56 / 63
第四章 対決
55
しおりを挟む
「あの女の苦痛にゆがむ顔を踏みつけた時は、なかなかの快感だったわ。命乞いをするでもなく、最後までにらんでいたが、それがなんになろう。あの女は私に負けた、ただそれだけのこと」
口に手を当てコロコロと笑う王妃だが、嫉妬に狂い、正気ではないように見えた。
「あの女そっくりに成長し、あの顔を見ているだけで、昔の苦々しい思いよみがえる。この感情が消えることはない」
王妃は手をわなわなと震わせた。
「王妃である私を差し置き、寵愛を受けるなど、許せるものか」
怒りで見えなくなっているのだろう。王妃は顔をゆがめた。
「――いいことを思いついた」
ゆっくりと顔を私に向け、にんまりと微笑む。
「精霊の加護を奪ったあと、リゼット嬢をどうしましょうか。失ったと知った時の、あの私生児の顔が見てみたい。絶望を彩る顔もまた、母親そっくりかもしれないわ」
扇を広げ、仰ぎながら高笑いをする王妃は悪女を通り越し、悪魔に思えた。
逃げないと危険だと本能が警告している。
ゴクリと息を飲み、背後を確認する。ここにはいられない。
震える足をなんとか立たせ、一目散に走りだした。
「――逃がすものか」
その時、王妃から黒い影が出没し、私の足をつかんだ。
「あっ……!」
走りだそうとしたところを勢いよくつかまれたので、反動で尻もちをついた。
口の端をゆがめ、意地悪く笑う王妃は、扇をパンッと閉じた。
「さあ、お遊びはここでおしまい。恨むなら、あの私生児を恨むといいわ。生まれてきたことが罪なのだから。大人しく日陰で一生を過ごしていたら、このような目に合うこともなかっただろうに」
王妃の勝手な言い分に、悔しくて涙がこぼれた。
「――じゃない」
唇をギリリと噛み、勢いよく顔を上げた。
「エディアルドが生まれてきたことは、罪なんかじゃない!!」
国王はエディアルドの母、イザベラーナ様を寵愛し、その結果、生まれたのがエディアルドだ。
権力争いに巻き込まれることを防ごうと、カーライル公爵により、隠された存在だったエディアルド。
だが、日の当たる道を歩きたいと、自らの意志で表に出てきた。
彼の生き方を尊重するも、生まれたことが罪の命なんてない。カーライル公爵から見ても、彼は最愛の娘の忘れ形見だ。エディアルドの母が亡くなった時は憔悴のあまり、跡を追ってしまうんじゃないかと周囲は心配し、片時も目を離せなかったと聞く。
カーライル公爵が自分の命よりも大事に思い、育ててきたエディアルドを、侮辱するのは許せない。
「彼を侮辱しないでください!」
「黙りなさい、生意気な」
王妃はよほど頭にきたのだろう、手にしていた扇を私めがけて投げつけた。
私の頬にぶつかり、地面に落ちる。
「私をバカにするのもいい加減にしなさい。リゼット、あなたは生きたまま、隣国の娼館へと売り飛ばしてやるとしましょう」
王妃が立ち上がり、私を見下ろす。
「そこで生き地獄を味わうといいわ。あの私生児の精神にダメージを与えるため、私の役に立ちなさい」
手の平には真っ黒な闇の塊を手にしている。
「さあ、光の精霊の加護を、差し出しなさい。さもなくば、この闇を口から入れる。闇は体内を蝕み、永遠とも思える苦しみを与えるわ」
真っ赤な長い爪を伸ばし、私の腕をつかんだ。
嫌、離して――!!
全身で拒否を示した時、周囲をまばゆい光が包んだ。
その時、両手を広げ、私の前に立ちはだかる人物がいた。守られていると感じる。
夢かもしれないと思ったのは、姿が透けていたからだ。
長い金の髪を持つ、その女性はゆっくりと振り返り、私に微笑んだ。
青い瞳が印象的なその美しい姿は――。
私に光の精霊の加護を授けた、あの時の女性だとすぐにわかった。
「なにをしたの!? ここは私の結界に守られていて、私以外力を使えないはず……!!」
まぶしい光を真正面からくらった王妃は両目を手で覆う。
まるで私を守るように目の前に立つ女性が見えていないの?
今なら、いけるかもしれない……!
確信に似た思いで、私は頭の中でエディアルドを浮かべる。
会いたいよ、お願いだから、助けに来て……!!
「エディアルド」
名前を口にして、祈りを込めて指輪に口づけた瞬間、部屋中に衝撃が響き渡る。
気づいたら私は抱きしめられていた。
「遅い!!」
私の腰に腕を回し、見下ろしながら叫んだエディアルドは険しい表情を見せた。
ああ、エディアルドだ、本人だ。
姿を見た瞬間、安堵して涙が流れ、そのまま止まらなくなった。
エディアルドは指を滑らせた頬に、静かに口づけを落とした。その仕草が優しく感じられて、ますます涙が止まらなくなる。
「貴様、どうして現れた!? ここには結界が張ってあるはず」
焦ってエディアルドを指さす王妃に、エディアルドは気だるげに首を傾げる。
「ああ、居場所を探すのに少し手間取ったが、見つけてしまえばなんの問題もない。俺の方が力が上だから。あんたも感じるだろう?」
指をパチンと鳴らすと、周囲の空気が変わった。敵意を感じる邪悪な気が消え去ったのだ。
口に手を当てコロコロと笑う王妃だが、嫉妬に狂い、正気ではないように見えた。
「あの女そっくりに成長し、あの顔を見ているだけで、昔の苦々しい思いよみがえる。この感情が消えることはない」
王妃は手をわなわなと震わせた。
「王妃である私を差し置き、寵愛を受けるなど、許せるものか」
怒りで見えなくなっているのだろう。王妃は顔をゆがめた。
「――いいことを思いついた」
ゆっくりと顔を私に向け、にんまりと微笑む。
「精霊の加護を奪ったあと、リゼット嬢をどうしましょうか。失ったと知った時の、あの私生児の顔が見てみたい。絶望を彩る顔もまた、母親そっくりかもしれないわ」
扇を広げ、仰ぎながら高笑いをする王妃は悪女を通り越し、悪魔に思えた。
逃げないと危険だと本能が警告している。
ゴクリと息を飲み、背後を確認する。ここにはいられない。
震える足をなんとか立たせ、一目散に走りだした。
「――逃がすものか」
その時、王妃から黒い影が出没し、私の足をつかんだ。
「あっ……!」
走りだそうとしたところを勢いよくつかまれたので、反動で尻もちをついた。
口の端をゆがめ、意地悪く笑う王妃は、扇をパンッと閉じた。
「さあ、お遊びはここでおしまい。恨むなら、あの私生児を恨むといいわ。生まれてきたことが罪なのだから。大人しく日陰で一生を過ごしていたら、このような目に合うこともなかっただろうに」
王妃の勝手な言い分に、悔しくて涙がこぼれた。
「――じゃない」
唇をギリリと噛み、勢いよく顔を上げた。
「エディアルドが生まれてきたことは、罪なんかじゃない!!」
国王はエディアルドの母、イザベラーナ様を寵愛し、その結果、生まれたのがエディアルドだ。
権力争いに巻き込まれることを防ごうと、カーライル公爵により、隠された存在だったエディアルド。
だが、日の当たる道を歩きたいと、自らの意志で表に出てきた。
彼の生き方を尊重するも、生まれたことが罪の命なんてない。カーライル公爵から見ても、彼は最愛の娘の忘れ形見だ。エディアルドの母が亡くなった時は憔悴のあまり、跡を追ってしまうんじゃないかと周囲は心配し、片時も目を離せなかったと聞く。
カーライル公爵が自分の命よりも大事に思い、育ててきたエディアルドを、侮辱するのは許せない。
「彼を侮辱しないでください!」
「黙りなさい、生意気な」
王妃はよほど頭にきたのだろう、手にしていた扇を私めがけて投げつけた。
私の頬にぶつかり、地面に落ちる。
「私をバカにするのもいい加減にしなさい。リゼット、あなたは生きたまま、隣国の娼館へと売り飛ばしてやるとしましょう」
王妃が立ち上がり、私を見下ろす。
「そこで生き地獄を味わうといいわ。あの私生児の精神にダメージを与えるため、私の役に立ちなさい」
手の平には真っ黒な闇の塊を手にしている。
「さあ、光の精霊の加護を、差し出しなさい。さもなくば、この闇を口から入れる。闇は体内を蝕み、永遠とも思える苦しみを与えるわ」
真っ赤な長い爪を伸ばし、私の腕をつかんだ。
嫌、離して――!!
全身で拒否を示した時、周囲をまばゆい光が包んだ。
その時、両手を広げ、私の前に立ちはだかる人物がいた。守られていると感じる。
夢かもしれないと思ったのは、姿が透けていたからだ。
長い金の髪を持つ、その女性はゆっくりと振り返り、私に微笑んだ。
青い瞳が印象的なその美しい姿は――。
私に光の精霊の加護を授けた、あの時の女性だとすぐにわかった。
「なにをしたの!? ここは私の結界に守られていて、私以外力を使えないはず……!!」
まぶしい光を真正面からくらった王妃は両目を手で覆う。
まるで私を守るように目の前に立つ女性が見えていないの?
今なら、いけるかもしれない……!
確信に似た思いで、私は頭の中でエディアルドを浮かべる。
会いたいよ、お願いだから、助けに来て……!!
「エディアルド」
名前を口にして、祈りを込めて指輪に口づけた瞬間、部屋中に衝撃が響き渡る。
気づいたら私は抱きしめられていた。
「遅い!!」
私の腰に腕を回し、見下ろしながら叫んだエディアルドは険しい表情を見せた。
ああ、エディアルドだ、本人だ。
姿を見た瞬間、安堵して涙が流れ、そのまま止まらなくなった。
エディアルドは指を滑らせた頬に、静かに口づけを落とした。その仕草が優しく感じられて、ますます涙が止まらなくなる。
「貴様、どうして現れた!? ここには結界が張ってあるはず」
焦ってエディアルドを指さす王妃に、エディアルドは気だるげに首を傾げる。
「ああ、居場所を探すのに少し手間取ったが、見つけてしまえばなんの問題もない。俺の方が力が上だから。あんたも感じるだろう?」
指をパチンと鳴らすと、周囲の空気が変わった。敵意を感じる邪悪な気が消え去ったのだ。
165
あなたにおすすめの小説
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります
廻り
恋愛
羊獣人の伯爵令嬢リーゼル18歳には、双子の兄がいた。
二人が成人を迎えた誕生日の翌日、その兄が突如、行方不明に。
リーゼルはやむを得ず兄のふりをして、皇宮の官吏となる。
叙任式をきっかけに、リーゼルは皇帝陛下の目にとまり、彼の侍従となるが。
皇帝ディートリヒは、リーゼルに対する重大な悩みを抱えているようで。
悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています
廻り
恋愛
治療魔法師エルは、宮廷魔法師試験の際に前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界でエルは、ヒーローである冷徹皇帝の幼少期に彼を殺そうと目論む悪役。
その未来を回避するため、エルは夢だった宮廷魔法師を諦め、平民として慎ましく生活を送る。
そんなある日、エルの家の近くで大怪我を負った少年を助ける。
後でその少年が小説のヒーローであることに気がついたエルは、悪役として仕立てられないよう、彼を手厚く保護することに。
本当の家族のようにヒーローを可愛がっていたが、彼が成長するにつれて徐々に彼の家族愛が重く変化し――。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
最終回まで予約投稿済みです。
毎日8時・20時に更新予定です。
幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい
ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26)
鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。
狭い個室にはメイド服がかかっている。
とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。
「この顔……どこか見覚えが……」
幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。
名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー)
没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。
原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。
「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」
幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。
病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。
エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18)
全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。
タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる