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番外編 マサラの決意④<完>
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私が王城に入り、トマクと逢える機会はグッと減った。3ヶ月……いや半年に一回、数時間逢う時間を作るのがやっとだった。
逢えない期間も内密に……頻繁に……手紙のやりとりをして互いの現状を把握していた。
手紙はやりとりした後に痕跡を残さないように処分していた。
全て完璧だった。
しかし、それから2年後、私は予定外に身籠もってしまった。
誰かしらと関係を持つ時は必ず避妊をしていた。避妊薬も飲んでダブルで対処していた。だから思い当たるとしたら、期間的にも久々の再会で避妊を怠ってしまったトマクとの子だった。
乙女の日が終わってすぐ、たった一回の行為だったので大丈夫だと思っていたが、まさかこんな事になるなんて考えてもいなかった。
トマクとの子を再び授かれたのは嬉しい。
でも、なんとか王妃の座に就こうと今まで手を尽くしてきたのに、私が妊娠した事がバレてしまえば計画は全て台無しになる。
国王ケトルとは関係を持っていない。このお腹の子をケトルの子にするのは無理。
私は窮地に追い込まれてしまった。
そんな私の異変に気づいて救ってくれたのが、念のために関係を持っていた王弟のモーメント侯爵だった。
彼は私に協力すると言って、ケトルが参加する夜会でケトルの飲み物に睡眠薬を混ぜ飲ませ、媚薬を飲まされたと偽りの報告をして私とケトルが一晩を共にしたという状況を作ってくれた。
それにより私のお腹にいる子供は国王ケトルの子だと周りに周知させて、責任感の強いケトルは責任を取る形で私を後妻として迎え、私は計画通り王妃の座に着くことができた。
全ては上手くいっているように思えた。
が、全てを知る王弟モーメント侯爵はそれから私を脅すようになった。
モーメント侯爵は自己評価が高く、プライドの塊で先代国王を生き移したような人だった。故に、現国王である性格が正反対の優しく温情に熱い兄、ケトルの事を良く思っていなかった。
私を王妃に据えて、ケトルの王位を剥奪。自身を王位につかせろというのがモーメント侯爵の計画だった。
私は、頷くことしか出来なっかった。でも、私とトマクの最終目標は王政の廃止。私達の目標を達成させる為にはモーメント侯爵の計画は邪魔なものだった。
なんとか状況を誤魔化す為に、私はモーメント侯爵の話に乗るフリをして身体の関係を続けた。
関係を続ける中で、モーメント侯爵は自身がどれだけ国王に相応しいかの武勇伝を私に話をしてきた。
その中で、モーメント侯爵は前国王の死際の暴挙を助長させた人物だったことが分かった。王太子であった兄を差しおいて自身が国王の座に着く為の行動だった。
……言ってしまえば、この男がトマクの人生を台無しにした張本人だと言う事。
私は、現在の状況を作る原因となったモーメント侯爵を殺したいほど憎らしく思った。でも、モーメント侯爵に脅されていることをトマクには秘密にしていたので、その真実を私はトマクに伝える事はできなかった。
国王ケトルは本当に人が良く、優しく、思いやりのある人だった。ケトルの横にいると、その温厚さから決心が鈍ってしまうほどだった。でも、王弟モーメント侯爵の存在でそんな気持ちは無となった。
トマクとの計画は進めなくてはいけない。
なりふりなど構っていられなかった。
ローライとは共に過ごせなかったけど、その分、マルクには惜しみない愛情を注いだ。
そして、大切なマルクが計画実行後、苦労しないように高位貴族達と関係を持てるように色々手を尽くした。
全ては上手くいっているはずだった。
私とトマクのやっている事は間違っていないはずだった。
なのになぜ、こうなってしまったのか……
私はどこで間違えてしまたのだろう?
まさか自身の子に……ローライに窮地に追い込まれるとは想像もしていなかった。
全てが公になり、私は牢に入れられた。
明日には北の牢獄に送られるのであろう。
もう全てを諦めた。
でも、解放感からとても軽やかな気分だった。
「母上……」
牢の外の暗闇から声が聞こえて私は力無く振り返る。
「マルク?」
母上と呼ばれたので咄嗟にマルクの名前を呟くと、そこにいたのは愛おしくも愛する事ができなかったローライがケトルと共に立っていた。
「ロ……ライ?」
涙が溢れ出る。
あんなに小さかった可愛い私の子。
こんなにも大きくなって……
貴方の成長する姿が見られなかった事が私の最大の後悔かもしれない。
「ごめん……なさい。ごめんなさい……ごめん……」
「母上……顔を上げてください」
急な再会にただただ土下座して謝る私に、ローライは戸惑いながらも優しく声をかけてくれる。
「母と……私を母と呼んでくれるの?」
「……私を産んで下さってありがとうございます。それだけはお伝えしたかったので」
そう言って、ローライは目に涙を溜めて微笑んだ。
「マサラ……お前のした事は許された事ではない。でも、全ての原因を作ったのは私の父だ。ハリストンの事といい、こんな事になるまでお前達の心の闇に気づいてやれず申し訳なかった」
ケトルはそう言って私に軽く頭を下げた。
そんなケトルの姿に私はフッと笑ってしまう。
本当にこの人は……
「私は罪人ですよ。陛下、頭をお上げください。サムル殿下は将来有望ですね。心優しい貴方と有能な殿下の力できっとこれからこの国は良いものへと変わっていくでしょう。私もトマクも過去に囚われてそれが見えていなかった」
私は立ち上がると深々と頭を下げる。そして、ローライの方を見て笑う。
笑っているのに涙が止めどなく出てくる。
「……陛下。ローライを連れてきていただきありがとうございます。ローライ……愛しているわ。今まで本当にごめんなさい」
私の言葉にローライは気まずげな表情をした。
目を閉じるとトマクと私、ローライとマルクが幸せな家族として過ごしている風景が脳裏によぎった。
どんな事をしても、私は愛なんて物に溺れずトマクを止めるべきだった。
トマクを止められるのは私しかいなかったのだから……
もう二度と手に入れる事ができない幸福。
私はそれを自身の手で手放してしまった。
私は死ぬまでその事を後悔し続けるだろう。
逢えない期間も内密に……頻繁に……手紙のやりとりをして互いの現状を把握していた。
手紙はやりとりした後に痕跡を残さないように処分していた。
全て完璧だった。
しかし、それから2年後、私は予定外に身籠もってしまった。
誰かしらと関係を持つ時は必ず避妊をしていた。避妊薬も飲んでダブルで対処していた。だから思い当たるとしたら、期間的にも久々の再会で避妊を怠ってしまったトマクとの子だった。
乙女の日が終わってすぐ、たった一回の行為だったので大丈夫だと思っていたが、まさかこんな事になるなんて考えてもいなかった。
トマクとの子を再び授かれたのは嬉しい。
でも、なんとか王妃の座に就こうと今まで手を尽くしてきたのに、私が妊娠した事がバレてしまえば計画は全て台無しになる。
国王ケトルとは関係を持っていない。このお腹の子をケトルの子にするのは無理。
私は窮地に追い込まれてしまった。
そんな私の異変に気づいて救ってくれたのが、念のために関係を持っていた王弟のモーメント侯爵だった。
彼は私に協力すると言って、ケトルが参加する夜会でケトルの飲み物に睡眠薬を混ぜ飲ませ、媚薬を飲まされたと偽りの報告をして私とケトルが一晩を共にしたという状況を作ってくれた。
それにより私のお腹にいる子供は国王ケトルの子だと周りに周知させて、責任感の強いケトルは責任を取る形で私を後妻として迎え、私は計画通り王妃の座に着くことができた。
全ては上手くいっているように思えた。
が、全てを知る王弟モーメント侯爵はそれから私を脅すようになった。
モーメント侯爵は自己評価が高く、プライドの塊で先代国王を生き移したような人だった。故に、現国王である性格が正反対の優しく温情に熱い兄、ケトルの事を良く思っていなかった。
私を王妃に据えて、ケトルの王位を剥奪。自身を王位につかせろというのがモーメント侯爵の計画だった。
私は、頷くことしか出来なっかった。でも、私とトマクの最終目標は王政の廃止。私達の目標を達成させる為にはモーメント侯爵の計画は邪魔なものだった。
なんとか状況を誤魔化す為に、私はモーメント侯爵の話に乗るフリをして身体の関係を続けた。
関係を続ける中で、モーメント侯爵は自身がどれだけ国王に相応しいかの武勇伝を私に話をしてきた。
その中で、モーメント侯爵は前国王の死際の暴挙を助長させた人物だったことが分かった。王太子であった兄を差しおいて自身が国王の座に着く為の行動だった。
……言ってしまえば、この男がトマクの人生を台無しにした張本人だと言う事。
私は、現在の状況を作る原因となったモーメント侯爵を殺したいほど憎らしく思った。でも、モーメント侯爵に脅されていることをトマクには秘密にしていたので、その真実を私はトマクに伝える事はできなかった。
国王ケトルは本当に人が良く、優しく、思いやりのある人だった。ケトルの横にいると、その温厚さから決心が鈍ってしまうほどだった。でも、王弟モーメント侯爵の存在でそんな気持ちは無となった。
トマクとの計画は進めなくてはいけない。
なりふりなど構っていられなかった。
ローライとは共に過ごせなかったけど、その分、マルクには惜しみない愛情を注いだ。
そして、大切なマルクが計画実行後、苦労しないように高位貴族達と関係を持てるように色々手を尽くした。
全ては上手くいっているはずだった。
私とトマクのやっている事は間違っていないはずだった。
なのになぜ、こうなってしまったのか……
私はどこで間違えてしまたのだろう?
まさか自身の子に……ローライに窮地に追い込まれるとは想像もしていなかった。
全てが公になり、私は牢に入れられた。
明日には北の牢獄に送られるのであろう。
もう全てを諦めた。
でも、解放感からとても軽やかな気分だった。
「母上……」
牢の外の暗闇から声が聞こえて私は力無く振り返る。
「マルク?」
母上と呼ばれたので咄嗟にマルクの名前を呟くと、そこにいたのは愛おしくも愛する事ができなかったローライがケトルと共に立っていた。
「ロ……ライ?」
涙が溢れ出る。
あんなに小さかった可愛い私の子。
こんなにも大きくなって……
貴方の成長する姿が見られなかった事が私の最大の後悔かもしれない。
「ごめん……なさい。ごめんなさい……ごめん……」
「母上……顔を上げてください」
急な再会にただただ土下座して謝る私に、ローライは戸惑いながらも優しく声をかけてくれる。
「母と……私を母と呼んでくれるの?」
「……私を産んで下さってありがとうございます。それだけはお伝えしたかったので」
そう言って、ローライは目に涙を溜めて微笑んだ。
「マサラ……お前のした事は許された事ではない。でも、全ての原因を作ったのは私の父だ。ハリストンの事といい、こんな事になるまでお前達の心の闇に気づいてやれず申し訳なかった」
ケトルはそう言って私に軽く頭を下げた。
そんなケトルの姿に私はフッと笑ってしまう。
本当にこの人は……
「私は罪人ですよ。陛下、頭をお上げください。サムル殿下は将来有望ですね。心優しい貴方と有能な殿下の力できっとこれからこの国は良いものへと変わっていくでしょう。私もトマクも過去に囚われてそれが見えていなかった」
私は立ち上がると深々と頭を下げる。そして、ローライの方を見て笑う。
笑っているのに涙が止めどなく出てくる。
「……陛下。ローライを連れてきていただきありがとうございます。ローライ……愛しているわ。今まで本当にごめんなさい」
私の言葉にローライは気まずげな表情をした。
目を閉じるとトマクと私、ローライとマルクが幸せな家族として過ごしている風景が脳裏によぎった。
どんな事をしても、私は愛なんて物に溺れずトマクを止めるべきだった。
トマクを止められるのは私しかいなかったのだから……
もう二度と手に入れる事ができない幸福。
私はそれを自身の手で手放してしまった。
私は死ぬまでその事を後悔し続けるだろう。
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感謝に振り回されたのが原因かも❓️危険を計画を実現させるには鋼の意思が必要かも😓
マサラはマクールに都合良く使われている⁉️それとも手段と目的が混乱してるとか❓️だとしたらマサラが哀れ(;´Д⊂)ハゥ
やっと結婚式です万歳\(^_^)/アロン君の一念が叶いました👏。