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第三章 ランク戦開催
9話 レンジとスタン
しおりを挟む「驚かせて申し訳なかったね。」
男はそう言って、人数分の紅茶を差し出した。
少しほこりにまみれているが、部屋の中は整えられていて、隠れ家といった様相である。
男はイノチたちの前に座ると、紅茶を一口すすった。
「アキナイさんから話は聞いてます。僕の名前はレンジ。彼女はスタンです。よろしく。」
レンジと名乗る男は、自分の後ろに立つ女性を紹介する。
彼女は深々と丁寧に頭を下げた。
「俺はイノチ、こっちはエレナ、フレデリカ、アレックスです。」
「イノチ…さん、エレナさん、フレデリカさん、アレックスさんですね。どうぞ、よろしく。まずは紅茶を飲まれてはいかがですか?」
イノチを見てニコリと笑い、レンジは紅茶を飲むよう促してくる。
「あっ…ありがとうございます。ですが、あの…レンジさん、念のため確認なんですけど…」
「大丈夫…君の聞きたいことは分かっています。」
聞きにくそうにするイノチに微笑むレンジ。
彼はそのまま話を続けていく。
「我々の組織の名は『回天の器』。この国を倒す…いや、この国の愚王である"レオパル5世"を倒し、リシア帝国を民が豊かに暮らしていく事ができる国にするために、結成された組織です。」
それを聞いて納得したようにうなずいたイノチに、今度はレンジが問いかける。
「僕からも一つ、いいでかな?」
「…何でしょう?」
レンジは、紅茶をひと口すする。
「君は、なぜ僕らに会いに?」
カチャッと音がして、ソーサーにカップが置かれる。
自分の目をジッと見つめる目の前の男に対して、イノチも自分の紅茶に手を伸ばした。
鼻腔をくすぐる甘い香り。
小さくため息をつくと、イノチは口を開く。
「…この国がジパンを襲うという情報を、ある筋から入手したんです。どうやらこの国の王さまが、戦争のためにジパンを欲しがっていると…しかし、あなた方も知ってのとおり、ジパンにはそれを迎え撃つ力が足りていない。ジパンは戦乱を平定して間もないですからね…」
イノチの話を、時折カップを口に運びながら、レンジは静かに見守るように聞いている。
「このままだと、ジパンがリシア帝国に敗れることは目に見えている。リシア帝国がジパンを手に入れれば、それを足掛かりに他の国へとその手を伸ばすでしょう。そうなれば、大国同士の戦争が始まってしまう。そんなのは絶対に許せない!だから、俺たちはここに来たんです。」
「なるほどね…」
レンジは、カップを置くと小さくうなずいた。
「僕らのことも、その"ある筋"から聞いたのかい?」
「そうです。だから、あなた方に協力すれば、内側からリシア帝国を止める事ができる。そう思ったんです。」
「そうかい…わかった。」
レンジは、後ろに立つスタンと呼ぶ女性に合図する。
彼女はそれを確認し、頭を下げて部屋から出ていった。
「アキナイさんからの紹介だったから、心配はしていなかった。だけど、理由をちゃんと聞いておきたくてね。」
「…そう言えば、アキナイさんとはどんな関係なんですか?」
その言葉を聞いて、レンジは悪戯な笑みを浮かべる。
「彼は出資者さ。僕らの活動を資金面で支えてくれているんだ。」
「え?じゃあ、彼も組織の一員…?」
「まぁ、見方によってはそうなるね。」
「…見方によっては?」
「彼はただ、この国の商業を守りたいのさ。国は高額な税を民へ要求している。その割には、社会保障制度は皆無と言っていい。物もサービスも医療も教育も、ものすごく高いお金がかかるのさ。高額な税金は購買意欲を減少させる…だろ?」
「それは売り手にとっては大きなダメージ…カルモウ一族にとっては大問題ってことですね。」
レンジは「その通りだ!」と大きく笑う。
するとそこに、先ほど出ていったスタンが戻ってきて、レンジの耳元で何かを小さくつぶやいた。
「そうかい!了解だ。イノチくん、僕は今から用があってね。今日のところはこの辺にしようと思う。スタン、あれは準備できたかい?」
スタンはうなずいて、小さな指輪を一つ、レンジへと手渡す。レンジはそれを受け取ると、イノチへと差し出してきた。
「君たちにはこれを渡しておくよ。これは連絡用の指輪だ。僕らの会合ある時は、これが光るから。」
「光るだけ?どこでやるとか、その辺はどうやって知るんだ?」
その問いにレンジはクスリと笑う。
「君たちのところには、このスタンを向かわせるから。その時は彼女に従ってついてきて。」
イノチはそれを了承して、指輪を受け取った。
「それじゃあ、この辺で。近々、幹部での会合を開く予定だ。その時にまた会おう。」
レンジはそう言うと、イノチたちを残し、スタンとともに建物から出ていった。
・
「BOSS…あいつ、あんまり信用ならないわ。」
アキナイの宿への帰り道、突然のエレナの言葉に、イノチは驚いた。
「え?急にそんなこと言われてもなぁ。いい人そうだったけど…」
「でも、どことなく胡散臭いというか…」
「エレナの言うとおりですわ。あの男、なんとなく嫌な感じがしますわ。」
「何となくって…お前らなぁ、失礼なこと言うなよ!今から一緒に、ここで戦う人なんだぞ。」
確かに、あのレンジという男がどんな人物なのか、まだわからないのが、イノチの本音でもある。
しかし、彼らと協力しなければ、目的の成就はなされないのも事実なのだ。
あきれたように話すイノチに、アレックスが何気なく笑いかけてくる。
「でもさでもさ、BOSS♪あの人隠し事してるよねぇ、絶対♪」
「かっ…隠し事?アッ…アレックスまでそんなこと言うのかよ。…はぁ、でも、なんでわかるんだ?隠し事してるって。」
「え?う~ん、理由は特にないんだよねぇ♪直感的にそう感じたんだ♪」
「そっ…そっか。」
アレックスの可愛らしさに心を奪われそうになりつつ、イノチは気を取り直す。
「確かに、俺も100%信用したわけじゃないけど、目的達成のためには、あの人との協力は避けては通れないからな。この先何があろうが、俺たちは必ずリシア帝国をぶっ潰さなきゃならないんだよ。でもさ…俺は安心してるんだよね。」
「安心?何によ。」
エレナが首を傾げる。
フレデリカとアレックスも、イノチのことをジッと見つめている。
イノチはそんな三人を見て、ニカッと笑みを浮かべた。
「俺はみんなのBOSSだから、大事なことは俺が決めなきゃならないことはわかってる。けど、間違ってそうなことや疑わしいことなんかに対して、三人がそうやって止めてくれるだろ?だから、俺は安心してる。安心して、前を進んでいけるんだよ。」
「突然何言いだすかと思えば。ふん…まぁ、BOSSにしては良いこと言うじゃない…」
「そうですわ。無知なBOSSには、あれやこれや悩むのは似合わない、ですわ。」
「僕もガンガン止めちゃうよぉ♪まかせてねぇ♪」
突然褒められて、恥ずかしそうに顔を背けるエレナ。
腕を組んで偉そうにうなずいているフレデリカ。
腕を上げて、楽しげに笑っているアレックス。
イノチはそんな三人を見て、胸に自信が込み上げてくるのを感じた。
自分には心強い仲間がいる。
この三人がいるんだ。
必ず成功させて、ジパン国を守る。
イノチは改めてそう誓い、拳をギュッと握りしめるのであった。
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