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第四章 全ての想いの行く末
5話 アドバンテージ
しおりを挟む「いったいどうなっている!!くそぉっ!!」
レオパルは明らかに怒っていた。
着ていたマントを床に叩きつけ、これでもかというほど踏みつけている。
彼がここまで激怒している理由は、生誕祭を邪魔されたからだけではない。
レジスタンスが事を起こすならば、それは生誕祭の日であると予想はしていた。
しかし、それを許してまで生誕祭を台無しにしたくはなかったレオパルは、帝国兵の警備を2倍にし、加えて、ロノス率いる『創血の牙』をザインの街中に配置することで、レジスタンスに身動きをとらせない体制を整えたつもりであった。
万全を期し、式典を無事に終わらせる。
そのあとに、レジスタンスたちが暴れられる状況をわざと作り出し一気に叩く。
そういう算段であったのに…
「街の警備は…創血は何をしていたのだ!!」
「ご…ご指示通り、街の警備に当たらせております。」
「じゃあ、奴らはどこから現れたというのだ!!創血の…参謀のレアーはどこへ行った!納得のいくように説明させろ!!」
「それが…先ほどから姿が見えませんで…」
「なにぃぃぃ!?くそぉぉぉっ!!」
レオパルは踏みつけていたマントを蹴り上げた。
窓にあたりガシャンと音を立てて下に落ちるマントを横目に、興奮が治らない様子のレオパルに対し、宰相が声をかける。
「陛下、まずは落ち着きましょう。創血の牙ロノスが向かったのです。すぐに騒ぎは収まるかと…」
「ハァハァ…ロノス…確かにそれはそうだな。奴の強さは本物だ。」
「その通りです!ま…まずは騒ぎを…奴らに尻拭いをさせてから、問い正しても遅くはありません。」
「…よかろう。しかし、奴らに任せっきりなのも癪に障る!我らも沈静化に当たるぞ!よいな!」
「「「はっ!!」」」
レオパルの言葉に、宰相を含めた配下たちは敬礼し、すぐさま駆け出していった。
その姿を眺めながら、怒り疲れたレオパルは近くのイスにドカッと座り込む。
「ロノスめ…何がしっかりと警備に当たるだ。事が収まったら、いっそのこと奴だけ国外に追放してやろう!我がリシアの覇道の前に落ちた小石め…仮面の下で泣くがよい!!」
レオパルは一人でつぶやいて、口元でニヤリと笑うのであった。
◆
「やぁ…君が…ずっと考えてたんだ。こうして会いたいとね。」
漆黒の鎧の男は、イノチにそう声をかけた。
イノチは突然の事に少し動揺したが、それを気取られまいとして口を開く。
「お…お前は…創血の牙のメンバーか?」
「……」
鎧の男から返事はない。
(おいおい、話しかけてきたのはそっちだろ?黙るなよな。)
イノチは彼を睨みながらそう考えるが、鎧の男は身動き一つせずにイノチを見据えている。
(なんだよ…こいつ。鎧のせいで表情も見えないし…何考えてるか全然わからないな。戦いたいのか…話し合いたいのか。どっちだ…)
そこまで考えた瞬間だった。
身の毛もよだつほどの悪寒が、イノチの体中を走り過ぎていく。
冷や汗が止まらない。
体が意に反して震えているのがわかる。
原因はすぐにわかった。
漆黒の鎧の中から感じられる強大な殺気。
目の前に立つ男が放つ底知れない殺気が、イノチを無意識にそうさせているのだ。
周りに視線を向ければ、レジスタンスたちも膝をつき、自らの体を抱きしめて恐怖に震えている様子がうかがえる。
無差別に向けられた殺気は、その場にいる全員に伝染しているのだ。
「BOSS!!!」
殺気を感じ取っていたフレデリカが、焦るようにイノチの元へ飛んできた。
イノチの前に立ち、鎧の男を睨むフレデリカだが、その額には一筋の汗が流れ落ちる。
フレデリカもまた、目の前の男に不穏な気配を感じ取っていたのだ。
主人を庇うように立つフレデリカと、殺気を受けても辛うじて屈しなかったイノチを見て、漆黒の鎧の男は小さくつぶやく。
「ハハハ…思った通りだ。見込みあるなぁ。君は本当に何者なんだい?プレイヤー…じゃないの?ネームタグ、見えないけど…現地人かな?でも、強いよね。その強さはこの世界の人間が手に入れられるもの?う~ん、わからない。わからないけど…興味あるよね。」
その言葉を聞いたイノチは、焦りの中で少し安堵していた。
ハンドコントローラーのスキルによりシステムを改変したおかげで、奴に自分のネームタグは見えておらず、プレイヤーであることはバレていないことが確認できた。
そして、『ネームタグ』という単語を出したということは、奴はプレイヤーであり、この場に来たということはクラン『創血の牙』のメンバーで間違いないということも。
ただし、理由はわからないがイノチには相手のネームタグが見えないため、奴の名前はわからない。
しかし、イノチ自身も隠す事ができるため、相手とのアドバンテージは変わらないはずである。
「い…いったい、何のことを言っている!」
「ハハハ…どちらにせよ、そう言うよね。まぁいいや、君の顔も見れたし…だけど、俺にもやるべきことはまだあってね…」
鎧の男が一歩踏み出した。
ガチャンという金属が擦れ合う音に、フレデリカがいっそう警戒心を高める。
イノチも顕現したハンドコントローラーをうまく隠しつつ、相手の出方をうかがっている。
「安心しろよ。君たちの相手は俺じゃない…ここに来たのはレオパルと距離を取りたかったのと、その際に君の顔を見つけたからだ。」
その言葉にイノチは安堵のため息を小さくついたが、フレデリカは違った。
「嘘も大概ですわ。ならなぜ、あなたの殺気は未だにこちらに向いているのです?」
「ハハハ…バレたかい。君もなかなかだね…!」
そう告げた瞬間、鎧の男が消えた。
「BOSS!!」
「あぁ!わかってるよ!」
スキル『竜化』を発動しながら、フレデリカはそう告げて姿を消した。
その言葉と同時に、イノチはハンドコントローラーを使って瞬時にキーボードに指を走らせる。
ガキンッ!!
イノチの後ろで金属音が響いた。
そこにはイノチヘ刃を向ける鎧の男と、ファングソードでそれを受け止めているフレデリカの姿があった。
「やるねぇ…」
「あなたこそ…ですわ…ぐっ…」
竜化した自分と互角か、それ以上かと思われる純粋な相手の力に、フレデリカは焦りを隠せない。
しかし、この場はイノチたちが一枚上手だった。
イノチがキーボードのエンターキーを勢いよく叩きつけた瞬間、ゲートのようなものが現れてその扉を開く。
「できた!ケンタとミノタ、時間だ!来い!!」
「やっとかよぉ!」
「まちくだびれたミノォォォ!!」
開いた扉から、リシア帝国の神獣であるケンタウロスとミノタウロスの二人が姿を現した。
「神獣…?」
「…!おりゃあぁぁぁっ!ですわ!!」
「おっと…」
神獣の姿に驚いた鎧の男が一瞬見せた隙を、フレデリカは見逃さずに追撃を行うが、難なくかわされてしまった。
そのまま距離を取る鎧の男を視線で追うイノチ。
男は着地して体制を整えると、楽しげにイノチたちへ声をかけた。
「まさか神獣を仲間にしているのかい?」
「驚いたか!これで4対1だぞ!」
「……」
イノチの言葉に何を考えているのか、無言になった男。
イノチはなおも言葉を続けた。
「こいつらは俺たちの切り札と言ってもいい。まさかこんなに早く使わされるとは思わなかったけど…」
「…たしかに神獣は強いからね。うちのメンバーでも簡単には倒せないな。」
「あんたなら、この戦況を理解できるはずだ!手を引いて…」
その瞬間、鎧の男は大きく笑い始めた。
突然のことにイノチは言葉を失い、ただその様子を眺めている。
「ハハハハハ!いいねいいね!そんなものまで準備してたんだ!ラビリスの大空洞へ行っていたのは、そのためだったんだね!ハハハハハハ!!」
「な…なぜそれを…!」
「こちらの情報網を舐めないでほしいなぁ。それくらいはお見通しだよ。だが、神獣を仲間にしていることは予想してなかった…」
「な…なら!」
イノチが再び口を開こうとした瞬間、男はそれを遮るように告げる。
「でもね、俺が"ここにいる"状態で、こいつらと戦うのは大変だと思うよ!」
その瞬間、ロノスの目の前に突如として現れた顔ぶれを見て、イノチは驚愕する。
「アッ…アカニシ…」
そこには、真っ赤な鎧に身を包む副団長アカニシと、青い鎧を全身に身にまとい、黄金に光る三叉の矛を手に持つセイドが立っていたのであった。
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