30 / 39
30、馬車の中で② お義姉様と純血主義
しおりを挟む
お義姉様がメルトニア人最後の純血者…
それって血筋を重要視するドイル国にとってめちゃくちゃ重要人物じゃないですか?
だからお義姉様が帝国に来るからと同盟式典を帝国で行うとか、ドイル国の国王陛下達がお義姉様をあんなに大切にされていたのですね。
なんとなく納得です。
でも、ケンビット様は…ドイル国はよくお義姉様を手放しましたわね。メイル兄様がどの様にお義姉様を略奪に至ったのかその経緯が気になりますが…とりあえずよく戦にならなかったですね…
でも、今の話を聞いて余計に疑問が広がってしまいました。
聞いても大丈夫でしょうか…
私はチラリとお義姉様を見ると目があったお義姉様は少し困った様にニコリとする。
今を逃したら今後聞けないかもしれないな…
私は一度目を閉じて考えを巡らせてから再びお義姉様を見る。
「お義姉様がメルトニア人の最後の純血者。故に生まれた時からずっとケンビット様の婚約者だったと…」
「そうですね。生まれたその時から私がすべき事は決まっていましたから。」
「すべき事?」
「メルトニア人最後の純血者として国の為に…王家の威厳を保つために身を捧げる事。」
お義姉様はそれだけ言うと、何かを思うように私から視線を外して馬車の外の景色を眺める。
「ドイル国では、家族も含めて誰しもが私をアエリア・バルメルクではなくメルトニア人最後の純血者とみていました。私はその責務を全うする為に…ドイル国に生きるメルトニア人として完璧でいなくてはなりませんでした。」
……なにそれ。
思いもよらないお義姉様の言葉に私は言葉を失ってしまう。
生まれた時から国の為?王家の為?
誰もお義姉様を一個人として見てこなかったって…
責務を全うする為に完璧って…
そんなの単なる国の生贄みたいじゃない。
すごく苦しくて悲しい事なのに、何事もない様に淡々と話すお義姉様の今までの事を想像すると目に涙が溢れそうになるけど、必死に堪える。
メイル兄様は以前、お義姉様を救いたかったと言っていた。
その意味がやっと分かった。
でも、何故お義姉様1人がこんな重荷を背負わなくてはいけなくなったのでしょうか…
お義姉様を愛しているケンビット様は何もされなかったの?
お義姉様の家族は?
……
家族…
「…お義姉様がドイル国最後のメルトニア人の純血者と言う事は、お義姉様のご実家のバルメルク公爵家は純血を保っているという事ですよね?」
「はい…ドイル国で唯一純血を保っているのがバルメルク家となります。」
「では…バルメルク家は王家より権力があるのでは?」
「いえ。純血=権力とはなっておりません…あくまで国の権力は王家にあります。」
すっごく複雑な話になってくるのですが…
私の頭の中が混乱してくる。
「ドイル国はメルトニア人の純血しか国王になれないという事なら…お義姉様が最後の純血者という事ならお義姉様のお父様はメルトニア人の純血者という事ですよね?
公爵家なら王家との血筋も遠からずあるはずです…なぜお義姉様のお父様が国王になっていないのですか?」
「お父様は王位を放棄したからです。」
「放棄?」
そんなにメルトニア人の純血を大切にしているのであれば簡単に放棄なんかできないはずだし、王家の血筋を継ぐものとしては放棄してはダメでしょう…
なぜそんなことが許されたのでしょうか?
私の疑問にお義姉様は何かを思い返す様に微笑む。
「私のお父様は前国王ランドル様の異母弟です。
ランドル様が21歳の時に当時の国王…私のお爺様であるフィルネルと純血の王妃であるサラ様の間に生まれたのが私のお父様のフェルトンです。
お父様が生まれた時点でランドル様は王太子として国民にも慕われてとても有能な方でした。お父様は血筋主義のドイル国に疑問を呈している人物の1人でもありましたので、当時の国王…私のお祖父様が亡くなった際に『単なる血筋だけで国を支えるのではなく能力がある者が国を支えるべきだ』と王位を放棄したのです。ランドル様31歳。お父様は10歳の頃です。
お父様は王家から離れる為、王家に反抗心を持っていたバルメルク公爵家のエリアーナ…私のお母様と婚約をしてバルメルク公爵家に婿養子として入りました。」
“能力があるものが国を支えるべき“
21歳差は流石に大きいですし、それはごもっともな意見ですね。
でもなんでお義姉様のお父様は純血を保っているバルメルク家に婿養子に行ってしまったのかしら。全くメルトニア人の血筋に関係のない所に行って純血自体をそこで途切らせてしまえばよかったのに…
私だったらそうしてる。
まぁそこには私には分からないなんらかの事情があるのかも知れませんが…王族や貴族なんて色々なしがらみの中で生きている者ですからね。
「純血の王子が王位放棄した際に純血主義自体を無くせばよかったのにと思ってしまうのですが…」
なんとなく納得いかなくて、呟く様に私が言うとお義姉様は軽く頷く。
「そうですよね。そう思う人はドイル国にもいたと思いますが、誰も何も言えない状態だったのです。その頃にはメルトニア人の純血というよりはいかに王家にメルトニア人の濃血を残すかに考えは変わっていました。王家はメルトニア人の血筋というものに囚われて、血筋を持って王家の威厳を保つ為に躍起にやっていたのです。考えが変えられないほどに…」
外から見て異様に感じても内からは分からない。変えられない独裁的な国の特有の考えですね。
「お父様が3歳の頃、ランドル様と濃血者の側室の間にご子息が生まれました。それが現国王のアムール様です。
アムール陛下とお父様は兄弟の様に育ちました。アムール陛下とメルトニア人純血である王妃様の間にはお子が授かれず、王妃様は流行病によりなくなり、陛下は流行病の後遺症で子供が望めない身体になってしまいました。なので、現在のドイル国王族後継者には側室カエラ様の間に生まれたケンビット様しかいない状態です。」
…ケンビット様もかなり厳しい状況下にいらっしゃったのですね。
お義姉様とケンビット様の状況を考えるだけで胸がギュっと締め付けられる。
多分ドイル国の中にいるとそれが当たり前で仕方ない事になっていたのでしょうが、ドイル国の考えや当たり前の事が当たり前と感じられない私からすると色々不思議で仕方ありません。
「それでお義姉様が1人犠牲になったと…お義姉様のお兄様は?同じく純血なのでしょう?」
「お兄様は産まれる前より王家との正式な約束でバルメルク公爵家の当主になる事を決められていたので純血とは言え王家は手を出せないのです。」
お義姉様の話を聞くほど身体の奥底からフツフツと怒りが湧き出てくる。
私が口出す問題ではありませんが、色々考えれば考えるほどおかしくありませんか?
全てをお義姉様に押し付けている様な違和感。
誰もお義姉様の力になってくれなかったのでしょうか?
お義姉様を思っているケンビット様は何をしていたのでしょうか?
ケンビット様も置かれている状況からして色々あるのだと思いますが、自分の恋心とお義姉様の話を聞いて感じる思いがせめぎ合ってなんだか気分が悪いです。
何よりお義姉様を取り巻く混乱を作っているのはお義姉様のお父様ですよね。私ならお父様に責任の追及をしたい所ですが…
「お義姉様はその状況に対して不満や怒りを表に出さなかったのですか?私なら怒り狂っていると思います。」
「不満…怒り…そうですね…生まれた時からそれが当たり前だったのでそういう感情は薄れていましたし、時に思うことがあっても仕方ない事だと思って来ました…なのでそこまで」
お義姉様はそう言うと少し気まずそうに笑う。
お義姉様は優しのですね。
いや…優しいというよりもお義姉様自身怒る気にもならない程にドイル国のその血筋主義に囚われていたのかもしれませんね。
「お義姉様は生まれた時から理不尽な国の責務を負わされていたのでしょう。怒っていい所ですよ。」
私はそれだけボソリと呟くとお義姉様は私に対して寂しそうに微笑んだ。
それって血筋を重要視するドイル国にとってめちゃくちゃ重要人物じゃないですか?
だからお義姉様が帝国に来るからと同盟式典を帝国で行うとか、ドイル国の国王陛下達がお義姉様をあんなに大切にされていたのですね。
なんとなく納得です。
でも、ケンビット様は…ドイル国はよくお義姉様を手放しましたわね。メイル兄様がどの様にお義姉様を略奪に至ったのかその経緯が気になりますが…とりあえずよく戦にならなかったですね…
でも、今の話を聞いて余計に疑問が広がってしまいました。
聞いても大丈夫でしょうか…
私はチラリとお義姉様を見ると目があったお義姉様は少し困った様にニコリとする。
今を逃したら今後聞けないかもしれないな…
私は一度目を閉じて考えを巡らせてから再びお義姉様を見る。
「お義姉様がメルトニア人の最後の純血者。故に生まれた時からずっとケンビット様の婚約者だったと…」
「そうですね。生まれたその時から私がすべき事は決まっていましたから。」
「すべき事?」
「メルトニア人最後の純血者として国の為に…王家の威厳を保つために身を捧げる事。」
お義姉様はそれだけ言うと、何かを思うように私から視線を外して馬車の外の景色を眺める。
「ドイル国では、家族も含めて誰しもが私をアエリア・バルメルクではなくメルトニア人最後の純血者とみていました。私はその責務を全うする為に…ドイル国に生きるメルトニア人として完璧でいなくてはなりませんでした。」
……なにそれ。
思いもよらないお義姉様の言葉に私は言葉を失ってしまう。
生まれた時から国の為?王家の為?
誰もお義姉様を一個人として見てこなかったって…
責務を全うする為に完璧って…
そんなの単なる国の生贄みたいじゃない。
すごく苦しくて悲しい事なのに、何事もない様に淡々と話すお義姉様の今までの事を想像すると目に涙が溢れそうになるけど、必死に堪える。
メイル兄様は以前、お義姉様を救いたかったと言っていた。
その意味がやっと分かった。
でも、何故お義姉様1人がこんな重荷を背負わなくてはいけなくなったのでしょうか…
お義姉様を愛しているケンビット様は何もされなかったの?
お義姉様の家族は?
……
家族…
「…お義姉様がドイル国最後のメルトニア人の純血者と言う事は、お義姉様のご実家のバルメルク公爵家は純血を保っているという事ですよね?」
「はい…ドイル国で唯一純血を保っているのがバルメルク家となります。」
「では…バルメルク家は王家より権力があるのでは?」
「いえ。純血=権力とはなっておりません…あくまで国の権力は王家にあります。」
すっごく複雑な話になってくるのですが…
私の頭の中が混乱してくる。
「ドイル国はメルトニア人の純血しか国王になれないという事なら…お義姉様が最後の純血者という事ならお義姉様のお父様はメルトニア人の純血者という事ですよね?
公爵家なら王家との血筋も遠からずあるはずです…なぜお義姉様のお父様が国王になっていないのですか?」
「お父様は王位を放棄したからです。」
「放棄?」
そんなにメルトニア人の純血を大切にしているのであれば簡単に放棄なんかできないはずだし、王家の血筋を継ぐものとしては放棄してはダメでしょう…
なぜそんなことが許されたのでしょうか?
私の疑問にお義姉様は何かを思い返す様に微笑む。
「私のお父様は前国王ランドル様の異母弟です。
ランドル様が21歳の時に当時の国王…私のお爺様であるフィルネルと純血の王妃であるサラ様の間に生まれたのが私のお父様のフェルトンです。
お父様が生まれた時点でランドル様は王太子として国民にも慕われてとても有能な方でした。お父様は血筋主義のドイル国に疑問を呈している人物の1人でもありましたので、当時の国王…私のお祖父様が亡くなった際に『単なる血筋だけで国を支えるのではなく能力がある者が国を支えるべきだ』と王位を放棄したのです。ランドル様31歳。お父様は10歳の頃です。
お父様は王家から離れる為、王家に反抗心を持っていたバルメルク公爵家のエリアーナ…私のお母様と婚約をしてバルメルク公爵家に婿養子として入りました。」
“能力があるものが国を支えるべき“
21歳差は流石に大きいですし、それはごもっともな意見ですね。
でもなんでお義姉様のお父様は純血を保っているバルメルク家に婿養子に行ってしまったのかしら。全くメルトニア人の血筋に関係のない所に行って純血自体をそこで途切らせてしまえばよかったのに…
私だったらそうしてる。
まぁそこには私には分からないなんらかの事情があるのかも知れませんが…王族や貴族なんて色々なしがらみの中で生きている者ですからね。
「純血の王子が王位放棄した際に純血主義自体を無くせばよかったのにと思ってしまうのですが…」
なんとなく納得いかなくて、呟く様に私が言うとお義姉様は軽く頷く。
「そうですよね。そう思う人はドイル国にもいたと思いますが、誰も何も言えない状態だったのです。その頃にはメルトニア人の純血というよりはいかに王家にメルトニア人の濃血を残すかに考えは変わっていました。王家はメルトニア人の血筋というものに囚われて、血筋を持って王家の威厳を保つ為に躍起にやっていたのです。考えが変えられないほどに…」
外から見て異様に感じても内からは分からない。変えられない独裁的な国の特有の考えですね。
「お父様が3歳の頃、ランドル様と濃血者の側室の間にご子息が生まれました。それが現国王のアムール様です。
アムール陛下とお父様は兄弟の様に育ちました。アムール陛下とメルトニア人純血である王妃様の間にはお子が授かれず、王妃様は流行病によりなくなり、陛下は流行病の後遺症で子供が望めない身体になってしまいました。なので、現在のドイル国王族後継者には側室カエラ様の間に生まれたケンビット様しかいない状態です。」
…ケンビット様もかなり厳しい状況下にいらっしゃったのですね。
お義姉様とケンビット様の状況を考えるだけで胸がギュっと締め付けられる。
多分ドイル国の中にいるとそれが当たり前で仕方ない事になっていたのでしょうが、ドイル国の考えや当たり前の事が当たり前と感じられない私からすると色々不思議で仕方ありません。
「それでお義姉様が1人犠牲になったと…お義姉様のお兄様は?同じく純血なのでしょう?」
「お兄様は産まれる前より王家との正式な約束でバルメルク公爵家の当主になる事を決められていたので純血とは言え王家は手を出せないのです。」
お義姉様の話を聞くほど身体の奥底からフツフツと怒りが湧き出てくる。
私が口出す問題ではありませんが、色々考えれば考えるほどおかしくありませんか?
全てをお義姉様に押し付けている様な違和感。
誰もお義姉様の力になってくれなかったのでしょうか?
お義姉様を思っているケンビット様は何をしていたのでしょうか?
ケンビット様も置かれている状況からして色々あるのだと思いますが、自分の恋心とお義姉様の話を聞いて感じる思いがせめぎ合ってなんだか気分が悪いです。
何よりお義姉様を取り巻く混乱を作っているのはお義姉様のお父様ですよね。私ならお父様に責任の追及をしたい所ですが…
「お義姉様はその状況に対して不満や怒りを表に出さなかったのですか?私なら怒り狂っていると思います。」
「不満…怒り…そうですね…生まれた時からそれが当たり前だったのでそういう感情は薄れていましたし、時に思うことがあっても仕方ない事だと思って来ました…なのでそこまで」
お義姉様はそう言うと少し気まずそうに笑う。
お義姉様は優しのですね。
いや…優しいというよりもお義姉様自身怒る気にもならない程にドイル国のその血筋主義に囚われていたのかもしれませんね。
「お義姉様は生まれた時から理不尽な国の責務を負わされていたのでしょう。怒っていい所ですよ。」
私はそれだけボソリと呟くとお義姉様は私に対して寂しそうに微笑んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,678
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる