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第三章 ランク戦開催
18話 決着②
しおりを挟む「まだ…やる?」
アカニシはその言葉に、怒りを覚えた。
彼はこの世界に来てから、今まで誰にも負けたことがなかったのだ。
『創血の牙』の団長であるロノスとは、まだ刃を交えたことはないが、負けるとは思っていない。
それなのに…!
「鎧…へっこんでるわよ?大丈夫?」
自分の胸を指差して、そう嘲笑う目の前の茶髪女の仕草に、アカニシは怒りを爆発させた。
「くそがぁぁぁぁ!!調子に乗ってんじゃねぇぞぉぉぉ!!」
そう叫ぶと、手に持つロングソードで自分の腕を切りつけるアカニシ。
「なっ…なにやってんの?!」
驚くエレナをよそに、アカニシは腕から滴る自分の血をロングソードへと垂らしかけていく。
すると、どうであろう。
ロングソードに入っていた赤いラインの上を、その血がゆっくりとなぞり始めたのだ。
「てめぇは、ぐちゃぐちゃにしてやるからな。覚悟しておけ!!」
血が全てのラインを覆うと、今度はそれを燃やすようにロングソードが赤いオーラをまとい始める。
チリチリと血液が静かに蒸発していき、赤かったオーラは黒いものを混じえたものに変わっていった。
「…おりゃあ!!!」
突然、斬りかかってきたアカニシの一太刀を簡単にかわすエレナ。
エレナの横を通り過ぎるその一太刀は、真上から下に振り抜かれて地面へと叩きつけられた。
しかし、地面をえぐったロングソードを見たエレナの顔には、驚きの表情を浮かぶ。
砕くのではなく、溶かしたと言った方が正しいだろうか。
ロングソードが突き刺さった場所は、音を立てて溶け始めたのだ。
すかさず、距離を取るエレナ。
「なによ!?その剣…!!」
「これか?これは俺のとっておきだ!『アシッドソード』って言ってな、触れたものを溶かすスキルを持ってるんだ。」
「ふーん、触れたものをねぇ。でも、あたしに剣が当たらないんじゃ、意味はないわよね。」
「…あぁ…そうだなぁ!!!」
アカニシはそう言い放つと、意表をついたように剣を地面へと突き刺した。
その瞬間、エレナは何かに気づいて、とっさに横に飛ぶ。
すると、今まで自分がいた場所から、赤黒いオーラで創られた刃が飛び出したのだ。
「さぁさぁ!!いつまで笑っていられるかなぁ!?ヒャハハハハ!!!」
「ちっ…!」
アカニシの言葉に合わせて、意思を持った蛇のように地面から飛び出しては、エレナに襲いかかるオーラの刃。
地面を溶かしながら飛び出すその刃を、エレナはギリギリのところでかわしていくが、それらの刃はエレナの服や肌にかすり始め、彼女は少しずつボロボロになっていった。
「どうしたよぉ!!かわせるんだろぉ?!当たらないんじゃなかったのかよぉ!!」
「こんの…!調子に乗りやがって…」
エレナもイラ立ちを隠せず、一瞬の間にアカニシへと間合いを詰めたが…
「かかったな!」
「…っ!?」
アカニシまであと数メートルというところで、目の地面から無数な刃が突如として現れた。
避けようとしたが、背後からも刃が迫っていたことにエレナは気づく。
目の前と背後から挟まれ、万事休すかと思われたその瞬間、エレナは腰から2本のダガーを抜いた。
「影縫い!!」
スキルを発動したエレナは、1本、また1本と襲いかかる刃をかわしつつ、かわしきれない刃の軌道をダガーによる連撃で変えていった。
しかし…
「ぐぅ…!」
イノチのランクアップに加えて、スキルの熟練度が上がったことで、3連撃から5連撃へと進化していた『影縫い』であったが、それでも手数が足りず、かわしきれなかった刃によって、エレナは肩や脇腹にいくつか傷を負ってしまった。
「おーおー!!今のを避けるとは!!なかなかやるなぁ!!しっかしよぉ、ボロボロになっちまってるじゃねぇかぁ!!ヒャハハハハ!!」
嘲笑うアカニシに対して、エレナは膝をついて睨みつけていた。衣服はボロボロになり、傷を受けた箇所からも血が滲んでいる。
頬から滴る血を腕で拭うと、エレナは立ち上がった。
ボロボロの洋服、血だらけの体。
それを見て、内心怒りが込み上げてくる。
こんな奴ごときに油断した自分が許せなかった。
二度、ゲンサイに負けたことで学んだはずだったのに…
これではBOSSを守りきれない…自分はもっと強くならねばならないのだと…そう学んだはずだったのに…
この時から、エレナは考えを改める。
格下だとしても舐めてはいけない。
全力を以て相手を潰さねば、いつかBOSSを失うことになる。
自分はまだまだ未熟だ。
レアリティを『SR』にしてもらい、その強さに酔っていただけで、総合的にはフレデリカにも及びもしないのだ。
そう改め、エレナはアカニシに向けて口を開いた。
「あんたのこと、舐めてて悪かったわ。今からあたしは、あんたを全力でぶっ潰す。」
「強がってんじゃねぇよ!!誰もこの『アシッドスネーク』からは逃れたことはねぇんだ!!お前も…」
ジャキーンッ
アカニシの言葉を遮るように、エレナは溶けて変形した2本のダガーを当てた。
鈍い音が響き、その残響が耳の中に残る。
「口を開くのはもうやめにしましょう。今からはこれで語ることにする!」
エレナはそう言うと、ダガーを構え、改めてアカニシへ鋭い視線をむけたのだった。
・
「ヒャーハッハッハッ!!!ざまぁみやがれ!!」
黒煙と粉塵が大きく舞う中で、大きく笑みをこぼすメテル。
彼は『体魔術士』。
体に魔力をまとわせて戦う格闘士である。
『体魔術士』の特徴は、通常の体術とは違い、全ての打撃に魔力を上乗せして闘うことであり、その破壊力は大きく、また魔力の使い方によっては、多種多様な技を繰り出せる汎用性の高い職業である。
彼の場合は、爆発系の魔法を有しており、その魔力を打撃に乗せて放ったり、相手と自分の体が触れることで、魔力を相手の体に張り付けて爆発させたりといった闘い方を得意としている。
フレデリカの身に起こった爆発も、彼の戦法の一つであり、彼女はそんな彼の策に、見事に嵌ってしまったのである。
「余裕ぶっこきやがって!!人のことを舐めるからそうなるんだ!!」
メテルが笑い続けていると、舞っていた煙が少しずつ晴れてきて、黒く焦げ、ひび割れた床が見えてきた。
生意気な桃髪の娘がどうなったのか、笑いながらも注視するメテル。
しかし、薄く舞う粉塵の中心に、何事もなかったように立っているフレデリカの姿に目を見開いた。
「なっ…!?」
驚きを隠せないメテルに対して、フレデリカが口を開く。
「コホッ…まさかそんな精密な技を使えるとは、わたくし油断しましたですわ。」
埃にまみれ、衣服もところどころ破れてはいるが、フレデリカ自体はダメージを負っている様子はない。
すました顔で埃をはたいているフレデリカに対して、メテルは開いた口が塞がらなかった。
「ばっ…バカな!直撃したはずだぞ!!」
「魔力を張り付けて爆発させる…なかなか良い作戦だったですわ。魔力もよく練られていて、普通に喰らえば死んでますわね。」
「…なら!なんで無事ていられる!?今までこれを防いだ奴なんて…」
その言葉に、埃をはたき終えたフレデリカは鼻を鳴らした。
「体魔術士との闘いの基本は、魔力による防御ですわ。相手の魔力から身を守るものは自分の魔力のみ。今までの方々はそのことを知らなかっただけ、ですわ。」
フレデリカは体にまとわせた魔力を視覚化する。
そのゆらりと漂う魔力は、メテルにとって目を奪われるほど綺麗に澄んだものに見えた。
「まだやります?この状況…もう勝負はついていると思いますが…」
その言葉に冷静さを取り戻したメテル。
大きくため息をつくと、腰を落として構えたのである。
「私も支部長という役職につく身です。ここで引くわけにはいかない。」
「そうですか。ならば、少し本気でお相手差し上げます、ですわ。」
そう言いながら、フレデリカも腰を落として構えを見せた。
睨み合う両者。
先にメテルが仕掛け、構えたまま動かないフレデリカへと飛びかかった。
笑うフレデリカの瞳には、どことなく歓喜に満ちた表情を浮かべるメテルの姿が映し出されていた。
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