157 / 290
第三章 ランク戦開催
30話 最強僕っ子
しおりを挟む見上げられるほどの大きな巨躯。
光苔の明かりと相まって、ミノタの体には明と暗のコントラストがくっきりと分かれていて、その巨大さを表現している。
「リュカオーンより…でかくない…?」
「う~ん、そうね。少し大きいかしら。」
「まぁ、どんぐりの背比べほどですわ。」
イノチは心の中でその例えはおかしいとつぶやきつつ、アレックスの方に目を向けた。
彼女もまたミノタを見上げている。
彼女の背丈はもともと小さいが、ミノタによってその小ささが際立って見えた。
「アレックス…大丈夫だよな?」
ふと心配になるイノチに対して、エレナもフレデリカも肩をすくめるように告げる。
「あの子の防御力はハンパないですから。」
「そうよ。アレックス、ウォタの覚醒時のパンチを防いだからね。」
「なっ!?ウォタの覚醒時のパンチを?!」
驚くイノチに二人は腕を組んでうなずいた。
「あれは頭おかしいですわ。普通はウォタさまのパンチはかわすものですもの。」
「そうね。いくら手加減しているとはいえ、あれは受けるものではないわね。」
「…そうなのかよ。通りでアレックスの奴、この前の戦闘では余裕だったわけだ。てか、お前らいつもそんなことやってんのか?」
「だって体がなまるもの。たまにウォタやゼンたちと組手とかして、感覚を養ってるのよ。」
「ですわね。強者とも戦えてわたくしたちのストレス(戦闘欲)も解消できますし、ウォタさまも運動ができて満足されてますわ。」
なるほどなぁとうなずきつつ、イノチは再びアレックスに視線を戻した。
「ほわぁ~♪大きいなぁ~♪」
「そうだろうミノぉぉぉ!!今度こそお前を踏み潰してやるミノぉぉぉ!!」
ミノタはそう告げて右足を大きく上げると、アレックスに向けて踏みつけた。
先ほど以上の衝撃波が起き、その波が辺りにあるものを吹き飛ばしていく。
「グワワワワァァァッ!!ザマアミロだミノぉぉぉ!!」
しかし、砂ほこりが晴れてくると、ミノタはすぐに違和感に気づいた。
足が地面についていない…
全体重を載せて踏みつけたはずなのに、右足が何かに阻まれて浮いているのである。
(なっ…なんだこれミノ!まるで巨大な鉄の塊を踏みつけているような感じミノ!!)
そう思った瞬間、右足の下から可愛らしい声が聞こえてくる。
「ふむふむ♪こんな感じかぁ♪…そろそろいいかなぁ♪飽きちゃったし…♪」
「なっ…声が…あいつ生きているミノか!?」
「それじゃあ、いくよぉ♪せぇ~のぉ~♪やぁぁぁ♪♪♪」
「おわっ…おわぁぁぁぁ…ミッ…ミノォォォォ!!!」
ミノタは右足の裏に一瞬だけ力強い何かを感じたが、それも束の間、急に突き上げられて背中から地面に倒れ込んだ。
大きな地響きとともに舞い上がった砂ほこりが、ゆっくりと消えていく。
そして、倒れたミノタの前でこちらに向かってピースサインをするアレックスの姿があった。
「アレックスってさ、盾士だよな…」
「そうね。そう聞いてるわ。」
「盾士ってさ…攻撃できないんじゃなかったっけ?」
驚きあきれた表情でそうつぶやいたイノチに、フレデリカが反応する。
「相手に攻撃されている時は押し返せるらしいですわ。あとは、相手の攻撃を受ける前提のカウンタースキルとかも持ってるとか…」
「えぇ~そんなのありなの…」
「別にいい事なんじゃない?できないと思ってたことができてるんだし。」
「そうだけどさぁ…なんだかな。」
イノチは敢えてチートという言葉は使わなかった。
なんだか言ってはいけない気がしたからだ。
「イテテテッ…おまっ…お前、なんなんだミノ!!」
体を元の大きさに縮ませながらそう嘆いているミノタに、アレックスは振り返ると楽しげに笑う。
「楽しかったぁ♪久々にワクドキできたよぉ♪きみ、ありがとうね♪」
「うっ…キュ…キュンだミノ…」
アレックスに可愛らしい笑顔を向けられ、顔を紅潮させるミノタ。
「おい…あいつ、アレックスにキュンとしてるぞ。」
「本当ですわ。」
「まぁ、その気持ちはわかるわ。」
赤くした顔を見られ、その恥ずかしさからすぐに我にかえったミノタは声を荒げる。
「おっ…お前ら、覚えとけだミノ!!この借りは絶対返すミノ!!」
「あっ!逃げた!」
「逃げたわね。」
「逃げたですわね。」
そう言いつつ走り去っていくミノタの背中を、イノチたちは見送るのであった。
・
「ハァハァ…まったくなんなんだミノ!あんな強いやつ、初めて会ったミノ!!」
イノチたちから逃げ切ったミノタは、苦しそうにしながらも悪態をついていた。
「こうなったらケンちゃんにあいつらの始末を頼むミノ!」
そうつぶやいた瞬間…
「ミノタ…お前何やってんだよ!」
「ケッ…ケンちゃん!!良いところに来たミノ!!」
ミノタが振り返ると、そこには背の高い男の姿があった。
ただし、腰から下は4足歩行の馬の体をしており、背には弓を背負い、腰に矢と矢筒を携えている。
「どうしたんだ?そんなに焦ってさ。」
「ケンちゃん、聞いてくれミノ!実は…」
ミノタは先ほどの一幕を、ケンちゃんと呼ぶ男に説明した。
「なるほとな、お前のパワーを超える奴がいるのか。」
「そうなんだミノ!!ちっちゃいくせにハンパない力してるミノ!!」
「おもしれぇーじゃん!どれ、俺が相手してやるぜ。」
ケンちゃんは不敵な笑みをこぼしたのだった。
・
「ねぇ、BOSS?」
「なんだ?エレナ。」
ミノタを見送ったイノチたちは、再び大空洞の奥を目指して進んでいた。
「ここに来た目的って、リシアの生誕祭で暴れさせる神獣…いえ、ユニークモンスターを捕縛しに来た、で間違いないわよね。」
「…うん、おおよそ合ってるよ。」
「それはいいんだけど、いくつか疑問もあるのよね。」
「珍しいね。エレナが疑問だなんて。」
「あたしだって考える時くらいあるわ…」
余計なことを口走り、エレナに睨まれて焦るイノチ。
「ごっ…ごめん。で、疑問って何?」
「ふん!まず第一にどうやってユニークモンスターを捕縛するわけ?」
「簡単だよ。書き換えるんだ。」
「書き…換える?」
「そう。ちょっとごめんね。」
首を傾げるエレナの肩に触れるイノチ。
目の前にはウィンドウが一つ現れる。
「これはエレナのプログラムね。あっ…プログラムって言うのは、コンピュータ用語の定義だとコンピュータに行わせる処理の手順を決められた形式(プログラム言語)に従って書き表したものだね。コンピュータはどんな情報処理も行いうる能力を備えた機械(ハードウェア)なんだけど、プログラム(ソフトウェア)が与えられて初めて実際の処理を遂行できるってわけ。それが俺の世界でのプログラムなんだけど…」
マシンガンのように話すイノチに、唖然とするエレナ。
それに気づいたイノチは、苦笑いをして説明し直す。
「ごめん。ちょっと熱くなっちゃったかな。簡単に言うとエレナがこの世界で存在するための行動規範みたいなものだな。これに従ってエレナの行動が決まったり、制限されるわけだ。」
「…行動規範?全然意味がわからないわ。」
「う~ん、そうだなぁ。なら…」
イノチはウィンドウをエレナに見せて説明する。
「ここにはさ、『エレナはプレイヤーであるイノチが排出したキャラクター』って書かれてる。その下を読んでいくと、『彼の命令には従わねばならない』とも書いてあるわけ。これの意味はわかるだろ?」
「あたしはBOSSに逆らえない…いえ、逆らわないように制限されているってことね。」
「そういうこと。で、俺のスキルはこれを『書き換える』ことができるんだ。だから、ユニークモンスターを動けなくして、奴らのプログラムを『俺たちの仲間』とかに書き換えてしまえばいいってこと。まぁ今のは超単純な例えだけど…」
「なるほどね。理解したわ!なら、さっきの奴を半殺しにしたらいいわけね!」
「そっ…その例えは怖ぇよ…」
エレナの発言にイノチが引いていると、フレデリカが前を見据えて小さくこぼした。
「新手…ですわ。」
その言葉に一同が前を向くと、そこにはミノタともう一人、馬男の姿があった。
0
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる