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第三章 ランク戦開催
92話 竜種のチカラ
しおりを挟むミコトの蹴りは、思った以上に八岐大蛇へ大きなダメージを与えていた。
空高く蹴り上げられた八岐大蛇は、脇腹を押さえたまま苦しそうに息を吐く。
感じる痛み…
(殴られた…蹴られた…女に…女にぃぃぃ!!)
そして、込み上げてきた怒りを吐き散らした。
「くそっ!くそっ!くそぉぉぉ!!なんで!なんでだぁぁぁ!!」
地上を見下ろせば、自分を見上げるミコトの姿が見える。
その瞳には力強さと自信が溢れていて、まるでゼンの瞳を見ているようだった。
自分のことを見透かされているようで、余計に怒りが込み上げてくる。
「あの目…むかつくぜ。許さねぇ…絶対に許さねぇ…」
青筋を立ててミコトを睨みつける八岐大蛇。
そして、口を大きく開けるといきなりブレスを撃ち放った。
「ゼンちゃん!!」
上空から迫り来る八岐大蛇のブレスを見て、ミコトが大きく叫ぶ。
『あぁ、オロチめ…怒りに任せて撃ってきたな。ミコト、やるぞ!!』
「うん!」
ミコトは大きくうなずくと両足を少し開き、両手の拳を腰に置いて、小さく息を吐きながら目を閉じた。
すると、ミコトの拳に赤いオーラが現れる。
『ミコト、体の中から水を押し出すイメージだ。いけるな!』
「大丈夫だよ!」
『よし!ならば、いけぇぇぇ!!』
「はぁぁぁぁ…やぁぁぁぁぁ!!!」
目をカッと開いて、そう大きく叫びながら両手を前に押し出せば、その瞬間、ミコトから大きなエネルギー波が放たれる。
それはまるで炎のように真っ赤に揺めきながら、轟音とともに八岐大蛇のブレスへとぶつかると、大きな爆音と衝撃波を生んだ。
「なっ!俺のブレスより…で…でかいだと!!」
驚いたのは八岐大蛇だった。
自分が放ったブレスの威力を遥かに凌駕するほどの大きな赤い炎が、地上に立っていた小さな少女から放たれたのだ。
そしてそれは、八岐大蛇の紫色のブレスとぶつかり合い、激しく音を立ててゆっくりと押し返してくる。
必死に負けまいと力を込める八岐大蛇だが、その力は圧倒的にミコトの方が強かった。
「フ…フフフ…」
『ミコト…?』
その一方で、その強大なエネルギー波を放ちながら、ミコトはいつのまにか笑っていた。
それに気がついたゼンがとっさに声をかけたが、彼女からの返事はない。
先ほど感じた違和感がゼンの頭に蘇った。
ミコトの横顔はどこか戦いを楽しんでいるような…そんな風に見えたからだ。
ミコトの様子に不安を感じたゼンが再び声を上げる。
『ミコト!!』
「え…?あ…ゼンちゃん、何か言った?」
ミコトは我に返ったようにその声に反応して振り向いた。
『今…笑っていたが、どうしたのだ?』
「笑う…?私が…笑ってたの?」
『気づいてなかったのか?』
「う…うん…全然意識してなかっ…っ!?」
ゼンの言葉に不安の表情を浮かべるミコトだったが、突然、八岐大蛇の力が強くなったのを感じて上空へと視線を戻す。
「よそ見なんかしやがって…なめてんじゃねぇぞぉぉぉ!」
ブレスにさらに力を上乗せする八岐大蛇。
「はぁぁぁぁ!!」
それに対して、ミコトも負けじと両手に力を込める。
『オロチのやつ!まだあんな力を残しているのか…ミコト!大丈夫か!?』
「問題ないよ!このまま押し切れそう…!!」
力を込めた両手で力強く押し返していくミコト。
それにに対して、八岐大蛇は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
「ググググ…なんて…力だ…俺が…押し負ける…?」
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
赤と紫のせめぎ合いは、赤に軍配が上がりそうだった。
少しずつ赤が押し返していく。
そして…
『ミコト!一気にいってしまえ!!』
「うん!やぁぁぁぁぁぁ!!!」
ゼンの掛け声と同時にミコトが一気に力を込めると、さらに大きく膨らんだ炎のエネルギー波が紫のブレスを飲み込んでいった。
「ぐおぉぉぉ!なん…だとぉぉぉ…!!」
完全に押し返されたことを悟り、とっさに体を丸め込んで防御の体制を取る八岐大蛇。
そのまま、ミコトの渾身の一撃と、それに押し返された自分のブレスを同時に浴びる形となってしまう。
なんとかそれに耐えた八岐大蛇だったが、体中は焼け焦げてボロボロになり、プライドもズタズタにされてしまっていた。
空中で苦しそうに肩で呼吸している八岐大蛇。
しかし、そんな八岐大蛇に対してミコトがとった行動にゼンは驚いた。
「よく耐えたね!」
大技で八岐大蛇のブレスを撃ち返した直後、彼女は八岐大蛇の目の前に瞬時に移動し、そう声をかけた。
「くっ…」
『ミコト!?何を…!』
八岐大蛇は体を動かすことができないようで、悔しげにミコトの姿を見つめている。
そんな八岐大蛇に対して、ミコトは容赦なく拳を振るった。
「ガバァッ!!」
風を切る音とともに、地上へ向けて一直線に殴り飛ばされる八岐大蛇。
だが、ミコトはそれを先回りし、今度はタイミングよく八岐大蛇を蹴り上げる。
『ミコト…!どうしたのだ!オロチの奴はすでに満身創痍なんだぞ!そこまで…』
空高く蹴り上げた八岐大蛇を見上げるミコトにそう声をかけたゼンだったが、再びミコトのある表情に気がついた。
(また…わ…笑っている…!ミコト…いったいどうしたのだ!)
焦るゼンをよそに口元で大きな笑みをこぼしたミコトは、再び八岐大蛇の元へ瞬時に移動する。
そして、完全に無防備な八岐大蛇に対して、今度は拳での連打を浴びせ始めた。
目に見えないほどの速さの拳に、八岐大蛇はなす術なく打たれ続けていく。
『おい!ミコト!!止めるんだ!』
「フフ…フフフ…」
ゼンの言葉などまったく耳に入らないのか…ミコトはその手を緩めることはしない。
「ミコト!!オロチの奴はすでに意識を失っている!!これ以上は…」
「アハ…!アハハハハハハハハハハハハ!!!」
「ミコト…」
ミコトは笑いながら八岐大蛇を殴り続けていた。
(どうして…心優しいミコトがなぜこんな…)
目の前で凶行を行うミコト。
ゼンは唖然とその様子を見ていたが、すぐにあることに気づいた。
(も…もしかしてスキルの…『ドラゴニックフォーム』の影響なのか…?!)
ゼンの予想は当たっている。
スキル『ドラゴニックフォーム』の影響で、ミコトの性格とゼン…いや、竜種の性格までもが混ざり合っており、これにより若干の臆病さは残るが、ミコトは戦うことに喜びを見出すようになってしまったのである。
(まさか…そんなところにまで影響が出るとは…)
心配と驚きを隠せないゼンを尻目に、ミコトは楽しげに八岐大蛇を殴り続けていたが、飽きてきたのか小さくつぶやいた。
「もう動かないし、そろそろ…終わろうかなぁ…」
『なっ!?ミッ…ミコト!待て!!』
ミコトのその言葉に焦り、ゼンが声を上げた。
しかし、その声はやはりミコトへは届かない。
連打を止め、八岐大蛇の胸ぐらを鷲掴みにすると、ミコトは赤いオーラを纏わせた拳を振り上げた。
ミコトの殺気を読み取り、声を荒げるゼン。
『止めろ、ミコト!!殺してはならん!!』
「アハハ!!これで終わりだね!」
自分を止めようと必死に叫ぶゼンに構うことなく、ミコトは容赦なく拳を振り下ろした。
『ミコトォォォォ!!』
思念だけではどうすることもできずに、ただただ叫ぶゼン。
しかし、その拳が当たる寸前、別の殺気を感知したミコトはその拳を止めた。
そして、八岐大蛇を掴んだまま、自分めがけて飛んできた黒いオーラを瞬時にかわした。
『な…今のはいったい…』
ゼンが疑問を浮かべる中、ミコトはそれが飛んできた方に視線を向ける。
するとそこには、青い短髪の男が一人、宙に浮いて笑みを浮かべていたのだ。
「お前は…」
ミコトが小さく尋ねると、男は大きな笑みを浮かべてこう告げた。
「俺の名はヴィリ。そいつを返してもらいに来た!」
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