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穏やかな日はすぎるのが早く、断罪の日から1か月が経過した。

今回の事は王家からきちんと告示された。
あまりの事に世間は一時騒然となったけど、ウィストン公爵が言った通り王家への風当たりはそこまで強くならなかった。

王家への非難が全くなかったと言うわけではないけど、マサラ元王妃やハリストン元公爵に対しての怒りの声が多く、マサラダ元公爵、キャスティン元侯爵、モーメント元侯爵について想像以上に多くの非難の声が上がった。


前国王の暴挙からこの国を守り、優しく国民を守ってきて…今回の件で責任を感じて退位を決意した国王に対しては非難よりも保護する声が多く寄せられ、それと同時にこの一件の出来事を暴いたサムル様の有能さは瞬く間に国民に知れ渡り、今までの噂は収集しサムル様の即位を心待ちにする国民も多くいた。



私はあの出来事の翌日には学園に戻り、王家からの告示後は一時的に好奇の目に晒されたりはしたものの、すぐに試験が始まった事もあり至って平穏な日々を送れている。

変わった事といえば、人目を気にしなくて良くなったので学園内でアロンと良く話すようになったことと、アロンからの私への熱いスキンシップ…そして、毎日のように放課後に温室の秘密の部屋に行く様になったこと位。



私はここ2年間忘れていた“楽しい日々“を満喫している。


*****


放課後、帰り支度が済んだら気心の知れた友人達に声をかけていつも通り足速に温室へと向かう。

今日はリナにお茶請けとして私の好きなマカロンをお願いしたからいつも以上に足取りは軽い。


いつもの様に温室に入り秘密の部屋の扉を開けると、いつもはいない人の姿があり、私は固まった。


「ろ…ローライ様?」

そこには目に掛かるほどの長さだった前髪をさっぱりと短髪にして、スッキリとした顔をしたローライ様がいた。

お家が没落となり、公爵令息から平民となったローライ様。


もちろん、主犯である2人の実子であるローライ様は周りからの風当たりも強く受けた。

でも、今回の件が明らかとなったのはローライ様の協力があってだとサムル様が公言した事によりローライ様はこの件の一番の被害者として国民達から同情の目を向けられていた。


「学園に戻られたのですね」

没落後の手続きや平民として生活している為の準備であれからずっと学園には来られず、もしかしたらこのまま戻られないのでは…と心配をしていましたが、元気そうなお顔を見れてホッとする。

ローライ様は私の姿を見ると、腰を曲げて頭を深く下げる。


「カロリーナさん…今回の件…マルクの事は本当に申し訳なかった。それ以外にも、俺がもっと早くに行動を起こしていたらこんなことにはならなかったかもしれない…悔やんでも悔やみきれない…」


「えっ…ちょっ…頭をあげてください」

私が慌ててローライ様の謝罪を止めると、誰かが私を後ろから抱きしめる。



誰かって…こんなことする人は1人しかいませんけど…



「ローライさん…さっきから言っているでしょう?今回の件に関しては貴方からの謝罪はいらないと…誰よりも深く傷ついた貴方が一人一人にそんな頭を下げる必要などありません」


私を後ろからギュッと抱きしめながら、アロンは呆れた声で言う。

アロン……とても真っ当なことを言っているけど、見せつけるように私を抱きしめながら言うセリフではありませんよね?


絶対的におかしい光景であるはずなのに、周りの人たちはもう諦めたのか、その部分をつっこむ人はもういない。



この光景を初めて見るだろうローライ様は顔には出さないけど多分複雑な思いをしていると思う。


アロンから抱きしめられるのは嬉しいけど、流石に時と場合を弁えないと…

そう思い私はアロンの腕からすり抜けようとするけど、アロンは自身の腕にグッと力を入れて私が抜け出そうとするのを阻止する。


「……」
「……」


チラリとアロンの方を見ると、アロンはニコリと不敵な笑みを浮かべる。

うん。諦めよう…


「ローライ。学園にはこれからきちんと通うんでしょ?まさか辞めるなんていわないわよね?ウィストン公爵だって言っていたし…」

そんな私達を空気の様に無視して、エリーさんが私とアロンこの状況に戸惑っているだろうローライ様に尋ねる。


「あー。うん、迷ったけどね…きちんと卒業までは通うよ。その間に今後の事を色々考えたいしね」

そう言ってローライ様はフッと笑みを浮かべる。


「色々覚悟してこの学園に戻ってきた。何人かに心無い事を言われたが、この学園に通う殆どの人がこんな俺を優しく向かい入れてくれた。

身分にとらわれず、人材を育てるというこの学園の素晴らしさに改めて気付かされた。俺は罪人の息子で平民となったけど、こんな俺でもチャンスを与えられる…こんな学園があるこの国は他のどこにも無い素晴らしい国だと思う。だからこそ俺はこの国の役に立つ人間になりたい…本気でそう思った」


そう言うローライ様の表情は以前と違って柔らかな表情となっている。


「じゃあ。この学園の教師になれば?ローライ君には向いていると思う」

マリコ先生がポツリと言う。

「教師に…」
「おい。マリコっ余計なこと言うな。」

ローライ様がマリコ先生の言葉に興味を示すけど、アロンがすぐに止める。

アロンはハァ…と軽く息を吐くと、私から渋々と離れてローライ様の方に近づく。


「ローライさん…貴方さえ良ければですが、ロン商会に来て下さいませんか?」


アロンの勧誘にローライ様は目を見開いた。


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