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番外編
雲翳の向こう側
しおりを挟むどれだけの人間が恋に堕ちる感覚を知っているだろうか。一昔前の言い方をすれば、まるで雷に撃たれたかのような、少し変わった言い方をすれば、断崖絶壁から蹴落とされてしまったような、全身の血が沸騰し、正体不明の激情が駆け巡る。余りに衝撃的な感覚。
そして俺はあの日、自らの運命を変える程の、恋に堕ちたのだ。
「兄ちゃん、名前は?」
「……白井将生」
真っ新な虚無を抱えた、男に──。
艶のある黒髪に、凛と張った切れ長の瞳。真っ直ぐに尖った鼻筋は、思わず摘まんでみたくなる。生身の人間と言うよりは動くマネキン。そんな不気味な冷たさすら覚える程整った顔立ちと、正に黄金比であろう完璧なシルエット。
寂し気に東京タワーを見上げていたそいつは、まるで完成された芸術品みたいな少年だった。俺は長い年月生きて来たが、こんなにも美しいと言う言葉が似合う男を見た事が無い。決して中性的な訳でもなく、男たる筋はキチンと通していながら、雄々しいだけでは決して無い。何と表現したら良いのかわからないが、十七歳と聞いて驚いた位に大人びた危う気な色気を纏っていた。
白井将生と名乗ったその少年は、定時制高校に通いながら東京の片隅の町工場で働いていた。寄り合いが終わり時間潰しに訪れたこの場所で、まさかこんな出会いがあるとは。これは逃してなる物かと、年甲斐も無く口説いたら、驚く事に生まれ故郷が同じだったのだ。そんな奇跡にも近い偶然が折り重なり、俺は白井将生を側に置く事に成功した。
あれから二年。高校だけは卒業させてやって、広島に連れ戻したのが一年前。今日も朝に弱い俺は、布団の中で心地の良い眠りを貪っていた。
何時ものように障子を引く音が静かに響き、畳がぎしと軋む度に俺の心も小さく軋む。
「米倉さん。ほら、起きて下さいよ」
低過ぎず、高くはない澄んだ声が俺の名を呼ぶ。布団の上から緩々と揺すられる事すら心地が良いと感じてしまう。
「うわっ!」
腕を引いて布団の中に引き摺り込めば、そんな小さい悲鳴が上がった。何時もの事だからか抵抗されないのを良い事に、俺は自分よりも小さな身体を思いっきり抱き締めた。苦し気に呻く声もまた、心に暖かな火を灯す。
「相変わらずほっそいのお。その癖硬い。抱き心地悪うて敵わんけえ、鍛えるんやめんさい」
「はあ?何で俺があんたの抱き心地を考えて生きなきゃいけないんですか。バカじゃないの。良い加減離して下さいよ。もう……本当酒臭い」
ツレない態度で吐き捨てた将生が腕の中から逃れようと身を攀じる。離したくはないが、嫌われたくもない。素直に離してやると慌てて布団の外に這い出て行く姿さえ、堪らなく胸を掻き乱す。
ぐしゃぐしゃに乱れた黒髪を掻き上げ、蔑んだ視線が投げられた。
「ガキじゃ無いんだから良い加減にして下さい。早く出てこないと朝食抜きますよ?」
渋々布団から起き上がり、視線を上げると朝日を背に見下ろす将生の唇の端が切れていた。
「……将生。またやらかしたんか?」
そっと触れた唇が、思いの外温かい。冷たい表情の中で其処だけ不自然に薄っすらと色付いたそれは、どんなに赤く塗りたくられた女の物よりもそそる。このまま奪ってやりたくなる衝動を抑えるのに必死だ。
俄かに顔顰めた将生がしつこく唇の端を撫でる俺の手を乱暴に払う。どうやら御機嫌斜めのようだ。
「あいつら本当鬱陶しい。低脳な癖に」
ガキの戯言に思わず顔が綻んだ。
「何笑ってるんですか気持ち悪い。飯、出来てますから」
ニヤつく俺に侮蔑を含んだ視線を投げて、将生は足早に部屋を去って行った。
しかし朝食を食べに出向いた大広間で俺を待っていたのは、想像以上の惨劇だった。
「何だこりゃあ」
そう、思わず口に出てしまう程に。
黄色い筈の卵焼きに点々と浮き上がる不気味な紅い斑点。添えられた大根おろしは、もみじおろしにさえ見える。思わず繁々と観察する俺を尻目に、部屋住みの中では割と上である金坂が得意気に鼻を鳴らした。
「将生が朝っぱらから突っかかってきよったけえ、返り討ちですわ」
鼻血出てるぞとも言えず、今朝の武勇伝を語り出す子豚……もとい小肥りの男をぼんやり眺めていると、突然ガツンと言う大袈裟な音が和室に響いた。調理場から運んで来たばかりの味噌汁茶碗が机に強く叩きつけられ、飛び散った熱い液体が周囲にそれはもう広く飛散し、其処彼処から悲鳴が上がる。そんな不躾な行いをする人間はたった一人。
「調理場に伸びたのはどっちだよ、子豚ちゃん」
鋭利な視線を金坂に向けて吐き捨てたのは、舎弟である筈の将生だ。当然鼻血……もとい金坂は顔を真っ赤に茹らせ、生意気な下っ端の胸ぐらを掴み上げる。
「わりゃあドタマカチ割られたいんかこらあ!」
無駄に腹から声を出し、精一杯ドスを効かせたつもりなんだろうが、元々の声が高い所為か間が抜けて聞こえる。俺は思わず吹き出しそうになる気持ちを抑え、騒然とする朝食の席で一人手を合わせた。将生が作ってくれた飯を食える今日に感謝。そう心の中で呟く何時もの日課を終え箸を運んでいる間にも、金坂は程度の低いチンピラよろしく将生に詰め寄っていた。日常風景すぎて最早止めるのも面倒臭い。
しばらく怒声を受け入れていた将生は、不意に眉を顰め、力任せに太い腰に膝蹴りを見舞った。何時見てもこいつの長い足から繰り出される蹴りは秀逸だ。そんな不謹慎な感動を覚えていた俺を尻目に、将生はトドメと言わんばかりに悶絶する金坂に向けて吐き捨てる。
「息が臭えんだよこの黒豚が」
おう、奇遇だ。俺も思ってた。
「おんどりゃあ!」
遂には取っ組み合いを始めた二人を止める事の出来ない舎弟達がこぞって俺に救いを求め視線を投げる。仕方が無しに、俺は大袈裟に机を叩いた。
「美味い!やっぱし将生の作った飯は美味いのお」
空気を読まない発言にその場の全員が呆気に取られる。
「何をしとるんじゃ。冷めんうちに、はよう食べんさい。作った人間に失礼じゃろう」
これが俺なりの止め方。一応俺が言えば金坂は引いてくれるからまだ良い。問題は──やはり将生である。
「腰抜けのクズが」
漸く迎えようとしていた惨劇の収束を、その言葉で文字通りぶち壊して見せた。
「辛抱堪らん!わりゃあ表でんかい!」
辛抱堪らんのはこっちである。
「金坂、座りんさい。飯が不味うなるわ。将生もええ加減にせえ」
一応俺が怒ってる風を装えば、将生もそれ以上引っ掻き回す事はしない。渋々俺の横に腰を下ろし、未だ不貞腐れた横顔を見て思わず小さく笑ってしまった。若いな、と。
朝食が終われば俺達は何時も並んで部屋に戻る。将生と俺は同じ部屋。組の若頭と部屋住みの下っ端が一室で暮らすなど前代未聞ではあるが、こいつに他の奴らと雑魚寝なんかさせたくない。ムショ上がりでそっちにも目覚めた輩もいるし、心配でならない。生意気であればある程、気性の荒い人間は組み伏せたくなるものだ。加えてこの容姿。そして何より、元々はストレートである俺すら落としてみせた色気は、自制心の強くない組員の前に晒すには危険過ぎる。
そんな煩悩塗れの脳をフル回転させながら縁側で紫煙を燻らす俺の背後で布団を畳んでいた将生は、不意に小さく呟いた。
「……怒らないんですか?」
一応反省しているのだろうか。背を向けたまま、俺は肺に残った煙を昇りきった太陽に向けて吐きかける。
「ごめんなさいのチューでもしてくれたら許したる」
「そう言う寒い冗談全く笑えないです」
何時にも増して冷たい声だ。再び布団を畳む微かな音を背中で聞きながら、俺はそんな何時も通りの将生の態度に微笑む。
「鉄臭い卵焼きも嫌いじゃあねえわ」
ポツリと呟いた言葉に、背後で将生は小さく吹き出した。
「そんな訳ないでしょ。気持ち悪い」
肩越しにその顔を伺い、思わず顔の筋肉がふやけてしまった。誰に見せる事も無いんだろう、少し不器用な笑顔。自然な笑方を知らないこの男が、堪らなく愛おしい。
布団を畳み終わった将生が着替えを持って俺の背後に膝を付く。
「そろそろ時刻ですよ」
煙草を揉み消し向き合い、紅くなった唇の端を緩く撫でる。
「お前は組織にいるっちゅう事を忘れたらいけん。一応下っ端なんじゃけえ、たまには兄貴衆の顔も立てにゃあいけんよ。……な?」
こんな親父面した説教を将生は酷く嫌う。だが組織に生きる以上、許されない事もあるのだ。自分勝手に引き摺り込んだこの裏社会で将生が生き抜けるよう、俺には導く責任がある。不機嫌そうに顔を歪めた将生は、乱暴に俺の手を払った。
「俺は他人の顔色伺って、下げたくも無い頭下げる気は更々ないね。胸糞悪い」
「わしもかい?」
悪戯っぽく問い掛けると、生意気に真っ直ぐ射抜いていた瞳が不意に揺らぐ。
「米倉さんは、別に……」
珍しく歯切れ悪く、照れ隠しに瞳を細め遠くを見詰める横顔に、思わず板間を転げそうになった。全く俺を悶え殺す気か。
こんな事を言うと信じられないと言われるが、俺にとって将生は可愛い奴だった。か細い心を、周りを威嚇する事で必死に強く見せるいじらしい姿は思わず守ってやりたくなる。拗ねた顔も、俺の下らない冗談に笑う顔も、組員に啖呵切る時の生意気な顔も、俺にとっては全てが愛おしく感じていた。
その日の夜は叔父貴のはからいで、俺達は高級クラブに連れて行かれた。それ迄は女好きで通っていた俺も、今や小生意気な三下に首ったけの身。どんな綺麗な女にも心が揺れないし、好きだった高級クラブさえ面倒に思えた。何より面白くないのは将生が客やホステス、男女を問わず注目の的である事。叔父貴や俺の相手をするトップクラスのホステスの他は、必死で将生の気を引こうとしている。程度の低い店だと心の中で悪態を付きながらその様子を見ていたが、実は心配する事も特には無い。素人の女の子をよく引っ掛けてはいたが、将生はどうにも夜の女だけは毛嫌いしている節がある。何故かと聞いた時、母親を思い出すからと吐き捨てた。その顔には、何の色も無かった。今更憎んでいる訳でもない。それでも捨てられたと言う逃れられぬ記憶は、その心に深く影を落としている事を知った。
そんな鬱陶しいホステスに苛立ち大分飛ばしていた将生は、かなり泥酔に近い状態で店を出た。それでも叔父貴を家に送り届ける迄助手席で背筋を伸ばして座っていたその気力だけは褒めてやりたい……が、その後が問題である。
「将生。まーさーき!」
屋敷の前に着く頃には完全に酩酊していて、耳元で声を掛け、乱暴に身体を揺すると心底迷惑そうに眉を顰められた。迷惑なのはこっちの方だ。
「んん……眠い……」
言いながら揺する腕を払おうとしてはいるが、目も完全に閉じているし、空振りの連続。
「いや、もう寝とるしな」
「うるせえな……くそじじい」
この野郎。酩酊してまで俺に悪態付くとはいい度胸だ。しかしこいつは本当に酒に弱い。仕方がなしに背負ってタクシーを下り、なんとか門をくぐると、出迎えに来た奴らがこぞってお帰りなさいの後の言葉を無くした。組の若頭が潰れた三下おぶって帰宅したんだからまぁ、当然だ。
「将生ぃ!わりゃあ起きんかい!」
我に帰るやドスの効いた声で喚き始める舎弟達を俺は慌てて制した。
「ええから。部屋にな、蒸したタオル持って来てくれや」
「いや、こいつぁ甘やかしたら調子のるけえ、分からせんと……!」
そう言って将生を俺の背から引き離そうと伸ばされた腕が、無性に腹立たしかった。
「触るなド阿呆。わしがええ言うとるんに何しとるんじゃボケが。早よう蒸しタオル持ってこんかい!」
思わず声を荒げてしまった事を一瞬後悔したものの、引くに引けず俺はそのまま部屋へと上がった。将生に触れられるのも嫌とは……困った物だ。俺は何処までこんな小僧にのめり込んで行くのだろうか。
蒸しタオルが届けられる頃には将生は畳の上で完全に伸びていた。
「将生、シワになるけえ、脱がすで」
まるでそれは自己弁解。邪な気持ちなど一切ないと言い聞かせ、上着をゆっくりと脱がせてやる。それに合わせてごろんと転がると長い睫毛を有した瞼が薄っすらと開く。
「自分で、出来るけえ……触らんでよ……」
珍しく方言が戻っている所をみると相当今日は回っているようだ。俺を見上げる瞳も憂を帯びて、何処か悩まし気。だが酔っても将生は将生。生意気で、強がりなのは変わらないんだなと思うとつい可笑しくて笑ってしまった。
「身体拭くけえ。首、掴まっときんさい」
「ええって」
そう言いながらも力無く伸ばされた腕が、まるで縋るようだった。
初めて会った日に感じた深い深い虚無。将生の抱える寂しさ、虚しさ。その全てを、ぶつけられているような気がした。
「くるし、よ、米倉さん……」
気付けば、俺は細い身体を力任せに抱き締めていた。近くにいても、離れていても、こんな風に触れていても、俺は将生が好きだと強く実感する。だが俺は男だ。将生も男だ。例え恋い焦がれたとして、報われる筈も無い。何より、俺はこれ以上自分勝手にこいつを苦しめる事はできない。東京の片隅で膝を抱えて生きて行く筈の少年をこの裏社会に引き摺り込んだのは俺だ。この罪はきっと、償う事も出来ないのだろう。
「すまんなあ、将生──」
だから俺は密やかなこの想いを隠したまま、大切に大切に育てていた。ただ一心、強くなれと願いながら。
それから直ぐだったか。あいつは、寄り合いで東京に出た日、突然大学に行きたいと言い出した。何がそうさせたのかは分からないが、余り何かをしたいと自分から言う事も無かったし、俺は快く受け入れた。本心は不安で仕方が無い。一人で大丈夫だろうかとか、ちゃんと馴染めるかとか。そんな父親のような俺を見て、将生は笑っていた。
「俺の方が心配ですよ。米倉さんちゃんとして下さいね?俺がいないからって羽目外したりしないように。あと、朝はちゃんと起きて下さい。調理場の良い迷惑ですから」
将生は俺なんかよりもずっとしっかりした奴だ。それは分かっている。だが隠した脆さが、俺にはどうにも不安でならなかった。
そんな俺の心の内を知ってか知らずか、将生は不意に小さな東京タワーの模型を俺の手に握らせた。
「寂しくなったら、これでも見てて下さいよ」
そしてそう言ってふわりと微笑む。笑う事に慣れていない不恰好な笑顔。俺はその顔が一番好きだ。
「ちゃんと戻って来いよ?」
「あんた以外の下に付く気はありませんよ」
将生らしい可愛気のない言葉に、俺達は顔を見合わせて笑った。
将生がいなくなってからと言うもの、俺は深酒をする事もなくなり、朝は起こされる前に大広間に出向くようになっていた。そもそも深酒の理由は、隣で将生が無防備に眠り込んでいるとどうにも不謹慎な思考に呑まれそうになるからだ。何時もの仏頂面は何処吹く風で、将生の寝顔はそれはもう可愛いもんだ。最初の頃は余りの可愛さに見惚れて気付けば朝だった位。あいつの見せる顔はどれも、俺の心を掴んで離さないのだ。
「米倉さん、最近寝起き良いですね」
将生の寝顔を思い出しながらぼんやりと朝食を口に運んでいたら、対面に座っていた舎弟の一人が徐に声を掛けて来た。
「んー?うん」
理由を明かす事も出来ないし、生返事で答えると、思わず溜息が漏れた。
「将生は元気かのお……」
「二言目には将生将生……何なんすか」
「だって心配じゃろ」
変な親父に掴まって弄ばれてないかとか、タチの悪いマダムに好かれて困ってないかとか。心配ごとは腐る程ある。
「あんな図太くてふてぶてしい男、簡単に死にゃあしませんて」
そうだろうか。俺は常々この世に何一つ執着を持っていないあいつが、心配でならなかった。気性は荒いが、その荒さは血気盛んな若者特有の無鉄砲さとも、野心から来る無謀な行動とも違う。まるで死に場所を探す、老いた狼。だが心を開いてくれない以上、将生を見守る事しか俺には出来ない。それからもたまに電話で話す位で顔を見る事は叶わず、俺は次の寄り合いの日を心待ちにしていた。
そして待ちに待った寄り合いの日。東京駅で待ち合わせ、駅前で不機嫌そうに爪先を見詰める将生の顔を見た瞬間、思わず顔が緩み切ってしまった。
大学生活はどうだと聞いても別段面白い訳でもないらしい。将生の事だ、その答えは予想していたが。昼飯を一緒に食べ夕方迄時間を潰し、俺達は一旦そこで別れた。俺は寄り合いへ、将生は自宅で待っていてくれるそうだ。終わったら久しぶりに将生と過ごせる夜が来る。それを思うと年甲斐もなく小躍りの一つもしたくなった。
上機嫌のまま迎えの車に乗り込み、寄り合いが行われる店迄出向くと、既に黒々とした車の群れが見て取れた。相変わらず圧倒的な景色だ。毎度寄り合いに出向くとこの組のデカさを思い知らされる。全国に散る幹部や直参組長クラスの人間が集結するのだから、店の外は張り詰めた緊張感が漂っていた。護衛の連中も蟻一匹逃すまいと目を光らせていて、ウチのボンクラ共に見せてやりたい。
「あ、ヨネさん!」
そんな事を考えながら廊下を歩く俺の名を呼ぶ声に足を止めると、にこにこと柔らかい笑みを浮かべ近寄る青年が目に入った。
「秀司!?」
山室秀司は、山室組五代目組長である山室晋三の次男坊。一つ年上の兄貴、隆司は四年程前に殺人の罪で服役した。隆司の後は誰が継ぐのかと思っていたが……ここにいるって事は、山室組若頭の椅子に腰を据えたのはこの見るからに好青年だと言う事だ。
「スーツ、似合わないでしょ?」
可笑しそうに笑う秀司を見ていたら、何とも言えない気持ちになった。
「お前さん農夫になる言うて……」
自然が大好きだった秀司は、昔から田舎でのんびり暮らすなんて年寄りじみた夢があった。この稼業にもまるで関係の無い道を歩んでいた筈。秀司はそんな俺に気を遣ってか、無邪気に笑って見せた。
「田舎暮らしはいつか出来ますからね。それに兄貴にはね、刑務所出たら今度こそ幸せに暮らして欲しいんです。小さい頃からずっと、俺は兄貴に守られて生きて来た。今度は、俺が兄貴の人生を守ってあげたいんです。……俺じゃあ頼りないですかね?」
頼りないと言えば頼りない。親父似の隆司よりも身体付きは華奢だし、何よりのほほんとし過ぎていてどうにも気が抜ける。
「まあ、親爺さんが生きてる内は誰でもええのじゃないかね」
態とらしくおどける俺に秀司は優しく笑い掛けてくれた。
「適当だなあ」
笑い合いながら、俺は遣る瀬無い気持ちを拭い切れずにその日を過ごした。
山室兄弟は何処迄もお人好しの兄弟だった。そもそも隆司が親父さんの跡目を継ごうとしたのも、秀司にカタギの道を歩ませてやりたかったからだ。だが若くして運命の女と出逢い、足を洗うと決めた時に、背中を押してやったのは秀司。二人は幼い頃から互いを思い合い、支え合って生きていた。俺の大好きな、兄弟だった。
恙無く進んだ寄り合いの後に、俺は運悪く幹部陣に捕まり軽く一杯付き合わされてしまい、将生の家に行くのが予定より遅くなってしまった。だが俺の元を離れる前は寄り合いに連れて来ていたし、将生もそれはよく分かっている。現に遅くなる事を見越してか、鍵は開けておくから勝手に入れと言われていた。簡単な手土産でも持って行けば良いだろう。そもそも俺が遅くなろうがあいつは特に気にする訳もない。何をしていても頭を支配しているのはあのクソ生意気な三下だ。バカだと思う反面、こんな気持ちは嫌いじゃない。
ようやく辿り着いた将生の住むマンション。玄関迄の足取りも軽く、どんな顔で迎えてくれるかなんて俺は呑気に想像しては口元を緩ませる。入念に教えられた部屋番号と表札を見比べながら、遂にこの時が来た。早く会いたい。その一心で俺はノブに手を掛けた。
「将生ぃ!」
意気揚々と扉を開け放ったものの、目の前に広がった光景が余りにも衝撃すぎて、俺は思わず、今自らの手で開け放った扉を閉めた。
「……えっ!?今開いた!?開いたよね!?」
「大丈夫だよ」
中からは慌てる男の声と、ヤケに落ち着いた将生の声が聞こえる。
……落ち着け。見間違いかも知れない。将生が、どんな良い女でも取っ替え引っ替えするような女好きの将生が──男とキスをしていたなんて。悪い夢だ。酒に酔って変な妄想をしただけだ。大丈夫、大丈夫……な筈。
「米倉さんでしょ?何してるんですか。紹介するから開けて下さいよ」
……紹介とか言うなよ。
「い、いいよ!て言うか今の人誰!?」
「知り合い。米倉さん?聞いてます?」
扉の向こうから聞こえる呼び掛けにも、答える気にはなれなかった。
嗚呼、何だこの気持ちは。こいつが好きでも無い女と付き合っていたのは腐る程見てきた。女と連れ立って歩く姿も、せがまれてキスをしてやる様も、散々見てきたじゃないか。それが……何で男なんだ?
身体から力が抜けて、対面の壁に背中を付ける。恐る恐る開かれた扉から顔を出したものは、何処からどう見ても男だった。線の細い、青年。大学の同級生だろうか。俺に軽く会釈をすると、青年は逃げるように走り去って行った。
「遅かったですね。すみません、上がって下さい」
そう言う将生は何時も通り。すました小生意気な面をしていた。
部屋に上がり直ぐに淹れてくれた珈琲の水面を眺めながら、俺は言葉をなくしていた。衝撃的な光景が、ただ頭の中をぐるぐると回る。
「びっくりしました?俺ね、男も女もどっちもイケるんですよ」
気を遣ったのか、将生はそう言って小さく笑った。
「……わしが来るの分かっとったろう」
自分では努めて冷静に言葉を発した筈が、訳のわからない靄に巻かれ、思いの外低く吐き出される。将生は少し驚いた顔を見せたがそれも一瞬の事。直ぐに口元だけで笑みを作った。
「急に来られちゃったんですよ。人が来るから帰れって言ったんですけどね」
惚気か。何処迄俺を落ち込ませる気だ。
「同級生かい?」
「後輩です。一つ下の」
「惚れとるんか?」
俺の質問責めに対して、将生は心底面倒臭そうな視線を投げた。
「まさか。分かっているでしょう?俺がどんな人間か。恋だの愛だの……下らない」
その答えに何処かで、長年張り詰めていた何かが切れた。
「いった……!何するんですか!」
突然組み伏せられた将生が、怒りを含んだ瞳を投げる。
「男でも、ええのじゃろう?」
「……え?」
この大馬鹿野郎。俺がどれだけお前を想って生きて来たか。どれだけこの想いを大切にして来たか。その全て、下らないと言うのだろうか。
「ちょっと!ふざけないで下さいよ!」
「巫山戯てんのはどっちじゃ」
何時もより低い声に、将生はピタリと静止した。何か言いたげに薄く開いた唇を塞ぐ。柄にも無くココアでも飲んだんだろうか。初めて触れた唇は、何処か甘い味がした。
将生はどんな姿も美しい男だ。執拗に口腔を犯されながら苦し気に眉根を寄せ、瞼を閉じて耐える姿も、必死で逃れようと捩る身体も、自然と漏れ出る熱い吐息迄も、何もかもがまるで毒の様に身体を回り、抑えの効かない欲情を煽る。
「よね、くらさっ……!」
唇を離した途端俺の名を呼ぶなんて、罪な奴。細い腰を覆う固い筋肉。こいつはやはり男だ。そのでもどうしてこんなに、魅惑的なんだろう。
耳朶に歯を立てた途端、腕の中で固まっていた身体がびくんと跳ね上がる。
「んっあ……!」
続け様に舌先で弱い刺激を与えてやれば、鼻を抜けるような甘くとろけた声が上がった。
「耳、弱いんか?」
態とらしく息を吹き込む度に、ひくつく身体が悩ましい。
「や、やだっあ……!」
こんな姿を、あの青年にも見せたのだろうか。胸を渦巻くのは抗う事の出来ない、重く醜く、酷く自分勝手な嫉妬。服の中に滑り込ませた指先で小さな蕾を摘み上げると、再び身体が跳ね上がる。
「いやだ、そんな所!」
口ではそう言っていても、刺激に反応した蕾が芯を持って訴えた。
「ここは触って欲しい言うとるわ」
「言ってないっ!」
悩まし気に喘ぎながらも必死で抵抗する将生を組み伏せながら、何処か冷えた頭が巡る。
良い年こいて情けないと思われるかもしれない。だがいやだいやだと言われる度に、心の奥底が猛る。その感覚は、初めて女を抱いた時とは比べ物にならない程の激情だった。落ちる筈の無い男が、この腕の中で快楽を喘ぐ。その快感。これは支配欲なのだろうか。それとも趣味の悪い、嗜虐心に他ならないのだろうか。
俺は真っ直ぐに、将生を想っていた筈なのに──。
そう思った途端、身体が硬直し、俺は動けなくなった。突然心身共に停止してしまった俺を見上げ、上がる息を整えた将生は小さく笑って見せた。
「米倉さん、こんな事しても……何も変わらない」
だがそう囁いて首に回された腕は、微かに震えていた。
「あんただけは、嫌なんだ──」
耳元で小さく囁かれた涼やかに伸び行く声は、息苦しくなる程、弱く掠れていた。否、他の人間ならば気付かないだろう。普段通りの冷たく澄んだ声。だが俺には分かる。将生が俺に対し、どんな感情を抱いていたのか迄も。だからそれ以上進む事が出来なかった。
あの時に、好きだと言ってしまえば良かった。欲望に任せて、抱いてしまえば良かった。それが出来なかったのは、将生が俺に求めた物がそんな愛情では無かったと、分かってしまったから。
「……悪い、最近溜まっとってのお。今日はえらい酔うとるけえ……忘れてくれ」
そう戯けて見せたが、目も見れなくて、項垂れる俺を残し将生は一人風呂場に消えた。
それから俺は罪悪感から逃れられず、俺達の距離はほんの少し遠くなっていた。そして大学を出て、広島に戻って直ぐだ。あいつが動いたのは。
「──結婚、するんか?」
「まあね。女の方がしろって煩いから」
将生はきっと気付いていたのだろう。俺の気持ちに。近付くなと言う、牽制をしたかったのだと思う。
「行くな、言うたら?」
俺の側にいてくれるか?
「……何であんたにそんな事を言われなきゃいけないんです?俺の人生だ。誰に指図される覚えも無い」
何時もより攻撃的に思えるのは、分かっているからだろう。これが冗談じゃないと。だから俺は、精一杯の笑顔を贈る。
「幸せになりんさい」
そんな俺の言葉に将生は小さく鼻で笑った。まるで、なれる訳が無いとでも言うように。
それから一年も経たず、将生は離婚した。そして前にも増して女を切らす事は無くなり、まるで俺の恋情から逃れるように日々を生きる。俺はもう二度とあんな事はしないから安心しなと、言ってやる事が出来なかった。
月日は流れ行く。初めて出逢った日からもう、十年が経とうとしていた。将生も俺も相変わらず。組の若頭とその舎弟。それ以外俺達の間には何もなかった。それでも俺は将生を変わらずに愛していたし、将生はそんな俺を拒絶しながらも、側を離れなかった。不器用な関係。余りにも脆く、不安定な関係だが、俺達はその細い糸を互いに優しく握る事で繋ぎ止めていた。
そんな、ある夏の終わり。相変わらず兄貴衆との折り合いが悪い将生が起こした一つの事件が、取り返しの付かない事態を招いた。俺の気付かない所で動いていた組内の小競り合いは、何時しか同じ広島に拠点を置く暴力団、金丸組に迄飛び火する大惨事となった。今回に関しては比は完全にこっちにある。結局俺と伊崎会長が頭を下げ、ついでにそれ相応の額を包む事で納得してもらった。だがそれで相手方は収まったとしても、会長の気は収まる筈もない。俺が呼び出されたのは、それから直ぐだった。
しばらく謹慎として部屋から出るなと言われていた将生は、自分のしでかした愚行を悔いてか、会長の部屋に出向こうと立ち上がる俺の腕に縋る。
「米倉さん……!」
「ええ、何も言うな」
謝罪の言葉なんざ聞きたくもない。誰に迷惑を掛けた事でもなく、俺がこうして会長からお叱りを受ける事が将生はただ不安だったのだろう。だが十年前にこの道に引き摺り込んだ時から俺は、将生が起こした問題は全て己の責任である事は承知していた。だからこそ、教えて来た。自分は孤独だと信じ他者に牙を剥いて生きる事は、何時かこうして大切な何かを傷付けてしまう日が来る事を。それが分かってくれれば良い。
長い廊下を進み、スラリと障子を開く。
此方に目も向けない老君の前に俺は恭しく膝を付き、頭を下げた。
「お早うございます」
挨拶の代わりに萎びた指先で燻る螢火がジリと音を立てる。狭い和室を支配する沈黙は、まるで死刑を待っているかの様な絶望的な緊迫感を与えた。深く紫煙を吐き出した熱のない唇が、静かにその執行を宣言する。
「将生をバラせ」
分かっていた。こうなる事は。
「このまま放っておいちゃあ示しが付かん。何よりあいつは、このままじゃあ何時か組を潰すぞ」
分かっていたのに心臓が大きく脈打ち、用意して居た筈の逃げ道すら消し去って行く。
「いや、まだ若いだけで、よう言って聞かせますけえ、どうか……!」
狼狽える俺に向けて投げ付けられた硝子製の灰皿が耳元を掠め、遥か背後で粉々に砕ける高い音が響く。真っ直ぐに俺を射抜いた会長の瞳は、抗えぬ力を持っていた。
「分かっとろう?もう、手遅れじゃ。何よりここ迄将生を好き勝手やらせたんは己じゃあないんか。てめえのケツはてめえで拭きんさい」
分かっていたのにどうして、こんなにも手が震えるのだろう。焦茶色の机に置かれたトカレフが、まるでこの罪を責めるように鈍く輝いていた。
「少し、時間を下さい……」
そのまま俺は、広島を発った。
新幹線の中で、俺は向かう先のその人に話しがある旨を伝え、ただひたすらに震える手を握り締めていた。それでも身体の奥底から湧き上がる震えが止まる事はない。まるで一秒毎に命を削られて行くような、おぞましく不快な感覚。それでも目的地に着いた瞬間に、不思議と震えは収まった。
巨大な日本家屋を部屋住みの組員の誘導で歩む。一歩一歩、俺は覚悟を踏み締めていた。通された部屋で俺を待っていた男は、眉一つ動かさない。唯見詰められているだけなのに、どうにもゾッとするような威圧感を放っている。俺が腰を下ろすのを待って、山室組組長、山室晋三はゆっくりと口を開いた。
「どうした、ヨネ」
地を這うように響く低い声は、まるで何もかもを承知の上での問い掛けのように聞こえてしまう。
「……頼みを、聞いて貰えんだろうか」
頷く事も、声を発する事もなく、視線だけが続きを促す。余りにも巨大な存在を前に、俺は両手を付いて深く頭を下げた。
「将生を宜しくお願いします」
将生、と言う存在を脳内で引き摺り出しながら、組長はゆっくりと溜息を吐き出した。
「俺はただのガキは使わねえよ」
「分かっとります。だがこがあな事頼めるんは、親爺さんしかおらん。あいつは頭もええし若いのに肝も据わっとる。ちょっとばかし生意気かもしれん。だが悪い奴じゃあないんです。不器用なだけなんじゃ。認めた相手にゃあ心底尽くす、きっと親爺さんにならあいつも……!」
思わず熱く語り出した俺をやんわり制すと、組長は俺の前にゆっくりと歩み寄った。
「ヨネ。何をするつもりだ?」
その言葉にまるであやすような優しささえ感じ、目頭が熱くなる。情けねえ。そうは思っても、思わず零れた涙が一粒、若葉色の畳に吸い込まれて消えた。
「何も聞かんで、引き取ってもらえませんか?」
図々しい事も、無礼も承知。それでも俺はただ、将生を想った。
長い長い沈黙の後、組長は力なく息を吐き出した。
「……俺はお前さんのその不器用な所が嫌いだよ。うちの馬鹿な倅を見てるみたいでよ」
一見ぶっきらぼうなその物言いに、破門した筈の息子を思う組長の気持ちを感じ、俺は何処か安心していた。この裏社会の頭であるこの男はやはり、信用に足る人物だ。それでもトンボ帰りの新幹線の中で頭は巡る。
どうして、こんな事になってしまったのだろう。そう考えても答えは一つ。俺は大都会の片隅で、深過ぎる虚無を抱える少年をこの世界の裏側へと引き摺り込んだ。その瞳に自分を映し、その心に触れたいと願った。この手で掬い上げてやりたかった。親から貰えなかった愛情を精一杯与えてやりたかった。俺はあの男を愛し過ぎたそれ故に、取り返しの付かぬ過ちを犯したのだ。
重苦しい雲に覆われた空から大粒の雨が降りしきる、秋の始め頃。漸く覚悟を決めた俺は、強い決意と共に事務所へと向かった。相変わらず謹慎で部屋に閉じ込められた将生を呼び出す為に、震える指で電話を掛ける。暫くの呼び出し音の後、電話口から聞こえた声は、思わず息が詰まる程愛おしい物だった。
「……将生?話しがあるけえ、事務所に顔出しんさい」
それだけ言って電話を切った。今日、やると会長には伝えているから、誰も止めはしないだろう。ソファの背に深く凭れ、薄汚れた天井を仰ぎ目を閉じる。
俺をここ迄買ってくれた会長。息子のようで、永遠の片想いの相手である将生。その何方かを選ぶ事が、俺にはやはり出来なかった。俺は間違った事をしているのかも知れない。そうは思う。だがこうするより他に、最早道は無かった。
きっと俺が選ぶこの道は、将生の心をより深く重い雲で覆ってしまうだろう。だが死に行く俺と違い、この先あいつにはうんと長い道がある。命ある者には誰にでも等しく未来があるように。それが例え地獄への入口でも、楽園への門でも、どうか、強く生き抜いてくれ。
本当は知っていた。将生が不器用にも、俺を愛してくれた事を。何時か素直になって、求める事を恐れずにぶつかって来てくれる日を俺は待ち望んでいた。俺にはもう、それを待つ事も、共に歩む事も出来ないと思うと、やはり胸が押し潰されるほどに苦しい。だが決めた以上、もう迷う事は無い。だから無責任を承知で頭を下げる。
これから将生が出会う全ての人へ。どうか、あの不器用な男を愛してやって欲しい。たった一人で生きていると思わせないで欲しい。悲しみに窶した心を、優しく掬い上げてやって欲しい。将生が人の心を想う事が出来たらその時は、精一杯抱き締めてやって欲しい。どうか、どうかお願いします。
閉じた瞼を開き、噛み締めるように思い返す。この十年はまるで、雲翳を仰ぎ、その雲の向こうに広がる青空を思うような日々だった。
なあ、将生。初めて出逢った日を覚えているか?俺があの時自らの命を賭しても良いと思えるような重い恋に堕ちて居た事を、知っていたか?俺は少しばかり頭が悪くて、不器用で、しょうもない人間だった。それでもこんな俺を慕い、背中を追ってくれたお前の存在が、堪らなく嬉しかった。何よりも大切だった。だから癒える事の無い傷を遺してしまう俺を、どうか許さないで欲しい。そして何時か良い奴が見付かったら、今度こそ素直になりな。怖がらずに真っ正面から向き合って、うんと大事にしてやりな。そんでその時はよ、俺にもちゃんと報告に来てくれな。俺の墓の前で見せてくれよ。今日の様に重い雲が張った瞳の向こうに広がる、青空を。それがお前を遺して旅立つ、俺の自分勝手な最期の願いだ。
それでも何時かまた出逢えた時にはな、今度こそ逃す事の無いよう、その手を取って、真っ直ぐに言おう。
お前を心底、愛していると──。
了
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