魔人狩りのヴァルキリー

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絵画の中の女の子 ⑤

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魔人狩りのヴァルキリー
第二十七話 絵画の中の女の子 ⑤

   霧が、益々強くなっていき、辺りの情景が、ゆっくり霞んでいく。
   そして、サトコは、再び意識が朦朧としていった。

   サトコは、中学時代に戻っていた。

棺の中には、サエコの亡骸が横たわっていた。
    それは、綺麗な死に顔だった。まるで眠っているかのような、微かに微笑んでいるかのような死に顔だった。


   唯一の自分の拠り所親友、サエコの死ー。

そして、サエコを失った哀しみと、強い自責の念ー。

   サエコは、何故自分を置いて死んでしまったのだろうー?

   悲惨な家庭環境、自分を愚弄した者に対する強い憎しみー。
周りが黄色い声ではしゃぎ幸せそうにしている所を、外野から眺めるしかない毎日ー。
家庭でも学校でも居場所がなく、唯一の拠り所であるサエコは、もう居ないー。
どんなに心が潰れて潰れてくしゃくしゃになろうが、自分の理解者は自分しかいない。味方は何処にも居なく、心の不安定さを充足させるものはなかった。息が詰まるくらいの不安定で鉛のような重たい空間を彷徨い続けていた。


   黒灰色の底なし沼の中で自分は、ただ漠然と日々をやり過ごすしかなかった。
  
ーもう、誰も救世主は来ないだろう。否、もう信じない事にした。

「馬鹿だねえ。あんたは…」
女の、野太くおぞましい声が響き渡るー。
サトコは、その声に身震いしながら固まった。

身体は、重く息が出来ない。

皆、表面上はいい顔して裏で馬鹿にしているのだ。

自分は、愚鈍で誰の役にも立たないー。
親、サエコ、学校の皆、施設の皆、職場の人、黒須が自分を取り囲み、愚弄し嘲笑うー。


ーやめて、やめて、やめて、やめて!

サトコは、耳を抑えた。

「もう、これで分かったろう…これが現実…お前は、昔からなあんにも、変わっちゃ居ないのさ。」

サトコは、目を固くつぶり耳を強く押さえた。


ー違う!違う!違う!

   

   サトコは、強い拒絶反応を起こした。身体は強くガクガク震え、頭に鉛が詰まったかのように重くなっていくー。

   そして、全身を込め強く踏ん張り身体を動かした。右ポケットからサジタリウスを取り出すと、女の額に銃口を向け引き金を引いた。


「ぎゃあああああああああ!!!」

女は強い悲鳴を上げると、中から煙が吹き出し身体が真っ二つに割れた。 
そして、女の手が離れた瞬間にサトコは再び引き金を引いた。

女の身体は溶けると、サトコの右脚を掴んだ。

「何よ!?」

   サトコは、再び引き金を引く。しかし、何度打っても女の身体はぶくぶく泡を立てて再生していくー。
   すると、急に女の身体が細切れになり溶けて蒸発していった。霧と煙は、益々濃くなると、魔法にかかったかのように一瞬で晴れていった。
   
    振り返ると、サトコの背後で鎌を携えた黒須が息を切らして立っていた。
「サトコ、お前、引きずられるとこだったぞ。」
「…あ、黒須…」
   自分は、さっきまで、何を見せられて惑わされていたのだろうー?今、目の前にいる仲間を信じなくてどうするんだー?
「黒須…ゴメンね。でも、私はもう大丈夫だから。」
サトコは、唇をキツく噛み締めると黒須にしゃ
「もう、飲まれるなよ。あれは、ただの幻覚だ。」
黒須は、ただじっと前を向いていた。
   しばらく沈黙が流れたが、サトコの心は熱いものが身体の芯から湧き上がっているように感じた。
  黒須の黒い瞳は、宇宙のように深く澄んでおり強く大きな過去を抱えているような、とてつもなく重い何かを見据えているようだった。
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