魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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深淵の砦 ③

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ーと、走馬灯のように過去の記憶が蘇った。

遊郭に入ったら、アオイと出逢った。

彼女は、不思議な神通力があった。人の心を読み、未来を見通す力だ。

彼女の人を寄せ付けない孤高の雰囲気と、何処か柔和な温かみのある雰囲気があった。

壁を作っているような独特な雰囲気から、黒須は彼女に親近感を覚え、交流するようになった。

アオイと親しくなってから、魂の色が違う見えるようになった。
茶色、赤、オレンジ、黄色の色相が見えた。

魂の色相が、人それぞれ違って見える。

アオイの魂は、常に乳白色で一定していた。

アオイ曰く、魂の色相はその人の内面を現すという。
 
そこでは、あらゆる
人間の負の世界が垣間見れた。

憎悪、憤怒、悲しみなどのあらゆる、負の感情が渦巻くようになった。

寒さや飢餓に強くなった。

そこには、飢餓に苦しむ暴食の魔物が潜んでいた。


そんなある日の夜のことだった。
黒須は、眠リに着くことが出来ず、気晴らしに外の空気を吸いに裏庭まで足を運ぶことにした。

奇妙な重苦しい寒気を覚えた。
奥の茂みの暗がりのあたりに、
全身焼けただれ、腫れぼったい赤黒い肌の男が姿を表した。

彼は、まるでゾンビのようであり、黒須は全身に寒気が走った。

そのハッキリ分かった。死霊だ。
黒須は、アオイの影響からか、死霊がハッキリ見えるようになった。

それと共に、強い怒りの感情も湧いてきた。

彼は、お姉さんを家族ごと焼き殺した、犯人だと分かった。彼は、犯行がバレ 焼身自殺したのだろうかー。

黒須は、とうとう報いが来たのかと思った。

彼は、自分に対して、『 お前のせいで、俺はこうなった。お前は死神だ。』と、言い放ち因縁を突きつけられた。
『 だったら、あんたは悪霊だね。てか、もうなってるか。』
と、怒りを抑えた冷めた口調で言った。

だが、怒りより絶望の感情が強かった。
 自分は、死ぬのだと思った。
こんな、怒り狂った魔獣相手に非力な自分が勝てる筈がない。

『 コノヤロー!お前のせいだ!!!』 

男は、悪魔のような形相で黒須に襲いかかった。

黒須は、戦慄が走り目をつぶり咄嗟に近くにあった盛塩をバラまいた。


ーと、眩い炎が、当たりを不気味に照らした。

男の霊は、大きな悲鳴を上げながらその炎の中に飲み込まれていった。

背後に寒気を覚え振り向くと、そこに、鎌を携え黒いローブを纏った女が立っていた。 



キーンと耳鳴りがし、黒須の意識は現在に戻された。

ーその死神は、誰だー?奴の炎の色は、何色だったー?


しかも、その死神は何か意味深な発言をしていたようだ。


ーダメだ、思い出せない…

頭がキンキン痛み出す。
自分の脳内で、思い出さなくてはならない強い気持ちと、それを全力で押さえつけている正体不明の魔物がぶつかり合っている。

脳は、激しく軋み痛みを覚える。


再び、キーンと脳内に響き、黒須の意識は過去へと戻される。



死神である彼女は、深深とフードを被って目元は見えない。そして、自分の事を死神だと言った。
少年のような、奇妙なオーラを感じた。

『 いやあ、楽しいのが観察出来て実に良かったよ。人は、少し衝撃を与えただけで、こんなに変わるもんなんだね…』

その死神は、左右非対称な笑みを浮かべた。

黒須は、思考が停止した。


ーどういうこと…?


脳髄から気が吸い取られ、そこが一気に空洞になったような感覚を覚えた。

理解が追い付けない。

『人って弱い生き物だねぇ。彼女、気立てが良いもんだから残念だったけど、彼は簡単に堕ちたもんだよ。』

重く静寂な空間内に、林檎をシャクッと齧る音が反響した、

『リオも、大したもんだね… どうしても、実験に必要だなんて…目的があるんだってさ。まあ、何はともあれ、君が塩をかけてくれたお陰だよ。』

再び、林檎を齧る音が反響する。


ーじゃあ、あの男は実験台に…?そして、お姉さんはその犠牲に…?


黒須は、震え唇を強く噛み締めた。

『 楽しかったよ、カヤちゃん、また、遊ぼうね。』


その奇妙な死神は、オレンジ色の炎を纏わせ消えた。

辺りは、重い静寂に包まれた。

ーキーンと、脳内に耳鳴りがし、再び時間を引き戻される。



ーそうだ…私の名前は、カヤだった…ずっと忘れてた。

死神になって、黒須という名を与えられた。


コイツとリオのせいで、ミオお姉さんは死んだのだ。

黒須は、項垂れながらも懸命に前を向き直った。

「遊ぼう、遊ぼう、お姉ちゃん…」

アオサは、再び無邪気な少女の姿に戻った。


あの時の、火事で遭遇した時の孤児の顔だ。

再び、顔が歪み、そして、ミオお姉さんの顔面になる。そして、時雨の顔面へと様変わりした。

黒須は、怒りで震え上がりそうになりなる。

「やめろ!!!」

黒須は、叫んだ。


ー違う…やめてくれ…もう…


魔物は、時雨の顔面に変化した。

黒須の瞳孔が、激しくぴくぴく揺れ動く。

そしてそれは、奇妙な左右非対称な笑みを浮かべた。

そして、その魔物は、牙を向きながらこちらに向かって襲いかかる。

悪夢の中、光に浸食され尽くす瞬間に垣間見た、絶対的な孤独感を感じた。

視野は、徐々に暗くなる。僅かな光は強まり、邪悪な闇に吸い寄せられていく。音も弱まる。聞こえない。認識の境界が遠ざかり、すべてが黒灰色に飲まれていく。

膨大な、汚濁にまみれた魂の数ー。

青磁色の炎が、メラメラ燃え広がり、そして、アオサの頭部を直撃した。

アオサの顔面がケロイドのように溶け、非力な少女の顔へと変貌する。
魂の悲痛な叫び、阿鼻叫喚が渦巻く。

どす黒い、負の感情と底なしの欲望が黒須の前に立ちはだかるー。


ゾワゾワと寒気を覚える。

邪悪な霊力は、凄まじいー。

このままだと、世界に悪影響を及ぼす。

早く、浄化しないと…

醜悪な化け物は、泣き叫ぶ。

それは、かつての苦しみー戦争、飢餓や病気、殺人、暴行、自殺によって果てて行った者たちの悲痛な叫びだ。

魔物が、いや、醜悪な怪物がそこで暴走している。


黒須は表情を微動だにせず、ぎっと凝視する。

ふと、脳裏にミオお姉さんの顔が浮かんだ。
熱い感情が、水蒸気のようにフツフツとふつふつと沸き上がってくる。

そして、再び鎌を振り上げた。

異形の怪物は、泥のような塊になり蛇のような形に変貌する。
そこには、かつての散り去って行った仲間の顔面が悲痛な表情、怒りの表情を浮かべながら咆哮している様が仮面状に表出していく、、
そして、それは、じゅつ繋ぎのような状態となって、連なっていく。

おおおおー

それらは、束になって
次々と黒須目掛けて襲いかかる。

黒須は、咄嗟に避けた。

清廉だった魂が、汚濁にまみれて醜悪な化け物へと変貌している。粘液を撒き散らしながら、怪物は、咆哮する。

真っ白い虚空を見つめながら、黒須は、鎌を握り締め、もう一撃、お見舞いする。

死神になって間もない、修練だった頃のことを思い出した。それは、自分が他者に試され不安に晒された毎日だった。いつまでこうしていなければならないのか。

たかだか、数日、数週間、数ヶ月‥‥の時間が、永遠にも感じられたのだった。

「君が死神になってくれるとは、思っても見なかったよ…」

化け物は、アオサの姿に戻ると愉快そうに嘲笑した。

ーだから、何なのだ…人の人生を弄び魂を弄びやがって…!

自分は、死神だ。

死神とは、彷徨う魂を浄化し救う為に存在している。


「ギョーアーアーアーアー」
異形の怪物は、激しい雄叫びを上げる。

黒須は、瞳孔を大きく見開き睨みつけた。

何もかもが透明になっていくような感覚を覚えた。そして、第六感を手に入れたかのように感覚が研ぎ澄まされる。

黒須は、もう一度、力強く鎌を振るった。

鎌の刃が、青磁色の光の渦を帯びながら脳髄を直撃した。

魂が、ちりじりに暴発していく。

生前、人型だった者達の魂達だ。

元の状態に浄化してあげるんだ…



「待って…私が、悪かった…。ごめん、何でもするから。」

か弱い少女の姿に戻り、しきりに、懇願してくる。

「それは、あっちで言うんだな。」

黒須は情が微塵も無いドライな顔を向けると、アオサ目掛けて大きく鎌を振るった。
刃が大きく弧を描き、辺りにザクッと鋭敏な音がこだました。

「あとは、魔王を始末するだけだな。」

黒須は、鋭い眼光で鎌の取っ手を握り締めた。
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