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第三章 ランク戦開催

7話 トヌスはガチャを引く!

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トヌスは一人、木の枝の上に座っていた。
空はすでに深い青が覆っていて、時折、星たちの瞬きが見える。

仲間たちをシャシイに託し、別れを告げたトヌスは、『トウト』から少し離れた場所にあるこの森で、今後の計画を考えていた。

が、あまりいい案は浮かばなかった。

『トウト』のプレイヤーを、どうやって仲間にしていくか。

ランク戦開催まで、残り1ヶ月しかない。
見たところ、この街を拠点にするプレイヤーは以前より増えたようだが、その数は多いとは言えない。

できるだけランクの高い者から仲間に加えていき、早い段階でジパン国軍と連携を取れるようにしておかなければならないのだが…

それを完遂するための良い案は、一向に浮かんでこなかった。


「イノチの旦那みたいに頭が良ければよぉ…」


口に枝を咥えながら、そうつぶやくトヌス。
空を見上げると、一筋の流れ星が軌跡を残していく。


「…あぁ!!考えても仕方ねぇ!浮かばないもんは浮かばないんだ!」


咥えていた枝をプッと吐き捨て、ある言葉を唱えた。


「まずは俺自体がもっと強くなんねぇとだめだ!ガチャガチャ!」


トヌスの前に、お馴染みのガチャウィンドウが現れる。

ノーマルガチャ、プレミアムガチャの2種類のアイコンが表示され、その下で排出される職業と装備のラインナップが定期的に横移動している画面を眺めるトヌス。


「そういや、この魔法を最後に使ったのはどれくらいまえだったっけ…?」


トヌスは腰に下げた古びた短剣に目を向ける。

この世界に来て、たった一度だけ引いたガチャ魔法。
レアキャラ、レア装備などまったく当たらず、この『錆びれた短剣(N)』しか出なかった苦い思い出。

そんなガチャ魔法を見て、トヌスは鼻を鳴らした。


「幸い、生きるためにモンスターはたくさん倒してきたからな。『黄金石』だけはたんまりあるぜ。」


右上の黄金石の所持数に目を向ける。

『黄金石×15,006個』

その数字を見て、トヌスは少し嬉しくなった。
が、同時に悲しみというか寂しさが込み上げてくる。

その数字はまさに、自分がこの世界にいた時間を表しているのだから。

首を横に振って、トヌスは気を取り直す。


「ネガティブな思考はだめだ!前向きにいかなきゃ、幸運なんか来やしねぇんだから!」


そう大きく叫んで、『プレミアムガチャ』のアイコンをタップし、10連を選択した。

画面が切り替わり、置かれている砂時計が、一瞬輝いてグルグルと回転し始める。

その回転が終わると、砂時計の上部から下部へ落ちていく砂たちがフォーカスされて、中から輝いた光の球が飛び出してきた。


「白…白…白…白…白…」


1回目の10連ガチャの結果は、無常にもすべて白色であった。

大きくため息をつくトヌス。
しかし、彼の切り替えは早い。

なぜならば、トヌスの中で今回ガチャを引くことにおいて、ひとつだけ決めていることがあるからだ。

それは
ーーー持ち得る『黄金石』を全部使うこと

もちろん、排出状況にもよるが、最悪の場合は全て使い切ることを前提にしている。

約750回分、全て回しきる。
そう考えていたトヌスにとって、1回目の結果など通過点に過ぎなかった。


「次だ!」


再び、10連のアイコンをタップするトヌスであった。





ソーシャルゲームにおける最高レアリティの平均的な排出率は、1~1%未満である。

この1%という確率は、最高レアリティの全てを含めた確率となるため、入手したいものが限られている場合、その入手は困難を極めるだろう。

だが、なんでも良いと考えるならば、排出率1%の場合、100回引けば60%の確率で当たりが出ると言われている。

あくまで、プログラムされたソーシャルゲームの話ではあるが…


ならば、この世界のガチャで、750回を全て引き切ろうとしているトヌスはどうなのか。

実はこのガチャ魔法には、トヌスには知り得ない…いや、プレイヤー全員が知り得ない秘密があったのだ。

この『アクセルオンライン』におけるレアリティの排出率は以下の通りとなっている。


『SUR』排出率0.0000001%
『UR』排出率0.000001%
『SR』排出率0.00001%
『R』排出率1%
『N』排出率98%


普通のソーシャルゲームならクレームものであるこの排出率は、プレイヤーたちには伝えられていない。

なぜ皆、疑問に思わないのか。
その理由は、異世界、魔法という要素によるものだろう。

プレイヤーたちは、自分の職業に応じた能力が個別に使えるため、ガチャでレアリティの高いキャラを手に入れる必要性が低い。

装備についても、モンスターからドロップされる素材を使えば、ある程度の装備は整えられる。

ガチャに頼らずとも、自分の力で戦うことができる。
その事が、ガチャへの依存度を低くしているのである。

イノチのようにキャラをたくさん仲間にしているプレイヤーは、実は珍しい方だったのだ。


トヌスは700回目を引き終わり、大きくため息をついた。

ここまでの結果は…

言うまでもなく、惨敗だ。
『SR』の防具が一つ出ただけで、それ以外は特筆するものは全くない。

全部使い切ると決めていたトヌスの中に、疑問が生まれる。


ーーーこのまま使い切って、本当にいいのだろうか。


保険のために残しておくべきではないか。

ガチャを回す際に、誰しもが思い浮かべる考えが、トヌスの頭を支配していく。

…しかし


「引くって決めたんだ!750回分爆死しようが、後悔はしねぇ!!」


そう叫ぶと、701回目の10連に挑もうとしたその時であった。


「その心意気…まぁ、嫌いではないですね。」

「だっ…誰だ!?」


アイコンの寸前で指を止め、キョロキョロと周りを探るトヌスに対し、その真上から再び声が響いてきた。


「"Z"さまに言われてきてみたけど、本当に小汚い男ね。」

「あっ…あんたは何者だ?」


木の上にいるトヌスの目の前には、真っ白なロングコートをまとい、フードを被った女性が浮いていた。


「私の名は…そうですね。『IZM』とでもお呼びください。」

「イッ…イザム?」


女性は口元でニコリと笑みを浮かべた。


「いったい…何の用だ?」

「あなた、このままガチャ引いても、何も当たりませんよ。」

「なっ…!」


驚くトヌスに再び笑うイザム。


「そんなの、やってみないとわかんねぇだろ!?」

「いやいや、わかるんですよ。だってあなた、700回引いても『SR』たった一つしかでていないし…」

「…ぐっ」


痛いところを突かれて、ぐうの音も出ないトヌスに、イザムは話を続ける。


「でも、安心してください。私が来たからにはもう大丈夫ですよ。」

「だっ…大丈夫ってどういう意味だ?」


フフフっと笑うと、イザムはある物をトヌスに差し出してきた。

金を基調とした普通のものよりも、小さい煙管(きせる)。
彼女の手のひらに置かれたそれは、小さく輝くとトヌスの目の前まで浮遊する。


「これは…?」


不思議そうな顔を浮かべるトヌスに、イザムは告げる。


「それはある盗人が使っていた煙管です。あなたにぴったりだと思って。」


彼女の笑顔とともに、二人の間に静かに風が吹き抜けていった。
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