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しおりを挟むその後、両親と夕食を共にしたけど何を話したかハッキリと覚えていない。夕食の内容や味すら全く記憶にない。
久々の家族団欒だったはずなのに。
明日から学園に行って頻繁にお父様とお母様に会えなくなるというのに。
何をやっているのだろう…
そんな事を思いつつも部屋に戻りお父様から受け取った紙を再び見る。
そこには変わらず見知らぬ女性の名前。
エリー・ココット
可愛らしい名前。
聞いた事のない家名だから貴族の女性ではないと思われる。
この人はアロンとはどんな関係なのだろう…
お父様は友人とおっしゃっていたけど、本当に友人?
もしかしたら恋人…いえ…婚約者?
胸の奥がモヤモヤした感情に支配される。
アロンと気まずくなって顔を合わせなくなって…それから私がマルク様の婚約者になってもう何年も経っている。アロンにそういう相手がいてもおかしくない。
いいえ、アロンはこの国1番の商会の跡取りよ。逆にそういう相手がいない方がおかしいかもしれない。
モヤモヤとした感情と共に手にあった紙をクシャっと握り締めてしまいハッとする。
私は…何をやっているの…
アロンがどんな人とどうなろうともう私には関係ない事なのに…
誰が見ているでもないのに私は慌てて握り締めてしまった紙を広げて手で伸ばす。
シワが残るメモを眺めていると、自然と視線がクローゼットの方にいく。
クローゼットの奥に仕舞われたアロンからもらったネックレスと最後の手紙。捨てる事も手放す事も出来ず、でももう見る事も触れる事もないだろうと奥底に封印した想い。
なのに…名前を聞くだけでこんなにも簡単に封印が解けてしまうなんて…会って顔を見たら一体どうなってしまうのだろう。
私は近くにあった椅子に座って瞳を閉じてから深く深呼吸をする。
「私はこの国の第2王子…マルク様の婚約者。」
「アロンとの事はもうだいぶ前に終わった事。」
「この女性が誰であろうとアロンとどんな関係だろうと私には関係のない事。」
「私がすべき事はマサラ王妃の企みを止めること。」
「この国の為にサムル王太子殿下を無事即位させること。」
「アロンとこの女性はサムル王太子殿下が無事即位する為の協力者よ。」
誰に言うわけでもない。
ただ、自分自身に言い聞かせる為に声を出して気分を落ち着かせる。
“私はマルク様の婚約者”
“家の為、国の為になるのよ”
“私は私のすべき事をする”
“余計な感情は必要ない”
何度も何度も自身の中で呪文の様に繰り返す。
ぐっ…と自然に手に力が入る。
そんな中、フッとアロンからの最後の手紙の言葉が頭をよぎった。
【多幸を祈る】
「多幸か…幸せってなにかしら…」
フフッ
思わず乾いた声で笑ってしまう。
第2王子がどんな人かは誰もが知るところ。
簡単に幸せなんて望めない。
「今思えば酷い言葉」
この言葉が私達の未来はない事をものがっていた。
アロンにとってあの時、既に私は終わった人だったのよ。
「動揺しちゃって馬鹿みたい…」
先程までの思いがスッと落ち着く。
「あの時は何も返事を書かなかったけど、“ありがとうこざいます”って返事を書けば良かったわ…だからこんな気持ちになってしまったのかも…」
あの時、自分の気持ちを封印するのではなく終わらせるべきだった。
私は再びメモに目をやる。
「エリー・ココット」
その名前を見ても、もう先程のように動揺しない。
フッと自然と笑みが出てしまう。
もう大丈夫。
これも妃教育の賜物かしら。
気持ちの切り替えは得意な方なのよ。
「うん。よしっ」
私は全てを振り切って立ち上がると、この国状況を再確認して自分のすべき事を考える事にした。
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