191 / 290
第三章 ランク戦開催
64話 彼らの正体
しおりを挟む「う…ぅ…」
体中が軋む…全く動かすことができない。
意識を取り戻したタケルは薄らとその目を開けた。
「タケルゥ!気がついたのね!!」
視界にはピンク頭のシェリーが、涙目で心配そうにこちらを覗き込んでいた。
周りにはピンク色のオーラが漂っている。
温かい…これはシェリーの治癒魔法だ。
「ど…どうなっ…た…ん…」
「大丈夫よ!みんな無事…ただ…」
シェリーは言葉を濁したが、タケルは彼がなにを言わんとしたのかすぐにわかった。
おそらく『八塩折酒』はすべて奪われてしまったのだろう。
シェリーも悔しそうに頭を横に振っている。
「状…況は…?」
「わたしとミコト以外はみんなボロボロよ。とりあえずわたしの治癒魔法で落ち着いてるわ。ミコトは他のみんなを酒蔵の中へ案内してる。あとはあなただけよ。」
「そうか…しかし、やつらは何者なんだう…」
「ん~わからないけど、少なくとも私たちプレイヤーとは違う存在じゃないかしら。」
あごに指を置いて首を傾げるシェリー。
「確かにな…シェリーも気づいてた?」
「えぇ、なぜかわからないけど、奴にはあたしたちのランクがわかっていたみたいね…直接見るだけで…さっ、タケル終わったわ。」
シェリーがそういうと、ピンク色のオーラが静かに霧散していった。
タケルはゆっくりと上半身を起こす。
「ありがとう、シェリー。そうなんだよな…プレイヤーネーム以外はわからないはずだけど、奴はランクを読み取った。そんなことを…」
「できる奴なんてあたしは知らないわ。」
「あぁ、僕もだ…」
(本当は心当たりあるんだけどね…)
悩ましげな表情のシェリーの横で、タケルは心の中でそうつぶやく。
頭の中では、イノチから連絡を受けた時に聞いた話が蘇ってくる。
この世界を運営する者たちの存在…
イノチの話では、彼らはランク戦や他国の情勢について知っており、その内容を詳しく教えてくれたらしい。
そして、なぜかイノチたちに協力的だったという。
その話を聞いた時からタケルは確信していた。
(彼らはおそらくは…)
座ったまま少し先を見つめるタケルに対して、訝しく思いつつもシェリーは声をかける。
「タケル…?大丈夫?どうかしたの?」
「ん?あぁ…ごめんごめん。ちょっと考え事をしてた。ところでさ、シェリーとミコトはよく無事だったね!何があったんだい?」
「それは私たちにもよくわからないのよ。」
シェリーはクネクネしながらあごに手を置いて、ことの顛末を説明し始めた。
・
「お前たちは殺さない…けど、酒は全部もらう。ここからは…わたしがする。」
そう告げたヴェーは、フードに隠れた二つの瞳を紫に光らせる。
「みんな!気をつけ…」
「がはっ!」
タケルがそこまで叫んだ瞬間、横からソウタのうめき声が聞こえる。
見れば、ヴェーがソウタの腹部へ肘を撃ち込んでいた。
「ソウタ!!」
その場に倒れ込むソウタに声をかけた瞬間、ヴェーの姿が消えて、今度は後ろにいたサリーの目の前に現れた。
とっさに反撃を行おうとするサリーだが、ヴェーは一言「無駄…」とだけつぶやくと、サリーのダガーを人差し指で受け止めた。
「…っ?!」
驚くサリーに対してヴェーはダガーを弾き返すと、体勢を大きく崩したサリーの腹部に回し蹴りを放った。
「サリー!!」
タケルの叫びがこだます中では、くの字になって吹き飛ばされるサリーをボロボロになったガージュが体で受け止める。
ヴィリの攻撃で吹き飛ばされたはずだが、なんとか起き上がってきたのだろう。
鎧はボロボロで、持っていた盾もない。
しかし、気を失ったサリーをしっかりと受け止めていた。
「ヴィリは加減がへたくそ…デカブツが起きちゃった。」
「ガハハ…俺はタフが取り柄なんでな!!」
「笑止…」
突進してくるヴェーに対して、サリーを抱えたまま構えるガージュだったが、突然目の前からヴェーが消えた。
驚くガージュ。
その背後に現れたヴェーが首筋に手刀を放つと、ガージュは白目を剥いて気を失ってしまった。
「タフなのは…認める。」
抱えたサリーを落とさぬまいとしたのだろう。
自分の攻撃を受けて、気を失っても倒れなかったガージュを見て、ヴェーは小さくつぶやいた。
そして、タケルへと向き直る。
「みんな倒れた…諦めて酒を渡すことを勧める。」
「…お断りだ!」
「リーダーたる者…判断を謝らないことが重要。」
「ご忠告痛み入るね!だけど、リーダーたる者…諦めないことも大切なのさ!」
そう叫んでヴェーに斬りかかるタケル。
しかし、その一太刀も軽々と指で受け止められてしまう。
「確かに一理ある…だけど、それは力の差があまりない場合。今回は見るだけでそれが間違いだとわかる。」
ヴェーはそう言うと、目にも止まらぬ速さでタケルの腹部に拳を撃ち込んだ。
「がっ…はっ…!」
突然の衝撃に、タケルは持っていた刀を落とす。
しかし、飛びそうになる意識を必死に保とうとする。
吐血しながらも、自分の腹部に突き刺さるヴェーの腕をがっしりと掴み、肩で息をしながらつぶやく。
「たとえ…そうだったとしても…ハァハァ…僕は諦めない…」
その様子を無言で見つめるヴェーは黙ったままだ。
「あの酒は渡さない…ハァハァ…お前らなんかには…絶対な!!」
「意志の強さは…認める。だけど、それも無駄…力の差は埋められないから。」
ヴェーがそうつぶやいた瞬間、歪むタケルの視界に拳が飛んでくるのが見えた。
・
「タケルが倒れると、奴はあたしたちの方へ向いたわ。私も立ち向かおうとしたんだけど…」
シェリーは悔しそうに唇を噛みながら話す。
「そんな私とミコトに奴はこう言ったの。『お前たちは回復魔法が使える。みんなを治してやれ。酒は勝手に持って帰らせてもらう』って。」
「そんなことまでお見通しかよ…」
「そうね。で、けっきょく私とミコトは何もされず、奴らは酒を全て酒蔵から持って行っちゃった。そうして今に至るというわけよ。」
ため息をつくシェリーに対して、タケルは小さくうなずいた。
ランクだけでなくスキルまでお見通しだとは…それにあの尋常じゃないほどの強さ。
間違いない…やはり彼らは"あの存在"で間違いないのだろう。
タケルは、昔この世界に来たばかりの時に一度だけ聞いたことがある話を思い出す。
ーーーユニークモンスターとは神が創りし存在である
初めはゲーム内の設定だと思っていた。
しかし、この世界がゲームではないと気づいた時、タケルは一つの違和感を感じた。
この世界は誰かに創られ、その誰かが管理しているのではないかと…タケルはそう感じたのだ。
そして、その違和感を解消する一つの結論。
それこそは"神"の存在だった。
(彼らがその神だとして、何のために僕らに干渉してきたのかは不明だ。けど、イノチくんへの接触といい、今回のことといい、あちら側でも何かが起きているということなのだろうか…)
考えを巡らせるタケルに安堵しつつ、シェリーは彼に声をかける。
「タケル、いったん酒蔵に戻りましょう。アシナさんにも事情を話さないといけないし…」
その言葉にタケルはうなずいた。
すると突然、携帯端末のコール音が鳴り響く。
「ん?誰だ…フクオウ?」
鳴り響く携帯端末を取り出して目を向ければ、クランSCRのフクオウから呼び出しのようだ。
「なんだ…?突然…」
嫌な予感がして通話ボタンを押すタケル。
シェリーも心配そうに見つめている。
「もしもし?フクオウ…?急にどうしたんだい?」
「タケルか!?大変だぞ!!お主、今どこにおるのだ!」
「どうしたんだ?そんなに慌てて…少し落ち着けよ。」
焦った口調で話すフクオウに対して、タケルは落ち着くように促す。
しかし、そんな場合ではないといったように端末の先でフクオウが声を荒げ叫ぶ内容を聞いて、タケルは驚愕した。
「メッセージを見ろ!開始通知が…レイドイベントが始まるぞ!!」
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる