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第三章 ランク戦開催
6話 恐るべしカルモウ
しおりを挟むカツカツと音を立て、廊下を歩く男がいる。
赤を基調とした鎧を身にまとい、金属の擦れる音をガシャガシャと鳴り響かせているその男は、ある扉の前に来ると、静かにそれを開ける。
その音を聞いて、部屋の左右に並び立つ数人の男たちが、一斉に顔を向けた。
「おぉ、アカニシ、早かったな。」
「いえ…」
中央に座る立派なひげを携えた男が、鎧の男に笑みを浮かべながら声をかける。
対して、アカニシと呼ばれた鎧の男は、膝をつき、頭を下げた。
「顔を上げて良いぞ。突然呼び出してすまなかったな。」
「問題ありません…それで、何か御用でしょうか?」
膝をついたまま問いかけるアカニシに、男はニコッと笑うと話し始めた。
「今日呼んだのは、お前に頼みたいことがあるからだ。」
「お願い…ですか?」
「そうだ。我が国が近くジパン国へ侵攻を行おうとしているのは、お前も知っているな?」
「はい。」
「我らもその準備を早く進めたいのだが、一つ問題が出てきたのだ。お前にはその対処を依頼したい。」
「…問題?」
「そうだ。実はな、最近我ら帝国に反する者たちが増えておるのだ。もしかすると、すでに反抗勢力が組織されているやもしれん。一刻も早く世界を統一するためには、ジパンの奪取が急務であるというのにも関わらず…だ。」
反抗勢力と聞いて、アカニシは心の中でそりゃそうだとつぶやいた。しかし、彼はそれを表には出すことなく顔色を変えずに、その通りだとうなずく。
「お前にはその反抗勢力を叩き潰して欲しい…できるか?」
ひげの男は、見定めるようにアカニシにそう問いかけてくる。
完全に試されている。
ひげの男の視線から、それをひしひしと感じる。
しかし、できるか否かと問われ、ここでできないという奴は馬鹿だと、アカニシは思った。
「もちろんです。期待に応えて見せましょう。」
「おぉ、頼もしいな!!さすがは『プレイヤー』であるな!よろしく頼んだぞ、創血の牙副団長のアカニシよ!!」
ひげの男がワハハと笑う。
アカニシは立ち上がり、頭を下げるとその場を後にした。
ガシャガシャと音を立てて廊下を進み、角を曲がると、暗闇から別の男が現れる。
「おかえりなさい。」
首から下全部を真っ黒な服で覆ったその男は、アカニシを見て表情ひとつ変えずにそう告げる。
「帰るぞ。」
アカニシがそう言うと、その男が目の前に黒いゲートを発動させた。
それを通り過ぎると、さっきまでの煌びやかな内装とは打って変わり、石造りの地下道のような場所へと出てきた。
そして、今まで普通の表情だったアカニシの顔は、怒りに満ちたものになる。
「何が『頼もしいな!』だ!!くそっ!もうすぐランク戦が始まるっていうのに、なんで俺がそんなことしなくちゃならねぇんだ!!」
アカニシはそう吐き捨てて壁を殴りつけた。
拳を中心に、壁に亀裂が走る。
「団長も団長だ!リシアを手中に収めたいなら、あいつらをさっさと始末してしまえばいいのに!なぜこんな回りくどいことをするんだ!!」
「あなたの気持ちは理解します。が、ただ奴を殺しただけでは民はついてこない。あの愚王が失脚し、我々がそれにとって代わる口実が必要なのです。」
「それはわかるが…俺はまどろっこしいのは嫌いなんだよ!!」
再び壁を殴るアカニシ。
壁はガラガラと音を立てて崩れ去り、そこに大きな穴をあける。
「我々、創血の牙は神の言いなりにはならない。団長の言葉ですよ。それを忘れてはなりません。」
「…ちっ」
アカニシは舌を打つと、奥へと消えていった。
残された男は小さくため息をつく。
「団長も、なぜあの男を副団長などにしたのか…。冷静さも品性のカケラもないあのような奴に…」
そうつぶやくと、男もその後に続いていった。
◆
イノチは豪勢な宿屋の一室で、窓の外を眺めている。
『イセ』とは比べ物にならないほど、多くの人々が行き交う様子が、その眼下には広がっている。
初めての土地に見知らぬ街。
ランク戦のことで不安はあったが、異国に足を踏み入れる高揚感を楽しむつもりだったイノチ。
それらに対する心地の良い不安と期待は、思わぬ出逢いによって打ち砕かれた。
「カルモウ一族…恐るべしだな。」
イノチはそう言って苦笑いを浮かべた。
カルモウ=アキナイ。
カルモウ一族の三男にして、リシア帝国で大商人の座を手に入れた敏腕商人。
彼はイノチに会うなりこう言ったのだ。
「よかった!お会いできて!兄のアキンドからあなた様のことは伺っております!リシアでの生活は、わたくし、このアキナイにお任せください!!」
「おっ…お任せくださいっていうのは…」
「お泊まりになる宿屋など、身の回りのことはすべてわたくしが賜ります!イノチさまは大義のために尽力くだされば良い!!」
そこからはスムーズという言葉では足りないほど、円滑かつ迅速にことが進んでいき、現在イノチは豪勢な旅館の一室にいるわけだ。
ちなみにエレナ、アレックス、フレデリカは温泉です。
「しかし、ある意味最適な隠れ蓑になるかもな。」
今からことを起こそうとしている奴が、まさかこんな豪華な旅館に泊まっているとは思うまい。
そんな浅はかな考えにクスリと笑いつつ、イノチがそうつぶやくと、部屋の入り口がノックされた。
返事をすると、きれいな仲居さんが旅館ならではの見事な立ち振る舞いで姿を現す。
「イノチさま、お食事の御準備が整っております。」
音もなく引き戸を開き、丁寧に双手礼(正座して指を床で揃えるお辞儀)する姿に見惚れていたイノチは、ハッとして急いで返事をする。
「ありがとうございます。他のみんなはまだ温泉なんで、帰ってきてからでもいいですか?」
「かしこまりました。皆さまがお戻りになられる頃、お呼びに参ります。それと…」
仲居は頭を上げると、イノチの目を見て一言だけ添えた。
「娘がお世話になっております。ご迷惑をおかけしていることかと思いますが、何卒ご容赦くださいませ。」
「娘さん…ですか?」
イノチはその言葉の意味がすぐには理解できなかった。
こんなきれいな人の娘と知り合った記憶がない。
知り合えばすぐにわかるのに、など考えていると彼女の髪飾りが目についた。
どこかで見たことのある控えめな髪飾り。
それを見つめていたイノチは、思い出したようにあっと驚きの声を上げた。
「もしかして!メイさんの?!」
「はい。メイがいつもお世話になっております。わたくしはモエ=ドメイと申します。」
思いもよらない出逢いがここにもひとつ。
驚きながらも、イノチは頭の中でこう考えていた。
ーーー俺の中でのメイドのイメージが、今崩れ去っていく。
・
「驚かれましたかな?」
食事をするイノチに向かって、アキナイは笑いながらそう投げかけた。
「いや、素直に驚きました。まさかメイさんのお母さんにお会いできるとは。」
「ハッハッハッ!そうでしょうなぁ!実は、彼女らドメイ一族とカルモウ一族は、分家と本家のような関係がありましてな。我らが商売は彼女ら無くして成り立たんのです!」
嬉しそうに笑うアキンド…
違った、アキナイの横で、モエが丁寧に腰を折る。
「メイさんのお母さん、きれいだねぇ♪」
「そうね…ハムッ!」
「ングング…ンックン。ふぅ…まぁ、わたくしの美貌といい勝負ですわ!」
約1名、勝手なことを抜かしている奴がいるが、イノチはそれを無視してアキナイに話しかけた。
「ちなみにですけど、アキナイさんは俺たちが何をしに来たのか、どこまで知ってるんですか?」
その問いにアキナイは首を振った。
「何も…兄からは命の恩人が大義のためにリシアに向かうから、しっかりとサポートしろとだけ。しかし、私にはそれだけで十分!一族の恩人を支えることに、言葉は多くいらないのです!」
「そっ…そうですか。」
相変わらずの忠誠心の熱さに、イノチは少し引き気味だったが、彼が発した次の言葉に耳を疑った。
「ですから、良い人物を紹介しましょう。イノチさまの大義に不可欠な者です。」
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