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第三章 近づく距離
36
これってつまり、自分といて楽しいか聞いているの?
今のところ、イザークと過ごすよりもロゼールと過ごした時間の方が長い気がする。それにロゼールは表情豊かだし、いろいろ自分から話を振ってくれるから楽しいし。
私は返答に困ってしまう。そして悪いことに、それが顔に出てしまったようだ。私の表情を見たイザークの眉が下がった。見るからに気落ちして、シュンとしている。
あっ、これはいけないわ。
「た、楽しいですよ」
努めて明るい声を発した。
イザークがパッと顔を上げる。心なしか、その瞳はキラキラと輝いて見えた。
「最近では、一緒に過ごす時間が多くなったから」
そう、ロゼールのようにわかりやすい性格でなくても、長い時間一緒にいれば、彼の人となりがわかるだろう。
「そうか」
イザークはフッと笑顔を見せた。良かった、どうやら機嫌は直ったみたいでホッとした。
「これからは、そばにいられる時間を増やしたい」
突然イザークが言い出したので、驚いて瞬きを繰り返す。
真剣な顔をしている彼は私の返事を待っているようだ。
「で、でも忙しいのでは……?」
結婚したばかりの頃は放っておかれたから、実際忙しいのだろう。
イザークは勢いよく首を振る。
「ロゼールに負けないぐらい、時間を取ると約束する」
ロゼールを引き合いに出す彼に思わず笑みがこぼれた。
でも、こうやって私と歩み寄る気持ちがあるということが素直に嬉しい。
ようやくこの王命結婚に前向きな気持ちになった、ということかしら。
「ありがとう」
フワッと微笑むとイザークは頬を染め、ボーッと私を見つめている。心なしか目が潤んでいる。
「どうしたの?」
首を傾げて顔をのぞき込めばハッとして顔を逸らした。その顔は赤い。
最近、気づいたことがある。イザークは照れ屋だ。最初は仏頂面だと思っていたが、意外にも表情が豊かだし、すぐ顔が赤くなる。
私はフフッと笑い、もう一度ウォルクの街並みを見る。
イザークから了解も得たことだし、明日からも北部の発展に力を添えよう。
なにをしようか迷うより、まずは行動に移す。眼下に広がる光景を前にして私は誓った。
***
それから三日後。
ようやくイザークがうるさく言わなくなったので、外出することにした。
久々に炊き出しの場に顔を出すので、少しドキドキする。
ロゼールから経理に詳しい人の募集をかけたと聞いているし、私がいなくても上手く回っていると思う。それでもこうやってたまには顔を出したい。
ドリーと二人で街へ行き、ひょっこり顔を出す。
「これは……」
食堂は大賑わい、列が作られて、中も人であふれていた。
「最後尾はこちらでーす、並んでくださーい」
トビーが案内を出し、大きな声で叫んでいる。
今日のメニューはパンに野菜と焼いたお肉を挟んでいる、北部では一般的なパニーニと言われる食べ物だった。
「大盛況ね」
ドリーと二人、顔を見合わせて微笑む。
ふと料理をしていたドルクが私に気づいた。
「や、姫さん、わざわざ来てくださったんですね!」
私のことを「姫さん」と呼ぶ彼に、笑いが込み上げる。
ドルクの顔はいきいきとして見えた。
「すっかり来るのが遅くなってごめんなさい。私がいない間も、うまく回っていたみたいね」
ドルクは大きくうなずいた。
「素晴らしい食材を惜しみなく使えて、料理人としても腕の振るいがいがあるってもんでっさ!」
大きな笑い声が食堂に響いた。
「あ、シャルロット様、どうぞ、こちらでゆっくりしていってください」
「シャルロット様、顔を出してくださって嬉しいです」
従業員たちが声をかけてくれ、温かい気持ちになる。
「ありがとう。私にもぜひ手伝わせて」
皆が忙しそうにしているのに、私だけゆっくり座っていられるものか。
腕まくりをして、布巾を手にする。
「テーブルを拭くわ」
そして私は皆が食べ終わったテーブルを布巾で拭いて回る。
みんなが生き生きしてご飯を食べているなんて嬉しい。一食でもきちんと食べられて、生活にはりがでるといいな。
テーブルを拭いていた手元に陰が落ち、誰かが側に立ったと気づく。
パッと顔を上げたのと同時だった。
眉根をしかめた人物と目が合ったのは――。
「また、勝手に飛び出してきて」
その相手はハァッと深くため息をついた。
今のところ、イザークと過ごすよりもロゼールと過ごした時間の方が長い気がする。それにロゼールは表情豊かだし、いろいろ自分から話を振ってくれるから楽しいし。
私は返答に困ってしまう。そして悪いことに、それが顔に出てしまったようだ。私の表情を見たイザークの眉が下がった。見るからに気落ちして、シュンとしている。
あっ、これはいけないわ。
「た、楽しいですよ」
努めて明るい声を発した。
イザークがパッと顔を上げる。心なしか、その瞳はキラキラと輝いて見えた。
「最近では、一緒に過ごす時間が多くなったから」
そう、ロゼールのようにわかりやすい性格でなくても、長い時間一緒にいれば、彼の人となりがわかるだろう。
「そうか」
イザークはフッと笑顔を見せた。良かった、どうやら機嫌は直ったみたいでホッとした。
「これからは、そばにいられる時間を増やしたい」
突然イザークが言い出したので、驚いて瞬きを繰り返す。
真剣な顔をしている彼は私の返事を待っているようだ。
「で、でも忙しいのでは……?」
結婚したばかりの頃は放っておかれたから、実際忙しいのだろう。
イザークは勢いよく首を振る。
「ロゼールに負けないぐらい、時間を取ると約束する」
ロゼールを引き合いに出す彼に思わず笑みがこぼれた。
でも、こうやって私と歩み寄る気持ちがあるということが素直に嬉しい。
ようやくこの王命結婚に前向きな気持ちになった、ということかしら。
「ありがとう」
フワッと微笑むとイザークは頬を染め、ボーッと私を見つめている。心なしか目が潤んでいる。
「どうしたの?」
首を傾げて顔をのぞき込めばハッとして顔を逸らした。その顔は赤い。
最近、気づいたことがある。イザークは照れ屋だ。最初は仏頂面だと思っていたが、意外にも表情が豊かだし、すぐ顔が赤くなる。
私はフフッと笑い、もう一度ウォルクの街並みを見る。
イザークから了解も得たことだし、明日からも北部の発展に力を添えよう。
なにをしようか迷うより、まずは行動に移す。眼下に広がる光景を前にして私は誓った。
***
それから三日後。
ようやくイザークがうるさく言わなくなったので、外出することにした。
久々に炊き出しの場に顔を出すので、少しドキドキする。
ロゼールから経理に詳しい人の募集をかけたと聞いているし、私がいなくても上手く回っていると思う。それでもこうやってたまには顔を出したい。
ドリーと二人で街へ行き、ひょっこり顔を出す。
「これは……」
食堂は大賑わい、列が作られて、中も人であふれていた。
「最後尾はこちらでーす、並んでくださーい」
トビーが案内を出し、大きな声で叫んでいる。
今日のメニューはパンに野菜と焼いたお肉を挟んでいる、北部では一般的なパニーニと言われる食べ物だった。
「大盛況ね」
ドリーと二人、顔を見合わせて微笑む。
ふと料理をしていたドルクが私に気づいた。
「や、姫さん、わざわざ来てくださったんですね!」
私のことを「姫さん」と呼ぶ彼に、笑いが込み上げる。
ドルクの顔はいきいきとして見えた。
「すっかり来るのが遅くなってごめんなさい。私がいない間も、うまく回っていたみたいね」
ドルクは大きくうなずいた。
「素晴らしい食材を惜しみなく使えて、料理人としても腕の振るいがいがあるってもんでっさ!」
大きな笑い声が食堂に響いた。
「あ、シャルロット様、どうぞ、こちらでゆっくりしていってください」
「シャルロット様、顔を出してくださって嬉しいです」
従業員たちが声をかけてくれ、温かい気持ちになる。
「ありがとう。私にもぜひ手伝わせて」
皆が忙しそうにしているのに、私だけゆっくり座っていられるものか。
腕まくりをして、布巾を手にする。
「テーブルを拭くわ」
そして私は皆が食べ終わったテーブルを布巾で拭いて回る。
みんなが生き生きしてご飯を食べているなんて嬉しい。一食でもきちんと食べられて、生活にはりがでるといいな。
テーブルを拭いていた手元に陰が落ち、誰かが側に立ったと気づく。
パッと顔を上げたのと同時だった。
眉根をしかめた人物と目が合ったのは――。
「また、勝手に飛び出してきて」
その相手はハァッと深くため息をついた。
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