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第四章 全ての想いの行く末
42話 これが意味すること…
しおりを挟む「エレナ…いるかい?」
エレナの部屋を訪れたアルスは、彼女の部屋のドアを数回ノックし、そう尋ねた。
しかし、中からは返事はなく、アルスはドアノブにそっと手をかける。
「エレナ…?」
扉を開け、そう尋ねながら部屋の中を見渡すアルス。だが、そこには誰の姿もなかった。
「やはりか…」
アルスは顔を歪ませて俯く。
父であるクリスから、エレナの様子を確認するように指示されたアルスは、ついにこの時が来たのかと落胆していた。
エレナは召喚士によって、その身を契約に捧げている。
その召喚士が死ねば、契約は破棄されるだけでなく、契約者も死ぬと…
そう聞かされた時は、内心で気が気ではなかった。大切な妹がなす術なく死ぬというのは、兄として到底受け入れる事はできない。
だが、ランドール家の次期当主としての責任と覚悟が、それを許さない。
心を無にして、アルスはクリスの言葉に小さく頷いたのだ。
もう一度、大きくため息をつき、エレナのイスに腰掛ける。
男勝りな妹だった…
部屋には女の子らしいものなど一つも置かれていない。だが、それもそのはずだ。小さい頃から自分と共に鍛錬に励んできたのだから。
「こんな事になるなら、普通の女の子として歩ませてやればよかったのだろうか。」
アルスは窓から見える夜空を眺めた。
しかし、突然、アルスは部屋の中に気配を感じてすぐに身構える。何者かが、部屋の端でガサゴソと動いているのだ。
「誰だ…」
アルスはそう小さく威嚇する。すると、ゴンッと鈍い音がして「あ痛っ!」という聞き慣れた声が聞こえてきた。
「エ…エレナ…なのか!?」
驚いたアルスがすぐに駆け寄ると、痛そうに頭をさする妹の姿があった。
「お前…なんで…」
「あら?兄さん…いつの間に?レディの部屋に無断で入るのはいかがなものかしら…?」
嫌味ったらしくそう告げるエレナに、信じられないという表情を向けるアルス。そんなアルスを訝しげに感じたエレナが口を開く。
「聞いてるの?兄さん…!監視のために来たのなら安心して。ランドール家の敷地内で、兄さんから逃げられるとは思ってないわ!」
「監視だなんて…僕はそんなつもりじゃ…」
「じゃあ、何の用なの?今は淑女の嗜みの時間よ!要がないなら出て行って!」
エレナはそう言うと、アルスの背中をぐいぐいと押して部屋の外へと追い出してしまった。
「お…おい、エレナ!なんとも…なんともないのか?」
「お生憎様!兄さんにしっかりと鍛えてもらったから、風邪なんて引かないわ!」
その言葉と同時に部屋のドアが音を立ててしまった。
驚きを隠せないアルスだが、同時に安堵も感じていた。
そして、このことが意味すること…
それを頭の中で巡らせていたのである。
・
「お主…そうか、そちらにつくか…」
悲しげな表情を浮かべるゼウスだが、ヘルメスは表情を変えることはない。そんなヘルメスの前に立ち、クロノスは笑みを深めた。
「彼女は僕に賛同してくれてね。協力してくれるって…ありがたいよね!」
「何が真の目的なんじゃ…」
「だから、さっきも言っただろ?この世界を僕らのものにするのさ!」
クロノスは、歪んだ笑みを浮かべてそう告げる。しかし、ゼウスは表情を変えることなく、淡々とクロノスに問いかけていく。
「それでどうする?この世界をただ好き勝手運営するだけではなかろう?」
「質問ばっかりで本当うるさいやつだな、お前は。」
クロノスは両手を腰を置き、面倒臭そうに大きくため息をついた。
「いいさ、教えてあげようじゃないか!僕らはこの世界を手に入れて、プレイヤーをたくさん増やす。そして、準備が整ったら、地球に巣食うバカな人間どもを皆殺しにするのさ。」
「それになんの意味があるのじゃ。」
「意味…?意味なんてないさ!ただ、人間はウザいし、ここら辺で一度殲滅した方がいいかなって。まぁ、あいつら、資源を食い尽くしまくってるし、そのまま放っておいても勝手に滅ぶんだろうけどね。」
「要は、母なる星を助けようと?」
「そんな大層なものじゃないよ。単なる暇つぶしさ!みんな退屈なんだよ…信仰心もない人間たちの管理なんて。そろそろ新しい世界を作り替えても良いんじゃない?」
クロノスは肩をすくめて鼻を鳴らした。そんな彼を、ゼウスは無言で見つめている。
と、その時だ。
突然、クロノスの体が光り始めたのだ。アヌビスもヘルメスもそれには驚きを隠せない。
「こ…これは…ログアウト…!?ヘルメス!これはどういうことだ!?」
驚き、動揺したクロノスはヘルメスに問いかける。一方、ヘルメスは発現したキーボードに指を走らせて何かを確認しているが、その顔には焦りが浮かんでいる。
「何者かが…システムに侵入して…我々をこの世界から排除しようとしています!」
「なんだって!?この世界の特権は、お前が持っているんじゃないのか?お前以外にも、システムに触れられる奴がいたというのか!ヘルメス、お前もしかして裏切っ…」
そこまで言ったクロノスは、光の粒子だけ残して忽然と消えてしまった。横で驚いているアヌビスの体も、いつの間にか光り輝き始めている。
「おい!ヘルメス!これはいったい!」
「今…確認中です!……なっ?!これは!彼は死んだはずでは…!?」
「死んだはず…?いったい誰のことを言ってるんだ!」
怒り叫ぶアヌビスだが、ヘルメスが次に告げた言葉を聞いて言葉を失った。
「今…目の前で倒れているプレイヤーです!!」
「な…に…!?」
驚愕するアヌビスも、その瞬間忽然と消えてしまう。
残されたヘルメスが必死にキーボードを叩いていると、ゼウスの横で倒れていた男が、ゆっくりと立ち上がる様子が目に映った。
驚いてそちらに顔を向けると、ウォタに胸を貫かれたはずのイノチが立ち上がり、こちらを見ているのだ。
「な…!あなたは死んだはずじゃ…」
「生憎だけど…なんの対処もせずに、敵地に乗り込むほど馬鹿じゃないんでね。」
そう告げたイノチは、ヘルメスと同じように手元にキーボードを発現させると、それを片手でカタカタと打ち始めた。
すると、ヘルメスの体も光り輝き始める。
「くっ…まさか、この世界のシステムに干渉するとは…だが、この私に勝てると思うな!これでもこの世界のシステムを構築した…っ!?」
イノチのシステム干渉を阻もうと手を動かすヘルメスだが、彼がシステムを改変していくそのスピードには、驚きを隠せなかった。
自分が書き換えた上から、さらにコードが書き換えられていく。まさに神業と言っていいほどの手捌きに、ヘルメスは驚きと感心で心を震わせた。
(まさか…これほどまでとは…)
そう思った瞬間、イノチがキーボードのエンターキーを叩いた音が聞こえた。
「はい…邪魔者は一旦退席してね。」
それを聞いたヘルメスは歓喜の表情を浮かべ、ゼウスを見つめたまま光の粒子となり、その場から消えていった。
それを見送った後、ゼウスは横に立つイノチに視線を移す。凛々しい横顔でヘルメスがいた場所を静かに見つめるイノチに声をかけようとして…
「はぁーーーーーーー!!マジで怖かった!!」
イノチはゼウスの期待を裏切るように、ヘナヘナとその場に座り込んだのだった。
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