妹を監禁するはずの悪役から、なぜか執着されています

夏目みや

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第一章 妹を守ってみせる

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「ありがとう」
「ちょっと待ってて! 今、水を持ってくるから」

 いそいそと部屋を出ていくエディアルド。舞踏会の準備で使用人は出払っているから、みずからが動いて準備してくれている。

 でも……これ……飲んでいいのかな。

 手にした薬をジッと眺める。私、仮病なのに。世話を焼かれて、私の中の良心がチクチクと痛みだす。

 それにエディアルド、こんなにも私の心配をしてくれるなんて、正直意外だった。
 小説の中の残酷でサイコパスな性格はなりを潜め、普通の女の子、といった印象だ。

 本来ならシアナと出会っているより、まだ先だから? エディアルドが本格的なサイコパスになる前だから、まだ大丈夫ってこと?

「お待たせ」

 考え事をしているとエディアルドがティーポットを手にして戻ってきた。カップを置くと、水を注ぎ入れた。

「どうぞ」
「ありがとう」

 エディアルドは私の前に座り、頬杖をつきながら私をジッと見ている。
 正直、見られていると気まずい。こうなったら、飲むしかない。

 私は口に水を含み、薬を流し込んだ。

「にっ……苦っ」

 舌に感じた苦みに思わず顔をしかめると、エディアルドは声を出して笑う。

「言い忘れていたけど、それ苦いんだ」

 これ、変な薬じゃないよな、若干の不安を残しつつも、口元についた水を手でぬぐい取った。

「私もたまに飲むけど、同じような顔になるよ」

 あっ、そっか……。

 エディアルドは魔法をかけ、少女の姿を保っているが、本来なら男性だ。成長痛があり、それを抑えるため、定期的に薬を飲んでいた描写があった。魔法に体が抗っているのだ。

 魔法の副作用として、若干精神的に幼くなると書いてあったので、この無邪気さもそのせいかと思われた。
 本来なら十七歳だが、二、三歳は下に思えた。

 だが、そうまでして、エディアルドの祖父、カーライル公爵はエディアルドを守りたかったのだろう。

 国王の隠し子、それも五大属性の精霊の加護を持つというのなら、世間が黙ってはいない。それこそ、次期国王にだってなれる身分だったろうに、王妃に命を狙われる危険を回避するため、エディアルドを徹底的に隠した。

 身分を二つ用意し、女装までさせて。

 カーライル公爵の、権力争いに巻き込まれ、波乱万丈な人生を送るではなく、ただ平穏に暮らして欲しいと願う気持ちも少しは理解できる。

 でも、それは本当にエディアルドのためになったのかしら。

 「さっき――ジェラールと踊っていたね」

 考えごとをしているとエディアルドに聞かれ、顔を上げた。
 エディアルドの姿はなかったが、どこにいたのだろう。

「二階から見ていたんだ」

 頬杖をつき、私をジッと見つめるエディアルドはどんな意図があって聞いているのだろう。

「一曲だけお誘いいただいたの」

 取り乱すまいとカップに口をつけ、水を含む。

「そう。ジェラールみたいなのが好み?」

 急な質問に水を噴き出すかと思った!

「なっ、なっ……」

 勢いよくカップを下に置き、動揺して口元を手で隠す。

「どうなの?」

 エディアルドは前のめりになり、真剣な様子で聞き込んでくる。

 もしかして私とジェラールをくっつけようとしている? 無理、無理! そしたら今よりももっと深く、エディアルドと縁が繋がっちゃうじゃない。ハモンド家はカーライル家に仕えているのだから、私も深く関わることになる。

「ジェラール様は、私にはもったいないお方だわ」
「そんなことない。じゃあ、もし仮にジェラールが婚約を申し込んできたら?」

 ジェラールが婚約を申し込んできたらなんて、そんなことがあってたまるか。だいたい、一度踊っただけで、どうしてそこまで話が飛ぶんだ。それにハモンド家なら、もっと格上の令嬢と婚約するはずだ。

 当たり障りのない返事をしたが、どうやら納得しないらしい。ならば――。

「それはないかな」
「ジェラールじゃ、嫌だってこと?」
「ジェラール様が嫌というより、なんとも思っていないもの」

 相手をよく知らないのに、好きも嫌いもないわ。ただ一つ、わかっているのは、深く関わってはいけない相手だということ。一番はあなただけどね、エディアルド。

「じゃあ、どんな男性が好きなの?」

 まいったな、ぐいぐいくるけど、もしかして恋話がしたいのかな? この子。

「そうね、背は高くてお金持ちで、強い権力を持っているの。もちろん、顔も譲れないわ。それに私のことを大好きでずっと大事にしてくれる人! なんでも言うことを聞いてくれて、優しいことかしら!!」

 高望みすぎるだろう、そしてそんな男性なら、私じゃなくても引く手あまたなはず。

「わかった」

 えっ、そこで納得しちゃうんだ。私には無理すぎると笑うところだったのに。
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