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第三章 ランク戦開催
63話 ヴィリとヴェー
しおりを挟む「おらおら!どうした!そんなもんかよ!」
挑発しながら笑う男へタケルが横薙ぎに斬りつけた。
普通に考えればかわすことなど不可能なほどの反応速度で振り抜かれた刀は、無情にも空を切る。
いつの間にかタケルの後ろに回り込んだ男がタケルに攻撃を仕掛けようとするが、今度は飛び上がっていたカヅチが男に向けて持っている槍を思い切りたたき込んだ。
が、それも地面を叩き割るだけに終わる。
「そぉれ!」
カヅチよりも高く飛び上がっていた男が、彼女に向けてレイピアによる剣戟を撃ち込んだ。
長い槍を思い切り叩き込んだ反動で動くことのできないカヅチ。
レイピアが彼女を貫こうと襲いかかった寸前にガージュが大きな盾でそれを防いだ。
乾いた金属音が数回鳴り響く。
「ぐぉ!」
「ハハッ!やるねぇ!」
剣戟の重さに顔を歪めるガージュに対して、攻撃を防がれた男の方も反動で押し返されており、誰がどう見ても体勢を崩しているように見えた。
それを好機と捉えたソウタとサリーは、一瞬で距離を詰める。
ソウタが下から斬り上げる形で得物を振り抜き、サリーもそれに合わせてダガーで斬りつけた。
…が、それは男の残像だった。
「ちっ!」
舌を打つソウタの前で、小馬鹿にした表情のまま男の残像が消えていく。
そして、本体は少し離れた位置でソウタを見て嘲笑っている。
「ヒヒヒッ!いいねいいね!!お前ら同じクランか?連携はなかなかのもんだ。ランクもいい感じに上げてんじゃん。」
その言葉にはタケルたちは誰一人答えはしない。
しかし、そんなことは気にすることもなく男は話を続ける。
「これならランク戦もいいとこまでいけるじゃねぇ?まぁ、ここで死ななければだけどなぁ。」
お腹を抱えて大きく笑いながら、体をのけ反らせる男。
その様子を見ながらタケルがこっそりとミコトに指示を送る。
「ミコト、今から全員に強化魔法をかけれる?」
「うん…なんとか…」
「ありがとう。よろしく頼む。他のみんなは僕が指示したら一気に攻撃を仕掛けてくれ。合わせ方は…まかせる。」
その言葉にソウタたちクランメンバーとサリー、ガージュも無言で頭を縦に振った。
ミコトは手に持つ『エターナル・サンライズ』に魔力を込めていく。
しかし、いまだに大笑いする男の耳元で、再びコール音が大きく鳴り響いた。
驚いた男はそのまま背中からその場に倒れ込む。
「うがっ!なっ…なんだなんだ!?急に!って、またあいつからだ…ったく、何回もなんだよ。」
そう言って上半身を起こすと、男は座ったまま耳元に手を置いた。
「なんだよ、ヴェー!!あぁ、今…え、いや、ちゃんとやって…なっ…!なんでそれを…!はぁ?見てる…?どこから…え?上?」
突然あたふたとし始めた男は、指示されたように空を見上げる。
当然、タケルやミコトたちも彼の行動を訝しみつつ、同じように顔を上へと向けた。
澄んだ青い空。
雲ひとつないきれいな空の中に、ぽつんとひとりの人物が浮かんでいる。
黒いロングコートで身を包み、フードを深々と被っていて顔はよくわからないが、目の前で座っている男と同じ格好をしていることから仲間だと考えられる。
「げぇ…なんで来やがったんだ…」
面倒くさそうに顔をしかめる男の横に、ゆっくりその人物は降り立った。
「ヴェー、なんでわざわざ来たんだよ…」
「ヴィリのことだから…目的を忘れて遊んでるんじゃないかと思って…でも、来て正解。やっぱり遊んでた。」
「あっ…遊んでなんかねぇよ!」
「ふん…どうだか…」
ヴェーと呼ばれた黒ずくめの人物は、少し背丈が低く体つきも小さく見える。
ヴィリと呼ばれた男が立ち上がり、横に並んでみればその体格差は歴然だった。
声、言葉尻から考えれば、ヴェーという人物は少し幼い少女の印象を受ける。
タケルたちが少し呆気に取られている中、そのヴェーは小さくため息をつくと静かにタケルたちへと向き直る。
「さっさとお酒を持ち帰る…」
「まっ…待てよ!今は俺が遊んで…っと…今のはなし…」
手に魔力を集め始めたヴェーを静止したヴィリだが、かける言葉を誤り、彼女に睨みつけられて動揺する。
「ハハハ…まぁ、ここは俺に任せろって。」
あたふたしながらヴェーを宥めるようにそう告げるヴィリ。
そんな彼を一瞥したヴェーは、再び大きくため息をついた。
「はぁ…。すぐに終わらせる…もし遊ぶようなら私がやる。」
「わっ…わかったよ。それでいい。」
ヴィリはうなずくと、拳をパキパキと鳴らして数歩ほど前に出た。
「ということで、遊びは終わりだ!」
「やっぱり…遊んでた…」
「こっ…これは言葉の綾だって!」
言い返すヴィリに対して、ヴェーは不貞腐れたようにそっぽを向いている。
なんとなく和やかな雰囲気に言葉が出なくなっているタケルたち。
そんな彼らに対して、ヴィリが気を取り直して口を開いた。
「そういうことでそろそろ終わりにする!持ってる酒を全部もらうぞ。」
「そっ…そんなことさせるわけないだろ!!」
「おう!せいぜい頑張ってくれ!」
その瞬間、目の前からヴィリの姿が消えた。
かと思えば、タケルの少し後ろにいたガージュが吹き飛ばされたのだ。
大きな音を立てて壁に突っ込むガージュ。
タケルが反射的にガージュの方へ顔を向けようとした瞬間、今度はカヅチのうめき声が反対側から聞こえてきた。
とっさに目を向ければ、彼女と彼女の脇腹に膝を打ち込むヴィリの姿があった。
彼女の体からはあばら骨の折れる音が生々しく聞こえてくる。
「がぁぁぁっっ!!」
断末魔と共に吹き飛ばされたカヅチは、大木に全身を打ちつけてその場に倒れ込む。
「貴様ぁぁぁ!!」
それを見たタケルは怒りが込み上げ、大きく叫んで斬り込んだ。
そんなタケルにソウタが攻撃を合わせる。
タケルは横薙ぎに、ソウタは剣に炎をまとわせて上から斬り下ろした。
鈍い音が響き、タケルもソウタも手応えを感じ取る。
が…次に2人の目に映ったのは驚くべき光景であった。
「軽いなぁ~」
ヴィリはそう気だるそうにつぶやいた。
タケルの刀を左手で、ソウタの剣を右手で掴んだまま。
そして、大きなあくびをすると、口元に歪んだ笑みを浮かべたのだ。
その瞬間、タケルたちは今まで感じたことがない殺気…いや、狂気を感じ取る。
ビリビリと全身を駆け抜ける嫌悪感。
それらが体中にまとわりつくような感覚がタケルとソウタだけでなく、その場にいる全員を襲ったのだ。
(なっ…なんだ、この殺気は…やはりこいつ、プレイヤーじゃない!)
全身から吹き出す汗。
意思に反して震える手足。
しかし、それらを必死で振り払い、タケルは手に待つ武器へと力を込めた。
しかし、いくら押し込んでもヴィリが掴む刀はびくともしない。
「そろそろ飽きたな。ヴェーの奴も機嫌が悪いし…」
必死になっているタケルたちをよそに、ヴィリはそう言うと掴んでいた刀と剣を離した。
とっさに距離を取るタケルとソウタ。
そんな二人に向かって、どこからともなく発現したレイピアを顔の前に掲げ、ヴィリは小さく笑みをこぼした。
「そろそろ死んでくれ。」
嘲笑うようにつぶやき、ヴィリは手首を捻ってカチャリとレイピアを鳴らす。
そして、醜悪な笑みを再び口元に浮かべた瞬間…
「殺しちゃ…だめ。」
「ほげぁっっっ!!」
突然、ヴィリの真上にヴェーが現れ、思い切り拳で撃ち抜いたのだ。
鈍い音とともに大の字のまま地面へとめり込むヴィリ。
ピクピクと痙攣するヴィリの横に音もなく静かに着地したヴェーは、ため息をついて吐き捨てるようにヴィリに言葉を投げつけた。
「アヌビスさまの件、忘れてる。殺したら私たちもペナルティくらう。ヴィリ、頭悪い。」
しかし、ヴィリはかなり強い力で撃ち抜かれたのだろう。
その言葉に反応することはなく、ピクピクと動くだけだった。
再びため息をついたヴェーは、視線をタケルたちへと戻す。
「お前たちは殺さない…けど、酒は全部もらう。ここからは…わたしがする。」
そう告げたヴェーはフードに隠れた二つの瞳を紫に光らせると、タケルたちへと飛びかかった。
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