133 / 290
第三章 ランク戦開催
7話 トヌスはガチャを引く!
しおりを挟むトヌスは一人、木の枝の上に座っていた。
空はすでに深い青が覆っていて、時折、星たちの瞬きが見える。
仲間たちをシャシイに託し、別れを告げたトヌスは、『トウト』から少し離れた場所にあるこの森で、今後の計画を考えていた。
が、あまりいい案は浮かばなかった。
『トウト』のプレイヤーを、どうやって仲間にしていくか。
ランク戦開催まで、残り1ヶ月しかない。
見たところ、この街を拠点にするプレイヤーは以前より増えたようだが、その数は多いとは言えない。
できるだけランクの高い者から仲間に加えていき、早い段階でジパン国軍と連携を取れるようにしておかなければならないのだが…
それを完遂するための良い案は、一向に浮かんでこなかった。
「イノチの旦那みたいに頭が良ければよぉ…」
口に枝を咥えながら、そうつぶやくトヌス。
空を見上げると、一筋の流れ星が軌跡を残していく。
「…あぁ!!考えても仕方ねぇ!浮かばないもんは浮かばないんだ!」
咥えていた枝をプッと吐き捨て、ある言葉を唱えた。
「まずは俺自体がもっと強くなんねぇとだめだ!ガチャガチャ!」
トヌスの前に、お馴染みのガチャウィンドウが現れる。
ノーマルガチャ、プレミアムガチャの2種類のアイコンが表示され、その下で排出される職業と装備のラインナップが定期的に横移動している画面を眺めるトヌス。
「そういや、この魔法を最後に使ったのはどれくらいまえだったっけ…?」
トヌスは腰に下げた古びた短剣に目を向ける。
この世界に来て、たった一度だけ引いたガチャ魔法。
レアキャラ、レア装備などまったく当たらず、この『錆びれた短剣(N)』しか出なかった苦い思い出。
そんなガチャ魔法を見て、トヌスは鼻を鳴らした。
「幸い、生きるためにモンスターはたくさん倒してきたからな。『黄金石』だけはたんまりあるぜ。」
右上の黄金石の所持数に目を向ける。
『黄金石×15,006個』
その数字を見て、トヌスは少し嬉しくなった。
が、同時に悲しみというか寂しさが込み上げてくる。
その数字はまさに、自分がこの世界にいた時間を表しているのだから。
首を横に振って、トヌスは気を取り直す。
「ネガティブな思考はだめだ!前向きにいかなきゃ、幸運なんか来やしねぇんだから!」
そう大きく叫んで、『プレミアムガチャ』のアイコンをタップし、10連を選択した。
画面が切り替わり、置かれている砂時計が、一瞬輝いてグルグルと回転し始める。
その回転が終わると、砂時計の上部から下部へ落ちていく砂たちがフォーカスされて、中から輝いた光の球が飛び出してきた。
「白…白…白…白…白…」
1回目の10連ガチャの結果は、無常にもすべて白色であった。
大きくため息をつくトヌス。
しかし、彼の切り替えは早い。
なぜならば、トヌスの中で今回ガチャを引くことにおいて、ひとつだけ決めていることがあるからだ。
それは
ーーー持ち得る『黄金石』を全部使うこと
もちろん、排出状況にもよるが、最悪の場合は全て使い切ることを前提にしている。
約750回分、全て回しきる。
そう考えていたトヌスにとって、1回目の結果など通過点に過ぎなかった。
「次だ!」
再び、10連のアイコンをタップするトヌスであった。
・
ソーシャルゲームにおける最高レアリティの平均的な排出率は、1~1%未満である。
この1%という確率は、最高レアリティの全てを含めた確率となるため、入手したいものが限られている場合、その入手は困難を極めるだろう。
だが、なんでも良いと考えるならば、排出率1%の場合、100回引けば60%の確率で当たりが出ると言われている。
あくまで、プログラムされたソーシャルゲームの話ではあるが…
ならば、この世界のガチャで、750回を全て引き切ろうとしているトヌスはどうなのか。
実はこのガチャ魔法には、トヌスには知り得ない…いや、プレイヤー全員が知り得ない秘密があったのだ。
この『アクセルオンライン』におけるレアリティの排出率は以下の通りとなっている。
『SUR』排出率0.0000001%
『UR』排出率0.000001%
『SR』排出率0.00001%
『R』排出率1%
『N』排出率98%
普通のソーシャルゲームならクレームものであるこの排出率は、プレイヤーたちには伝えられていない。
なぜ皆、疑問に思わないのか。
その理由は、異世界、魔法という要素によるものだろう。
プレイヤーたちは、自分の職業に応じた能力が個別に使えるため、ガチャでレアリティの高いキャラを手に入れる必要性が低い。
装備についても、モンスターからドロップされる素材を使えば、ある程度の装備は整えられる。
ガチャに頼らずとも、自分の力で戦うことができる。
その事が、ガチャへの依存度を低くしているのである。
イノチのようにキャラをたくさん仲間にしているプレイヤーは、実は珍しい方だったのだ。
トヌスは700回目を引き終わり、大きくため息をついた。
ここまでの結果は…
言うまでもなく、惨敗だ。
『SR』の防具が一つ出ただけで、それ以外は特筆するものは全くない。
全部使い切ると決めていたトヌスの中に、疑問が生まれる。
ーーーこのまま使い切って、本当にいいのだろうか。
保険のために残しておくべきではないか。
ガチャを回す際に、誰しもが思い浮かべる考えが、トヌスの頭を支配していく。
…しかし
「引くって決めたんだ!750回分爆死しようが、後悔はしねぇ!!」
そう叫ぶと、701回目の10連に挑もうとしたその時であった。
「その心意気…まぁ、嫌いではないですね。」
「だっ…誰だ!?」
アイコンの寸前で指を止め、キョロキョロと周りを探るトヌスに対し、その真上から再び声が響いてきた。
「"Z"さまに言われてきてみたけど、本当に小汚い男ね。」
「あっ…あんたは何者だ?」
木の上にいるトヌスの目の前には、真っ白なロングコートをまとい、フードを被った女性が浮いていた。
「私の名は…そうですね。『IZM』とでもお呼びください。」
「イッ…イザム?」
女性は口元でニコリと笑みを浮かべた。
「いったい…何の用だ?」
「あなた、このままガチャ引いても、何も当たりませんよ。」
「なっ…!」
驚くトヌスに再び笑うイザム。
「そんなの、やってみないとわかんねぇだろ!?」
「いやいや、わかるんですよ。だってあなた、700回引いても『SR』たった一つしかでていないし…」
「…ぐっ」
痛いところを突かれて、ぐうの音も出ないトヌスに、イザムは話を続ける。
「でも、安心してください。私が来たからにはもう大丈夫ですよ。」
「だっ…大丈夫ってどういう意味だ?」
フフフっと笑うと、イザムはある物をトヌスに差し出してきた。
金を基調とした普通のものよりも、小さい煙管(きせる)。
彼女の手のひらに置かれたそれは、小さく輝くとトヌスの目の前まで浮遊する。
「これは…?」
不思議そうな顔を浮かべるトヌスに、イザムは告げる。
「それはある盗人が使っていた煙管です。あなたにぴったりだと思って。」
彼女の笑顔とともに、二人の間に静かに風が吹き抜けていった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる