この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

夏目みや

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第四章 ネザークロウの洞窟

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「シャルロット様、重くないですか?」
「あら、平気よ。ドリーこそ辛くない?」

 ドリーは私の倍も運んでいるので疲れないか心配だ。
 バケツを両手で持ちながら、廊下を進む。

「ふう、ちょっと休憩しない?」

 手が痺れてきた私の発言に、それ見たことかとドリーは視線を投げる。

「ここにバケツを置いていきましょう。あとから私が取りにきます」
「でもそれじゃあ――」

 ドリーの手伝いにならないじゃない、と言いかけた時――。

「なにをやっているんだ」

 背後から声がかかり、振り返る。
 そこにいたのは険しい顔をしたイザークだった。

「なぜこんな、使用人みたいな真似事をしている!?」

 私に近寄ると手からバケツをひったくるように奪った。

「そんなに重くないから大丈夫――」
「そういう問題ではない」

 イザークは威厳ある声を出し、私の言葉を遮った。スッと息を吸い込む。

「メイド長と執事長を呼べ!!」

 廊下の端にまで響く声を出した。

 それからすぐに血相を変えた二人が走ってきた。イザークは腕を組み、威圧感を醸し出している。その横でドリーが事情を説明していた。

 まいったわ、なんだかおおごとになってしまったわね。

 やがてメイド長からあの場にいたミーシャを含め、三人が呼びつけられた。

「なぜ、ここに呼ばれたかわかっているか?」
「も、申し訳ありません」

 イザークがみずから詰問し、この場にいる皆が顔面蒼白になっている。震えて話にならないと思ったのだろう、イザークは大きなため息をつく。

「いつからだ?」

 ジロリと周囲をにらむ。

「これが初めてではないだろう。いつから彼女をないがしろにしていた」

 静かに激怒するイザークの迫力に弁解すらできないようだ。
 罰を避けられない状態だろう。自分のせいで誰かが罰せられるなんて、いたたまれない。
 すくみあがっている三人は青白い顔をして、今にも倒れそうだ。

 こんな時は――。

「イザーク」

 背を向けているイザークに声をかけ、近づいた。

「私が好きで運んでいたのです。少し力をつけた方がいいと思ったので」
「なぜ、そんなことをする必要がある?」

 そっとイザークの手を取ると、彼は驚いたのか体をビクリと揺らした。

「ネザークロウの洞窟へ行くためですわ!」
「まだ、そんなことを言っているのか!?」

 イザークは呆れを含んだ声色を出す。

 しめた、話題が逸れた。

 彼の手を両手でギュッと握りしめた。

「お願いです、私を連れて行ってくださいませ」
「だめだと言っているだろう! 危険すぎる」

 握った手に力を込め、上目遣いでイザークを見る。

「……どうしてもダメですの?」

 イザークはグッと言葉に詰まり、顔をプイッと背ける。

「じゃあ、私と賭けをしましょう。イザークを納得させるほどのことを見せたら、連れて行ってくれますね?」

 イザークは少し考えたあと、鼻で笑う。

「いいだろう。俺を納得させるなにかがあれば、連れて行こう」

 やったわ、これで言質は取れた。ここにいる皆が証人だわ。

 次に突っ立っている皆に顔を向けた。

「執事長、今すぐ薪を運んでいただけるかしら。消耗が激しくてね」

 執事長は肩を震わせた。

「かしこまりました。今後は切れることがないように致します」

 返事をするやいなや、さっそく誰かに指示するため、走って消えた。

「メイド長、喉が渇いたから、今すぐ部屋に紅茶を運んでくれる? 焼き菓子もあれば嬉しいわ」
「はい、わかりました」
「そこの三人も連れて行っていいわ。手伝いが必要でしょう」

 これでうまく場を収めることができるかもと思った時、

「待て。お前たちの処分は追って連絡する。荷物をまとめておけ」

 イザークの怒りは収まらないようだ。

 今にも泣きだしそうな三人をメイド長が引きつれ、立ち去った。

 残されたのはドリーとイザークと私。そこでイザークは、なにかを言いたげな視線を投げた。

「南部から来た私など、受け入れることは難しいのでしょうね」

 北部と南部の確執は根っこの部分にも蔓延っている。

「――すまなかった」

 イザークはポツリとつぶやく。

「こんなことは二度と起こさないと誓おう。――あんたは、こんな対応をされていいわけじゃない」

 イザークは気づかなかったのも自分の落ち度だと告げた。

 それは私に対して申し訳なく思っているようで、しょげて見えた。

 思わずクスッと笑みがこぼれた。それは、あの夜を思い出したから。

「私のことを一番先にないがしろにしたのは、イザークじゃないですか」

 責めるでもなく微笑みながら告げる。
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