妹を監禁するはずの悪役から、なぜか執着されています

夏目みや

文字の大きさ
57 / 63
第四章 対決

56

しおりを挟む
 王妃も肌で感じたのだろう、ひるんで一歩後退する。

「俺の結界を張った。これでもうあんたは逃げられない。外からの助けも来ない」

 目を細め王妃と対峙するエディアルドは、なにが面白いのか笑い出した。

「俺は王位になんて、まったく興味がない」

 エディアルドの言葉に王妃の目が一瞬、大きく見開かれた。

「だがな、今回のことで実感した。それでリゼットを守れるのなら、王位を奪ってやると」

 ゾッとするほどの眼差しを王妃に向ける。

「だ、黙りなさい、無礼な! 貴様のような下賤な私生児に、王位が相応しいと思っているのか」

 王妃は手の平に真っ黒な物体を作り上げた。だが、それは瞬時に消え去った。
 焦って手のひらを二度見している王妃にエディアルドは肩を揺らして笑う。

「ああ、あんたの闇の精霊が怖気づいているのが見える。俺の闇の精霊に脅えている」

 瞬間、エディアルドからブワッと黒い影が飛び出し、王妃に絡まる。

「わ、私を誰だと――」

 なおも口を閉じない王妃に、エディアルドは小さくため息をつく。

「俺の母親を殺したのは、あんただろう」

 もしかして知っていたの……?

「精霊たちが教えてくれた。母親の仇の存在を」

 影に捉えられている王妃に近づくと、エディアルドは指をパチンと鳴らす。
 そこに登場したのは、ゆらゆらと蠢く黒い影。あれは――。

 とてつもなく禍々しい気を放つ影は、恐ろしいほどに強いだろうと、察した。
 エディアルドは王妃の額に指をあてる。

「そんなに精霊の加護の力を欲するのなら、俺と契約を結んだ闇の眷属をお前につけてやる」
「や、やめ……」

 額にグッと力を込めるエディアルドに、王妃は逃げようともがく。

「逃がすわけがないだろう。思い知らせてやる。今後、あんたが俺たちに害をなしたら、闇の眷属がその魂を食い散らかすだろう。闇の眷属は罪人や汚れた魂が大好物だ。あんたが堕ちるよう、手招きして深淵の闇で待っている」
「な、なにをするつもり!!」

 エディアルドが指を離すと、王妃の額には黒い刻印が入っていた。

「はは、それは精霊の間では罪人だという証の刻印。あんたは一生消えない罪を背負った」

 高笑いするエディアルドは嬉々として見えた。

「だが俺は優しいから……」

 そこでなぜか私に視線をチラチラと送ってくるエディアルド。

「あんたが大人しく生きていくなら、見逃してやろう。身の丈に合わない生活を望み、リゼットを危険な目に合わせたら――。一族、皆殺しだ。その時は覚悟しているといい」

 エディアルドの言葉は、決して嘘でも冗談でもないと知り、血の気が引く。王妃もそれを察しているだろう、私以上に青白い顔をしている。

「復讐はなにも生まないと、教えてくれたリゼットに感謝するんだな」

 エディアルドの台詞にハッとする。確かにそんなことを言った気がする。エディアルドの記憶の良さに脱帽するとともに、うかつに変なことは口に出来ないと実感した。

「リゼットから言われてなければ、とっくに八つ裂きにしていた。地獄の業火で焼き、欠片も残すことはなかった」

 あ、悪魔。いや、悪魔を通り越して魔王……魔王がいるよ、ここに……。
 味方なのだが、恐ろしくて白眼むきそう。

「俺はいつでもあんたと、あんたの大事な息子たちの命を、どうとでもできるということを忘れるな」

 魔王はたっぷりの脅し文句を吐き出した。

「どうした、リゼット。大丈夫か」

 エディアルドが私の異変に気付き、顔をのぞき込む。

「やはり、今この場で始末し――」

 エディアルドは指を伸ばすと王妃の首をつかんだ。

「や、やめて!!」

 グェッと声を出し、恐怖のあまり王妃は意識を失った。
 血を望んでいるわけじゃない。それに王妃をエディアルドが処刑したならば、大混乱が起きる。

「そうか。大丈夫なんだがな。土の精霊に頼み、地下深くまで埋めてもいいし、水の精霊の力で川底に一生沈めることもできる。リゼットが心配するような混乱は起きないさ」

 おいおいおい。私の考えを見透かしたようにサラッと言うけど、止めてくれ。

 確かに王妃にはひどいことをされたし、エディアルドが来てくれなかったら今頃どうなっていたか、わからない。
 でもエディアルドの手を、血で汚したくない。悪役だったのもあり、残虐で執拗な一面もあると思っているが、その部分はあまり表に出して欲しくない。

「――いいの。命だけは奪わないで」

 エディアルドは床に膝をつくと、私の左手を取る。

「リゼットが望むなら」

 そのままチュッと口づけするが、本当、私の言うことだけはよく聞くんだよなぁ。私のだけ!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り
恋愛
羊獣人の伯爵令嬢リーゼル18歳には、双子の兄がいた。 二人が成人を迎えた誕生日の翌日、その兄が突如、行方不明に。 リーゼルはやむを得ず兄のふりをして、皇宮の官吏となる。 叙任式をきっかけに、リーゼルは皇帝陛下の目にとまり、彼の侍従となるが。 皇帝ディートリヒは、リーゼルに対する重大な悩みを抱えているようで。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...