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番外編 マサラの決意③

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「ありがとう。マサラ……無謀な事をしようとしているのは分かっている。でも、私は君やこの身に受けた理不尽な事全てに置いて許せないんだ。王家は腐っている。もう王族制度など無くしてしまうべきなのだ」
「大丈夫。私は何があっても貴方の味方でいるわ」
私が真剣な顔で言うと、トマクールは優しくキスを落とした。

トマクールは決して間違ったことをする人ではない。昔から最終的にどんなことでもトマクールが行うことは正しかった。だから私の判断は間違っていない。

私はトマクールの腕の中で強くそう思った。

それから半年後、私は秘密裏に男の子を出産した。
計画通りトマクールは私を慕ってくれるパノマ男爵令嬢と婚姻を結び私が産んだ子供を2人の子とした。
大切な子と離れることになってしまうのが辛かったけど、トマクールはそんな私に子供の名前をつけさせてくれた。
悩んだ末、子供の名前は“ローライ“とした。

産んですぐに我が子と離れ、私は変わらず娼館で過ごしていた。
ローライを授かり、私達が互いに覚悟を決めた日から、私とトマクールは関係がバレないように逢う機会がグッと減ってしまった。
それまでは毎日のように逢っていたのに、今では1ヶ月に一回会えれば良い方……
それを良いことに、娼館の管理者で私達の協力者であるマサラダ公爵が私に言い寄ってくるようになった。
正直気持ち悪かったけど、一番の協力者であるマサラダ公爵を無碍にすることも出来ず、私はのらりくらりと上手く交わしていた。

でも、流石に限界を超えてしまいその事をトマクールに伝えると、トマクールは少し困った顔をしながら膝をついて座っている私の手をグッと握った。

「……マサラダ公爵の誘いに乗ってくれ」
「…………え……?」
トマクールからの予想外の言葉に私は固まった。
「いつの時代も権力を握る男の裏には女がいる。その女がどんな女であるかでその男の人生は決まる。マサラには辛い事をさせる。でも、作戦を成功させる為には何かしらの犠牲も必要なのだ。現宰相補佐をしているマサラダ公爵は味方にして置くべきだ。できたら、お前が手玉を取れるように接してほしい」
「……あの男に私の身体を差し出せと? ……そんな……無理だわ」

戸惑う私をトマクールは優しく抱きしめる。

「私も嫌だ……でも、使える手はどんなことでも使って行かないと……今の私には以前のような権力がない……悔しいが奴らの手を借りるしかないのだ」

私を抱きしめるトマクールの力が強くなり、身体が微かに震えてる。
トマクールの現在の状況もトマクールの想いも分かってあげたいけど、流石に行き過ぎている。
私がそこまでしなくてはいけない理由が見当たらない。
そこまでするくらいならこんな復讐なんて諦めてトマクールとローライとささやかな幸せな家庭を築きたい。

「無理よ……流石にそこまではできない。私はただ……貴方と……ローライと幸せに過ごしたい」
耐えていた涙が溢れ出る。
そんな私を見てトマクールも涙を見せる。


でも、トマクールは私の言葉に対しての答えを返してはくれなかった。





それから3ヶ月後。
トマクールと気まずさからか顔を合わせなくなってしまい自分の精神状態が限界を感じ始めた頃、王妃であるサラ様が亡くなった。
その翌日、久々に私の前に現れたトマクールはやつれきっていた。私に詫びの言葉を述べて笑みを向けてくれるが、その表情に覇気が全くない。
きっと、私と逢わなかったこの3ヶ月。トマクールは自分の中の葛藤と戦っていたのだと思う。
このままではトマクールは死んでしまうのではないのだろうかと心配になった。
そして、そんなトマクールの状態を見て、私はもう覚悟を決めるしかないと思った。

愛する人のこんな姿を見ていられない。
トマクールが苦しんでいる。私も苦しい。でも、その苦しさを2人で寄り添い目的に向かってもう突き進むしかないのだ。
私の身体を差し出すだけで目的が達成されるのであれば安いものだ。

「トマクール……貴方のいう通りにするわ。サラ王妃が亡くなって私はどうしたらいい? マサラダ公爵を誘惑して手中に収めて、陛下に近づけばいいの? それからは?」

私の言葉にトマクールは目を見開く。
そんなトマクールに私は笑みを浮かべる。

「すまない……すまない……すまない……」

トマクールは涙を流して小さな声で何度も呟く。

「私に申し訳ないと思うのであれば……そうね。トマクール貴方の事をトマクと呼んでもいい? 修道院時代、みんな仲間を愛称で呼んでいたの。私もマーサと呼ばれていたのよ。だから、貴方も私をマーサと呼んで」


そう言って私はトマクールを抱きしめた。



それから、私はマサラダ公爵の誘いに乗って関係を持った。
そして、マサラダ公爵の協力を得てサラ王妃が亡くなって半年後には国王陛下……ケトルに接触できる機会を得た。

娼館に無理矢理連れて来られて救いを求めるという無謀とも思える作戦だったにも関わらず、トマクとマサラダ公爵が上手く手を回してくれたお陰か誰に疑われる事なく私は王城に入り、ケトルの近くにいられるようになった。

私達の目的をより確実に達成する為に、ケトルと関係を持てればとずっと機会を伺っていたが、ケトルは前王妃……サラ様を本当に愛していた様で、私を王城に住まわしてくれて優しく接してはくれるものの、あくまでそれは幼馴染で哀れな私を助けてくれているだけだった。

国王であるケトルに近づけたのはいいが、そこから先に進む為にはより沢山の協力者と裏で動く為の資金が必要だった。
そこで、私は財務大臣をしているキャスティング侯爵や国王に一番近いと言ってもいい現王弟である第二騎士団長のモーメント侯爵とも上手く近づいて関係を持つようになった。

マサラダ公爵の時は……最初はあんなに拒否反応があったのに、一度身体を許してしまえば身体を差し出す事自体、特に気にならなくなってしまった。
逆に自分の身体を使って意図も簡単に自分の思い通りに物事を進められるのであればその行為自体とても価値がある事だと感じるようになっていた。
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