この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

夏目みや

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第三章 近づく距離

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 これってつまり、自分といて楽しいか聞いているの?

 今のところ、イザークと過ごすよりもロゼールと過ごした時間の方が長い気がする。それにロゼールは表情豊かだし、いろいろ自分から話を振ってくれるから楽しいし。

 私は返答に困ってしまう。そして悪いことに、それが顔に出てしまったようだ。私の表情を見たイザークの眉が下がった。見るからに気落ちして、シュンとしている。

 あっ、これはいけないわ。

「た、楽しいですよ」

 努めて明るい声を発した。

 イザークがパッと顔を上げる。心なしか、その瞳はキラキラと輝いて見えた。

「最近では、一緒に過ごす時間が多くなったから」

 そう、ロゼールのようにわかりやすい性格でなくても、長い時間一緒にいれば、彼の人となりがわかるだろう。

「そうか」

 イザークはフッと笑顔を見せた。良かった、どうやら機嫌は直ったみたいでホッとした。

「これからは、そばにいられる時間を増やしたい」

 突然イザークが言い出したので、驚いて瞬きを繰り返す。
 真剣な顔をしている彼は私の返事を待っているようだ。

「で、でも忙しいのでは……?」

 結婚したばかりの頃は放っておかれたから、実際忙しいのだろう。
 イザークは勢いよく首を振る。

「ロゼールに負けないぐらい、時間を取ると約束する」

 ロゼールを引き合いに出す彼に思わず笑みがこぼれた。

 でも、こうやって私と歩み寄る気持ちがあるということが素直に嬉しい。
 ようやくこの王命結婚に前向きな気持ちになった、ということかしら。

「ありがとう」

 フワッと微笑むとイザークは頬を染め、ボーッと私を見つめている。心なしか目が潤んでいる。

「どうしたの?」

 首を傾げて顔をのぞき込めばハッとして顔を逸らした。その顔は赤い。

 最近、気づいたことがある。イザークは照れ屋だ。最初は仏頂面だと思っていたが、意外にも表情が豊かだし、すぐ顔が赤くなる。

 私はフフッと笑い、もう一度ウォルクの街並みを見る。

 イザークから了解も得たことだし、明日からも北部の発展に力を添えよう。

 なにをしようか迷うより、まずは行動に移す。眼下に広がる光景を前にして私は誓った。

 ***

 それから三日後。
 ようやくイザークがうるさく言わなくなったので、外出することにした。
 久々に炊き出しの場に顔を出すので、少しドキドキする。

 ロゼールから経理に詳しい人の募集をかけたと聞いているし、私がいなくても上手く回っていると思う。それでもこうやってたまには顔を出したい。

 ドリーと二人で街へ行き、ひょっこり顔を出す。

「これは……」

 食堂は大賑わい、列が作られて、中も人であふれていた。

「最後尾はこちらでーす、並んでくださーい」

 トビーが案内を出し、大きな声で叫んでいる。

 今日のメニューはパンに野菜と焼いたお肉を挟んでいる、北部では一般的なパニーニと言われる食べ物だった。

「大盛況ね」

 ドリーと二人、顔を見合わせて微笑む。
 ふと料理をしていたドルクが私に気づいた。

「や、姫さん、わざわざ来てくださったんですね!」

 私のことを「姫さん」と呼ぶ彼に、笑いが込み上げる。
 ドルクの顔はいきいきとして見えた。

「すっかり来るのが遅くなってごめんなさい。私がいない間も、うまく回っていたみたいね」

 ドルクは大きくうなずいた。

「素晴らしい食材を惜しみなく使えて、料理人としても腕の振るいがいがあるってもんでっさ!」

 大きな笑い声が食堂に響いた。

「あ、シャルロット様、どうぞ、こちらでゆっくりしていってください」
「シャルロット様、顔を出してくださって嬉しいです」

 従業員たちが声をかけてくれ、温かい気持ちになる。

「ありがとう。私にもぜひ手伝わせて」

 皆が忙しそうにしているのに、私だけゆっくり座っていられるものか。
 腕まくりをして、布巾を手にする。

「テーブルを拭くわ」

 そして私は皆が食べ終わったテーブルを布巾で拭いて回る。

 みんなが生き生きしてご飯を食べているなんて嬉しい。一食でもきちんと食べられて、生活にはりがでるといいな。

 テーブルを拭いていた手元に陰が落ち、誰かが側に立ったと気づく。

 パッと顔を上げたのと同時だった。

 眉根をしかめた人物と目が合ったのは――。

「また、勝手に飛び出してきて」

 その相手はハァッと深くため息をついた。
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