234 / 290
第四章 全ての想いの行く末
5話 アドバンテージ
しおりを挟む「いったいどうなっている!!くそぉっ!!」
レオパルは明らかに怒っていた。
着ていたマントを床に叩きつけ、これでもかというほど踏みつけている。
彼がここまで激怒している理由は、生誕祭を邪魔されたからだけではない。
レジスタンスが事を起こすならば、それは生誕祭の日であると予想はしていた。
しかし、それを許してまで生誕祭を台無しにしたくはなかったレオパルは、帝国兵の警備を2倍にし、加えて、ロノス率いる『創血の牙』をザインの街中に配置することで、レジスタンスに身動きをとらせない体制を整えたつもりであった。
万全を期し、式典を無事に終わらせる。
そのあとに、レジスタンスたちが暴れられる状況をわざと作り出し一気に叩く。
そういう算段であったのに…
「街の警備は…創血は何をしていたのだ!!」
「ご…ご指示通り、街の警備に当たらせております。」
「じゃあ、奴らはどこから現れたというのだ!!創血の…参謀のレアーはどこへ行った!納得のいくように説明させろ!!」
「それが…先ほどから姿が見えませんで…」
「なにぃぃぃ!?くそぉぉぉっ!!」
レオパルは踏みつけていたマントを蹴り上げた。
窓にあたりガシャンと音を立てて下に落ちるマントを横目に、興奮が治らない様子のレオパルに対し、宰相が声をかける。
「陛下、まずは落ち着きましょう。創血の牙ロノスが向かったのです。すぐに騒ぎは収まるかと…」
「ハァハァ…ロノス…確かにそれはそうだな。奴の強さは本物だ。」
「その通りです!ま…まずは騒ぎを…奴らに尻拭いをさせてから、問い正しても遅くはありません。」
「…よかろう。しかし、奴らに任せっきりなのも癪に障る!我らも沈静化に当たるぞ!よいな!」
「「「はっ!!」」」
レオパルの言葉に、宰相を含めた配下たちは敬礼し、すぐさま駆け出していった。
その姿を眺めながら、怒り疲れたレオパルは近くのイスにドカッと座り込む。
「ロノスめ…何がしっかりと警備に当たるだ。事が収まったら、いっそのこと奴だけ国外に追放してやろう!我がリシアの覇道の前に落ちた小石め…仮面の下で泣くがよい!!」
レオパルは一人でつぶやいて、口元でニヤリと笑うのであった。
◆
「やぁ…君が…ずっと考えてたんだ。こうして会いたいとね。」
漆黒の鎧の男は、イノチにそう声をかけた。
イノチは突然の事に少し動揺したが、それを気取られまいとして口を開く。
「お…お前は…創血の牙のメンバーか?」
「……」
鎧の男から返事はない。
(おいおい、話しかけてきたのはそっちだろ?黙るなよな。)
イノチは彼を睨みながらそう考えるが、鎧の男は身動き一つせずにイノチを見据えている。
(なんだよ…こいつ。鎧のせいで表情も見えないし…何考えてるか全然わからないな。戦いたいのか…話し合いたいのか。どっちだ…)
そこまで考えた瞬間だった。
身の毛もよだつほどの悪寒が、イノチの体中を走り過ぎていく。
冷や汗が止まらない。
体が意に反して震えているのがわかる。
原因はすぐにわかった。
漆黒の鎧の中から感じられる強大な殺気。
目の前に立つ男が放つ底知れない殺気が、イノチを無意識にそうさせているのだ。
周りに視線を向ければ、レジスタンスたちも膝をつき、自らの体を抱きしめて恐怖に震えている様子がうかがえる。
無差別に向けられた殺気は、その場にいる全員に伝染しているのだ。
「BOSS!!!」
殺気を感じ取っていたフレデリカが、焦るようにイノチの元へ飛んできた。
イノチの前に立ち、鎧の男を睨むフレデリカだが、その額には一筋の汗が流れ落ちる。
フレデリカもまた、目の前の男に不穏な気配を感じ取っていたのだ。
主人を庇うように立つフレデリカと、殺気を受けても辛うじて屈しなかったイノチを見て、漆黒の鎧の男は小さくつぶやく。
「ハハハ…思った通りだ。見込みあるなぁ。君は本当に何者なんだい?プレイヤー…じゃないの?ネームタグ、見えないけど…現地人かな?でも、強いよね。その強さはこの世界の人間が手に入れられるもの?う~ん、わからない。わからないけど…興味あるよね。」
その言葉を聞いたイノチは、焦りの中で少し安堵していた。
ハンドコントローラーのスキルによりシステムを改変したおかげで、奴に自分のネームタグは見えておらず、プレイヤーであることはバレていないことが確認できた。
そして、『ネームタグ』という単語を出したということは、奴はプレイヤーであり、この場に来たということはクラン『創血の牙』のメンバーで間違いないということも。
ただし、理由はわからないがイノチには相手のネームタグが見えないため、奴の名前はわからない。
しかし、イノチ自身も隠す事ができるため、相手とのアドバンテージは変わらないはずである。
「い…いったい、何のことを言っている!」
「ハハハ…どちらにせよ、そう言うよね。まぁいいや、君の顔も見れたし…だけど、俺にもやるべきことはまだあってね…」
鎧の男が一歩踏み出した。
ガチャンという金属が擦れ合う音に、フレデリカがいっそう警戒心を高める。
イノチも顕現したハンドコントローラーをうまく隠しつつ、相手の出方をうかがっている。
「安心しろよ。君たちの相手は俺じゃない…ここに来たのはレオパルと距離を取りたかったのと、その際に君の顔を見つけたからだ。」
その言葉にイノチは安堵のため息を小さくついたが、フレデリカは違った。
「嘘も大概ですわ。ならなぜ、あなたの殺気は未だにこちらに向いているのです?」
「ハハハ…バレたかい。君もなかなかだね…!」
そう告げた瞬間、鎧の男が消えた。
「BOSS!!」
「あぁ!わかってるよ!」
スキル『竜化』を発動しながら、フレデリカはそう告げて姿を消した。
その言葉と同時に、イノチはハンドコントローラーを使って瞬時にキーボードに指を走らせる。
ガキンッ!!
イノチの後ろで金属音が響いた。
そこにはイノチヘ刃を向ける鎧の男と、ファングソードでそれを受け止めているフレデリカの姿があった。
「やるねぇ…」
「あなたこそ…ですわ…ぐっ…」
竜化した自分と互角か、それ以上かと思われる純粋な相手の力に、フレデリカは焦りを隠せない。
しかし、この場はイノチたちが一枚上手だった。
イノチがキーボードのエンターキーを勢いよく叩きつけた瞬間、ゲートのようなものが現れてその扉を開く。
「できた!ケンタとミノタ、時間だ!来い!!」
「やっとかよぉ!」
「まちくだびれたミノォォォ!!」
開いた扉から、リシア帝国の神獣であるケンタウロスとミノタウロスの二人が姿を現した。
「神獣…?」
「…!おりゃあぁぁぁっ!ですわ!!」
「おっと…」
神獣の姿に驚いた鎧の男が一瞬見せた隙を、フレデリカは見逃さずに追撃を行うが、難なくかわされてしまった。
そのまま距離を取る鎧の男を視線で追うイノチ。
男は着地して体制を整えると、楽しげにイノチたちへ声をかけた。
「まさか神獣を仲間にしているのかい?」
「驚いたか!これで4対1だぞ!」
「……」
イノチの言葉に何を考えているのか、無言になった男。
イノチはなおも言葉を続けた。
「こいつらは俺たちの切り札と言ってもいい。まさかこんなに早く使わされるとは思わなかったけど…」
「…たしかに神獣は強いからね。うちのメンバーでも簡単には倒せないな。」
「あんたなら、この戦況を理解できるはずだ!手を引いて…」
その瞬間、鎧の男は大きく笑い始めた。
突然のことにイノチは言葉を失い、ただその様子を眺めている。
「ハハハハハ!いいねいいね!そんなものまで準備してたんだ!ラビリスの大空洞へ行っていたのは、そのためだったんだね!ハハハハハハ!!」
「な…なぜそれを…!」
「こちらの情報網を舐めないでほしいなぁ。それくらいはお見通しだよ。だが、神獣を仲間にしていることは予想してなかった…」
「な…なら!」
イノチが再び口を開こうとした瞬間、男はそれを遮るように告げる。
「でもね、俺が"ここにいる"状態で、こいつらと戦うのは大変だと思うよ!」
その瞬間、ロノスの目の前に突如として現れた顔ぶれを見て、イノチは驚愕する。
「アッ…アカニシ…」
そこには、真っ赤な鎧に身を包む副団長アカニシと、青い鎧を全身に身にまとい、黄金に光る三叉の矛を手に持つセイドが立っていたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる