246 / 290
第四章 全ての想いの行く末
17話 掌上のダンス
しおりを挟む「そんな…し…死んだはずじゃ…」
「死んだふり…うまかっただろ?正直、そっちの彼女の魔法が予想外の威力で少し焦ったけどね。鎧は…正直勿体無かったけど、まぁ必要経費と思えばいいさ。」
フレデリカを指して再びクツクツと笑うレンジに対して、イノチは困惑しながらも核心をぶつけた。
「ロノスとレンジが同一人物…と言うことはもしかして、お前は最初から俺たちのこと知ってて…」
「さすがイノチくん…察しがいいね。その通り、俺は最初っからずっとレジスタンスのリーダーであり、創血の牙の団長さ。君たちがこの国に来ることはある筋から知っていてね。この国の革命に一役買ってもらったのさ。なかなか面白いゲームだったよ。」
「ある筋…だと…?」
「アハ…心配しなくていいよ。アキナイ…彼はこの計画には関係ない。本当にこの国を良くしたいと思っているだけだよ。」
レンジがそう笑みで返す中、イノチは心の中でホッとしていた。
これまでお世話になってきたカルモウ一族は疑いたくない…
それがイノチの本音だったから。
しかし、納得がいかないセイドが食いついた。
「団長…俺たちはあんたのことだけは信じてたんだ…尊敬して信頼して…それなのになんで!」
「お前がそれを言うなよ、セイド。お前は創血の牙を裏切ったじゃないか。」
「そ…それは…」
その言葉にたじろぐセイドを見て、レンジはさらに笑みを深めた。
「ククク…まぁ、お前の裏切りも全部俺の計画のうちだから安心しな。お前がそうするように前々から仕組んでいたんだから。」
「なっ…!」
その言葉を聞いて驚くセイドの横で、イノチもまた驚きを隠せずにいる。
そんな中で、レンジはさらに言葉を続けていく。
「クラン『創血の牙』は、リシア転覆のために俺が創った駒にすぎないのさ。本当に簡単だったよ…お前も、そこに転がるアカニシたちも、簡単に騙されて俺についてくるんだからな。」
「全部、お前の手のひらの上で転がされていた…そういうことか。」
「そういうことさ。君たちがサザナミに来ることも、レジスタンスの仲間になることも…そして、レオパルを討つことも…全部俺たちの計画だったのさ。唯一の誤算と言えば…彼らかな。」
レンジはそう言うと、振り向くことなく自分の後ろを親指で指した。
その先にいるのはケンタウロスとミノタウロス。
「俺らか?フフフ、そうだろうそうだろう!」
自分たちのことを言われ、腕を組んで嬉しそうに笑うケンタウロス。
ミノタウロスも鼻息を荒くして自慢げだ。
「彼らに挑めるレベルのプレイヤーは、まだ聞いたことがなかったからね。それがどうだい!倒すんじゃなくて跪かせ、手駒に加えてしまうなんて…さすがに予想はできなかったよ。」
「て…手駒…!?ちげぇーぞ!俺たちは姉さんたちについてるだけで、使われてるわけじゃねぇ!」
「そーだミノ!!お嬢のお手伝いをしているだけミノ!!」
一方では…
「ふむ…なかなかの分析力ですわ…」
「だね♪」
「姉さん!!」
「お嬢!!」
フレデリカとアレックスの冷静なコメントに、ついついツッコミを入れてしまうケンタウロスたち。
「フフフ…神獣たちをそんな風に扱えるなんて誰も予測はできないよ。でも、それも許容範囲ではあるんだけどね。」
肩をすくめ、余裕の態度でそう告げるセイド。
イノチはそんな彼に静かに問いかけた。
「な…何が目的なんだ。俺にはお前の行動の意味が全然わからない…」
「まぁ…そうだろうね。でも、今その理由説明するつもりはないし、そんな義理もない。」
レンジは再びまっすぐな目をイノチは向けた。
「だけどまぁ、状況が状況だからね。こんなこと言うのもなんだけど…ここは手を引いてくれないかな?イノチくん。」
「…お前たちを…見逃せと?」
レンジは首を振る。
「これでも立場は対等だと思ってるんだぜ。俺たちはこれからリシアを立て直す。そのためにはそこにいるアカニシたちが必要だ。でも、君たちがダメだと言うならここで戦うしかない道はないじゃないか。」
「いくらお前が強くても、これだけの人数さだぞ。アカニシたちも捕まったままで切り抜けられると思っているのか?」
「そうだね…まぁ、俺も無事じゃ済まないだろうけど、三人くらいは殺せると思うよ。だが、君はそれを許容できるかい?」
その言葉を聞いて、イノチは考えていた。
レンジの言うとおり、ここで戦いになった場合には、自分たちも大きな痛手を負う可能性が高いことはわかっている。
レンジ…いや、ロノスの強さはさっき見たばかりだし、イノチたちの中で最高戦力とも言えるフレデリカの力を超えるレンジに、無傷で勝つことはできないだろう。
しかし、ここで逃すことにもデメリットはある。
彼がリシアを立て直し、再びジパンにその手を伸ばさないとも言えないからだ。
イノチはその二つを天秤にかけて悩んでいた。
そんなイノチに対してレンジが提案する。
「いくら俺でもリシアを立て直すには時間がかかる。君たちがジパンへ戻り、準備を整えてもお釣りが来るほどにね。君の心配はジパンの安全だろ?向こうの王へ伝えなよ。和平を結ぼうじゃないか。」
「…それに対するお前たちのメリットは?」
「フフフ…用心深いんだな。」
肩をすくめてそう告げたレンジは、横にいるスタンに視線だけを向けた。
それを承諾したスタンが口を開く。
「レンジさまの言うとおり、我々はリシアを立て直したい。国の傾きがある程度持ち直したとしても、諸外国との貿易がなければ途中で頓挫しかねない。この世界において貿易のハブとなっているジパンとは、当分の間仲良くさせていただきたいと存じます。」
「当分ね…」
イノチはため息をついた。
レンジの言う『当分』という言葉は実に抽象的で具体性がない。
すぐに襲いかかってこないという確約もなく、まったくと言っていいほど信用できるものでもないのだ。
だが、イノチの中の天秤は仲間の命に傾いた。
そして、イノチは決断する。
「わかった…今回は手を引こう。」
「ちょ…ちょっとBOSS!!何言ってんのよ!」
エレナが驚いて反論し、ケンタウロスが腕を回しながらそれに同意する。
「そうだぜ!俺らにかかれば、こんな弱っちそうな奴ら一瞬で…」
しかし、ケンタウロスがそこまで言ったところでイノチがそれを遮るように手を上げた。
「エレナもケンタもここは我慢だ。今戦ったらほんとに誰か死ぬ…それは俺もフレデリカもセイドも理解してるんだ。」
イノチの言葉にうなずいたフレデリカとセイドの様子は、エレナを納得させるには十分であった。
「ありがたいね。君が…君たちが聡明な人間でよかったよ。」
「本当はしたくないが、今はお前を信じることにする。だが、ジパンに手を出した時は全力で止める。たとえお前と差し違えることになってもだ!」
レンジはその言葉に笑みを浮かべた。
そのまま、イノチとレンジは互いに強い眼差しをぶつけ合っていた。
・
イノチたちが去った後も、王宮内ではレジスタンスたちが忙しなく動き回っている。
アカニシたちを回復させ、レンジとスタンは一度拠点とする執務室へと戻っていた。
「スタン…君はどう思う?」
「イノチさん…ですか?」
イスに座り、無言で笑うレンジの前でスタンは少しだけ考えて口を開く。
「あの御方がどう思われるかは別として、我々にとって大きな障害になるでしょうね。」
「…そうだね。あの力…彼はおそらくだけどかの"御方"の加護を受けているんじゃないかと思うんだ。」
「それには同意しますね。あなたのスキルを打ち破るほどの強力な力…であれば、そう考えるのが妥当です。」
レンジは目の前のテーブルに置かれたコップを手に取り、ゆっくりと口へと運んだ。
「我らが御方はこの事を知っていると思うかい?」
コップを置きつつ、そうたずねるレンジにスタンは首を横に振る。
「私にはわかりませんよ。普段、何を考えているのかもわからない方ですから…まぁ、おそらくはご存じなのではないですか?」
悩ましげに告げるスタンの言葉に笑うと、レンジは立ち上がって窓の外を覗き込む。
綺麗な夕焼けが、山々の向こうに沈もうとしている様子が見え、それを眺めながらレンジは小さくつぶやいた。
「まるでティタノマキア…聖戦の縮図のようだね…」
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる