んだ。
「ぎゃーーーっっ!」
「うるさい!」
余りにも大声を上げたものだから、脇腹に見事な回し蹴りを食らった。物凄く痛いけどそれより、何でこんな事したんだって事で頭がいっぱいだった。
乙女を気取るつもりは毛頭ないんだ。ないのだけれども、唐突にキスをされ完全に狼狽えてしまった。それと言うのも、白井さんにこんな事をされるのは初めてだったから。
そもそも真面目な話し、愛のないセックスに慣れていた俺にとって、白井さんの訓練はさほど苦痛ではない。いや、苦痛だけど、それは男としてのプライドとか、屈辱とかそっちで、普通に愛あるセックスをして来た人に比べれば何の気持ちもなくする行為自体に違和感はない。俺も男だ。快楽にはとことん弱い。せがまれれば抱いたし、いい女にはくっ付いて行った事もある。それでも何となく、前戯ではないキスと言うものは、途轍も無く深い意味を持つ気がするんだ。その人が好きだとか、愛してるだとか。だから俺は今迄、雰囲気作り以外で自分からキスをした事がなかった。したいとも思わなかったって事は、俺は多分、人を本気で愛した事がない。白井さんは俺の事を、そう言う風に見ているのだろうか。
そんな事を考えていたら、白井さんは突然ふと小さく微笑んだ。いつもの営業スマイルでもない、優しい笑顔。
「冬弥、安心して。俺が愛してあげる」
頬から後頭部にかけて長い指が滑る。くすぐるよりも優しく、甘い感覚に、全身がピリピリと痺れ始める。
ヤバい。持ってかれる──そんな危機感を感じた脳がいち早く警鐘を鳴らす。しかし重ね重ね言ってるが、俺はホモではない。ホモがあまり良い言葉だと知らなかった位、未知の世界だった。それなのに、目の前の男にただ目を奪われていた。目だけじゃないのかもしれない。初めて感じる、不思議な気持ち。胸の奥を強く握られたかの様な痛み。これを俗にトキメクと言うのだろうか。
顔に熱が昇るのが自分でも分かって、咄嗟に目を逸らした。途端、目の前の男は高い笑い声を上げた。
「随分と純情だね。それともそれは君の手の内かな。良いね、それで売って行こうか」
白井さんはそう言うと人を小馬鹿にしたように笑い続けた。しかしからかわれた事への怒りよりも、自分への戸惑いが大きい。何を勘違いして浮かれていたのだろう。白井さんは根が嫌な奴だ。それは間違いない。もしかしたら……一瞬そう思ったけれど、やっぱり嫌な奴だ。軽く睨み付ける俺を、嫌な奴は尚も鼻先で嗤う。
「でも、俺の言い付けを守らなかった罰は受けてもらわないとね」
何を言っているんだこの人は。
「祐樹を傷付けた罪は重いよ?」
「傷付けた……?」
「あの顔を見て分からないとダメだよ、表情一つで感じ取らないと。それが分かれば何を求められているかなんて、直ぐに分かるよ」
違和感は感じたけれど、傷付けたとは思っていなかった。そもそも何で傷付くわけ?結婚している癖に愛人を買っているのは笹原さんだ。俺に非はまるでない。それに何でこの人そんなに笹原さんを気にするんだろう。俺の中で押し留めた好奇心が、残酷にも首をもたげる。知りたい、二人の関係が。それはただの野次馬根性なんだけど、俺には知る権利がある気がした。いや、本当はないんだけど。
「白井さんと笹原さんって、そんなに仲良いの?」
「はい、五点減点」
「……はあ?」
この人本当に何を言っているんだ。あからさまに顔を顰めた俺を見て、白井さんは呆れた様に溜息を吐いた。
「相手の事は探るなって言ったよね。さっきもうしません、許して下さいって言ったの誰だっけ。本当に忘れっぽいね君は」
柔らかい物言いの癖に、妙な威圧感が半端じゃない。気付けば、壁に追い詰められていた。
「ねえ、もう忘れたかな。君は俺の愛人でもあるんだよ?」
言われて思い出した。ついつい忘れがちだけど、この人も俺の愛人な訳で──ふと「本気になっちゃいけない」そう言っていた事を思い出す。
つまりさっきのは本当に俺をからかう言葉だったって訳だ。いや、信じた訳じゃないし、愛してあげると言われて嬉しいとか思っていない。本当に全く思っていない。タイミングが悪かったんだ。愛されたいと願ったばかりだったから。そう言う事で自己解決してみた。
「何を考えているの?」
白井さんの声にハッと意識を取り戻すと、さっきよりも近くに顔があった。
「ちっ、近い、近いんだよ!」
「はい、三点減点」
またかよ。一体何を減点しているんだこの人は。
「もうそれいいよ、取り敢えず離れ……!」
押しのけようと思ってみたが、まるでビクともしない。そして触れて知った。一見細身のこの人が、かなり良い身体をしている事。スーツの上からでも分かる筋肉の硬さ。無駄な物なんか、何一つもない。
思わず感心していた俺は、白井さんによって無理矢理に上を向かされた。
「また忘れたんだ。冬弥は俺の愛人なんだよ。俺が何を求めているか、考えてみてよ」
切れ長の瞳が暗く淀んだ光を放つ。見詰められたら最後、自力では振り払えない。暗示に掛けられたように、逸らす事さえ出来ない。捕食者と獲物。その関係が今ここに出来上がった気がした。まるで俺を暗い闇の底へと誘う様に、長い指先が首筋をスルリと滑る。それだけで、全身に甘い震えが拡がって行く。畜生、何でこんなにも心臓がうるさいんだ。
小さく音を立てて唇が落とされた。時に痛い程強く、時にそっと触れるだけ。緩急を付けて断続的に与えられる感覚は、簡単に俺を呑み込んだ。無意識に襟元を握った指に力が入り、ゾッとする様な状況なのに、このまま落とされてみたいとさえ思えてくる。その手で触れられるだけで、その声で囁かれるだけで、甘い期待が胸を過る。
思わず見栄もプライドもかなぐり捨てて、身を許してしまいたくなる不思議な力。それがこの男、白井将生の魅力なのかもしれない。
「何を、求めていると思う?」
毒気に当てられ、朦朧とする意識の中で再び問い掛けられる。白井さんの求めるもの──分からない、考えられない、今は何も、考えたくない。
力なく首を横に振るだけで精一杯だった。小さく笑う声が耳元を擽る。
「躾甲斐の無い子だね」
まるで子供か、ペットへ向けて放ったような屈辱的な言葉さえ、今は欲情を煽るだけだ。
そのまま俺はリビングに辿り着く前に人生で初めて男に抱かれ、激痛から逃れるように意識を飛ばした。
夢の中で感じた髪を梳かれる優しい感覚も、手の温もりも。やはり心からの安堵を与えてくれる。一人じゃない、そう思えるから。
俺の最初の愛人である白井将生。驚くほどに美麗な顔立ちで、有り余る程に金があって、根が腐り果てた陰険野郎で、そして少しだけ、優しい手をした男。
白井さんの求める物が何であるか、少し分かった気がした。遊びの延長の様な性欲処理。それが俺の仕事。別にそれでも嫌な気はしなかった。……しつこい様だが、俺はホモではない。断じて。けれど男だから気持ちの良い事は好きだ。ただ、それだけ。
「……あ、喉乾いてる?」
「いえ、大丈夫です」
唐突な気遣に、咄嗟に遠慮してしまった。嘘でもいると言っておけば良かった。再び息が詰まりそうな程の重い沈黙が、広いマンションの一室に訪れた。
そもそも何でこんな事になっているのかと言うと、それはつい十分前。白井さんに連れられ、このマンションで笹原佑樹さんと顔合わせ以来の再会を果たした。再度軽く紹介されて、白井さんは直ぐに出て行った。俺の中に甘えもあったのだと思う。相手が大人だから。
けれど笹原さんはどうやらとてもシャイらしい。さっきから目も合わせてくれない。そう言えば顔合わせの時も白井さんの顔は見ていたけれど、俺とは一回も目が合わなかった気がしないでもない。そもそもこの人について知っている情報は、表面上の事だけ。しかも探るなとか言われて、会話の糸口さえ見当たらなくてこの有様だ。
「……冬弥君は、こう言う仕事初めて?」
どうしたもんかと思っていたら、やっと笹原さんは口を開いた。
「はい。何かすみません」
咄嗟に謝ってはみたものの、これはもしやまた切られるパターンだろうか。
困ったな。その思いが顔に出ていたのだろうか。笹原さんは手をブンブンと振って慌てた素振りを見せた。
「いや、珍しいなと思って。将生が紹介してくれる子は、大体慣れている子が多いから……」
「……え?」
「あ、違う違う、今は冬弥君一人だよ。その……昔ね」
いや、それは割とどうでもいい。反射的に聞き返してしまっただけで特に意味はないのだけれど。また無言地獄かと思いきや、笹原さんはノッてきたのか、言葉を続けた。相変わらず目は見てくれないが。
「どうしてこんな事をしているか、良かったら聞かせて?」
正直、迷った。ほぼ初対面の人に、父親に売られましたなんて普通は言えない。言った所でだから何だって話しだし、聞かされた方も反応に困るだろう。この平和な国日本でなんてザマだ。
「金が、必要で」
結局嘘を付いた。どうせ、バレないから。
「……そっか。店を持ちたいとか?」
「店?」
「そう。皆夢があるけれどお金が無くて将生の所に行くみたいだから。いつか自分の店を持ちたいとか、大学に行きたいとか。中には単純に生活費とか借金とかもあるみたいだけど。ほら、女の子の中でも風俗は嫌だけどお金が欲しい。それなら素性が知れて、性病検査も定期的にしてくれて、後腐れのない将生の所でパトロン募集しようって子が多いみたいだよ」
俺には違いが分からない。どっちも同じだろう。どんなに偉い社長も、服を脱いだらただの男や女だ。素性が知れているってそんなに大事だろうか。地位のある奴が安心出来るとは限らない。こうして愛人を買っているのだから。しかし女の事も知っていると言う事は、この人は女も買っていたのだろうか。
そしてずっと気になってた。薬指光る、紛れもない結婚指輪。ホモかと思っていたけれど、違うのかな。
「何で俺と契約してくれたんですか。俺、男ですけど」
率直過ぎる質問に笹原さんは少し驚いた顔を見せた後、小さく笑った。
「僕は、ゲイだから」
「だって結婚──」
やばい。言った瞬間気付いてももう遅い。やってしまった。表の人生に深入りするなと言われていたのに。これは完全にアウトだろ。案の定笹原さんの顔はあからさまに曇ってしまった。
「そう……結婚しているんだ。ごめんね、指輪なんか外すのがマナーなんだけどね」
俺はこの人の事を何も知らない。何で自分でゲイだと言っておいて結婚しているのかとか、何で俺を買ったのかとか。それは俺がガキだから、分からなかった。社会を知らなかったから。けれど自嘲気味に笑う笹原さんは、どこかで自分を責めているような、そんな気がした。俺の知ったこっちゃないのだけれど、何と無く胸の奥に引っ掛かった。
「あ、冷めたよね、ごめんね、なんか……。あ、将生に電話するね!」
俺の返答なんか待たずに笹原さんは慌てて電話を掛け始めてしまった。白井さんは帰る時に電話をしろと言っていたから、強制的に今日は終了。まだ会って三十分も経ってない。これはいよいよ本当に切られるな。電話をしている背中を見ていると、変な焦りが生まれた。
最初は警戒していたけれど、笹原さんは多分本当に優しい人だ。この先どんな変な奴が現れるか分かったもんじゃない。この人を逃して良いのだろうか。それに、こんな事じゃいつ迄経っても自由になんかなれない。直ぐに電話を終えて、笹原さんはいそいそと俺の荷物をまとめ始める。何とかしなきゃ。せっかく契約してくれた金蔓を逃がす訳にはいかない。何とか──。
「あの……!」
玄関に向かう背中に焦って声を掛けたものの、続く言葉が見つからなかった。何て言えば良い。取り敢えず謝った方がいいだろうか。
俺の言葉をしばらく待っていたが、何も言わない事が分かったのか、笹原さんはふと小さく微笑んだ。
「冬弥君さえ良ければ、また会ってくれる?」
その笑顔がとても優しくて、何だか不思議な罪悪感に胸が痛かった。何でだ。何でだか分からないけれど、金蔓なんて思った事が酷く恥ずかしくなった。俺は身体を売って金を稼ぐ。笹原さんは、金を払って何を得る?
その時、丁度タイミング良くチャイムの音がなって、笹原さんは慌ててモニターに走って行った。俺はと言うと、未だに動けずにいた。モニター越しに白井さんの声がするし、もう帰るしか道は無い。兎に角、今日は出直そう。また会ってくれると言っているのだし。
二人でエントランスまで行く道のりは、また無言だった。色んな事を考えていたからだろうか。さっきとは逆に、苦痛ではなくありがたかった。
オートロックの扉の向こうでは、白井さんが壁にもたれて俺達を待っていた。
「将生、ごめんね!」
慌てて駆け寄る笹原さんに営業スマイルを向けた後に、チラリと俺を捉えた瞳は、ゾッとする程に冷たかった。確実に怒っている。家に帰るのが憂鬱だ。
「冬弥が何かした?」
「ううん。気に入ったよ。ありがとう。今日は少し二人だけの空気を知りたかっただけだから」
笹原さんにフォローされるなんて、何ともいたたまれない。納得したんだかしてないんだか、白井さんは少し俺を見た後にまたいつもの笑顔を浮かべた。
「なら良いんだけど。送ってく?」
「いや、大丈夫。タクシーを拾うよ。ありがとう」
「そう、分かった。じゃあお疲れ。冬弥おいで」
まるでその一瞬は二人の世界だったのに不意に白井さんが俺の名前を呼ぶものだから、慌てて駆け寄ってしまった。まるで忠犬にでもなった気がして、我ながら酷く不快だ。
白井さんはそんな俺を見て不敵な笑みを浮かべ、慎太郎さんが開けた扉の中へと滑り込む。俺もその後を追って後部座席に乗り込んだ。窓を開け笹原さんに頭を下げると、小さく手を振って笑ってくれた。その優しい笑顔はやはりどこか、拭いきれない違和感がある。それが何か俺には分からなかった。
マンションを離れしばらく、車内は誰一人喋る者はいない。窓に肘を付いて外を見詰める白井さんの横顔は、酷く冷たかった。怒っている、よな。こんなに直ぐに迎えに来させて、しくじった事はバレているだろう。重い空気に耐え切れず、俺は意を決して口を開いた。
「白井さん──」
「正直に言え。佑樹に何を言った」
俺の言葉を遮る様に唐突に問われ、身体が一気に強張るのを感じた。それはいつもの物腰の柔らかい言い方ではない。明らかに高圧的な口調だった。ここは素直に言った方が良いのだろうか。それとも誤魔化すか。俺の頭の中はその二択で揺れる。
だが、隣の男はそんなに気の長い人間ではなかったようだ。突然胸倉を掴まれたかと思うと、物凄い力で引き寄せられ、目の前に端正な顔が迫った。本能的に身体が震える。殴り合いの喧嘩なんか腐る程した。父親とも、連れや絡んできた連中とも。
なのにどうして、一見モデルみたいなこの男に掴みかかられただけで身体の芯から震えるのだろう。本職のヤクザだからとか、そんな物ではない。この男は多分、本当に危険な人間だ。そう脳が警鐘を鳴らす。冷や汗がジワリと滲み、何とも言いようのない不愉快な恐怖を感じた。兎に角、素直に謝らなくては。
「結婚、してるのに、何で俺を買ったのか……聞きました……」
唇が震えて上手く言葉にならない。それでも何とか言い終えた瞬間、視界の隅で拳を振り上げる残像が見えた気がした。あ、殴られる──そう思って反射的に瞼を閉じる。しかし、いつ迄経っても来るべき痛みは訪れなかった。
「何の真似だ」
白井さんの何時もより格段に低い声が耳を触り、恐る恐る目を開く。振り上げられた拳は硬く握られたまま。その腕は助手席から伸びたおおきな手に掴まれ停止していた。
「将生さん、何もそこ迄しなくても。こいつはカタギだし、何よりまだガキだ。言って聞かせれば分かりますよ」
白井さんの暴走を止めていたものは、意外にも人殺しのような風体の山室さんだった。まさか山室さんに助けられるとは。
「将生さんどうしたんです。顔に傷が付いたら何かと面倒でしょうに」
次いで運転席から聞こえた声で、ようやく俺は解放された。
息が上手く付けない。身体の震えも止まらない。頭上で小さく舌打ちが聞こえたけれど、怖くて顔も見れなくて、俺は震えながらじっと自分の膝を見詰めていた。白井さんにとって、笹原さんはそんなにも大切な存在なのだろうか。ふとそんな事も気になったが、もう何も聞くまい。そう自分に言い聞かせた。
車が白井さんのマンションに着く迄車内は重苦しい沈黙が流れた。
ようやく着いた瞬間、慎太郎さんが扉を開けるのも待たず白井さんはさっさと出て行ってしまった。その姿を見送ると、慎太郎さんは悪戯っぽい笑顔を向けた。
「こりゃ帰ったら絞られるぞ」
こいつ何を楽しんでいるんだ。人の気も知らないで。この後密室で二人かと思うとゾッとする。
「さっさと降りろ。こんな所にいたって解決するもんじゃあねえぞ、坊主」
中々降りない俺に痺れを切らしたのか、山室さんにまでそう突き放されてしまった。何でこんなに怖い連中がいっぱいいるんだ。本当にいやだ。
「……お疲れ様でした」
仕方なく頭を下げて車を降りる。ドアを閉めようとする俺に、慎太郎さんは親指を突き出して見せた。
「冬弥さん、頑張って下さいね!」
返事の代わりにドアを思いっきり閉めてやった。
直ぐに走り出す車を何と無く見送り、重い足を引きずりながらオートロックの扉の前まで辿り着いた瞬間。俺はある事に気付いた。高級そうな白い自動ドアを開く術が、俺にはないのだ。
開け方もまるで分からない。マンションにいる時は、白井さんのいない時も慎太郎さんや山室さん、他にも稀に来る舎弟が常に家にいて、家から出る事はないから。外に出ても必ず誰かと一緒。帰りは必然的に誰かがいる。
扉の横にあるガラスからエントランスを覗いてみたが、白井さんの姿はない。置き去りにされた──。
一瞬で俺の頭の中はプチパニックに陥る。どうしよう、どうする。インターホンで呼び出すか。だけど怒っているし……。そもそもあの人はこうなる事が分かっていて絶対にやった。確信犯だ。なら多分、開けてはくれないだろう。
仕方なく、まるで連絡を取っていなかった連れに電話を掛けてみた。浅い付き合いの中でも、一番仲が良かったと思う奴。幸いまだ八時前だ。何処かでブラブラしている頃だろうし、泊めてもらって明日朝一で謝ろう。
しばらくの呼び出し音の後、慣れ親しんだ声が響いた。
「冬弥。お前どうしたんだよ。生きてんのか。何ヶ月も連絡つかねえしさあ、心配してたんだぞ」
電話口で捲し立てる男はリョウと言って、中学が同じだった。俺と違って良く喋る良く笑う良く喧嘩する。絵に書いたようなヤンチャな奴。こいつのお陰で俺が喧嘩に巻き込まれた事なんか腐る程ある。
「で、今どこいんの?」
どこと言われても──。
「……港区」
「え、港区?何言ってんの?」
それしか答えようがなかった。ヤクザの多分幹部クラスであろう白井さんの居城を明かす事は何と無く気が引けたし、それに下手に自分の事が知れたら厄介だ。厄介と言うより、嫌だ。しかしこいつの所に転がり込んだら根掘り葉掘り聞かれるだろう。そう思うとやはり、頼ったのは間違いな気がした。ちょっと遠いし嫌だけど、自分の家に帰ろう。
そんな事を考えながら少し黙っていたものの、痺れを切らしたのかリョウは少し声を落として話し始めた。
「お前まさかヤバい事に巻き込まれてんじゃねえよな。昔っから流され易いからなあ。親父さんもアレだろ、皆そうじゃねえかって噂してたんだよ。あ、そう言えば家行っても誰も住んでなかったけど、港区に引っ越したのかよ。なら言えよな!」
その言葉に一瞬、思考が止まった。受話器の向こうで名前を呼ばれていたけれど、俺はそのまま電話を切った。直ぐにバイブが着信を知らせて震え出す。それすらどうでも良かった。幸いリョウは諦めが早く、直ぐに電話は切れてそれっきりだった。
親父が、飛んだ──。俺を売って、何処かに引っ越した。俺は何も知らないし、父親からも、もちろん白井さんからも何も聞かされてない。本当に捨てられたんだ。
バカだと思うだろうか。売られた実感はあっても、俺は捨てられた事には気付かなかった。この世界に身寄りのない、正に天涯孤独だ。
いつものように手が自然に震え、息が上がる。俺は何故か酷いショックを受けていた。何故だ。あの家に帰りたかったのか、あの親父を信じていたのか。自由になったら、また家族で暮らしたかったとでも言うのか。違う──。
「違う、違う違う違う!」
思わず叫んでしまったけれど、幸い周りに人影はなかった。ほっとしたのも束の間。恐ろしくなって慌てて白井さんに電話を掛けた。耳に押し当てた電話口からは、電源が入っていないと言うアナウンスが流れる。それでも何度も何度も掛けた。結果は同じ。
どの位その動作を繰り返していたのだろう。ふと気付くともう、十時を過ぎていた。履歴を見てみると、全て白井さんの文字で埋め尽くされている。梅雨の終わりの今は、スーツなんか着ていたら夜でもじんわり汗をかく。けれど額に滲んだ汗は、暑さのものではなかった。
白井さんにも見放されたんじゃないか。もう、捨てられたんじゃないか。その焦りに動悸が早まって行く。それは笹原さんの時とはまるで違う、もっと切迫した、恐怖にも似た焦りだった。
俺にはもう本当に帰る場所がない。金もない、家もない、俺を心配してくれる人も、もういない。……いや、今迄もいなかったか。父親、母親、友達や付き合ってた女。誰が俺を必要としてくれた。何もかもがその場限り。言葉では心配したって言ったって、一瞬で忘れる。
込み上げる虚しさに耐え切れず、俺はその場に崩折れた。高級マンションの入口に未成年が蹲っていたら、通報されてもおかしくない。そうしたら白井さんは少しは心配してくれるだろうか。親父は……迎えに来てくれるだろうか。そう思うと、思わず声を上げて泣きたくなった。
昔から、ホームドラマが好きだった。ぶつかり合いながらも互いを愛して生きる、そんなあったかい家庭。いつか俺もあんな風な家庭を築きたい。そう夢見ていた。それすら今はもう恨めしいだけ。母親に捨てられて、父親に売られて、売られた先でも捨てられた。この世界に、俺は必要なのだろうか。必要ないのに何で生きているんだ。捨てるなら何故産んだのだ。何であんな親がいる。何であんな心のない人間がいる。それでも心の底で俺は、そんな連中にさえ愛されたいと願っている。それが堪らなく悔しくて、思わず唇を噛み締めた。口内に広がった鉄の味は、幼い頃、味わい続けた懐かしい物だった。一人膝を抱え、部屋の隅で涙を耐えていた時の味。
寂しい。一人は、嫌だ──。
「冬弥」
うずくまる俺の頭上、突然名前を呼ばれ顔を上げたその先には、少し驚いた顔の白井さんがいた。考えるよりも先に、身体が動いていた。地面に擦り付けた頭が嫌な音を立てる。土下座をする日が来るとは、今の今まで思わなかった。それでもこんな事で許されるなら、プライドなんて糞食らえ。
「ごめんなさい、許して下さい……!」
半ば半狂乱になって力の限り叫ぶ。ここが何処かとか、人の目とか、白井さんの迷惑とか、何も考えられなかった。
唯々怖かった。捨てられる悲しみを、もう味わいたくない。何でも良い。俺の事を、少しで良いから必要として欲しい。見捨てないで欲しい。あんな思いをするのは、人生一度だけで十分だ。
「冬弥、少し落ち着きなさい」
子供を宥める様に優しく背中をさすられ、耐え切れず涙が溢れる。
「もう、しないからっ捨てないで……!」
バカみたいにごめんなさい捨てないでと繰り返す俺を、白井さんは優しく抱き締めてくれた。
「帰ろうか」
何度も何度も頷いて、ようやく俺はマンションに入る事を許された。
広いエントランスを抜ける時も、エレベーターの中でも、白井さんは何も言わなかった。頭が良いこの人は、今俺が言葉を欲してない事も分かっていたのだと思う。誰でも良いから、ただ側にいてくれればいい。そう思っている事もきっと。
この人のお陰で締め出し食らったのに、俺は迎えに来てくれた事に心底安堵していた。俺はやはり、バカなのかもしれない。それでも良い。一人になるよりは。
長い道のりを経て、エレベーターの扉が開けばそこはもう白井さんの家。このワンフロア全てがこの人の家なのだ。本当に無駄な金持ち。そんな事を考えられる程、さっきの取り乱し様からはかけ離れ、頭はもう冷静だった。冷静が故に、後ろめたい気持ちもある。あんな取り乱して泣いて土下座して、捨てないで下さいとか、絶対人生においての黒歴史になるだろう。間違いない。
リビングへの廊下を俯いたまま、先を歩く背中の後に続いて歩いていると、突然振り向いた白井さんは、俺の顎を持ち上げた。思いの外近くにある顔に、男なのに胸が熱く竦む。
濡れたように煌く漆黒の瞳が妙に艶っぽい。漂うものは、見詰められるだけで腰が抜けそうな程の大人の色気。これにやられた女は星の数程いるだろう。そう確信した。しかし本当にこの人は綺麗な顔立ちをしている。男相手に綺麗だと思ったのは初めてだ。
そんな事を考えていたら、不意に白井さんの顔がグッと近付く。次いで唇に温かくて、柔らかい感触が触った。その瞬間、呑気な思考は一気にぶっ飛んだ。
「ぎゃーーーっっ!」
「うるさい!」
余りにも大声を上げたものだから、脇腹に見事な回し蹴りを食らった。物凄く痛いけどそれより、何でこんな事したんだって事で頭がいっぱいだった。
乙女を気取るつもりは毛頭ないんだ。ないのだけれども、唐突にキスをされ完全に狼狽えてしまった。それと言うのも、白井さんにこんな事をされるのは初めてだったから。
そもそも真面目な話し、愛のないセックスに慣れていた俺にとって、白井さんの訓練はさほど苦痛ではない。いや、苦痛だけど、それは男としてのプライドとか、屈辱とかそっちで、普通に愛あるセックスをして来た人に比べれば何の気持ちもなくする行為自体に違和感はない。俺も男だ。快楽にはとことん弱い。せがまれれば抱いたし、いい女にはくっ付いて行った事もある。それでも何となく、前戯ではないキスと言うものは、途轍も無く深い意味を持つ気がするんだ。その人が好きだとか、愛してるだとか。だから俺は今迄、雰囲気作り以外で自分からキスをした事がなかった。したいとも思わなかったって事は、俺は多分、人を本気で愛した事がない。白井さんは俺の事を、そう言う風に見ているのだろうか。
そんな事を考えていたら、白井さんは突然ふと小さく微笑んだ。いつもの営業スマイルでもない、優しい笑顔。
「冬弥、安心して。俺が愛してあげる」
頬から後頭部にかけて長い指が滑る。くすぐるよりも優しく、甘い感覚に、全身がピリピリと痺れ始める。
ヤバい。持ってかれる──そんな危機感を感じた脳がいち早く警鐘を鳴らす。しかし重ね重ね言ってるが、俺はホモではない。ホモがあまり良い言葉だと知らなかった位、未知の世界だった。それなのに、目の前の男にただ目を奪われていた。目だけじゃないのかもしれない。初めて感じる、不思議な気持ち。胸の奥を強く握られたかの様な痛み。これを俗にトキメクと言うのだろうか。
顔に熱が昇るのが自分でも分かって、咄嗟に目を逸らした。途端、目の前の男は高い笑い声を上げた。
「随分と純情だね。それともそれは君の手の内かな。良いね、それで売って行こうか」
白井さんはそう言うと人を小馬鹿にしたように笑い続けた。しかしからかわれた事への怒りよりも、自分への戸惑いが大きい。何を勘違いして浮かれていたのだろう。白井さんは根が嫌な奴だ。それは間違いない。もしかしたら……一瞬そう思ったけれど、やっぱり嫌な奴だ。軽く睨み付ける俺を、嫌な奴は尚も鼻先で嗤う。
「でも、俺の言い付けを守らなかった罰は受けてもらわないとね」
何を言っているんだこの人は。
「祐樹を傷付けた罪は重いよ?」
「傷付けた……?」
「あの顔を見て分からないとダメだよ、表情一つで感じ取らないと。それが分かれば何を求められているかなんて、直ぐに分かるよ」
違和感は感じたけれど、傷付けたとは思っていなかった。そもそも何で傷付くわけ?結婚している癖に愛人を買っているのは笹原さんだ。俺に非はまるでない。それに何でこの人そんなに笹原さんを気にするんだろう。俺の中で押し留めた好奇心が、残酷にも首をもたげる。知りたい、二人の関係が。それはただの野次馬根性なんだけど、俺には知る権利がある気がした。いや、本当はないんだけど。
「白井さんと笹原さんって、そんなに仲良いの?」
「はい、五点減点」
「……はあ?」
この人本当に何を言っているんだ。あからさまに顔を顰めた俺を見て、白井さんは呆れた様に溜息を吐いた。
「相手の事は探るなって言ったよね。さっきもうしません、許して下さいって言ったの誰だっけ。本当に忘れっぽいね君は」
柔らかい物言いの癖に、妙な威圧感が半端じゃない。気付けば、壁に追い詰められていた。
「ねえ、もう忘れたかな。君は俺の愛人でもあるんだよ?」
言われて思い出した。ついつい忘れがちだけど、この人も俺の愛人な訳で──ふと「本気になっちゃいけない」そう言っていた事を思い出す。
つまりさっきのは本当に俺をからかう言葉だったって訳だ。いや、信じた訳じゃないし、愛してあげると言われて嬉しいとか思っていない。本当に全く思っていない。タイミングが悪かったんだ。愛されたいと願ったばかりだったから。そう言う事で自己解決してみた。
「何を考えているの?」
白井さんの声にハッと意識を取り戻すと、さっきよりも近くに顔があった。
「ちっ、近い、近いんだよ!」
「はい、三点減点」
またかよ。一体何を減点しているんだこの人は。
「もうそれいいよ、取り敢えず離れ……!」
押しのけようと思ってみたが、まるでビクともしない。そして触れて知った。一見細身のこの人が、かなり良い身体をしている事。スーツの上からでも分かる筋肉の硬さ。無駄な物なんか、何一つもない。
思わず感心していた俺は、白井さんによって無理矢理に上を向かされた。
「また忘れたんだ。冬弥は俺の愛人なんだよ。俺が何を求めているか、考えてみてよ」
切れ長の瞳が暗く淀んだ光を放つ。見詰められたら最後、自力では振り払えない。暗示に掛けられたように、逸らす事さえ出来ない。捕食者と獲物。その関係が今ここに出来上がった気がした。まるで俺を暗い闇の底へと誘う様に、長い指先が首筋をスルリと滑る。それだけで、全身に甘い震えが拡がって行く。畜生、何でこんなにも心臓がうるさいんだ。
小さく音を立てて唇が落とされた。時に痛い程強く、時にそっと触れるだけ。緩急を付けて断続的に与えられる感覚は、簡単に俺を呑み込んだ。無意識に襟元を握った指に力が入り、ゾッとする様な状況なのに、このまま落とされてみたいとさえ思えてくる。その手で触れられるだけで、その声で囁かれるだけで、甘い期待が胸を過る。
思わず見栄もプライドもかなぐり捨てて、身を許してしまいたくなる不思議な力。それがこの男、白井将生の魅力なのかもしれない。
「何を、求めていると思う?」
毒気に当てられ、朦朧とする意識の中で再び問い掛けられる。白井さんの求めるもの──分からない、考えられない、今は何も、考えたくない。
力なく首を横に振るだけで精一杯だった。小さく笑う声が耳元を擽る。
「躾甲斐の無い子だね」
まるで子供か、ペットへ向けて放ったような屈辱的な言葉さえ、今は欲情を煽るだけだ。
そのまま俺はリビングに辿り着く前に人生で初めて男に抱かれ、激痛から逃れるように意識を飛ばした。
夢の中で感じた髪を梳かれる優しい感覚も、手の温もりも。やはり心からの安堵を与えてくれる。一人じゃない、そう思えるから。
俺の最初の愛人である白井将生。驚くほどに美麗な顔立ちで、有り余る程に金があって、根が腐り果てた陰険野郎で、そして少しだけ、優しい手をした男。
白井さんの求める物が何であるか、少し分かった気がした。遊びの延長の様な性欲処理。それが俺の仕事。別にそれでも嫌な気はしなかった。……しつこい様だが、俺はホモではない。断じて。けれど男だから気持ちの良い事は好きだ。ただ、それだけ。
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